金 融 論 
                                         2025
                                    金融論2025年テキスト 説明ノート
 
『金融論2025年テキスト』は、金融論2024年テキスト説明ノートを反映して、改訂中です。改訂が終われば、PDFファイルで、このページにリンクします。その間、次の『金融論2024年テキスト』を参照してください。

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7回目 20251027
要点 5章 日本銀行と金融政策
    5.1 日本銀行の組織
      5.2 日本銀行の機能
      5.3  金融政策の枠組み
      5.4 金融政策の運営

5.1 日本銀行の組織

 日本銀行の目的(日本銀行法第章第条,第条)
  「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨および金融の調節を行うこと」および「銀行その他の金融機関の間   で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。」
 日本銀行の理念(日本銀行法第章第条)日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済  の健全な発展に資することを持って、その理念とする。」
 
 日本銀行の組織は、次のようになっている。政策委員会の権限は、日本銀行法第章第十五条に定められている。第十六条に政策委員会の組織が表5.1.1のように定められている。日本銀行法第章に、政策員会以外の通常業務等を行う本店各局、地方各支店、海外駐在所、金融研究所等に所属する、役員および職員の定めがある。

                 5.1.1 日本銀行の組織図

                     政策委員会      
                  総裁1名 副総裁2名   政策委員会室

              監事    審議委員 6名    参与
       
             海外駐在所  各支店  本店各局  金融研究所 

 旧法の組織は、表5.1.2である。

                 5.1.2 旧法日本銀行の組織図

                    日銀総裁1名、副総裁1

               3名以上の理事  2名以上の監事 参与            政策委員会
                   執行役員会                     日銀総裁1名      
                                    任命委員4(都銀、地銀、商工業、農業の有識者)

                海外駐在所  各支店  本店各局       政府代表2名(大蔵省、経済企画庁)議決権なし 
                                    金融研究所 

 日本銀行は、明治15年(1882年)6月に、日本銀行条例の公布にしたがって、同10月設立された。太平洋戦争中、昭和17(1942)2月、日本銀行法が公布された。法律大改正は、経済社会の区切りが50年であるという説がある。日本銀行条例では、制度的に無理があったのだろう。戦争中に改正している。
  旧法の第1条は、「日本銀行ハ国家経済総力ノ適切ナル発揮ヲ図ル為国家ノ政策ニ即シ通貨ノ調節、金融ノ調整及信用制度ノ保持育成ニ任ズルヲ以テ目的トス」である。国家の付属機関として、国家政策に準じて、通貨供給を調節し、市中金融を調整、金融制度を保持育成することが目的である。
  戦争終結後、占領軍の管理下、昭和24(1949)6月、政策委員会が追加された。GHQのねらいは、政策委員会を最高意思決定機関とし、国家の付属機関としての中央銀行から、金融政策の意思決定を独立させたい要望があった。次の戦争に、戦費調達する国家機関であっては、再戦争する懸念が払拭できないためである。
 しかし、表5.1.2にある組織図の意思決定の構造は、政策委員会があっても、政府が、主要な政策手段を審議委員会で決定し、日本銀行政策委員会がそれを追認するだけであり、実務は、日銀総裁・副総裁のもとで、役員会が責任を負っていた。
 日本銀行総裁の任命権は、内閣にあり、いわゆる「たすき掛け」任命で、5年ごとに、日銀出身者と大蔵省出身者が交代する人事が続いた。大蔵省は、通常、予算・税制・金融行政3権限あった。大蔵省出身者が日銀総裁になった場合、予算・税制・金融・日銀と4権限を担い、予算・税制を優先する金融緩和政策を採用する傾向がある。バブル期を招いた超緩和政策は、198912月退任した大蔵省出身澄田智日銀総裁であった。
 旧法のもとで、準備預金制度による準備率の設定・変更・廃止は、大蔵大臣の認可を要する。市中金利の最高限度の決定・変更・廃止について、大蔵大臣の発議にもとづき金利調整審議会に諮問後、審議会の決定を実施することになっていた。表5.2にあるように、残った通貨供給量と債券売買操作が、日本銀行の政策手段であった。前者は、役員会で、戦後、国債発行量は、高度成長が終わる1970年まで、少なく、債券市場は銀行間市場であったから、債券売買操作で、長期金利を調整する必要はなかった。
 したがって、旧法下では、政策委員会は、表5.2にある政策手段の発動の決定は、すべて、大蔵省で決められ、政策委員会で、審議の上、決定される。政策委員会は、大蔵省で決められた金融政策を名目的に追認する機関であった。したがって、議事録は公表されなかった。このように、金融政策の意思決定が、日銀以外の政治・政府機関によって実施されるような、権限構造では、日本銀行政策委員会が、独自に政策を実施することはできないのである。

 198912月新任の日銀出身者三重野康総裁は、バブルを高金利で抑え込もうとしたのは、金利調整審議会の審議を経たのか、分からない(調べればわかるが)。緊急時で、大蔵省は地価税で資産バブルを抑え込もうとし、超金融緩和を停止、金利を上昇させるという、三重野総裁の判断が通ったのかもしれない。バブルは、急速にしぼんだが、地方自治体の開発事業、民間の開発事業が中断され、一気に、景気が悪化した。大蔵省は、世間の非難を受けなかったが、日銀の高金利は、猛反発がおきた。自民党は、1993年宮澤内閣から、下野した。
 再び、「法律の有効期限は、経済社会の区切り50年におおむね従う。」という説がある。バブル後、不良債権の山は未処理であったが、1942年から50年、1997年日本銀行法は、改正され、1997年、現行日本銀行法が施行された。旧法の国家主義の文言はなくなり、新法は、国家の文言がない旧第1条の目的を遂行する中央銀行である。
 
 改正後、日銀総裁は、日銀出身から、速水、福井、白川と続き、大蔵省出身、黒田2期、植田学者出身と任命されている。「たすき掛け」人事は、黒田2期で終わった。
 日銀出身の3代では、政府と独立した、金融政策を実施し、市場、金融利害関係者に政策を丁寧に説明し、黒田氏に交代すると、新法の理念よりは、旧法下で大蔵省にいたせいか、安倍氏の国家主義政治観と一致した政府と協調した金融政策を実施したことは明らかである。間接金融市場および短期金融市場、債券市場を、問答無用で強圧的、管理する手法は、旧法の大蔵省手法である。10年在任中、物価上昇率2%以上は達成できなかったとしている。ウクライナ戦争で、物価上昇率は継続して、2%を越えたのであるが、10年間、実質賃金率がマイナスに沈んだためだそうだ。結局、超円安、物価上昇率1年以上2%達成したが、10年間、政策目標は未達だったと、任期を終えた。
 世界の中央銀行法と比較しても、そん色がない日銀法ではあるが、旧来の大蔵頑固頭では、法律にしたがって、運用して来なかった。それは、資源インフレに対して、一斉に、世界の中央銀行がゼロ金利政策を解除、金利を上げるのが、中央銀行として、常識的、政策転換である。それが、黒田前総裁は出来なかった。
 黒田前総裁の3権限と一体化した金融政策運営は、新日本銀行法の理念とは、適合していない。短期金融市場および長期金融市場を、日本銀行の独占権限、金利の変更、債券市場操作を駆使して、デフレション脱却、リフレーションを政策目標とした。大蔵省流の超金融緩和で、株価上昇、債券価格上昇(ゼロ金利)となったが、地価は上昇しなかった。農地改革後の分配された農地が、都市周辺で供給過剰になり、少子時代で買い手がいなく、企業は、海外流出するから、都市の地価は、さっぱりだった。実物経済への金融政策の無効性が意識されている。
 日本銀行は、10年間、株式、国債などの異次元緩和商品を買い上げてきたが、バランス・シートを正常化するプランもない。国家主義に毒された黒前総裁時代で、実質的に、戦時国債を全額引き受けた戦時中と同じ結果になっている。植田総裁が、金融市場、金融利害関係者と対話をていねいにし、政府・財務省・日銀の一体化した状況から、どのように、脱却して、政府・財務省から独立した中央銀行に回帰できるのか、長短金融市場の金利・利回り・株価機能回復、通貨の国際信認の回復とともに、仕事は、かなり、難解である。

5.2 日本銀行の機能

5.3  金融政策の枠組み

 金融政策の波及過程を図式化すると、次のようになる。

               52 金融政策の波及過程の図式

 政策手段     手段の数値       中間目標       最終目標(目標数値)
   貸出政策    ハイパワード・マネー マネーサプライ    ①物価水準の安定(消費者物価指数)
           H          M2CD    
   公定歩合操作  公定歩合                  ②経済成長の持続GDP成長率)

   準備率操作   準備率                   ③雇用の維持(完全失業率)

   債券・手形   債券利回り               
   売買操作    債券売買量               

   為替市場    外為資金特別会計  純輸出 資金流出入   ④為替市場の安定(為替レート)
   介入操作

 この表では、金融政策手段は、日本銀行の重視する政策手段の順に、最終目標は同様に、①から、④まで重視する目標の順に、掲げている。それぞれ数値で公表することができる。
 20221016日現在では、日本銀行は、最終目標を①物価水準の2%を目標にしている。これは、従来の物価水準の安定という目標ではない。物価水準の安定でいえば、安倍政権になってから、20154月消費税率3%の引き上げ、2019102%引き上げた。このとき、物価水準は、上昇した。それ以外は、2%を超えるときはなく、1%以下で納まっている。日本銀行が消費者物価指数を政策目標にしているのか、企業側の生産者物価指数、輸入物価指数を目標にしているのか、はっきりしない。2022年の4月から、消費者物価が明らかに2%を越える状態となり、目標に到達して、毎月、継続して、2%以上を記録している。半年たつが、依然、何もしない。苦し紛れに、賃金率の上昇が2%に達していないと言い出した。その間、世界の全ての中央銀行は、インフレ抑制に、金利を上げている。インフレになっているのに,その程度のインフレは,想定内であるらしい。しかし、10月の消費者物価指数は、明白に、3%を越え、4%台になるだろう。
 金融論テキストでは、消費者物価指数である。雇用状態、失業率ないし賃金率を金融の政策目標に考慮する国は、米国FRBだけである。雇用状態、失業率ないし賃金率、いわゆる、経済成長の好循環なる文言は、日本銀行法の目的の第1条および第2条に明記されていないのは言うまでもない。
 コロナ禍2020年では、基準改定が行われ、2020基準年平均0.0%、20215月-0.86月-0.57月-0.38月-0.4(前年同月比)(総務省統計局HP)であるから,デフレ傾向が続いている。米国のFRBは、政策目標はコア消費者物価指数であり、202153.864.574.385.3(前年同月比)で、夏から、ガソリン価格が上昇しているためである。日本より深刻なコロナ禍にある米国で、継続した物価上昇が続いているのは、継続した物価下落が続く日本と対照的である。
 日本の物価は、生産者側の寡占価格支配力が需要者側より強い傾向があり、中小零細業者の生産物・サービスは、競争的市場価格形成がある。総合スーパー・コンビニエンスストア、宅配HPストアに、コロナ禍で消費者が集まっていると、寡占価格が効き、企業者物価指数と輸入物価指数が、消費者物価指数を左右しやすくなる。日本経済では、生産者物価指数は、円高もあり、消費者物価指数とは逆に、低下傾向がある。日本は、北海道から鹿児島まで、1500km以上、高速道路が整備されているから、運輸コストは、米国ほど高くない。今年になって、デフレ傾向が続くのは、日本の経済構造からすれば、当然の結果である。
 このような日本経済構造で、一般物価水準が決定される。その下で、ゼロ金利政策と金融市場の独占的買い手となっても、2%を超えるインフレは不可能であることを示している。白川総裁の時代のデフレ脱却で、黒田総裁が0%目標より高い1%目標を取ったとすれば、確かに、8年間、1%水準をコントロールの目標としてその上下0.5%の幅では、完全に日銀コントロールに入っていて、成功したと評価されただろう。ちなみに、2015年基準で,20150.0、-0.10.41.31.820201.8である。
 従来のISLMADASモデルで、目標のGDPを計算するモデルにおいて、目標のα%の物価水準を決定する貨幣供給量と利子率を求めることは、教科書では示されていない。理論の想定外のことを、『異次元緩和』で日本銀行がやろうとしたが、2%目標は未達であった。しかし、コロナ期に入る前まで、デフレは脱却したといえる。
 物価水準は、日本経済構造のもとで、国内内外生産物・金融市場において決定されている。金融政策によって、貨幣供給量と利子率をコントロール変数として、物価水準を決定できるのだろうか。マンデル・フレミング・為替・線形モデルで、パラメターを推計し、金融政策で、制御可能なのか、研究する。

5.4 金融政策の運営

 日本銀行が政策目標をデフレ脱却として、期間連続して、2%の物価上昇率を目標とすれば、公定歩合を限りなく0%とし、銀行の日銀当座預金に、マイナス利子率をつけ、国債を市場から規則的に買い取り、ETF投資信託を毎年一定額購入してきた。公定歩合操作、貸出政策、債券・(ETF投資信託)売買操作を総動員して、最終目標を達成しようとしたが、不可能だった。このように、金融政策が有効でない経済状態もある。
 それでは、経済成長の持続に最終目標をとり、GDP成長率2%を数値目標にしたらどうだろうか。これは、官民挙げて、国家プロジェクトを立ち上げ、日本経済の世界先進性を促進するプロジェクトに政策融資、投資するようにしたら、GDP成長率2%は、持続的に可能であろう。アベノミクスはそれをめざしたのであるが、根本が戦前の国家社会主義を岸元総理から受け継いでおり、資本主義的成長より、資本主義経済の稼ぎを社会主義的政策である社会保障、育児・教育無償化、働き方改革等に回すから、成長するわけがない。米国流覇権資本主義、つまり、米国は過去がないから未来を実現することで軍事・経済をリードする成長を目指しているタイプと、中国、ロシアのような国家資本主義(主要な国有企業が支援するプロジェクトで、世界覇権をねらう)と比較すると、爺むさく、番茶でお茶を濁すようなものであり、成果はでてこない。結局、日本銀行が、銀行、企業を激励しても、爺むさいプロジェクトが莫大な利益を生むわけもないから、バブルらない。
 黒田総裁は、バブル時代の経験を持っているので、バブルんじゃないかと期待して、超緩和したのだろうが、現在の銀行システムは、2003年までドジな銀行がすべて淘汰され、競争相手が減少し、規模の収益で、そこそこ、生きられるのである。それが証拠に、リーマン・ショックが銀行システムに与えた効果はない。
 貸金業法で、所得制限が規定され、零細貸金業は淘汰された。消費者ローンで稼いでいた米系金融業(シティコープ等外銀、証券、保険)は、本国に帰還し、競争相手がいなくなった。米国もそうだが、韓国も、庶民では、小口借金漬けになっている。日本の大手貸金業者が韓国に進出して行った。日本では、名目所得が右肩上がりで、ベースアップが2%あった時代は、年収300万円の所得層は20年で、300万円×1.0220445.7万円となる。ゼロが20年続くと、年収300万円の所得階層は、そのままである。ここに、日本の労働者の生活困窮化の原因がある。階層シフトが生じず、300万円以下の低所得者は、所得制限で、出世借りができなくなった。日本から、消費者行動から、前食い需要が消滅する歴史的な転換が起きたのである。日本の消費需要は、所得の範囲内、堅実型消費になったのである。これでは、日本経済は成長するわけがない。

 300万階層は、製造業、第3次産業に多いが、製造業が中国・アセアンに流出した。現在、非製造業が主流の日本経済では、非製造業における生産効率性で評価されることはなく、人間関係・上下関係によって給料が出ているので、その関係間に、モノ、カネが介在しないから、インフレにならない。たとえば、美容院のカリスマ職人は、1顧客当り、1時間で、100万円稼ぐことはできない。銀座のクラブでは、トップクラスのホステスを指名すると、そのような事例はある。コロナ禍で、浮き草家業の著名人の講演会がなくなり、講演料は数百万円だった。また、稼ぎ頭の40台~50台が、金融再編で、貸しはがし、貸し渋りで、中小企業を淘汰され、製造業の中国流出に、転職を余儀なくされ、「高卒ですか、前社の経歴は0査定で、17万でお願いします。」と言われた人が多い。人間関係でフラット化しているから、給与は上がらず、みんな余力のカネはない。結局、モノのインフレは生じなかった。最悪なことに、サービスの時給が上がるわけがなく、サービス・インフレもなかった。2回の消費税値上げで、賃金が、10%上昇しなかった。消費税5%上げるなら、強制賃上げ5%させるよう、最低賃金を同時に上げるべきであった。企業は財サービスに転嫁はさけ、労働者の「安倍さん・山口さん、非製造業のサービス残業常態化を何とかしてくれ」との声は届かなかった。

 黒田総裁が想定する、1989年のバブルと違って、金融市場と不動産市場の2倍資産リバブルは、生じなかった。しかし、株価は、リーマン・ショック以前を回復した。ゼロ金利政策で、債券価格は、高騰(利回りのゼロ化)したが、日本銀行が国債の発行高の半分買い上げているから、玉がない。株式市場で、投機を仕掛けようにも、業務用の当座預金に、マイナス金利をつけるから、投機マネーの一時預かりができない。東京株式市場は、米国と違って、投機的な変動が少なかったのは、代替安全資産がなかったからである。
 不動産は、東京オリンピック会場のように、もとの競技場の地上げでしかない。東京都全域は、不動産の地上げは出来なくなっているほど、建て込めている。当然、土地売買の事例が少ないから、地価は2倍にはならない。
 結局、物価のインフレーションは、賃上げ不足、寡占支配価格の横行で、歯止めがかかり、資産のインフレーションも同じ状況であった。超緩和では、日本経済の構造に金融ショックを当てられないということである。
 
 202112月から、世界情勢が、ウクライナ戦争勃発に動き、2022224日までに、エネルギー価格が上昇した。戦争開始後、ロシア・ウクライナが小麦・食用油・カリウム肥料の輸出国だったため、食料品価格が世界的に上昇した。世界同時インフレーションの始まりである。日本も例外でなく、4月消費者物価指数は2%を越え、8月まで2%以上を持続的に、上昇している。世界の中央銀行は、中央銀行の目的である物価安定のため、景気回復より、インフレ抑制に最終目標を切り替え、金利を上げてきている。この目的に違反しているのが、日本銀行である。世界で、日本に協調して円安を是正する中央銀行は、皆無である。むしろ、貿易利益をあげるから、世界インフレ抑制のため、協調利上げをしたらどうかと言われるだろう。

今週(20251027日~1031)のイベントと市場への影響度 
 先週のイベントは、20日中国共産党中央委員会第4回全体会議が23日まで開かれました。21日臨時国会が召集されました。石破内閣は総辞職し、国会で、新たな内閣総理大臣が、議決を経て、高市早苗氏が指名されました。
 今週のイベントは、26日マレーシアにおいて、ASEAN関連首脳会議が28日まで開かれます。28日東京において、日米首脳会談があります。米連邦公開市場委員会が29日まであります。29日日銀政策委・金融政策決定会合が30日まであります。31APCEC首脳会議が韓国・慶州において、111日まであります。
 先週の経済統計は、次の発表がありました。
                       予想値      実現値
1020日 日9月全国コンビニエンストア売上高        99509700万円
     中79月期実質GDP                               4.8
      9月固定資産投資                                 0.5
      9月小売売上高           3.1%     3.0
      9月鉱工業生産指数                 6.5
      10LPR                                                       3.0
     米9月景気先行指数         
      9月小売売上高           0.4
22日 日9月通関ベース貿易収支      227億円     -2346億円
23日 日9月全国スーパー売上高               160億円
24日 日9月全国消費者物価指数          2.7              2.9
    8月景気一致指数(改定)         113.4             112.8
        先行指数(改定)        107.4             107.0
    9月全国百貨店売上高                4288億円
   米9CPI                 2.9             3.0
 今週の経済統計は、次の発表があります。
                                予想値
1027日 米9月耐久財受注           0.3
29日 日10月消費者態度指数          35.5
30日 日銀政策金利              0.5
   FRB政策金利上限            4.0
   米7~9月実質GDP            3.1
   ECB政策金利              2.15
31日 日9月完全失業率             2.5
    9月有効求人倍率            1.2
    10月東京CPI              2.6
        9月製造業PMI             49.7
        9月個人所得              0.5
    9月個人支出              0.4
111日米9月貿易収支            -620億ドル
     
9月耐久財受注            2.9

                                     ホームページへ戻る

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本、米国、中国の発表結果を一覧で以下に表します。

日本                  3 月        4月        5
GDP前期比、(年率換算) -0.2%、(-0.7%)
消費コンビニ売上高   999427百万円  97621900万円 1162800万円
  スーパー売上高 18995480万円  16684608万円 19158404万円
  百貨店売上高    4953億円     4232億円      4356億円
投資(工作機械受注統計)   1511100万円  1302600万円  12871800万円
輸出          98478億円  87691億円     81350億円
輸入          93038億円  8兆8019億円     87726億円
 貿易収支         5441億円    -328億円      6376億円
物価指数           3.6%        3.5%        3.5
利子率            0.5%        0.5%        0.5
株価          36790.03      34609.00       36928.63
(2金曜日の前営業日)  25/3/13       25/4/10        25/5/8
原油価格           71.6ドル     66.4ドル       59.21ドル
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)  308572円    302453円    30141円 
完全失業率       2.5         2.5%        2.5
景気動向一致指数    116           116        116.0
      先行指数     107.7         104.2       104.8
米国               3 月         4月        5
GDP(前期比年率)     -0.5
個人支出(前月比)             0.7%          0.2
個人所得 (前月比)        0.5%         0.8
投資(耐久財受注統計)      9.2%       -6.3%        16.4
輸出           1808億ドル      2894億ドル    1792億ドル
輸入           3427億ドル      3510億ドル          2758億ドル
 貿易収支       -1620 億ドル     -616億ドル    -966億ドル
物価指数           2.4%         2.3%        2.4
利子率           4.5%         4.5%        4.5
株価           40813.57       39593.66      41368.45
(2金曜日の前営業日)   25/3/13       25/4/10        25/5/8
原油価格         71.6ドル        60.07ドル     61.8ドル
NY、先物、標準品WTI1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
完全失業率           4.2%          4.2%       4.1
ISM製造業景気動向指数  49          48.7       48.5
ISM非製造業景気動向指数 50.8         51.6       49.9
中国              3 月          4月        5
GDP(前期比)       5.4
個人消費
投資
輸出          3139.1億ドル(4/14)  3157億ドル(5/9)      3161億ドル(6/9)
輸入          2112.7億ドル    2195億ドル      2129億ドル
 貿易収支       7367億元     7,000億元       7,500億元
物価指数        -0.1%      -0.1%         0.1
利子率(1年物LPR)   3.1%        3.1%         3.00
株価(上海)       3358.73       3223.64        3352
(2金曜日の前営業日)  25/3/13       25/4/10        25/5/8
個人所得
完全失業率(全国都市部)  5.2%       
財新製造業PMI      51.2         50.4          48.3

日本                  6月         7月        8
GDP前期比、(年率換算)    1.0
消費コンビニ売上高    1149億円    17778300万円  1296億円
  スーパー売上高    17688802万円 110902885万円   11002億円
  百貨店売上高       4615億円     4683億円       4139億円
投資(工作機械受注統計)     13315000万円  12835700万円   11971900万円
輸出           89627億円      963億円      84252億円
輸入           84930億円      91956億円     86677億円
 貿易収支          4696億円     1894億円     -2425億円
物価指数(生鮮食品を除く)   3.3%        3.1%       2.7
為替レート         145.12/ドル   145.85/ドル   147.57/ドル
利子率              0.5%        0.5%       0.5
株価           28173.09円    39646.36円     41059.15
(2金曜日の前営業日)  25/6/12       25/7/10      25/8/7
原油価格             68.8ドル      71.5ドル     69.3ドル
ドバイ、現物1バレル、ドル、8月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)   514106円   419668円     30517
完全失業率           2.5%      2.3          2.6
景気動向一致指数       116.7       113.3         113.4
      先行指数        105.6       105.9         107.4
米国            6月          7月        8
GDP(前期比年率)     3.8(確報値) 
個人支出(前月比)         0.3 %        0.5%      0.6
個人所得 (前月比)       0.3%        0.4%             0.4
投資(耐久財受注統計)   -9.4 %       -2.8%      
輸出         2773億ドル    2833600万ドル  1761億ドル
輸入         3375億ドル    35877500万ドル  2616億ドル
 貿易収支      -602億ドル   -7546900万ドル  -855億ドル
物価指数PCEコア   2.8%        2.9%        2.9
利子率         4.5%        4.5%        4.5
株価          4296762ドル    44650.64ドル  43968.64ドル
(2金曜日の前営業日)   25/6/12       25/7/10      25/8/7
原油価格        68.04ドル      66.57ドル    63.88ドル
NY、先物、標準品WTI1バレル、ドル、1ケ月先物(2金曜日の前営業日)
完全失業率          4.1%      4.2%        4.3
ISM製造業景気動向指数  49        48                       48.7  
ISM非製造業景気動向指数          50.1
景気先行指数      -0.3       -0.1       
中国          6月           7月        8
GDP(前期比)      5.2
個人消費       
投資        
輸出         3251.8億ドル      3218億ドル    3086億ドル
輸入         2104.1億ドル      2235億ドル    2176億ドル
 貿易収支      1147.7億ドル       982億ドル    910億ドル
物価指数        0.1%          0.0%     -0.4
為替レート       19.9062        20.3871      20.4435
利子率(1年物LPR)  3.0%          3.0%        3.0%  
株価(上海)       3402.64元       3509.68元     3639.67
(2金曜日の前営業日)   25/6/12       25/7/10      25/8/7
個人所得
完全失業率(全国都市部)  5.0%        5.0%        5.3
製造業PMI        49.7        49.3         49.4
財新製造業PMI                 49.5
日本            9月         10月        11
GDP前期比、(年率換算) 
消費コンビニ売上高    99509700万円
  スーパー売上高    160億円
  百貨店売上高     4288億円
投資(工作機械受注統計)   13778000万円
輸出           
輸入           
 貿易収支        
物価指数(生鮮食品を除く)  2.9
為替レート        148.56/ドル   152.66/ドル
利子率            0.5% 
株価          44372.5円      48580.44
(2金曜日の前営業日)  25/9/11       25/10/9      25/11/13
原油価格         70.6ドル          66.1ドル
ドバイ、現物1バレル、ドル、11月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)   
完全失業率        
景気動向一致指数    112.8
      先行指数     107.0
米国            9月          10月        11
GDP(前期比年率)     
個人支出(前月比)        
個人所得 (前月比)      
投資(耐久財受注統計)   
輸出           
輸入         
 貿易収支       
物価指数PCEコア           
利子率          4.25
株価          46108ドル         46358.42ドル
(2金曜日の前営業日)  25/9/11       25/10/9      25/11/13 
原油価格        62.37ドル       61.51ドル
NY、先物、標準品WTI1バレル、ドル、1ケ月先物(2金曜日の前営業日)
完全失業率         
ISM製造業景気動向指数   49.1
ISM非製造業景気動向指数 50.0
景気先行指数      
中国           9月        10月        11
GDP(前期比)      4.8
個人消費       
投資        
輸出         3285億ドル
輸入         2381億ドル
 貿易収支      904億ドル(6455億元)
物価指数       
為替レート       21.02/       21.4554/
利子率(1年物LPR)   3.0%           3.0
株価(上海)       3875.31           3933.97
(2金曜日の前営業日)  25/9/11        25/10/9      25/11/13 
個人所得        
完全失業率(全国都市部)  
製造業PMI         49.8
財新製造業PMI       51.2 
                                     ホームページへ戻る

1回目 2025915

はじめに

 本教室の目的は、『金融論2024年テキスト』の補足説明です。2025年度前半の資産形成論教室において、「今週のイベントと市場への影響度」を予想するとき、経済学の知識がある方が、イベントの方向性を間違えにくい。特に、開放マクロ経済モデルの短期・中期変動経路は、理論的推論ができる方が、大筋を読み間違えなくてよい。

2019年から、開放マクロ経済モデルの短期・中期モデルは、マンデル=フレミング・EX線形システムを基礎においています。長期モデルは、MFEX対数連続システムを提案しています。前者は、通常の計量経済学の手法で、四半期・3年予想を目指しています。後者は、連続システムの推計であり、研究中です。
『金融論』の目次の内、2.家計の金融行動、7.金融市場と利子率決定、8.金融派生商品市場は、『資産形成論』の内容とダブっています。

『金融論2024年テキスト』宇空和研究所202412月以降発行。
              目次
    1.国民経済循環における金融
    2.家計の金融行動
     3.企業の金融行動
    4.金融機関の行動
    5.日本銀行と金融政策
    6.政府の活動と財政政策
        7.金融市場と利子率決定
        8.金融派生商品市場
    9.マクロ貨幣経済モデルと経済政策
    10.開放マクロ経済モデルと経済政策
   11.貨幣的景気変動論

『金融論2024年テキスト』は、特に、2章について、2024年度『資産形成論』説明ノート、10章について、2024年金融論説明ノートの結果を反映しています。11章は、MFEXモデルのケインジアン不完全雇用と新古典派完全雇用における貨幣経済の景気変動論を比較対照してみます。開放マクロ制度部門別、主体的最適化動学モデルは研究中です。
 
 3章から11章を15回で補足説明をします。2025年度前半『資産形成論』説明ノートに引き続き、「今週のイベントと市場への影響度」において、日本の主にGDP推測の月次データと、金融政策に影響する比率および価格データである、物価指数、利子率、米国利子率、為替レート、株価、原油価格、中国物価指数、利子率、為替レート、株価を表にしています。短期予測値は、主に、マネックス経済指標カレンダーに掲載されているデータです。

『金融論』の理論的立場
 私の理論的立場は、追手門学院大学在職中から、スタッフで同じ立場を共有しにくいので、海外の論者の研究を勉強しつつ、自問自答し、『金融論』を毎年、研究した結果を反映し、改訂してきました。研究所を開設しても、その研究仕法は変わりありません。すなわち、モデルを論証するか、数理的なモデルを仮定し、数学的方法で均衡値を求めるか、経路を決定するか、それらのモデルを時系列データで、統計学的、計量経済学的方法で、推定するかです。
 経済イデオロギーの選択
 私の学生・院生時代は世界イデオロギー戦争の最中でした。神戸大学経済学部を選んだのは、マルクス経済学が主流でない大学だと立命館大学の学生たちが言っていたからです。入学し、大学紛争時代に入りました。大学の教学は一時、機能停止になり、自学自習が2年、続きました。紛争学生による大学封鎖が解除され、教学が開始されましたが、どこの大学でも教官、教員と学生の意識の断絶は大きなものがありました。自学自習の時代、マルクス、エンゲルス、ゲバラ選集、マルクス経済学を読みましたが、紛争学生ほど、共感、感化される思想ではなかった。当時、マルクス主義は、社会科学、人文科学および自然科学を統一的に把握できる科学であると、日本では、理解されていたようです。社会科学では、政治・経済・軍事が共産党独裁で統治機構が存在すれば、その国にとって最善の機構である。人文科学では、唯物史観で、人類の発展段階が決定されている歴史経路が説明できることになっている。自然科学では、宇宙法則にしたがい、ビッグバン以降の膨張的宇宙が存在する。地球で存在する生命は、宇宙法則の中で、物的合成結合した水泡にすぎない。ということで、自然科学系の学生も、共産主義運動にしたがい、手っ取り早く、日本を革命によって、終息点である理想共産社会軌道に乗せなければならないという新左翼運動がありました。
 私は、高校時代、明治・大正・昭和文学全集を読み、古典文学を読み、特に、世界史を熱心に、教科書以外の通史を図書館で借り出して、東洋と西洋で発展を分けて、勉強していました。入試に必要とされる以上の知識を貯め込み、諸文明の発生から変遷・年表を記憶しました。
 日本の私小説は、体験文学です。特に、昭和時代は、敗戦までの、共産主義・社会主義の信奉者の私小説をかいていました。倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』1969年辺りで、日本文学は、私小説から離脱し出したので、面白くなく、卒業しました。
 紛争時代は、大学は封鎖中で、世界文学、世界思想の本を丹念に読んでいきました。紛争時代、大学が、ほぼ、1年間、休校状態で、アルバイトは、いろいろな職種で、職場体験しました。最後に、賄いつき、料理旅館で、アルバイトをしていました。年配の板長さんが、京都の紛争学生と機動隊、セクト同士が、ヘルメット、角材でデモ、衝突をして、市民生活に影響を与えていたのをみて、「学生君、あの運動をしない方がいい。」と言いました。51日のメーデーが京都市内で、盛大に、労働組合が旗をもって、市内を行進していた時代です。労働者、既成革新政党は、新左翼の学生運動を醒めた目でみていました。
 学生時代、日本では、社会・人文・自然科学の分野で、社会主義・マルクス主義を指導原理とする学会が主流でした。イデオロギーや政治は、マルクス経済学で取り扱う政治経済学であり、経済学が、1900年から、推進して来た研究仕法では、取り扱うことはできないと考えていました。また、シベリア鉄道、ヨーロッパ鉄道で、ナホトカからベネチアまで、ユーラシア大陸を往復し、東西の各国民の実情を見聞して、イデオロギー戦争の負荷は、東側の方が大きく、消費財の慢性的な不足があると思いました。私は、東側と同じ、食うや食わずで、暮らしていたので、東側と生活的な違和感は全くありませんでした。シベリア鉄道の食事も、立命館大学や同志社大学の学食のようなもので、京都市内で、質素、倹約学生生活に慣れていました。資本主義経済下の日本で、私の贅沢は、本ばっかり、毎月、あれこれ、古本屋、定期購入の近所の書店、ときに、新刊洋書を丸善で買って読んでいました。
 1971年、Grazから帰国するとき、Frau Hanna Riehlから、Othmar SpannTypes of Economic TheoryLondonGeorge Allen Unwin LTD1930を手渡された。帰国後、大学院の受験勉強を始めました。1972年夏受験し、合格しました。ときどき、読みましたが、Chap. Four An Introduction to the Basic Problem of Sociology―Individualism versus Universalismが印象に残りました。私の個人的効用関数と集団的効用関数に影響しているかもしれません。Spann博士は、自由主義と社会主義に反対するオーストロファシズムの先駆者です。門下生は、MorgensternHayekなどです。ロシア連邦のプーチンは、ウクライナにネオ・ナチズムの台頭をみて、征伐する作戦を組んだといっているが、自由主義と社会主義に反対するロシアの保守主義であり、Spann理論の枠にはいるロシアファシズムかもしれない。
 神戸大学院では、林先生のもとを離れ、斎藤光雄先生の計量経済学に入学した。しかし、博士課程は、林先生のゼミに戻された。その理由は分からないが、その結果、ウィーン学団の一般均衡論・ゲーム理論に研究方向が変わった。しかし、金融分野は、彼らにはないから、一般均衡論・ゲーム理論の枠組みで、金融を研究する。ゲーム理論には、政治的決定理論があるが、共産主義、社会主義、民主主義的政治決定で、個人主義と集団主義は、相互に密接に同根であれば、ともに、期待効用がPareto最適になるのは、民主主義的政治決定であるという理論になった。
神戸大学経済学部大学院時代の研究動向
 大学院に入り、林治一教授のゼミで、ArrowHahnを研究する先輩がいて、Debreuの“Theory of Value”を図書館で見つけ、だれかの書き込みがあるので(斎藤光雄教授にその書評があるので、斎藤先生かなと思いましたが)、コピーして、読みました。また、丸谷助教授の講義で、ArrowSocial Choice and Individual Values”を知り、購入、読みました。
 当時、政治学を数理的に取り扱う立場があり、もともと、資本主義経済には、民主主義の決定方式の一つである、満場一致原則があります。1985年、政治的決定に際して、この満場一致原則を取れば、租税を負担しつつ、相手のことを思いやる主観的集団効用を最大化して、公共サービスを決定できるという理論を考えました。経済は、個人的価値観で、財サービスの最大効用が得られ、政治は、集団的価値観で、公共サービスの最大効用が得られるということです。これは、1981年から、私が東西問題で行動を開始した、キリスト教の個人的愛と普遍的愛の関係が大きく影響していると思います。ともに、愛は同じ源泉です。学生時代のキルケゴール、オルテガが影響しているかもしれません。EUが誕生してからは、政治的決定は、スイスの直接民主主義を想定すると、満場一致で、一意的にできると考えて、1995年以来、公共サービス決定、経済統合の論文を書いてきました。
 経済学の立場は、大学・大学院時代で、数学、確率論、確率微分方程式、常微分方程式、数理統計学、計量経済学、数理経済学、数理計画法を学び、最適投資決定、分布ラグモデルの推定量の論文を書き、神戸大学の計算センターで日本の投資関数の推定を開始、19801月、2変数von Neumann-Morgenstern の英文論文を六甲台論集に載せ、それを多変数化した論文をJETに投稿、198012月査読後、採用されました。
追手門学院大学経済学部就職後
 19814月就職後は、異時間一時的一般均衡論を確率微分方程式で、確率動学化するつもりでした。要するに、Hicks, Value and Capital, p126, an Economics of Risk on beyond the Dynamic Economics’を具体化することをめざしてきたわけです。1986年、西ドイツ、ビーレフェルト大学数理経済学研究所で、研究する機会を与えられ、ヨーロッパの数理経済学の文献を調べ、多期間一時的一般均衡論に、確率分布の価格予想を導入し、市場均衡の存在を示すところまで、モデルを表現することができました。同研究所のRosenmueller教授の移転可能効用から、貨幣を資産でとらえれば、貨幣を移転可能効用で評価、和に分離できることを知りました。20183月、Hicksの目標にたどり着いた著書を発行し、同時に、公私混合経済の一般均衡理論を論文に書いて、追手門学院大学経済学部を退職しました。

宇空和研究所の理論・実証研究目的
 以上、まとめると、宇空和研究所の理論・実証研究目的は、次の通りです。
 資本主義経済には、民主主義の決定方式の一つである、満場一致原則があります。1985年、政治的決定に際して、この満場一致原則を取れば、租税を負担しつつ、相手のことを思いやる主観的集団効用を最大化して、公共サービスを決定できるという理論を考えます。経済は、個人的価値観で、財サービスの最大効用が得られ、政治は、予算・租税過程を経て、集団的価値観のもとで、公共サービスの最大効用を得るように決定します。
 公私混合経済において、家計、企業、中央銀行、政府の経済主体によって構成される、異時間一時的一般均衡の存在を示し、長期的には、終局的定常均衡が存在する場合、予想価格確率過程を仮定し、確率微分方程式で、確率動学化します。要するに、Hicks, Value and Capital, p126, an Economics of Risk on beyond the Dynamic Economics’を具体化することをめざしています。
 貨幣経済のもとで、不確実性がある場合、各経済主体の予想形成を仮定し、予算制約式の下で最適決定を説明するのが、2章から6章まで、金融市場均衡が7章および8章です。9章および10章は、マクロ貨幣経済モデルです。
 開放マクロ経済モデルの短期・中期モデルは、マンデル=フレミング・EX線形システムを基礎に置いています。長期モデルは、MFEX対数連続システムを提案しています。前者は、通常の計量経済学の手法で、四半期・3年予想を目指しています。後者は、連続システムの推計であり、研究中です。
 2023年資産形成論を説明中、MFEX線形離散および対数連続モデルの計算を終わり、これらは、比較静学および比較動学で、システムが時間経過する。ドーンブッシュ・フィッシャー『マクロ経済学上・下』では、経済変動および経済成長の章は、理論の選択はない。中谷巌『入門マクロ経済学』では、新古典派成長論および内生的経済成長論を取り上げている。景気変動論では、LucasBusiness Cyclesである。経済動態的変動の法則が存在すると想定するモデルと、それを否定する学派に分かれる。私の属するHicksPatinkinGrandmont系列の一時的一般均衡論の系譜では、貨幣的景気変動論(Monetary Business Cycles)は、Grandmont “On Endogenous Competitive Business Cycles,”Econometrica, 1985, Vol 53, No.5がある。筆者の確率的動学モデルでは、消費者の賦存量が、離散的Markov過程にしたがう、GrandmontHildenbrand “Stochastic Processes of Temporary Equilibria,”Journal of Mathematical Economics 1, 1974を出発点にしている。

 もとにもどると、MFEX線形離散および対数連続モデルは、私の『金融論』講義において、学生・院生に、うまく説明できなかったので、退職後、その答えを出しただけである。MFEX線形離散および対数連続モデルにおいて、経済変動および経済成長はどう扱ったら、よいのか、示そうと考えた。
 その一方で、『多期間一般均衡モデルの確率的動学』晃洋書房、20183月を出版した。その「第13章貨幣経済における現物・先物市場の一時的一般均衡確率過程」において、賦存量の離散過程および連続過程を取り扱っている。両過程のもとで、主体別最適化経済変動・成長論が終端目標である。実態的資本主義経済が、最適されるという意味ではない。経済主体別合理的行動を前提とすれば、時間経過で、どのような経済変動あるいは経済成長するかを動学的一般均衡理論的に示すのが、ミクロ経済モデルの目的である。その理論的研究は、MFEXモデルの開放マクロ制度部門別主体最適化動学モデルに応用することはできるだろう。

大学院時代のイデオロギー
 最近、林治一先生の大学院の講義を受けた時だと思う、後輩が渡してくれた、林先生の論文のコピーが見つかった。
「レイとミクスターとボェーム・バヴェルク」国民経済雑誌第116巻第11967
「経済理論の純粋性と社会的基盤」神戸大学経済学研究151968
「経済理論の基盤的考察の二面性」神戸大学経済学研究171968
「経済理論の基盤的考察」国民経済雑誌第118巻第61968
これらの論文は、経済学史か経済哲学の領域の研究だった。林先生には、『オーストリア経済学派研究序説』有斐閣1966年の著作がある。私が学部で林ゼミを選んだのも、『経済学を築いた人々<増補版>』大河内一男編、「近代経済学の祖メンガー」林治一、青林書院新社、1966年を読んだからである。
 1次大戦後、ウィーン大学から、経済学・経済哲学・数理経済学・統計学・コンピュータ・核爆弾等の諸学と工学は、両大戦間にウィーン大学、ドイツの大学を起点に、米国・日本に伝播している。ウィーン大学出身のヒルファーデイングは、『ベーム・バヴェルクのマルクス批判』1904年、『金融資本論』1910年がある。ヒルファーデイングは、ドイツ社会民主主義の理論的指導者でもあった。
 他方、大学院を退学する前、置塩信雄教授のゼミ生から、置塩先生の論文集を渡され、「これを読みなさい。」と言われた。
N. KALDORの均衡成長MODEL」『季刊理論経済学』Vol. XV, No. 3, 19658
Marxの生産価格論について」神戸大学経済学研究年報1972
「新古典派成長論の政策的含意」立命館経済学第22巻第341973
Marxの「転形」手続の収束性」『季刊理論経済学』 24, 2, 19738
「新古典派成長論の検討」国民経済雑誌第129巻第21974
3 生産価格・平均利潤率」柴田敬博士古希記念論文集『経済学の現代的課題』ミネルヴァ書房1974
「マルクスの基本命題-結合生産を考慮して-」国民経済雑誌第134巻第11976
戦後の資本主義国の経済成長論の系譜は、ブルジョワ経済学の継続性を意図する理論であるが、どの理論も、不安定であり、恐慌に落ちると批判しておられる。

 大学院で、置塩先生の数理経済学は表看板で、置塩先生の研究は、ブルジョワ経済学批判、マルクス経済学の必然的帰結を証明されたのだろう。私は、学部時代、新左翼、マルクス経済学を勉強したが、興味はなかった。その知識で、新左翼系の学生と、マルクス経済学について、議論していた。安保闘争からの流れで、当時まで、学生の政治参加は、全国大学学生組織が形成されていたのであろう。われわれ新入生は兵隊でしかなく、丁寧な革命理論の説明は、全くなかった。当時テレビでも、その議論が中継されたことはあるが、一方的で、相手の主張は認めない。新左翼の闘士も、自派の主張を十分理解しているわけでもない。
 社会主義的社会政策に対抗して、近代経済学派の立場から、「福祉、厚生経済社会」は、資本主義経済制度のもとで可能なのかは、疑問に思っていた。
 スウィージーやガルブレイスの本を読み、アメリカ経済社会を見れば、米国内に社会主義的政治組織はなく、強欲資本主義経済において、「福祉・厚生経済社会」は実現する話はない。1991年東西冷戦終結に、米国は、ソ連に対して政治的圧力を、1980年代たゆみなく、働きかけてきた事実は、皆無であったと外交文書から、証明できる。要するに、米国は今でもそうだが、世界の紛争に、ソフト面で、解決することがアメリカの国益を最大にするとはだれも考えない。米国の対外戦後史は、武力による征圧しか、説得手段を持たない大国であった。米軍撤退後、治安が収まったのは、東南アジアのベトナム、ラオス、カンボジアぐらいである。米軍が直接関与した他の国は、いまだに、戦争・紛争をしている。米国の評判は悪い。ウクライナ侵攻に対して、ロシア軍が包囲する前に、米軍がウクライナに、1万人派兵すれば、プーチンは、侵攻しなかったと誰もが思う。アフリカの黒人国家に、直接派兵の事例はほとんどない。米国社会に黒人が含まれるので、アメリカ白人は、アメリカ黒人兵を伴って、派兵するのに、ためらいがあるのかもしれない。
 さて、日本では、社会党を始め、社会主義的政党があるから、社会政策が制度化された。EU各国は、東西冷戦後、各国共産党は勢力を縮小したが、議会制民主主義政下において、ヒルファーデイングの社会民主主義は、いまだ、政治勢力を維持している。EUにおいて、「福祉、厚生社会政策」は、資本主義経済制度下で可能なのである。
 
 就職後は、南側、中国、韓国、台湾、香港、ASEAN、インドを、東側ソ連の中央アジア、コーカサス諸国、ウクライナを含む東欧諸国、ユーゴスラビアおよび西側NATO諸国、エジプト、ギリシャ、イスラエル、モロッコ、トルコを視察、語学研修、研究留学していた。実態経済を見ると、東も西も、北も南も、マルクス主義が、有効な経済成長・開発理論であるとは言えなかった。
 東西冷戦後、ソ連のマルクス主義統治が崩壊して、日本の経済学会では、マルクス経済学の退潮が進んだ。ソ連の中核は、ロシア連邦となって、ロシア経済は財閥的資本主義化したから、経済成長の途上にある。ロシア連邦は、プーチン政権から右傾化し、昔懐かしロシア帝国主義の復活をめざしている。これは、周辺諸国の国民が、認識している。マルクス主義独裁統治が復活しているのではない。
 反面、日本の経済学会では、アメリカ経済学が勢力をふるっているわけでもない。日本経済は、強欲資本主義であると、社会批判を受ける。共産党、社会主義政党の支持者がいるからだろう。林先生の経済哲学研究にもあるが、歴史的伝統国では、外来の政治思想、経済思想は、勉強できるが、実態経済に影響を与えるのは、むつかしい。社会規範である憲法でさえ、国民に浸透するのはむつかしい。竹に釘は接げない。

石油ショックを発端とする実物経済成長論から貨幣的Business Cycle
 神戸大学大学院経済学専攻では、確かに、ケインジアン経済成長論と新古典派経済成長論が、理論系のゼミでは、研究発表があったが、オイルショック後、米国経済はインフレに悩まされ、日本経済の米国輸出成長モデルは、立ち行かなくなり、この成長テーマは終わったように思うし、研究する興味は全くなかった。強いて言えば、確率的動学とあるように、確率的変動に関心があった。オーバードクター時の指導教官であった後尾哲也教授は、置塩先生と親友だったそうだ。置塩先生の論文を見ると、私の大学院入学時から、マルクス経済学の研究が主になり、修士課程まで、後尾研究会および院演習は、置塩ゼミの先輩院生が参加されていたが、その後、私だけになった。私は、置塩先生の新古典派経済成長論批判ならびにマルクス経済学研究とは、全く方向が違っている。修士・博士課程を通じ、林ゼミでは、Harrod,  “Economic Dynamics,”1973年、およびBurmeisterDobell, “Mathematical Theories of Economic Growth,”1970を輪読したが、興味なかった。
 学部時代の3年生の秋、けがで入院したとき、Hicks, “A Contribution to the Theory of the Trade cycleを丸善で注文し、読んだが、経済運動を機械運動に当てはめているようで、経済実態的な運動とは、距離があると思った。Samuelson『経済分析の基礎』やAllenの『数理経済学』も読んだが、物理的な運動を直接、経済運動に当てはめるのは、無理がある。経済運動は、生身の労働と物理運動手段である資本財の協働で製品が生産されるから、景気変動論は、機械運動を主にした工学的な運動を数学で表現しているが、生体的な合成運動を表しているとは言えない。経済学では、数学をもちいるが、経済計算およびそのデータは、自然科学の計算や工学のデータではなく、経済計算をした意思決定者の判断で生じたデータである。それでも、経済の長期動態では、最小二乗法による局所的統計的推測では、ほとんど価値がない推測になることがある。たとえば、最近の西側研究所が計算した中国のGDP2030年に米国を超えるという推測は、早くも、外れて来た。

今週(2025915日~919)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、9日国連総会が開幕しました。11ECB理事会がありました。
 今週のイベントは162025年基準地価が公表されます。米連邦公開市場委員会が17日まで開かれます。18日日銀政策委・金融政策決定会合が19日まであります。
 先週の統計は、次の発表がありました。     
                                 予測値     実績値
9月8日  日4月~6GDP改定値        1.0%      2.2
       7月国際収支           746億円   -1894億円
       8月景気ウォッチャー調査     45.6      46.7
      中8月貿易統計                   7300億元
9日    日8月工作機械受注額                11971900万円
10日   中8月消費者物価指数        -0.3%     -0.4
11日   ECB政策金利            2.15%      2.15
     米8CPI              2.9%      2.9
12日   日7月鉱工業生産          -0.9%     -0.4
 今週の統計は、次の発表があります。
                     予想値      
15日 中8月小売売上高           3.8
    8月鉱工業生産指数         5.6
16日 米8月小売売上高           0.2
    8月鉱工業生産指数         0.0
17日 日8月通関ベース貿易収支     -5150億円
18日 米FRB政策金利           4.25
    8月景気先行指数         -0.1
   日7月機械受注            5.4
19日 日日銀政策金利            0.5
    8月全国消費者物価指数       2.9
2回目 2025922

3章 企業の金融行動
ポイント
・企業の短期資金需要は、取引需要で決まる。
・長期資金需要は投資需要によって、決まる。
2つの投資決定論を理解する。

表3.1 および 図3.1、図3.2は、下の3firm.pdfを開いて参照してください。
                    3firm.pdf へのリンク


企業の生産活動
 企業の生産活動を、図式化すると表
3. 1になる。企業の生産活動は、生産要素(労働)を購入し、生産物を生産し、販売する。左下の流れは、企業の労働需要量を決める。右下は、企業経営者の立場から、貨幣で評価した利潤=収益-費用を最適化して、供給量を決める。結果は同じであるが、後者は、損益分岐点と休業するかどうかの操業停止点を決めることができる。   

 表3.1の上部の囲みにおいて、企業の生産活動は、購入した生産要素(資本財と労働)を生産工程に投入し、生産物を産出し、市場で販売する。売上高は、生産要素へ分配される。
 
 3.1の左半分IおよびIVにおいて、I生産の技術的関係は、生産関数Yf (LK0)で表され、IV生産要素価格(賃金率wと配当率r)および生産物価格pを与えられたものとして、企業は、利潤=総収入-総費用(πpY-(wLrK0)を最大化する労働量Lを求める。企業の労働需要関数は、LL(p,w) と表される。生産物供給関数は、生産関数Yf (LK0)に、労働需要LL(p,w)を代入すると、供給量が得られる。
 3.1の右半分およびⅢにおいて、生産の経営的関係は、生産関数Yf (LK0)の逆関数f -1から、生産量を従属変数とし、労働量を独立変数と逆にとれば、可変費用V(Y)wLwf -1(Y)が求められる。生産の経営的関係においては、通例、生産関数は労働量が増加すれば、生産量が逓増し、変曲点で逓減する。その逆関数は、生産量が増加すれば、可変費用が逓減し、変曲点から、逓増する。3.1に示されている総費用関数CC0V(Y)がえられる。総収入関数Rは、RpYで表す。利潤は、πRCである。
 生産物価格が与えられると、直線である総収入線の傾きと総費用曲線の傾きが一致するのは、2点ある。最初の点Y1は、CRで、損失が最大である。次の点Y2は、CRで、利益が最大である。

 3.2において、経営者の観点から、利潤最大化の必要条件:価格=総費用曲線の傾き、pdC/dY限界収入=限界費用pMC)上で、供給量を決定する。図3.2限界収入線pp0は、市場で与えられる。限界費用曲線MCは、総費用曲線が逓減から逓増するから、二次曲線である。総費用が逓増するMC曲線と総収入線との交点が、生産者均衡点である。価格がそれより下がると、平均費用曲線ACCYの最小値に達し、損益分岐点Bbreak-even pointという。さらに、価格が下がると、可変費用曲線AVCVYの最小値に達し、操業停止点S(shutdown point)という。このように、生産の経営的関係にしたがえば、経営者の観点から、市場価格を所与として、経営者が、利潤最大化できる生産量を求めることができる。

企業の資金調達活動

   短期資金需要  資金調達方法  長期資金需要    資金調達方法
   材料費     銀行借入     設備費      他人資本 銀行借入 
   労務費     自己資金     研究開発費         社債発行 
   経費                        自己資本 自己資金
   販売費                            株式発行
   Min LTb/CCi/2              Max V=V0 + V1/i   Min re =r(D/V)+ρ(S/V)
    {C}                                      {K}         { D/V }
                                       K*=αp1Y1/r1      re*
                                        I= K*K0     MM理論
              Lo=uI/(1+rl)       re*X/V

企業の短期経営目標は「企業の生産活動の最適化」である.
 機械設備等資本は固定した上で,利潤最大化の原則にもとづき供給量を決定する.
短期の資金需要は運転資金である.
 生産要素支払(賃金,原材料費,経費,利息など)と生産財販売受取の差額を、自己資金または銀行の借入で調達する.企業は間接金融システムを利用する.
企業の長期経営目標は「企業の総価値の最適化」である.
 企業総価値の定義は,企業総価値=負債+資本である.
    他人資本(負債)   借入金社債
    自己資本(資本)   自己資金,株式
 企業の経営状態は,企業価値変動で3段階のいずれかにある.
  成長期 売上げが上昇,生産規模が拡大中である.
  定常期 成熟期にあり売上げ停滞,生産規模に変化はない.
  衰退期 同業者が市場から撤退,生産規模縮小する.
 3段階の経営状態に応じて企業は長期の経営目標を立てる.
  (1) 成長期 投資計画,研究開発
  (2) 定常期 置換投資,研究開発
  (3 衰退期 MD等で事業,資産売却
長期の資金需要は,投資資金と研究開発資金である.
 投資資金調達は,企業の情報開示が十分であれば,直接金融市場から調達できるが,情報の非対称性があれば,自己資金または銀行借り入れになる.一般に,企業が銀行から調達する資金は,短期の資金需要に長期の資金需要を加えた資金である.

3.2 短期の生産活動と資金需要

 短期は四半期の3ヵ月以内が実務的な期間である。会計学、金融論では、1年未満である。短期を3カ月以内とすると、企業が生産活動をすれば、労働者への賃金、調達した原材料の費用、光熱費、水道、ガソリン等の経費費用を1カ月以内で支払う。企業は取引銀行と当座預金契約を交わしているので、当座預金口座を通じて、当事者間で決められた日に、決済される。銀行は当座残高が不足する場合に備えて、当座貸越を企業と契約している。
 企業間信用の買掛金、売掛金は、現金で回収する場合もあるが、当座預金によって決済する。2000年までの金融危機で、以降、日本では、約束手形は、企業間で振り出す場合が少なくなった。コマーシャルペイパーCPは、大企業で主に発行される約束手形である。中小企業では、銀行の貸付が手形貸付で短期間融資される。
 このように、企業の生産活動では、間接金融の銀行を通じて、費用の支払いと売上の受取りを、当座預金から、主に、行っている。短期の借入は、手形貸付により、元金と利息を分割して、毎月元金と利息を返済する。たとえば、10月末満期、11月末満期、12月末満期の銀行宛支払手形で返済する。期間が長いほど、利息が増える仕組みである。
 一方、設備投資の借入金は、元金と利息を分割して返済する場合と、利息を定期的に支払い、満期に元金を一括して支払う場合がある。後者は、事業債の償還方法と同じである。投資期間が1年以上ある場合は、操業して収益で返済するのが遅れるので、銀行側も返済可能か審査して、融資する。大企業であれば、1年以上の資金調達方法は、銀行の借入金以外、事業債の発行、増資による調達方法の選択肢が増える。

 銀行に短期融資を申し込む場合、書類審査がある。企業は、1ヵ月の原価計算によって、材料費、労務費、経費の出金の実績と借入期間の予定表、収益の実績と借入期間の収益予定表で、日々の資金繰り表を計算する。資金不足は、特定の期日に、発生する。予定外の資金不足は、当座貸越で対応できる。銀行は当座貸越に担保を取っているから、当座預金不足は、担保価値額の換金可能値が限界である。追加の担保を必要としなければ、書類審査で融資が承認される。
 コロナ不況では、特に、飲食店や芸能等サービス業は、休業状態に追い込まれている。コロナ以前、有名な芸能関係企業では、興行収入が消失している。芸能プロダクションに所属する演者は、長引く緊急事態宣言で、収入がなくなり、生活が困窮している。零細企業では、休業は、公共料金の基本料金、銀行の借入金返済、担保の家賃等の固定費が、資金不足になる。政府金融機関、自治体では、緊急事態宣言下、営業時間の短縮を要請した場合、固定費を補てんしてくれる。銀行は、貸付金の利息を政府から補てん、貸付金返済猶予によって、休業期間中、固定費を補てんしてくれる仕組みをとっている。
 行政命令が解除された場合、営業に入るので、材料費、労務費、経費、販売費等の可変費が営業再開に必要になる。ただし、人出は以前ほど回復していないし、売上、半減以下の中、コロナ対応改装、マスク、消毒液等の衛生経費がかかるので、銀行に融資を申し込んでいるだろう。

 このように、短期では、企業は、支払いと受け取りの差額を現金か当座預金で準備しなければならない。短期資金管理は、資金繰りと呼ばれ、当座預金に、いくら準備すれば、費用を最小に出来るかという、現金残高モデルがある。テキストに、その公式を導いている。問題32から、企業の短期資金需要関数は、C2bT iである。

3.3 投資の決定

 生産物市場で、生産物価格が上昇すれば、企業は、設備稼働に余力をもっているから、製品在庫を増加させて対応する。これを在庫投資という。消費税が上がるとき、消費者が買いだめするのに対応する場合が在庫投資である。
 この最適在庫投資理論は、3.2節の公式C2bT iを使う。見積在庫量T、倉庫・管理費用b、経過利子iとする。
 生産物価格が継続して上昇する見込みがあれば、企業は固定設備を増強するために、投資をする。固定設備は耐用年数が来ると、陳腐化するが、減価償却費を積立てているから、その資金で固定設備を買い替えることができる。これを置換投資という。総投資は、純投資+置換投資からなる。ただし、企業規模が小さいほど、固定設備の減価償却期間は税法上、機械的に決まっているが、実際は、使用頻度が少なければ、期間を延長して使用している。しかし、延長した場合、商品の販売から、その設備の減価償却費は回収できないし、税法上償却が完了しているため、税法上の費用控除はなく、残存価値が未処分の状態になっている。
 新設備にすると、技術進歩が導入されていることが多いから、旧設備よりは、生産高は上がり、労務費、動力費等経費は減少する。つまり、図3. 4のように、生産関数の形状が変わり、生産曲線が上にシフトする。
 経済学で投資決定を考えるとき、投資は純投資をいう。投資決定論は、企業価値を最大にする設備量(台数)または稼働時間を求める。問題3. 3(テキスト40ページ)がその例である。生産関数は、機械設備に、材料(㎏、kl)、労働(労働時間)、動力(kw)を投入すると、製品がその工場で最も効率よく生産される量を対応させた物量的関係式である。次期の製品価格が上昇し、賃金率、レンタル率をそのままにして(所与)、次期の利潤を計算し、市場利子率で割り引いて、企業総価値を定義する。耐用年数までで、計算できるし、賃金率、レンタル率も変えることができる。

 問題3. 3を解くと、最適資本量K1*が求められ、現在の固定資本量K0と差K1*K0が正であれば、投資IK1*K0をする。例題3. 2において、生産関数をコブ・ダグラスにすると、K1*=αp1Y1r1 となる。投資関数Iは、IK1*K0(αp1Y1r1)K0となる。
 企業は、この投資を投資財産業に発注する。その代金は、今期支払われる。その資金を、株式の増資または自己資金で資金調達する場合と、銀行からの借り入れや債券発行では、前者は返済しなくてよいが、後者は返済しなければならないが、投資前の企業総価値V0と投資後の企業総価値V1V1uIV0の関係にあれば、投資額は返済できると債権者から判断される。

 企業の自己資本と他人資本の構成は、企業設立からのいきさつの歴史を表している。それは、表3. 2 企業の継続性と資金の源泉にある。
 企業は、大企業ほど、償却に510年かかる設備投資をする際、資金調達方法が多様化でき、資本コストが低下する。資本構成は、資金調達するとき、資本コストが最小となる最適構成があるとする理論と、資本構成と資本コストは無関係であるとする理論がある。表3. 2から,一般的に、企業は、資金調達の履歴から、資本構成が決まっており、資本コストが大きい銀行融資に依存し、大企業になるにつれて、債券、増資の選択ができるようになるので、資本コストは低下する。大企業は、株主に、配当するが、株主が要求する配当と留保を決める配当政策を実施する。日本では、2000年以降、大銀行の再編、中小零細銀行の再編があり、つまり、提携・吸収・合併があって、より規模が大きくなり、銀行との顧客関係が、過去の履歴と関係なく、温情融資がなくなって、ドライに返済を迫られることを経験した。再編銀行は、もとの銀行と融資企業の債務履歴の経緯を知らないから、新基準にもとづき、貸し渋り、貸しはがしを迫るので、怖いと認識したようだ。中小企業は、データで表面化しているように、自己資本比率を上昇させ、間接金融に頼らず、その高資本コストを低下させる傾向が進展している。
 利害関係者から見ると、株主、投資家、銀行は、企業が開示する投資計画を精査して、実現可能であれば、投資、融資を実行する。通常、企業が開示する投資計画を精査する能力は、企業の利害関係者間で差がある。

 不確実性下の投資決定は、問題3. 3の所与の価格p1r1、利子率iが確率変数である。この問題は、新古典派のアプローチで定式化できる。さらに、企業総価値Vは、離散期間で定義すると、VV0V1iであるが、連続モデルではVV0+∫V1itdψ(p1r1)dtとなる。今年度は、2章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。企業も現物・先物市場均衡を求めることができる。合理的期待仮説では、期待形成は、市場で決定されるから、先物契約市場は、先物価格が市場で決定される予想価格になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、企業の投資決定も、先物価格が企業総価値を決定することになる。

 テキストでは、3期間モデルで、企業投資を決定する。投資資金の資金調達は、銀行にその最適計算の情報を提示し、銀行側が審査し、2期間満期の借用証書によって、貸借関係を決定する。このようにして、間接金融の借用証書は、準証券発行とみなされる。住宅ローンの借用証書も、金融機関同士で、準証券と認定されるならば、市場流動化できる。

 企業のフロー・ストック最適化の枠組みは、

 現行生産活動の最適化と先物契約の締結
 予想価格で評価した企業総価値を最大化した投資決定
 短期現金残高最適化、最適投資の資金調達、負債・資本の最適資本構成

となる。

今週(2025922日~926)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、162025年基準地価が公表されました。米連邦公開市場委員会が17日まで開かれました。政策金利は0.25%下がって、上限は4.25%です。雇用を見て、年内2回、同様の利下げを予定しました。18日日銀政策委・金融政策決定会合が19日までありました。政策金利は、(CPIは、インフレ状態にないと判断し、注視するだけで)関税政策による生産減産、輸出減少を注視し、0.5%に据え置きました。政治家および国民の持続的インフレは、3%近く、毎月持続しているが、日銀の金利政策の、躊躇なく果敢に、政策金利を1%上昇するのは、3%台が持続するときのようです。高度成長期の忍足インフレ3%台でしたが、大蔵省監督下の日銀は、それをインフレとは言わなかった。経済成長率は3%を超えていた。
 日本独特の金融政策は、低金利くぎ付け、通貨供給を加減する主義である。政策目標の経済成長は、30年間鳴かずとばずの500兆円台を維持しただけだった。20248月以来,コメ価格が供給側の強制的価格形成で2倍となり、それを引きずる形で、毎月の総合CPI3%で推移している。GDP1%台なので、日本社会経済には、1.5%の差は、負担増でしかない。

 少子高齢社会が進行する中で、実質賃金率はマイナスで、社会保障の負担は、高齢者の増大で、現役世代に自動的にのしかかり、年金暮らしの人口が毎年増えている。労働力人口は減少し、国民の購買力は、底値なしの自由落下が起きている。日銀はゼロ金利を解除、0.5%の政策金利をつづけている。欧米のインフレのウクライナ戦争ショック要因が解消され、高金利政策が有効、景気回復に、徐々に、金利を下げている。日銀と世界金利差は縮まっている。しかし、145円の円安は、効果なく、日本円の購買力の相対的低下を示している。日本経済が、実質賃金率マイナス、経済成長なき、3%インフレという、衰退日本経済を象徴するデータがそろっている。政府の経済政策・日銀の金融政策は、少子高齢社会の進行を注視し、国民に寄り添っているだけである。自公政権が野党に転落したのは、いつまでも、衰退していく少子高齢日本に寄り添い、行動せず、国会の役所で、昔の挽歌をカラオケで歌っているので、国民は、衆参国政選挙2回、げきをとばしたのであるがぁぁ~。
 
 経済成長論では、人口が定率で成長し、その率に合わせて、総需要が成長する経済社会を想定している。しかし、失われた30年では、人口成長率がマイナスに逆転し、長寿社会で高齢者が増加し、医療・介護の社会保障費が増加、現役世代の負担ふえ、年金生活を支える基金が減少している。逆転社会は、経済成長はしない、停滞することは、日本社会で実証された。中国、韓国も、日本と同様に、人口成長が止まった。米国は、ただ飯食いの移民を排除、強制的に、社会保障を廃止する政策をとっている。ロシアも、戦争のせいもありますが、純粋ロシア人の人口は減少に転じ、非ロシア人の人口は成長中である。
 企業は顧客が減少すると、毎年の投資は止まる。経済成長が、人口成長モデルに依存する限り、政府は、人口成長のための労働力世代の所得を持続的に増加させて、第2子以上を育てる家庭を増やし、少子化に歯止めをかける政策をとる。さらに、日本のように移民政策がない場合、年齢、性差フリーの平等賃金を政府・企業に強制し、労働力人口の平等賃金で、社会保障費の負担率を下げ、女性・高齢者の雇用を創出する社会にするのが、普通の政党政治の常識的な政策である。日本の政党政治は、政治屋の国難に寄り添うだけで、給料もらえたら、ええという役人稼業をしている。トランプ氏は、家族企業の繁栄のために、関税で世界を脅し、日本、韓国、英国、EUから、直接投資を呼び込み、それら企業の株式をトランプ・コンツェルン内に、ガメっとったと、息まく、その浅ましい守銭奴の姿が、白日の目にさらされ始めている。米国内、国際倫理的に問題のある人物に、日本国内投資は成長の見込みがないので、米国に80兆円わいろをつぎ込んだ、と言われそうな自公政権ではある。

 国内でデジタル公共投資、第1次、第2次、第3次産業のAI知識技術革新・各種ロボット利用によって、労働生産性および資本生産性を上げる、投資を企業、自治体、政府が支援し、それらの成果を、無重力・真空の宇宙空間で利用し、生産活動をする未来の方向性に投資することになる。30年間、何もしなかった、企業、自治体、政府組織、政党・政治団体は、終焉する時代になってしまった。日銀・財務省が、金融で支えても、労働者は着実に減少し、現代の新競争時代には、知識装着率が低いので、日本の規制組織は解体・廃止される。自民党も昔の社会党みたいのもので、国民に寄り添てもらっても、生活苦し、ええことないということで、国政選挙ごとに議席が減っていく消滅政党になる。
 
 今週のイベントは22日、自民党総裁選告示、104日投開票があります。23日国連総会一般討論演説が29日まであります。
 先週の統計は、次の発表がありました。     
                                予測値     実績値
15日 中8月小売売上高           3.8%     3.4
    8月鉱工業生産指数          5.6%     5.2
16日 米8月小売売上高           0.2%     0.6
    8月鉱工業生産指数         0.0%     0.1
17日 日8月通関ベース貿易収支     -5150億円   -2425億円
18日 米FRB政策金利           4.25%     4.25
    8月景気先行指数         -0.2%    -0.29
   日7月機械受注             5.4%     4.9
19日 日日銀政策金利             0.5%    0.5
    8月全国消費者物価指数        2.9%     2.7
 今週の統計は、次の発表があります。
                       予想値
22日 中9LPR                         
23日 米6月経常収支           -2700億円
25日 日8月全国百貨店売上高
    8月全国スーパー売上高
   米46月期GDP            3.3
        GDPデフレータ      2.0
26日 日9月東京都区部CPI         3.3
   米8月個人消費支出          0.2
    6月個人消費            1.6
    8月耐久財受注          -0.6
    8月個人所得            0.2
    8月個人支出            0.3
    8PCEコアデフレータ       2.9


3回目 2025929
要点 3.4 貨幣経済一般均衡論を適用した企業行動
   3.4.1 中間財・労働の最適化理論
   3.4.2 中間財・労働先物の最適化理論

3.4 貨幣経済一般均衡論を適用した企業行動

 2章において, 貨幣経済一時的一般均衡論によって, 消費者の消費財・労働契約の現物・先物市場均衡問題を求めている. 同様に, 企業も現物・先物市場均衡を求めることができる. 先物契約市場において, 先物価格が市場で決定され, それが市場均衡した予想価格になる. 先物市場理論は, 不確実性下の経済を想定しているから, 企業の投資決定も, 先物価格が企業総価値を決定することになる.
 企業のフロー・ストック最適化の枠組みは
  貨幣がある現行生産活動の最適化と先物契約の最適化
  先物市場価格で評価した企業総価値を最大化した投資決定
  短期現金残高最適化、最適投資の資金調達、負債・資本の最適構成
となる.

3.4.1 中間財・労働の最適化理論
 まず,貨幣がある現行生産活動の最適化を示す.生産投入は,中間財,例えば,原油量と労働量とし,第2期間のそれらの価格は,確実性下にある.短期現金残高は,在庫理論で最適化すべきであるが,現金残高を第1期間の売上-仕入の差額の一定割合にする.
企業が投資しない場合
 企業の生産の決定を2期間モデルで考える.企業は,第1期に貨幣で支払い準備できるが,第2期に,現金残高を残さない.各期間の1消費財があり,x1x2がその生産量,生産投入は,材料量,例えば,原油量をg1g2,労働量をl1l2,資本量をk1k2とする.企業は投資しないから,k2 k1とする.期間1の消費財価格をp1,期間2の企業の主観的予想価格をp2とする.期間1の材料価格pg1,期間2の予想材料価格をpg2期間1の労働賃金率をw1,期間2の企業の予想賃金率をw2とする.資本財を保有する株主の配当率を株式1単位につき,ρ1,ρ2とする.
 各期間における,企業の利潤π1p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1,π2p2 x2m1-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k1),2期間の効用関数をu =π1+δπ2とする.ここで,δ(0<δ<1)は割引要素である. 初期貨幣残高をm0とする.期間2の貨幣残高をm 1とする(円表示である).貨幣残高m1は,次期の取引需要であり,今期の(収入-費用)の一定割合γとする.m1=γ(p1x1pg1 g1w1 l1)1期の生産制約式は,コブ・ダグラス型生産関数 x1g1αl1βk11α-β 2期の生産制約式は,生産関数x2g2αl2βk11α-βである.2期間の利潤最大化問題は次のようになる.

問題3.4 期間1の消費財価格p1,材料価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,材料価格pg1,賃金率w2,配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-βx2g2αl2βk11α-βのもとで,2期間総価値VV =π1+δπ2を最大にする各期間の投入量g1g2l1l2および貨幣残高m1γ(p1x1pg1 g1w1 l1)を求めよ.
解 V =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
V =π1+δπ2 
  ={p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1}+δ{p2 x2m1-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k1
  p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)+(δ-1) m1+δ{p2 x2-(pg2 g2w2 l2ρ2 k1
  p1 g1αl1βk11α-βm0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)+(1+δ) m1+δ{p2 g2αl2βk11α-β-(pg2 g2w2 l2+ρ2k1}.

LV-λ{m1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1)}を変数g1g2l1l2m1λについて偏微分して,0とおく.
Lp1αg1α1l1βk11α-βpg1-λγpg10, g1={ pg1(1λγ)  }1α
g1                                p1αl1βk11α-β
Lδ{p2αg2α1l2βk11α-βpg20,  g2={  pg2      }1α
g2                                p2αl2βk11α-β
Lp1βg1αl1β1k11α-βw1-λγ10, l1={  1(1λγ)  1β
l1                                p1βg1αk11α-β
Lδ{p2βg2αl2β1k11α-βw2},     l2={  2      1β
l2                                      p2βg2αk11α-β
L(δ-1)-λ=0,ゆえに,λ=δ-11λγ=1(δ-1) γ
m1                                 
Lm1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1)0.     
λ

各投入量を生産量と各生産物価格で表す.
g1p1αx1pg1(1λγ)g2p2αx2pg2
l1p1βx1w1(1λγ) l2p2βx2w2
生産関数に、各投入量を代入して、各期の生産量x1x2を求める.
m1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1)0に,g1l1およびλ=1+δを代入して
1γ{p1 x1pg1 p1αx1pg1(1λγ)w1 p1βx1w1(1λγ)
  =γp1 x11-(α+β)/(1(δ-1)γ)}.                       

企業が投資する場合
 1期の生産制約式は,生産関数 x1g1αl1βk11α-β2期の生産制約式は,生産関数x2g2αl2βk21α-βである.2期間の利潤最大化問題は次のようになる.

問題3.5 期間1の消費財価格p1,消費財生産量x1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,生産量x2,賃金率w2,配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-βx2g2αl2βk21α-βのもとで,総価値V =π1+δπ2を最大にする各期間の投入量g1g2l1l2,資本量k2および貨幣残高m1を求めよ.投資量IIk2k1と表す.
解 総価値V =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
V=π1+δπ2p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ{p2 x2m1-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k2
 p1 g1α l1βk11α-βm0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)+(δ1m1+δ{p2 g2αl2βk21α-β-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k2}
Lu-λ{m1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1)}とおき,変数l1l2k2m1について偏微分して,0とおく.
Lp1αg1α1l1βk11α-βpg1-λγpg10, g1={pg1(1λγ)  }1α
g1                                p1αl1βk11α-β
Lδ{p2αg2α1l2βk21α-βpg20,   g2={   pg2    1α
g2                               p2αl2βk21α-β
Lp1βg1αl1β1k11α-βw1-λγw10    l1={1(1λγ)  1β
l1                                p1βg1αk11α-β   
Lp2βg2αl2β1k2 1α-βw20,       l2={  2    1β
l2                                 p2βg2αk21α-β
Lp2(1-α-β)g2αl2β(1-α) k2α-β-ρ2}0k2={   ρ2      1/(α+β)
k2                                 p2(1-α-β)g2αl2β(1-α) 
L(δ-1)-λ=0Lm1-γ(p1 x1 pg1 g1w1 l1) 0.
m1          λ

各投入量を生産物価格および生産量で表すと,
g1p1αx1pg1(1λγ)g2p2αx2pg2
l1p1βx1w1(1λγ) l2p2βx2w2k2p2(1-α-β) x2/ρ2

生産関数に、各投入量を代入して、各期の生産量x1x2を求める.
m1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1)0に,g1l1を代入して
1γ{p1 x1pg1 p1αx1pg1(1λγ)w1 p1βx1w1(1λγ)
   =γp1 x11-(α+β)/(1(1-δ)γ)}.            
ゆえに,投資量は
Ik2k1={p2(1-α-β) x2/ρ2k1.                          

3.4.2 中間財・労働先物の最適化理論
現物市場における企業の最適化
 投入する中間財および労働に先物市場があるとする.企業の最適化問題は,次のように設定される.価格ベクトルp1と賦存量(m0k1を所与として,生産関数fのもとで,総価値Vを最大にする行動(x1g1l1m1)および計画g2l2)を決定する.計画を利潤π2に代入し,総価値vを最大にする先物契約(cg2cl2)を求める.ここでは,中間財の先物契約と労働の先物契約を決定する.投資はしないものとする.
 1段階の問題において,生産者は,利潤流列π1p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1,π2p2 x2m1{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}2期間の総価値VV =π1+δπ2とする.初期貨幣残高をm0とする.期間2の貨幣残高をm 1とする.第1期の生産制約式は,2期間同じコブ・ダグラス型で,生産関数 x1g1αl1βk11α-β2期の生産制約式は,生産関数x2g2αl2βk11α-βと表す.
 先物モデルでは,自己清算条件qc0があり,先物市場では,少なくとも,2財が必要である.消費財と投入財の2財も可能だが,生産関数の制約条件が消費財と投入財の2財にあり,いずれか1財の先物市場において,契約が成立すると,生産関数によって,他の1財がその契約に依存するから,自己清算条件が満たされない.
 次の問題3. 6において,材料である原油と労働の先物契約を仮定している.期間1の現物取引と期間2の先物契約(cg2cl2)を仮定した場合の取引最適化をする.

問題3.6 期間1の消費財価格p1,原油価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,予想原油価格pg1,予想賃金率w2,予想配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0,先物契約(cg2cl2)を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-β x2(g2cg2αl2cl2βk11α-βのもとで,総利潤V =π1+δπ2を最大にする各期間の生産量x1x2,原油量g1g2,労働量l1l2および貨幣残高m1を求めよ.
解 総利潤V=π1 +δπ2に生産関数を代入する.
V =π1+δπ2p1 x1m0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[ p2 x2m1{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1} ]
 p1 g1αl1βk11α-βm0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)+(δ1m1+δ[p2(g2cg2αl2cl2βk11α-β
                                    -
{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}]

LV-λ{m1-γ(p1 x1pg1 g1wl1)}とおき,変数g1g2l1l2m1,λについて偏微分して,0とおく.
Lp1αg1α-1l1βk11αβpg1-λγpg10
g1
L=δ[p2α(g2cg2α-1l2cl2βk11α-βpg2 ]0
g2              
Lp1βg1αl1β1k11α-βw1-λγw10
l1 
Lδ[p2βl2cl2(g2cg2αl2cl2β1k11α-β w20
l2             
L (δ-1)-λ=0Lm1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1) 0.
m1           λ 
λδ-1
g1={pg1(1λγ)p1αl1βk11αβ1α
g2={pg2p2αl2cl2βk11αβ1αcg2
l1={w1(1λγ)p1βg1αk11αβ1β
l2={w2p2β(g2cg2αk11αβ1βcl2
x1g1αl1βk11α-β
x2(g2cg2αl2cl2βk11α-β.
m1=γ(p1 x1pg1 g1w1 l1).                               

中間財・労働先物市場における生産者の最適化
投資がない場合
 先物市場では,自己清算取引戦略qg2q l2)・(cg2, cl20が予算制約式となる.これにより,自己清算取引戦略であれば,いかなる契約価格qqg2ql2)であっても,利潤π2p2x2m1{ pg2g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}はヘッジされる.
 期待総利潤関数E[V ]に,x2(p2 , cg2, cl2) l2(p2 , cg2, cl2)を代入し,E[V ]=π1 (x1g1l1)
+δ
π2( x2g2, l2) dψ(q)をえる.
π2(x2g2l2)p2x2m1{ pg2g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}
                (g2cg2αl2cl2βk11α-βm1{ pg2g2cg2w2l2cl2)+ρ2 k1}

問題 3.7  q0のもとで

    max  π2(g2l2) d ψ(q)subject toqg2q l2)・(cg2, cl20.  
  { cg2cl2}           
 Lπ2*( g2l2) d ψ(q)-λqcとおく.
Lπ2*( g2l2) d ψ(q)-λqc
 [p2x2m1{ pg2g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1} ]d ψ(q)-λqc
 =[p2 (g2cg2αl2cl2βk11α-βm1{ pg2g2cg2w2l2cl2)+ρ2 k1}]d ψ(q)-λqc

π2d ψ(q)=λqg2, π2d ψ(q)=λql2qc0
cg2                      ∂cl2    
解をcg2cl2,λとおく.                                          

先物市場において,先物均衡価格を(qg2q l2)とする.これが,企業の客観的な予想価格となる.

投資をする場合
 企業が投資をする場合,投資財の購入と銀行からの借り入れが生じる.問題3. 3は,次の問題3. 8において,投資財量を決定する.

問題3.8 期間1の消費財価格p1,原油価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,原油価格pg2,賃金率w2,配当率ρ2,投資財価格pu, 期間1の貨幣残高m0,先物契約(cg2cl2)を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-β x2(g2cg2αl2cl2βk21α-βのもとで,総利潤V=π1+δπ2を最大にする各期間の生産量x1x2,原油量g1g2,労働量l1l2,投資財量Ik2k1および貨幣残高m1を求めよ.ただし,投資財の借入金Lo は, 期間1の投資財価格をpu 1とし,pu 1I(1rl1)Loで計算されるが,期間2において,返済(1rl1)Loは陽表化していない.配当から,支払われる.
解 総利潤関数V=π1 +δπ2に生産関数を代入する.
V=π1+δπ2p1 x1m0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[ p2 x2m1{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k2} ]
 p1 g1αl1βk11α-βm0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[p2(g2cg2αl2cl2βk21α-β
                                 +
m1{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k2}]

Lu-λ{m1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1)}とおき,変数g1g2l1l2m1,λについて偏微分して,0とおく.
Lp1αg1α-1l2βk11αβpg1-λγpg10
g1
L=δ[p2α(g2cg2α-1l2cl2βk21α-βpg2]0
g2               
Lp1βg1αl1β1k11α-βw1-λγw10
l1 
Lδ[p2βl2cl2(g2cg2αl2cl2β1k21α-β] 0
l2             
Lδ{p2(1-α-β)(g2cg2αl2cl2βk2α-β-ρ2 }0.
k2
L (δ-1)-λ=0Lm1-γ(p1 x1pg1 g1w1 l1) 0.
m1           λ 
λδ-1
g1={pg1(1λγ)p1αl1βk11αβ1α
g2={pg2p2αl2cl2βk11αβ1αcg2
l1={w1(1λγ)p1βg1αk11αβ1β
l2={w2p2β(g2cg2αk11αβ1βcl2
k2{ ρ2p2(1-α-β)(g2cg2αl2cl2β}α+β
x1g1αl1βk11α-β
x2(g2cg2αl2cl2βk21α-β.
m1=γ(p1 x1pg1 g1w1 l1).                                                   

問題3.9  q0のもとで
    max  π2(g2l2k2) d ψ(q)subject to qc0.  
  { cg2cl2}           
 Lπ2*( g2l2k2) d ψ(q)-λqcとおく.
Lπ2*( g2l2k2) d ψ(q)-λqc
 [p2(g2cg2αl2cl2βk21α-βm1{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2+ρ2 k1} ]d ψ(q)-λqc

π2d ψ(q)=λqg2, π2d ψ(q)=λql2qc0
cg2                      ∂cl2    
解をcg2cl2,λとおく.                                   

今週(2025929日~103)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、22日、自民党総裁選告示がありました。23日国連総会一般討論演説が29日までありました。今週のイベントは、104日自民党総裁選投開票があります。
 先週の統計は、次の発表がありました。
                       予想値    実現値
22日 中9LPR                                              3.0
   日8月全国コンビニエンストア売上高           1296億円
23日 米6月経常収支(第2四半期)      -2700億ドル -2513億ドル
25日 日8月全国百貨店売上高                               4139億円
     8月全国スーパー売上高                      11002億円
   米46月期GDP               3.3%      3.8
         GDPデフレータ         2.0%      2.1
26日 日9月東京都区部CPI             3.3%      2.5
   米6月個人消費               1.6%       2.5
    8月耐久財受注              -0.6%      2.9
    8月個人所得                0.2%      0.4
    8月個人支出                0.3%      0.6
    8PCEコアデフレータ           2.9%      2.9
 今週の統計は、次の発表があります。
                       予想値
929日 日7月景気先行指数(確定値)      105.9
          一致指数(確定値)      113.3
30  8月鉱工業生産指数              0.5
   中9月製造業PMI                  49.7
101日 日日銀短観大製造業先行き        14
              業況判断      15
          大非製造業先行き      28
              業況判断      33
2日 日9月消費動向調査
      8月耐久財受注               2.9
3日 日8月有効求人倍率              1.22
    8月完全失業率               2.4
   米9月完全失業率               4.3


4回目 2025106
35 モジリアーニ=ミラー理論
  3.5.1  M=M理論以前の伝統的財務理論
  3.5.2 効率的金融市場におけるM=M理論
   コラム:株式市場価格理論の未発達について
  3.5.3 中小企業の資金調達

35 モジリアーニ=ミラー理論
  3.5.1 M=M理論以前の伝統的財務理論
 貸借対照表勘定で、右側(貸方)の負債(他人資本)+純資産(自己資本)を企業総価値といい、他人資本比率または自己資本比率を資本構成という。伝統的財務理論とは、企業には、固有の資本構成があることを主張する。企業は、資本構成にしたがい、他人資本の債権者と自己資本の所有者である株主に対して、資本コストである利息と配当を、それぞれ毎期支払う。支払利息は確定しているが、配当は、当期の利潤から支払われるから、無配もあり、不確実であり確率変数である。
  企業には、資本コストを最小にする資本構成があると主張するのが、伝統的財務理論である。同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益は同じであるから、金融市場が効率的であれば、資本構成は、企業価値に影響をされないとするのが、モジリアーニ=ミラー理論(M=M理論)である。
  M=M理論は、企業価値評価が十分発達した金融市場を前提としている。日本の現実の金融市場と企業資本構成との関係をBergerUdell(1998)に従った図をみると、零細・小規模・中規模企業では、株式上場・事業債発行の資格取得が困難であるので、縁故・銀行等の借入に大きく依存する資本構成がある。伝統理論は、企業規模に従って、金融市場が制約されることを反映しているとみられる。

                 31 企業の継続性と資金の源泉
                A. N. BergerG. F. Udell(1998)

         零細企業 小企業          中企業           大企業
企業規模     →                                  大

企業年齢     →                                  高

情報の利用可能性 →                                  高

潜在成長力            高                ←

担保資産         あり           あり            あり
         債務履歴なし 限られた債務履歴   債務履歴あり        債務履歴あり

初期内部金融   →        │ 
エンジェル資金    │  ベンチャーキャピタル  →│   公開株式        →│
  
       │          企業間信用                  → │
                         │      CP         →│
        
│     短期金融機関借入金                   → │

        │      中期金融機関借入金                  →│ 
                 │      私募債         →│
                                │   公募債   →│
公的金融    →
信用保証協会  

 伝統理論を紹介する。
 企業総価値Vは負債Dおよび株式価値Sからなる。負債コストrは負債比率DVの増加関数r(DV )である。自己資本コストρは負債比率DVの増加関数ρ(DV )である。平均資本コストreは、両者の加重平均reD r (DV )(1D ρ(DV ))である。
                                    V        V
35のように、負債比率が増加すると、平均資本コストreは、低下し、やがて、上昇するので、その底が、最適資本構成である。

 モジリアーニ=ミラー理論(M=M理論)を紹介する。
 モジリアーニ=ミラーは「負債コストの利子率rは貸付資金市場および債券市場で決まり、負債比率に依存しない。自己資本コストの株式収益率ρは、株式市場で決まる。平均資本コストは、reD r(1D )ρとなる。」と主張する。すなわち、re VrD+ρS である。
                               V     V
同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益
Xは同じであるから、XrD+ρS 。ゆえに、re VXとなり、平均資本コストre は、資本構成に依存しない。

3.5.2 効率的金融市場におけるM=M理論
 モジリアーニ=ミラーは、企業総価値は金融市場によって評価されるとして、企業が同じリスク・クラスにあり、期待収益が同じであれば、企業総価値は、資本構成に依存しない(命題Ⅰ)ことを理論的に証明した。企業が投資して、資金調達方法を、自己資金、借入金、社債および増資の形をとっても、同じ期待収益をあげるので、資本構成の変化に依存しない(命題Ⅲ)。
 経営者の行動、投資家の行動を仮定し、金融市場、とくに、貸付資金市場、債券市場および株式市場は、完全競争を仮定している。テキストでは、命題I、命題Ⅱおよび命題Ⅲを取り上げている。証明は、命題I、命題をのせている。
証明法は、
2企業が同じリスク・クラスにあり、資産構成が異なるとする。期待収益が同じであれば、投資家の投資収益は同じである。資本構成の違いで、企業総価値の違いを仮定する。企業総価値の低い企業に、ポートフォリオ(混合投資)を組んで、株式市場おいて、高い企業総価値の企業の株式を売却し、低い企業の株式を購入する。裁定取引の結果は、企業総価値は同じになる。」
 投資家が、価格形成の関与ができる株式市場を、同じリスク・クラスにたいして、裁定取引に使用している。この論法は、ブラック・ショールズのオプション理論(1973)においても、金融市場に同様な仮定と、2市場の資産のポートフォリを作成し、裁定取引の市場メカニズムをオプション価格形成に取り入れている。金融市場の価格形成は、所与としている。

コラム:株式市場価格理論の未発達について
 金融市場の価格、債券価格、株式価格、それらの先物価格は、当時の経済学では、金融市場均衡の存在は証明できなかったためでもあるし、期待形成をもつ投資家が、株式市場において、株式を交換する理論はなかった。ただし、資産市場のマクロ一般均衡論は、トービンTobin1969)に枠組みがある。
 ヒックスHicks1939)の著作に、『価値と資本』があるが、ミクロ一時一般均衡論であり、動学と資本蓄積は、課題となっている。ヒックスは、『景気循環論』(1950)、『資本と成長』(1965)、『資本と時間』によって、動学と資本蓄積の課題に答えている。フランスの一般均衡の存在を証明したドブリューDebreu1954)は、資産市場の一般均衡には、立ち入らなかった。『価値の理論』は確立したが、「資本の理論」は、ふれなかった。フランスでは、マルクスの『資本論』、ローザ・ルクセンブルグ『資本蓄積論』、ヒルファディングの『金融資本論』の影響のせいで、株式市場の経済学的効能や意義は、戦後、社会主義政治勢力が主導権を取り,支持されない。反面、株価の変動がBrown運動すると唱えたのは、フランス人バシャリエBachelier1900)である。当時、Brown運動を理論的に定式化することが物理学上最先端の課題であった。
 
さて、私は、冷戦時代、オーストリア、西ドイツ、スペイン、イギリスには、長期間、滞在したが、パリに数日滞在しただけで、通過した。当時、フランスの政治は、社会主義者主導で、公務員がはばを利かし、金融界は国有銀行システムがあり、実業界は規模が小さい、米国や日本のように、株式会社が発展していない。『資本論』および『金融資本論』の影響で、ヨーロッパの経済学者にとって、ブルジョアジー階級の株式交換市場である資産市場の均衡論を研究する理論的重要性が低かったのだろう。政治が社会主義優位である場合、ブルジョアジー階級への課税強化、所得再分配、最低所得保障、年金制度、医療、教育負担軽減が政策優位となり、経済成長、産業の競争力を強化する政策は二の次になる傾向がある。中小企業や個人業に対して、行政としては、税制面で緩くはできるが、その産業の競争力を強化するための税金投入は、公平性の観点からできない。かくして、国や地方自治体で、政治が社会主義政党優位である場合、南イタリア、ギリシャ、フランス南欧のように、経済活動は旧態依然で、発展することはなく、国税を頼ることになる。日本でも、いわゆる旧革新自治体は、そういう傾向があった。
 その結果、社会主義政治の怖いところは、企業の本社流出、海外流出、それが経済地盤の劣化を招き、地方交付金に依存する赤字財政が慢性化し、地域格差を招き、若年人口流出がおきてしまうのである。
 一方、大衆株主のいるアメリカは、株式交換市場は発展したが、経済学における「株式市場価格の理論」はないまま、株式市場価格を所与とした、デリバティブ商品開発が盛んになった。理論的に価格形成がよくわからない現在株式価格を所与として、投資信託やオプションの商品が生成されると、それらの商品も理論的に説明できないはずである。
 リーマン・ショックのサブ・プライムの信用しかない住宅購入者に、証券を合成して,銀行信用で、発行したために、FRBが金利を戻したら、証券バブルは、はじけてしまった。日本のメガバンクで、この証券に手をだし、損失を出したのは1行だけだったと記憶する。
 習氏が、香港資本の不動産会社に、つぶす気なのか、中国不動産業界を根治するすきになったのかは、不明である。国民を借金づけにして、強制貯蓄を吸い上げ、中国経済成長を続けるのは、人口減少の症状が出てきて、マルチ商法のようなことは、だれが考えても無理がある。
 東京に本社が集中し、関西の企業すら、東京本社をもつようになり、大阪経済に地盤低下の末、歴史ある大阪証券取引所は、日本証券取引所に統合された。株式市場の経済学的効能や意義は、企業価値を公正価値にし、上場企業の財務諸表は公認会計士により、監査されているが、世界経済のグローバル化に伴い、各国別会計基準から、国際会計基準への収斂に、向かい、各国別企業価値は国際公正価値に収斂することになっている。
 一般の日本人は、株式市場はリスクが大きく、すなわち、株価変動が大きいため、株式を買うより、資産の半分以上は、預金、保険で保有している。金やダイヤモンドの取引は、経済学的に需要と供給で価格が決まると理解できるが、「任天堂の株価がなぜ、(2019104万円台、202095万円台)なのか、わけがわからん。」と思う。人気投票のように、思っている人も多い。
 本講88. 6先物価格の決定理論のように、将来予想を仮定する市場の現物・先物価格を同時決定する一般均衡理論では、株式の現物・先物均衡価格を決定できることは、わかっている。

 現実問題として、株式市場だけでなく、債券市場を加えた、資産市場に拡大すると、現預金の管理をする日本銀行は、株式市場に介入する安倍ノミックス時代になり、債券、株式の買い手に回り、債券価格、株式価格形成をゆがめる事態を招いていた。日銀黒田総裁は、20234月に退任し、植田新総裁が就任した。植田和男氏には、『国際マクロ経済学と日本経済』東洋経済新報社、1983年の著作がある。本講第1042項において、植田氏による、不完全雇用の場合、ドーンブッシュ・モデルの紹介を取り上げている。中央銀行が間接金融を越えて、直接金融の市場における有力な買い手になることは、漸次、終了するだろう。植田氏は、ケインジアンの立場に近いのであろう。
 日本銀行のマイナス金利政策により、日本国債は流動性を失い、日本の国債発行は、ゼロ近傍発行となり、強制的に、日本銀行が投資家から徴税するようになってきた。つまり預金と同じである。配当のある株式は、1~2年で限れば、国債より利回りがよい。米国をはじめヨーロッパ、アジア諸国では、マイナス金利政策はとらないから、日本の投資家は、国際分散投資をしている。企業も、手持ち資金は潤沢なので、間接金融から資金調達しなくなっている。
 今年になって、岸田政権になり、日本銀行の金融政策は変更なかった。株式相場は、米国の株式市場に連動して、米国が利上げに踏み切り、金融緩和から引き締めに入ったことを反映して、日本株価もその分、下落した。バイデン政権になってから、米国のインフレーションが顕著になっていたが、ウクライナ戦争を契機に、世界インフレーションがひどくなった。世界の中央銀行は、国内インフレを抑制するため、金利を上げている。日本だけ、コロナ禍からの経済・社会活動の回復を優先し、金融緩和を続け、世界金利の上昇で、金利差が開き、20221411542/ドルが、2022922142.4/ドルで、23%の減価の円安となった。
 財務省の市場介入も効果はない。円高介入では、円買いの日本円は無制限に円玉があるが、円安介入では、日本の外貨準備高のドル玉が上限である。財務省の介入は効果がないどころか、輸入価格に外国インフレーションがかぶさっているので、ドル玉を放出していると、貿易収支の赤字のため外貨準備は、減少するから、介入は早晩できなくなる。米国が金利を上げた分の減価率が自動的に外国為替市場で上乗せされて、為替レートが決定される、明白な金利相場が続くだろう。

3.5.3 中小企業金融
 日本では、金融市場は、銀行システムをもちいた間接金融が主流であったから、メインバンク制に象徴されるように、銀行が企業財務を支配した。また、日銀の低金利政策がつづくので、社債発行や増資による資金調達よりは、銀行融資の方が、資本コストが低かった。負債比率は50以上であった。しかし、大企業では、高度成長後、オイルショック後、米国との自動車・半導体摩擦で、円高もあり、海外進出せざるを得ず、資金調達を海外の金融市場で調達するようになった。その結果、大企業では、国内での資金調達は減少し、間接金融が縮小する。そして、貸付先を失い、40歳台団塊世代の住宅取得時代に入り、不動産バブルが発生し、過剰融資の末、バブルは破裂した。
 その不良債権処理が1995年から、信用組合の取り付けに始まり、大手銀行の不良債権処理が終わるのは、2003年である。中小企業の不良債権処理が残され、中小企業の淘汰が始まる。リーマン・ショック後、民主党政権下、金融庁の政策で、一時、中小企業の不良債権処理が中断された。安倍政権となり、日銀が超金融緩和政策を取るので、倒産件数は減少し、中小企業の不良債権処理はうやむやになっている。中小企業にとっては、資金調達の方法は、間接金融に依存せざるをえない。その間、東北震災等、自然災害による中小企業の損失もあり、中小企業は、大企業と同じく、負債比率を50%以下に減少させてきている。中小企業がやむを得ず、手持ち資金を増やしているのは、災害倒産リスクのためであると言われてきた。
 しかし、資金調達の方法も、多様化されてきている。その間、中小企業金融をテーマに、演習で学生を指導してきたが、クラウド・ファンディグなど、銀行を通さず、直接融資相手をインターネットで公募するIT金融が流行ってきたことにも注目するようになった。
 日銀が超金融緩和政策を取っても、政策効果が発揮できないのは、日本の伝統的銀行システムが、資金供給の役目をはたさなくなりつつあるからだろう。銀行が過剰準備金を日銀に残さないように、マイナス金利の発行税を徴収しても、実物経済にはさっぱり効果がない。大企業が設備投資しなければ、中小企業はなおさらしないから、資金調達の必要がない。銀行が借り手を探してもいないのであるから、銀行の採算が悪化するばかりである。政府が、消費税対策と称して、キャッシュ・レスを推奨しているが、キャッシュ・レス時代がくれば、現金の象徴たる日本銀行券は現金決済に必要がない。人々が銀行に預金をしなくなれば、銀行業は廃業である。

今週(2025106日~1010)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、104日自民党総裁選投開票があり、高市早苗氏が選出されました。
 今週のイベントは、106日ノーベル生理学・医学賞、7日物理学賞、8日化学賞、9日文学賞、10日平和賞の発表があります。
 先週の統計は、次の発表がありました。
                      予想値    実現値
929日 日7月景気先行指数(確定値)    105.9     106.1
          一致指数(確定値)   113.3     114.1
30  8月鉱工業生産指数          0.8%    -1.3
   中9月製造業PMI              49.7      49.8
101日 日日銀短観大製造業先行き     14       12
              業況判断   15       14
           大非製造業先行き  28       28
              業況判断   33       34
     米9ISM製造業景気指数     49.0      49.1
2日 日9月消費動向調査          35.1      35.3
3日 日8月有効求人倍率          1.22倍     1.20
    8月完全失業率           2.4%     2.6%
   米9月完全失業率           4.3%     発表延期
          8月耐久財受注           2.9%     発表延期
     9ISM非製造業景気指数       51.8      50.0
 今週の統計は、次の発表があります。
                      予想値
106日 9月完全失業率          4.3%     発表延期
          8月耐久財受注          2.9%     発表延期

7日  日8月全世帯家計調査
     8月景気一致指数(速報)      113.0
         先行指数(速報)      107.0
    米8月貿易収支          -620億ドル
8日  日8月毎月勤労統計
     8月貿易収支          -1050億円
     9月景気ウォッチャー調査
     9月工作機械受注額

5回目 20251013
     要点 4. 金融機関の行動
          4.1 わが国の金融機構と業務
           4.2  金融機関への諸規制
             コラム 日本金融史
         4.3 信用創造の理論
           4.4 銀行間市場の理論

4. 金融機関の行動
 4.1 わが国の金融機構と業務
 
 わが国の金融機構と業務について、一覧表にしている。これは、預金取扱機関、すなわち、銀行を中心として、分類し、主な資金調達業務、資金運用業務および資金仲介業務を番号順に、取り上げている。表にある金融機構の形態は、(『<新版>わが国の金融制度』日本銀行金融研究所、1986年)にしたがったものである。1986年以来、金融制度史は変遷をし、バブル、金融再編があったことは、末尾の「日本金融制度史」第7期に記録している。明治以来、日本の金融制度が大きく変動する契機は、戦争が多い。西南戦争、日清戦争、日露戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦である。1986年まで、戦後の預金取扱機関中心の金融機構は、大蔵省、日本銀行も通貨の供給、金融の調節が円滑に機能していたと評価されている。
 しかし、土地神話にもとづく、土地担保価値上昇率トレンドと都市土地価格の上昇率にかい離が生じ、バブルが発生、崩壊した。その結果、2003年まで、間接金融機構は、中小金融機関の統合が進み、大手都市銀行も3行に統合された。金融行政の流れでは、合併・吸収、資本金増強、大口規制など、これまでの日本金融史上激変期にとられた手法である。
 その間、1997年日本銀行法が改正された。1882年日本銀行条例、1942年日本銀行法公布、1949年日本銀行法一部改正(政策委員会設置)に次ぐ大改正であり、人生50年ではないが、金融行政においても、日本銀行という金融根幹制度も50年周期で、制度改正する必要があると、どこかに記述してあったと思う。金融制度は、与信期間が10年単位であり、制度の見直しは、10年周期で実情に合わせる必要がある。国の行政制度も同様の省庁再編50年、省庁管轄の諸制度は10年以上経過すると提供する行政サービスが実情に合わなくなって、予算不足、予算の余剰がはなはだしくなっているはずである。金融行政では、通貨の供給、金融の調整が制度由来の目詰まりになると、信用崩壊になるので、定期的に、見直ししている。
 従来、日本銀行役員会が、企業で言う取締役会に相当し、GHQにより設置された政策委員会は、金融政策を発案、実施できるのであるが、実質、大蔵省で金融政策を主導され、役員会で実行案になおし、実施されていて、政策委員会は、有名無実であったといわれている。政策委員会制度の取扱いは、小中学校のホームルームみたいなアメリカお仕着せ学級自治であったと、学生には、話していたが。日本銀行に議事録は存在するのか、さだかではない。1997年以前は、金融政策の実施について、立案の経過が公表されないので、外部の専門家は、事後的な推測しかできない。日本金融学会では、金融政策の決定過程が公表されないとこぼすコメントもあった。また、外部の専門家の指摘は、反映されることはない。たとえば、バブル前後の金融政策は、大蔵省、日本銀行に、バブルの認知が遅く、銀行の不動産担保貸し出しに異常事態が見られたはずだし、最悪な事態では、地上げ屋が、住民をド―ベルマンで、追い払うテレビレポートもあった。山口県に住んでいた私の父が珍しく、「地上げに、暴力団が活動している。」と私に注意した。私は、普段は、経済活動には、注意を払うのが仕事であるが、新婚で、住宅は購入する気がなかったので、関心が薄れていた。東京の地価は、土地ころがしで、2年間で2倍以上になった。
 大蔵省は地価税を課税し、日本銀行は、金融引き締めで、公定歩合の2倍以上引き上げした。これでは、すぐさま銀行の貸し出し余力は失われて、「夢の住宅街」「夢のリゾート」実家近くの「ゴルフ場建設計画」は中断される。
 現行の日本銀行法は、政策委員会が、政府から独立して金融政策を立案、実施し、国会、金融業界、国民に対して、金融政策の実施説明責任を果たしているし、議事録の公表もある。

4.2 金融機関への諸規制

 金融機関は、株式会社、信用金庫、相互会社、信用組合等の組織形態と目的、業務、監督官庁との係わりを個別に定めている。例えば、銀行は株式会社であるから、会社法にしたがうが、銀行法にしたがう。証券会社は株式会社であるが、金融商品取引法にしたがう。株式会社は、会社法により、その目的を定款で定められるが、株式会社である銀行は、銀行法によって目的が定められている。
 金融機関は、各業法によって、縦割りの組織が、監督機関である金融庁に、ぶら下がっている。ただし、日本銀行は、財務省に監督されている。
 戦後、GHQは軍を廃止、財閥に戦争責任を取らせる形で、財閥解体をした。しかし、金融業界の財閥解体はしなかった。旧日本銀行法もナチスのライヒスバンクが法源なのだが、現代文調の政策委員会を追加するだけで、漢文調カタカナ混じりの法律だった。金融は米国でもユダヤ人が強いし、ライヒスバンクをまねていることは、米国の専門家は認識していただろう。GHQは、法文としては問題ないとしたのか、それが、1997年改正まで続いた。
 法規制では、金融業界は、縦割りであるが、金融業界も財閥系、新興企業系および銀行系に分かれ、金融業界は系列企業をしたがえていて、系列融資が行われていた。地方金融機関は、戦間期の銀行合同で、11行主義により、軍から強制合併させられた。県外に、支店はなかなか認可がおりないので、県内の企業は各府県の地方銀行1行と取引するしかない。
 バブル後の金融再編は、信用組合、信用金庫の破たんが始まり、1997年山一證券の自主廃業、1998年北海道拓殖銀行破たんに連鎖し、終わると、都市銀行は13行から、3行に、中小金融機関の456信用金庫、448信用組合が現在、それぞれ、257金庫、146組合に合併・吸収されている。
 3メガバンクに、今も系列融資は存在するのか、メインバンク制自体も風化しているので、系列企業は、間接金融より、直接金融、海外資金調達の選択肢中から、資本コストの低い方を選択していると思われる。
 保険会社および証券会社も財閥系を主要な取引相手とする場合がある。その商品開発も運用も、取引相手の企業を組み入れる場合がある。外国の証券会社は、そのような考慮はないから、たとえば、投資信託であれば、自由に選択しているので、運用成績がよい。
 金融行政は、大蔵省銀行局から金融庁になって、銀行の業務のユニバーサル化がみられ、金融持ち株会社も認められる。ユニバーサル銀行経営が、うまくいっているのか、疑問だが。ユニバーサル銀行は、多角化しても、それに伴う商品開発ができる人材はいないし、専業の保険会社および証券会社から、商品を仕入れて、小売りしているだけであろう。日本銀行の超金融緩和は、2023年終わり、2024年はゼロ金利政策から、有利子に転換した。理由は、持続するインフレを抑制することと、内外金利差を縮小して、過度の円投機による超円安を適正水準に戻すことである。

 コラム 日本金融史
 明治維新以前は、日本の金融機関は、関東と関西で金本位制と銀本位制を取っていたため、両地域で両替商が存在し、庶民金融の頼母子講(無尽)、町内のいわゆる10日で1割の高利貸しがあり、各藩内では藩札が流通していた。頼母子講は、中国・韓国でもある。横浜の南京街商店主間でもある。あの忠臣蔵で有名な浅野家の断絶では、藩の財務担当重役は、塩の専売を藩の財政にしていて、藩札・信用が藩外に流通していたため、藩の債権債務処理に、苦労したようだ。敵討ちも、大石ら藩士に清算した軍資金があればこそ、本懐を果たせたのである。塩製造販売事業で、もうけているのに、吉良に、その塩田技術を教えないから、いやがらせを受けたのである。浅野藩を意図的につぶされ、藩士を路頭に迷わされて、藩が攻撃されたと同じことだ。大石でなくとも、浅野藩の組織力では、完全に吉良はとれる相手だった。ここは、幕藩体制を揺るがす大問題にして、いつでもとれる爺さんを泳がしていたのである。浅野家取り潰しの裁断はゆるがず、吉良をとった。
 浅野家の経営していた塩田技法は、取り潰し以後、各藩で塩田適地では、広がった。浅野家の周辺各藩との取引は、塩と引き換えに、塩を煮詰める芝・松薪を帰り舟で運び、差額を貸し借りしていた。江戸時代に、藩間経済循環が形成されたことを金融史的に考察する論文はある。藩札は藩内で流通するが、赤穂藩は、当時の保存添加物である塩は、塩蔵食品、牛馬の飼料添加物であるから、比較的大量生産できた赤穂の塩は、各藩で需要が高かった。藩間の物々交換の例は少なく、米が決済商品であり、大阪の蔵屋敷に、余剰の米・藩特産品を送り、商人を仲介者として、海路・陸路で、交換品を持ち帰っていた。塩は砂糖と同様に、くさらず、長期保存ができる商品であり、価値が安定していた。
 赤穂の塩田は、瀬戸内海の花崗岩を産出する地域の砂は、石英質であり、温暖かつ日照時間がながいため、その技法は各藩に伝播した。私は、防府市の塩田が実際に稼働しているとき、塩田に入ったことがある。生産現場で働いている労働者を見るのが、好きになったのはそのせいかもしれない。
 大阪の北摂地域の明治以来の金融史を教えたことがある。最初は、神戸灘の銀行が、酒米である山田錦を買い付け代金と次年度の栽培貸付を農地担保でしたのがはじまりで、大阪府茨木市の安威郵便局が、唯一の庶民貯蓄銀行であった。1890年から、金融恐慌があり、銀行が破たんする。後は、欧米と同じように、大戦後、軍需が落ち、企業が倒産、貸付金が焦げ付けるで、銀行破たんが起きた。その屑債権を買って、その銀行の本店・支店を吸収するから、支店網は充実していった。政府は、太平洋戦争後に生じるであろう、反動恐慌を怖れたのか、戦間期に、銀行合同政策を取る。いわゆる11行主義である。その下に、無尽会社(頼母子講から営業無尽の発展形態)、産業組合の中小金融機関が発達した。保険会社、株式取引所、手形交換所は、国立銀行、日本銀行が設立した頃、明治11年から明治14年にかけて設立している。銀行金融を中心とする間接金融が、優勢で、手形交換所、銀行間金融の短期資金市場は発達したが、直接金融市場である株式市場および事業債市場は、産業の銀行支配が、財閥を形成し、新興産業は、財閥内で設立されるので、発達しなかった。戦後、GHQが産軍癒着の経済構造を財閥解体したが、財閥系の銀行を解体しなかった。このため、戦後復興は、系列融資という形態で、旧財閥産業に優先的に資金を供給した。戦後の主に、米国新機軸の産業である石油化学工業が埋め立て地に、1955年以降、順次、コンビナートが建設され、稼働して、化学工業製品が普及、各種の最終消費財を大量生産する高度成長時代が1970年まで続くことになる。
 敗戦後、台湾銀行、朝鮮銀行、満州中央銀行の行員を、長期信用銀行に吸収し、中小企業対策の相互銀行、信用金庫、信用組合を設立させた。戦後の金融システムの系譜は、戦中間に基盤が形成され、支店銀行業(Branch Banking)であり、米国のように、1本店銀行業(Unit Bankinng)ではない。米国では、戦後の対外戦争が終結すると、銀行不況が発生、そのたびに、1本店銀行業の破たんが多かった。たとえば、第1次湾岸戦争後、イラク戦争後のリーマン・ショックがその例である。
 戦後、各業界で系統銀行が形成されたのも、特色の一つである。たとえば、農林水産業において、農林中央金庫を各協同組合の中央銀行として、系統内外の預金・融資、政府の補助金、政府の農産物の価格調整金等の取扱いをしていて、協同組合の本支所が内外業務を担当している。

4.3 信用創造の理論

 銀行業務は、銀行の独占的業務として、預金業務がある。手形担保に、満期期限までの利息を手数料としてとる短期貸し出しや設備投資・住宅ローンの長期貸し出し、資金の送金等の業務は、金融会社で業務ができることになっている。
 銀行は、資金調達業務である預金および銀行間市場からの資金を元手に、資金運用業務である短期・長期貸出、投資目的のための債券・株式保有をする。その他に、手形割引等の取引手数料がある。銀行経営で、資金運用先の破たん等で、資金が回収できなくなるリスクがあり、銀行は預金保険をかけ、貸出先に貸倒引当金をリスクランクに応じて、積立てる。中央銀行は、銀行が流動性不足に陥らないように、強制的に準備預金をさせる。銀行に預金引出が発生した場合、中央銀行は、緊急融資をして、銀行システムが不安定にならないようにする義務がある。
 銀行経営は、預金を資金需要者に、貸出利子率で貸し出し、預金者に支払う預金利子率との利ザヤが銀行の主要な収益である。一度、銀行システムから、貸し出しが実行されると、その資金は、現金として、費消される額はあるが、銀行システムに還流する。還流預金は、再び、その銀行の貸出先に貸出される。最初の預金を本源的預金とすれば、還流する預金は派生的預金という。
 問題は、本源的預金から、日本銀行に強制的に預金する法定準備金を差し引いて、銀行システム全体で、預金総額と貸出金総額がいくらになるかを計算する。本源的預金から、銀行システムを通じて、預金総額および貸出金総額が増加することを信用創造という。『金融論2024年』では、無限等比級数を用いた計算例を示している。

4.4 銀行間市場の理論

 完全競争市場下における銀行行動は、4.5.1において、銀行の利潤最大化で求めている。銀行にとって、利潤は、収益マイナス費用である。フローである収益は、手形割引料、取引手数料および保有する債権からの収益からなる。費用は、経費、労務費および債務である預金利息からなる。
 バランス・シート制約式は、準備預金制度から強制される。貸付債権のリスク管理は、貸倒引当金であり、5段階に分類される。貸付債権は、正常、利息延滞、元金返済延滞、破産懸念、破産であり、3%、20%、50%、80%、100%を引き当てると仮定する。
 融資後の債務履行はコベナンツ条件といわれ、既存貸付債権の契約に適用され、銀行にはモニタリングコスト(監視費用)が掛かる。時間通じて、リスク管理により、5段階のランクが変わるので、引当金も変化する。
 銀行の投資は、新規貸付債権と新規国債購入である。前者は、審査により、リスク管理で評価される。貸付先の情報提供により、①期間返済可能、②貸付利子率と債券利回り(リスク・アプローチ)、③余力=預金+返済金+償還金(バランス・シート制約式)から、融資実行可能か判定する。
 銀行は、市場、自己制約条件を与件とし、収益の割引将来価値を最大化する投資を決定する。2期間モデルで、短期と長期を区別し、短期利子率と長期利子率を分ける定式化することができる。ここでは、1期間モデルである。

以上を定式化すると、次のようになる。
 完全競争下の銀行モデルで、所与の預金利子率および債券利回りのもとで、銀行の最適貸付資金を求める。
 銀行のバランス・シートの制約式
  RLBD+εLE    債券投資:B還流率:ε、派生預金:εL 
 法定準備預金の条件式
  R=α(D+εL)      法定準備率:α
 貸付量Lの収益P (L)は手数料および利息収入である。債券投資B0B0=(1-α)D+(ε-αε-1)LE、債券利子率rbとする。投資Lの 増大とともに貸倒引当金が増大するから、P (L)は、貸付量の増大に逓減する。
 経常費用Cは預金利息と固定費用である。
   CrdDεL)+C0、預金利子率:rd、固定費用:C0
 利潤πは、収益から経常費用を差し引いたものである。
  π P(L)rbB0C
   P(L)rb1-α)D+(ε-αε-1)LE{rdDεL)+C0 }
 銀行の利潤最大化
 銀行の利潤最大化は、π=P(L) rbB0CLDで偏微分し、0とおく。
  ∂π =PLrb(ε-αε-1)- rd ε0
  L
 すなわち、 PL rb(αε-ε+1)+rd ε                  (1)
  
∂π =(1 α) rbrd0
  D
 すなわち、(1 α) rbrd                                       (2)
 預金利子率と債券利回りの関係式が求められた。(1)式に(2)式を代入すると
  PL =rb(αε-ε+1)+ε(1 α) rbrb                (3) 
 限界収益=限界費用=債券利回りとなる。(3)式から、債券利回りに対して、最適貸付金L*が求められる。

今週(20251013日~1017)のイベントと市場への影響度 
 先週のイベントは、6日から、10日までノーベル賞が、順次発表されました。
 今週のイベントは、13日大阪・関西万博が閉幕します。ノーベル経済学賞が発表されます。IMF・世界銀行年次総会がワシントンで18日まであります。1520カ国・地域財務省・中央銀行総裁会議がワシントンで16日まであります。
 先週の統計は、次の発表がありました。
                      予想値      実現値
107日 日8月全世帯家計調査                 2.3
       8月景気一致指数(速報)     113.0       113.4
           先行指数(速報)     107.0       107.4
     米8月貿易収支        -620億ドル             発表延期
8日  日8月毎月勤労統計(速報)               30517
    8月貿易収支          -1050億円    1   059億円
    9月景気ウォッチャー調査      46.9      47.1
    9月工作機械受注額                  13778000万円
 今週の統計は、次の発表があります。
                      予想値
1013日 中9月貿易収支
15日  日8月鉱工業生産指数       -1.3
      9月消費者物価指数
      9月消費者物価指数         3.1
16日  日8月機械受注           5.8
        9月小売売上高           0.4
17日  米9月鉱工業生産指数        0.0

6回目 20251020
要点 4.5 市場のルールに基づく貸付資金市場均衡
      4.5.2 完全競争市場条件の変更 
     4.6  金融取引における情報
     4.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動

 2024年度金融論説明ノートでは、フロー理論である、貨幣がある預託与信活動の最適化と先物契約の最適決定、ストック理論である、金融投資の間接・直接証券の最適配分とそれらの先物契約の最適決定を示す。2期間モデルで,金利先物の期間構造の決定には入らない。テキスト『金融論2023年』は、発行を急いだため、ストック理論の設定に、家計の資産選択と同様な、銀行の資産最適配分ととらえていなかった。今回のノート4.7節で訂正した。

4.5 市場のルールに基づく貸付資金市場均衡

 完全競争市場下における銀行行動は、4.5.1において、銀行の利潤最大化で求めている。銀行にとって、利潤は、収益マイナス費用である。フローである収益は、手形割引料、取引手数料および保有する債権からの収益からなる。費用は、経費、労務費および債務である預金利息からなる。 バランス・シート制約式は、準備預金制度から強制される。貸付債権のリスク管理は、貸倒引当金であり、5段階に分類される。貸付債権は、正常、利息延滞、元金返済延滞、破産懸念、破産であり、3%、20%、50%、80%、100%を引き当てると仮定する。
 融資後の債務履行はコベナンツ条件といわれ、既存貸付債権の契約に適用され、銀行にはモニタリングコスト(監視費用)が掛かる。時間通じて、リスク管理により、5段階のランクが変わるので、引当金も変化する。
 銀行の投資は、新規貸付債権と新規国債購入である。前者は、審査により、リスク管理で評価される。貸付先の情報提供により、①期間返済可能、②貸付利子率と債券利回り(リスク・アプローチ)、③余力=預金+返済金+償還金(バランス・シート制約式)から、融資実行可能か判定する。
 銀行は、市場、自己制約条件を与件とし、収益の割引将来価値を最大化する貸付・債券投資を決定する。

4.5.2 完全競争市場条件の変更
2) 独占的競争下における差別金利の決定
 財の独占企業の理論を、完全競争下の銀行行動に適用する。独占競争下にある銀行は、大企業の優遇貸付利子率(プライム・レート)rBと中小企業の貸付利子率rM(サブ・プライム・レート)の差別利子率をつける。
 大企業の資金需要をDBで表し、中小企業の資金需要をDMで表す。簡単化のため、それぞれの需要曲線は直線で、raBDBbBraMDMbMとする。大企業の需要の利子率弾力性はεB、中小企業需要の利子率弾力性はεMとする。εBεMである。
銀行の総費用Cは、
CrdDC0預金利子率:rd固定費用:C0と表す。
銀行の収益Rは、
R
rLBrLMF0、大企業向け貸出利子率:rB中小企業向け貸出利子率:rMで表す。
銀行の利潤は
π=
RCrLBrLMF0Cである。限界費用は,両市場共通で一定であるとする。

 独占理論から、利潤関数を貸出量で偏微分すると,
πr1- 1 )MC0πr1- 1 )MC0
LB      εB         LM     εM
それぞれの限界収益が限界費用に等しい貸出量において、需要曲線上の プライム・レートrBrd1- 1/εB とサブ・プライム・レートrMrd1- 1/εM 2つの市場で決まる。εBεMと仮定しているから、rMrBである。

4.6  金融取引における情報

 日本の間接金融市場のように、借り手が弱く、貸し手の要求する情報提供をする貸付資金市場は、米国のそれではない。米国の中小企業の起業率は、日本より高く、逆に、倒産率も高い。米国銀行にとって、貸し倒れリスクが高い。その原因は、企業側の情報提供が銀行を説得するほどでもないためであろう。銀行の規模も小さく支店網はない。
 銀行行動の理論は、従来、ヨーロッパ留学だった流れが、戦勝国米国に変更された。金融論は、エール大学に留学した学生が、ト―ビンの理論を日本の現実に適用したのが、教科書で取り上げられていた。それが、都市銀行と地方銀行のコール市場で、それぞれの利潤最大となる最適貸出が決まるという理論で、本論に紹介している。日本では、金利水準は、大蔵省が決定しているのであって、日本銀行の政策委員会は決定を承認しているにすぎなかった。したがって、自由金利市場は、インターバンク市場しかなかった。
 現在では、企業が投資する場合、借入金は2期間以上で返済する。銀行は返済可能性を審査して、条件をみたせば、貸出すが、利息と元金は2期以上で回収される。企業の債権は、債券と性質がよく似ている。そうすると銀行は、過去の債権の元利金と1期間の割引料、手数料で通常の利益を上げていることになる。この債権を貸付資金市場において、標準化すると、2期間以上の貸付利子率が決まる。
 当然、2期以降の不確実性は、両者にあるので、不確実性下の期待利潤最大化になる。しかし、金融論の貸付資金市場は、資金需要者は、確実性下のもとで、現在、必要な財・サービスに支出をするために、資金を借りる。銀行側から見れば、資金需要曲線は、確実性下にあるとみる。合理的期待論のMuthも、企業の需要曲線は確実性下にある。財の供給は第2期の予想価格に依存するので、不確実性下である。不確実性下、米国発祥のミクロ市場理論は、この設定で、学会にコンセンサスであるようだ。
 資金供給者は、担保をとり、その企業の貸出極度額を決め、不確実性下の2期以降の借り手の返済能力を精査して、期待利潤を最大化する設定が多い。
 すなわち、資金需要者は、右下がりの直線を仮定するのは、独占競争理論も逆選択理論も同じである。テキスト図4.7のように,銀行の供給曲線が、高金利になると供給量が減少する、つの字型になる。つまり、高金利で借りる需要者の返済リスクに対する貸倒引当金が増加するので、銀行の貸出余力が減少する。また、高金利では、リスクの高いプロジェクトをもつ企業ばかりになるので、逆選択が発生する。
 情報の経済学で取り上げられる事象は、非常にリスクのある借り手を問題にしているので、日本の銀行優位の貸付市場では、相手にされないだろう。消費者金融市場や、スコアリングの統計手法を使った、顧客情報の評点化によって、貸出するネットローンでは、そのような顧客もいるであろう。実際、日本の消費者金融業者が、スコアリングの統計手法を実務で利用している事例はないだろう。
 本論で、金融理論における情報の取扱いをまとめた。ITを使った金融手法は、仮想空間で決済口座が当座預金口座にあたり、電子商取引が発生すると、その口座を通じて決済する。人的な記帳の流れが全くない。記帳は、個人のスマホ口座と銀行にある双方の口座になる。融資の審査も、IT化されると、銀行に店舗は必要なくなる。金融機関にとって、情報管理と情報加工技術が、営業になるような時代になりつつある。

4.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動

 2章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。貨幣経済一時的一般均衡論によって、銀行行動を最適化し、現物・先物市場均衡を求めることができる。金融先物契約市場において、先物利子率が市場で決定され、それが市場均衡した予想利子率になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、銀行の営業資金の金融投資決定も、先物利子率が企業総価値を決定することになる。

銀行のフロー・ストック最適化の枠組みは、
 貨幣がある預託与信活動の最適化と先物契約の市場締結
 短期預託与信の最適化、金融投資の間接・直接証券の最適配分
 先物市場利子率で評価した総価値を最大化した金融投資決定
となる。

 銀行の経常業務と金融投資業務の決定を2期間モデルで考える。銀行は,企業以外の普通預金および定期性預金D1と企業の要求払い預金(当座預金)D2を引き受け,中央銀行に準備率γをかけたR1=γ(D1D2)を有利息で準備預金R1をする.前期の貸付金L1から,貸付利息および元本(1+rl1L1,国債の利息rbB1を受け取る.前期預金D1に対して,預金利子率rd1で,預金利息rd1D1を支払う.今期の預金D1は,預金利息を払った預金の引き出しWi1と新規の預金増ΔD1を合わせたD1D1Wi1ΔD1である.銀行の期末バランス・シート制約式は、R1L1B1p1k1D1D2E1である。ここで、p1は実物資本k1の再調達価格である。E1は株式資本金である。
 銀行は、企業に対する短期与信で、持ち込まれた残存期間1ヵ月の企業手形btを割引率rcで割り引く。割引料はΣt112btr30/365とする。前期の貸付金L1から、元利合計(1+rl1L1、国債の利息rbB1を受け取る。前期預金D11に対して、預金利子率rd1で、利息を支払う。銀行員の労働量をl1、銀行の不動産・設備等の資本量をk1とする。以上を、年間の経常業務とする。
 今期の預金D1は、前期預金D11から今期の引出金Wi 1を差し引き、新規の預金d1を合わせたものである。D1D11Wi 1d1。準備預金R1を差し引いた預金の残り(1-γ)(D1D2)と返済金L1を、投資資金余力A=(1-γ)(D1D2)L1とする。余力の制約式L1B1Aのもとで、1年満期貸付金L1で生成し、余力の残りで、国債B1を購入する。これを金融投資業務ということにする。
 間接金融市場の短期貸付債権と銀行員の労働量を決める。間接金融市場では、割引率(短期利子率)が決まり、労働市場では、賃金率が決まる。期間2の割引債権市場および労働市場では、先物割引率および先物賃金率が決まる。資産市場において、貸付利子率および債券利回りが決まり、先物資産市場において、先物貸付利子率、債券利回りが決まる。

銀行の利潤π1は、
π
1rl1L1rb1B1+Σt112btrc130/365-(w1 l1+ρ1 k1)-rd11-γ)(D1D21)と表す。
1期の生産制約式は、産出を企業流動債務b1=Σt112btrc30/365とおく。コブ・ダグラス型生産関数b1l1αk11αを仮定する。

 期間1のフロー利潤最大化問題は次のようになる。

問題4.1 期間1の割引率rc1、賃金率w1および配当率ρ1を所与とし、生産関数b1l1αk1 1αのもとで、効用関数をu =π1を最大にする割引量b1、労働量l1を求めよ。
解 利潤π1に生産関数を代入する。
π1rl1L1rb1B1rc1 b1-(w1 l1+ρ1 k1)-rd11-γ)(D1D21)
  rl1L1rb1B1rc1 l1αk1 1α-(w1 l1+ρ1 k1)-rd11-γ)(D1D21)
変数l1について偏微分して、0とおく。
π1αrc1 l1α-1k1 1αw10。
l1                   
l1={w1(αrc1 k1 1α)1/(α-1)
b1l1αk1 1α                                       

 期間1の銀行の最適化問題は、次のように設定される。価格ベクトル(rl1rb1)、(rl2rb2)と預金量D1D2を所与として、間接金融資産および直接金融資産を選好する効用関数u1L1B1)+u2L2B2)を最大にする行動(L1B1)および計画L2B2)を決定する。銀行は、貸付金に対して、貸倒引当金をリスクランクに応じて、貸倒引当金を余力から差し引く。貸倒引当金関数A1A2A1A1 (L1) A2A2 (L2)とおく。それぞれ、L1L2の増加関数である。
 期間1の資産投資余力制約式は、(1rl1L1A1 (L1)(1rb1B1 (1rd1(1-γ)D1L1と表す。期間2の資産投資余力制約式は、
(1rl2L2A2(L2)(1rb2B2(1rd2(1-γ)D2L1と表す。
 期間1の効用関数をu 1u1L1B1)とする。まず、期間1金融資産最大化問題は次のようになる。

問題4.2 期間1の貸付利子率r l1、債券利回りrb1、預金利子率rd1および預金量D1を所与とし、資産投資余力制約式(1rl1L1A1 (L1)(1rb1B1 (1rd1(1-γ)D1L1のもとで、資産の効用関数をu1 u1(L1B1)を最大にする貸付金L1および債券量B1を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
Lu1(L1B1)-λ{(1rl1L1A1 (L1)(1rb1B1(1rd1(1-γ)D1L1 }とおく。変数L1B1について偏微分して、0とおく。
L0u1 -λ{(1rl1)-A(L1)}0
L1   L1          L1
L0、  u1   -λ(1rb1)=0
B1    B1
L0(1rl1L1A1 (L1)(1rb1B1(1rd1(1-γ)D1L10
∂λ                                     
L1B1λが求められる。                          

貸付先物・債券先物市場における銀行の最適化
 銀行は、金融投資業務において、第1期の貸付金を生成し、残りの余力を債券投資する。
 資産の期待効用関数を最大にする先物契約(cL2cB2)を求める。期間2の資産効用関数から第2期の最適貸付量、最適債券量を決定し、それを第2期の資産効用関数に代入し、予想先物価格の分布で期待効用を取り、期待効用を最大にする先物契約量を求める

問題4. 3 期間2の貸付利子率r L2、債券利回りrB2、預金利子率rd2および預金量D1を所与とし、資産投資余力制約式(1rL2L2A2 (L2)(1rB2B2 (1rd2(1-γ)D1(1rL2)(L1cL2)+(1rB2)(B1cB2)のもとで、資産の効用関数をu2 u2(L2B2)を最大にする貸付金L2および債券量B2を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
Lu2(L2B2)-λ{(1rL2L2A2 (L2)(1rB2B2 (1rd2(1-γ)D1(1rL2)(L1cL2)-(1rB2)(B1cB2}
とおく。変数L2B2について偏微分して、0とおく。
L0u2-λ{(1rL2)-A2 (L2)}0
L2   L2                         L2
L0u2-λ (1rB2)=0
B2   B2       
L0(1rL2L2A2 (L2)(1rB2B2 (1rd2(1-γ)D1(1rL2)(L1cL2)-(1rB2)(B1cB20 
∂λ                         
u2凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。
L2B2λが求められる。                                              

 期待効用関数vに、L2B2を代入し、vu2(L2B2) dψ(q)をえる。

問題 44  期間2の貸付利子率r2、債券利回りr2は、予想率であり、確率変数である。それぞれの先物契約利率q(q2q2)0,自己清算条件qc0のもとで,期待資産効用関数を最大化する先物契約量(c2c2)を求めよ。

    max  u2(L2B2) d ψ(q)subject to qc0 。 
{ c2c2}           
 Lu2*( L2B2) d ψ(q)-λqcとおく。
u2d ψ(q) =λql2u2d ψ(q)=λqb2qc0
c2                   c2         

u2凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解をc2c2λとおく。   

今週(20251020日~1024)のイベントと市場への影響度 
 先週のイベントは、13日大阪・関西万博が閉幕しました。ノーベル経済学賞が発表されました。IMF・世界銀行年次総会がワシントンで18日までありました。1520カ国・地域財務省・中央銀行総裁会議がワシントンで16日までありました。
 今週のイベントは、20日中国共産党中央委員会第4回全体会議が23日まで開かれます。21日臨時国会が召集されます。石破内閣は総辞職し、国会で、新たな内閣総理大臣が、議決を経て、指名されます。
 先週の統計は、次の発表がありました。
                      予想値     実現値
1013日 中9月貿易収支                  6455億元
15日  日8月鉱工業生産指数       -1.3%      -1.6
      9月消費者物価指数                -0.3
      9月消費者物価指数         3.1%     発表延期
16日  日8月機械受注            5.8%      1.8
        9月小売売上高           0.4%     発表延期
17日  米9月鉱工業生産指数         0.0%     発表延期
 今週の経済統計は、次の発表があります。
                      予想値   
1020日 日9月全国コンビニエンストア売上高
    中79月期GDP       
     9月固定資産投資      
     9月小売売上高           3.1
     9月鉱工業生産指数
     10LPR
    米9月景気先行指数
     9月小売売上高           0.4
22日  日9月通関ベース貿易収支      227億円
24日  日9月全国消費者物価指数       2.7
      8月景気一致指数(改定)      113.4
         先行指数(改定)      107.4
    米9CPI              2.9


                                       

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