金 融 論
2024年
金融論2024年テキスト 説明ノート
『金融論2023年テキスト』は、金融論2023年テキスト説明ノートを反映して、改訂完了しました。PDFファイルで、このページにリンクします。
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第1回目 2024年9月16日
本教室の目的は、『金融論2023年テキスト』の補足説明です。2023年度前半の資産形成論教室において、「今週のイベントと市場への影響度」を予想するとき、経済学の知識がある方が、イベントの方向性を間違えにくい。特に、開放マクロ経済モデルの短期・中期変動経路は、理論的推論ができる方が、大筋を読み間違えなくてよい。
2019年から、開放マクロ経済モデルの短期・中期モデルは、マンデル=フレミング・EX線形システムを基礎に置いています。長期モデルは、M=F・EX対数連続システムを提案しています。前者は、通常の計量経済学の手法で、四半期・3年予想を目指しています。後者は、連続システムの推計であり、研究中です。
『金融論』の目次の内、2.家計の金融行動、7.金融市場と利子率決定、8.金融派生商品市場は、『資産形成論』の内容とダブっています。
『金融論2024年テキスト』宇空和研究所2024年12月以降発行。
目次
1.国民経済循環における金融
2.家計の金融行動
3.企業の金融行動
4.金融機関の行動
5.日本銀行と金融政策
6.政府の活動と財政政策
7.金融市場と利子率決定
8.金融派生商品市場
9.マクロ貨幣経済モデルと経済政策
10.開放マクロ経済モデルと経済政策
11.貨幣的景気変動論
『金融論2023年テキスト』は、特に、2章について、2024年度『資産形成論』説明ノート、10章について、2023年金融論説明ノートの結果を反映しています。11章は、M=F・EXモデルのケインジアン不完全雇用と新古典派完全雇用における貨幣経済の景気変動論を比較対照してみます。開放マクロ制度部門別、主体最適化動学モデルは研究中です。
3章から11章を15回で補足説明をします。2024年度前半に引き続き、「今週のイベントと市場への影響度」において、日本の主にGDP推測の月次データと、金融政策に影響する比率および価格データである、物価指数、利子率、米国利子率、為替レート、株価、原油価格を表にしています。短期予測値は、マネックス経済指標カレンダーに掲載されているデータです。
『金融論』の理論的立場
私の理論的立場は、追手門学院大学在職中から、スタッフで同じ立場を共有しにくいので、海外の論者の研究を勉強しつつ、自問自答し、『金融論』を毎年、研究した結果を反映し、改訂してきました。研究所を開設しても、その研究仕法は変わりありません。すなわち、モデルを論証するか、数理的なモデルを仮定し、数学的方法で均衡値を求めるか、経路を決定するか、それらのモデルを時系列データで、統計学的、計量経済学的方法で、推定するかです。
経済イデオロギーの選択
私の学生・院生時代は世界イデオロギー戦争の最中でした。神戸大学経済学部を選んだのは、マルクス経済学が主流でない大学だと立命館大学の学生たちが言っていたからです。入学し、大学紛争時代に入りました。大学の教学は一時、機能停止になり、自学自習が2年、続きました。紛争学生による大学封鎖が解除され、教学が開始されましたが、どこの大学でも教官、教員と学生の意識の断絶は大きなものがありました。自学自習の時代、マルクス、エンゲルス、ゲバラ選集、マルクス経済学を読みましたが、紛争学生ほど、共感、感化される思想ではなかった。当時、マルクス主義は、社会科学、人文科学および自然科学を統一的に把握できる科学であると、日本では、理解されていたようです。社会科学では、政治・経済・軍事が共産党独裁で統治機構が存在すれば、その国にとって最善の機構である。人文科学では、唯物史観で、人類の発展段階が決定されている歴史経路が説明できることになっている。自然科学では、宇宙法則にしたがい、ビッグバン以降の膨張的宇宙が存在する。地球で存在する生命は、宇宙法則の中で、物的合成結合した水泡にすぎない。ということで、自然科学系の学生も、共産主義運動にしたがい、手っ取り早く、日本を革命によって、終息点である理想共産社会軌道に乗せなければならないという新左翼運動がありました。
私は、高校時代、明治・大正・昭和文学全集を読み、古典文学を読み、特に、世界史を熱心に、教科書以外の通史を図書館で借り出して、東洋と西洋で発展を分けて、勉強していました。入試に必要とされる以上の知識を貯め込み、諸文明の発生から変遷・年表を記憶しました。
日本の私小説は、体験文学です。特に、昭和時代は、敗戦までの、共産主義・社会主義の信奉者の私小説をかいていました。倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』1969年辺りで、日本文学は、私小説から離脱し出したので、面白くなく、卒業しました。
紛争時代は、大学は封鎖中で、世界文学、世界思想の本を丹念に読んでいきました。紛争時代、大学が、ほぼ、1年間、休校状態で、アルバイトは、いろいろな職種で、職場体験しました。最後に、賄いつき、料理旅館で、アルバイトをしていました。年配の板長さんが、京都の紛争学生と機動隊、セクト同士が、ヘルメット、角材でデモ、衝突をして、市民生活に影響を与えていたのをみて、「学生君、あの運動をしない方がいい。」と言いました。5月1日のメーデーが京都市内で、盛大に、労働組合が旗をもって、市内を行進していた時代です。労働者、既成革新政党は、新左翼の学生運動を醒めた目でみていました。
学生時代、日本では、社会・人文・自然科学の分野で、社会主義・マルクス主義を指導原理とする学会が主流でした。イデオロギーや政治は、マルクス経済学で取り扱う政治経済学であり、経済学が、1900年から、推進して来た研究仕法では、取り扱うことはできないと考えていました。また、シベリア鉄道、ヨーロッパ鉄道で、ナホトカからベネチアまで、ユーラシア大陸を往復し、東西の各国民の実情を見聞して、イデオロギー戦争の負荷は、東側の方が大きく、消費財の慢性的な不足があると思いました。私は、東側と同じ、食うや食わずで、暮らしていたので、東側と生活的な違和感は全くありませんでした。シベリア鉄道の食事も、立命館大学や同志社大学の学食のようなもので、京都市内で、質素、倹約学生生活に慣れていました。資本主義経済下の日本で、私の贅沢は、本ばっかり、毎月、あれこれ、古本屋、定期購入の近所の書店、ときに、新刊洋書を丸善で買って読んでいました。
1971年、Grazから帰国するとき、Frau Hanna Riehlから、Othmar Spann,Types of Economic Theory,London,George Allen &Unwin LTD,1930を手渡された。帰国後、大学院の受験勉強を始めました。1972年夏受験し、合格しました。ときどき、読みましたが、Chap. Four An Introduction to the Basic Problem of Sociology―Individualism versus Universalismが印象に残りました。私の個人的効用関数と集団的効用関数に影響しているかもしれません。Spann博士は、自由主義と社会主義に反対するオーストロファシズムの先駆者です。門下生は、Morgenstern、Hayekなどです。ロシア連邦のプーチンは、ウクライナにネオ・ナチズムの台頭をみて、征伐する作戦を組んだといっているが、自由主義と社会主義に反対するロシアの保守主義であり、Spann理論の枠にはいるロシアファシズムかもしれない。
神戸大学院では、林先生のもとを離れ、斎藤光雄先生の計量経済学に入学した。しかし、博士課程は、林先生のゼミに戻された。その理由は分からないが、その結果、ウィーン学団の一般均衡論・ゲーム理論に研究方向が変わった。しかし、金融分野は、彼らにはないから、一般均衡論・ゲーム理論の枠組みで、金融を研究する。ゲーム理論には、政治的決定理論があるが、共産主義、社会主義、民主主義的政治決定で、個人主義と集団主義は、相互に密接に同根であれば、ともに、期待効用がPareto最適になるのは、民主主義的政治決定であるという理論になった。
大学院時代のイデオロギー
最近、林治一先生の大学院の講義を受けた時だと思う、後輩が渡してくれた、林先生の論文のコピーが見つかった。
「レイとミクスターとボェーム・バヴェルク」国民経済雑誌第116巻第1号1967年
「経済理論の純粋性と社会的基盤」神戸大学経済学研究15、1968年
「経済理論の基盤的考察の二面性」神戸大学経済学研究17、1968年
「経済理論の基盤的考察」国民経済雑誌第118巻第6号1968年
これらの論文は、経済学史か経済哲学の領域の研究だった。林先生には、『オーストリア経済学派研究序説』有斐閣1966年の著作がある。私が学部で林ゼミを選んだのも、『経済学を築いた人々<増補版>』大河内一男編、「近代経済学の祖メンガー」林治一、青林書院新社、1966年を読んだからである。
第1次大戦後、ウィーン大学から、経済学・経済哲学・数理経済学・統計学・コンピュータ・核爆弾等の諸学と工学は、両大戦間にウィーン大学、ドイツの大学を起点に、米国・日本に伝播している。ウィーン大学出身のヒルファーデイングは、『ベーム・バヴェルクのマルクス批判』1904年、『金融資本論』1910年がある。ヒルファーデイングは、ドイツ社会民主主義の理論的指導者でもあった。
他方、大学院を退学する前、置塩信雄教授のゼミ生から、置塩先生の論文集を渡され、「これを読みなさい。」と言われた。
「N. KALDORの均衡成長MODEL」『季刊理論経済学』Vol. XV, No. 3, 1965年8月
「Marxの生産価格論について」神戸大学経済学研究年報1972年
「新古典派成長論の政策的含意」立命館経済学第22巻第3・4号1973年
「Marxの「転形」手続の収束性」『季刊理論経済学』第 24巻, 第 2号, 1973年8月
「新古典派成長論の検討」国民経済雑誌第129巻第2号1974年
「3 生産価格・平均利潤率」柴田敬博士古希記念論文集『経済学の現代的課題』ミネルヴァ書房1974年
「マルクスの基本命題-結合生産を考慮して-」国民経済雑誌第134巻第1号1976年
戦後の資本主義国の経済成長論の系譜は、ブルジョワ経済学の継続性を意図する理論であるが、どの理論も、不安定であり、恐慌に落ちると批判しておられる。
大学院で、置塩先生の数理経済学は表看板で、置塩先生の研究は、ブルジョワ経済学批判、マルクス経済学の必然的帰結を証明されたのだろう。私は、学部時代、新左翼、マルクス経済学を勉強したが、興味はなかった。その知識で、新左翼系の学生と、マルクス経済学について、議論していた。安保闘争からの流れで、当時まで、学生の政治参加は、全国大学学生組織が形成されていたのであろう。われわれ新入生は兵隊でしかなく、丁寧な革命理論の説明は、全くなかった。当時テレビでも、その議論が中継されたことはあるが、一方的で、相手の主張は認めない。新左翼の闘士も、自派の主張を十分理解しているわけでもない。
社会主義的社会政策に対抗して、近代経済学派の立場から、「福祉、厚生経済社会」は、資本主義経済制度のもとで可能なのかは、疑問に思っていた。
置塩先生は、新左翼の学生と対峙されたという話や、神戸大学学生に占拠されたとき、大学再開に尽力をつくされたとも聞いたことがある。しかし、学部、大学院時代、先生の講義、演習は履修しなかった。「西村君は、純粋で、政治を知らん。」と私の父に電話で話されたことがある。
神戸大学経済学部大学院時代の研究動向
大学院に入り、林治一教授のゼミで、Arrow・Hahnを研究する先輩がいて、Debreuの“Theory of Value”を図書館で見つけ、だれかの書き込みがあるので(斎藤光雄教授にその書評があるので、斎藤先生かなと思いましたが)、コピーして、読みました。また、丸谷助教授の講義で、Arrow“Social Choice and Individual Values”を知り、購入、読みました。
当時、政治学を数理的に取り扱う立場があり、もともと、資本主義経済には、民主主義の決定方式の一つである、満場一致原則があります。1985年、政治的決定に際して、この満場一致原則を取れば、租税を負担しつつ、相手のことを思いやる主観的集団効用を最大化して、公共サービスを決定できるという理論を考えました。経済は、個人的価値観で、財サービスの最大効用が得られ、政治は、集団的価値観で、公共サービスの最大効用が得られるということです。これは、1981年から、私が東西問題で行動を開始した、キリスト教の個人的愛と普遍的愛の関係が大きく影響していると思います。ともに、愛は同じ源泉です。学生時代のキルケゴール、オルテガが影響しているかもしれません。EUが誕生してからは、政治的決定は、スイスの直接民主主義を想定すると、満場一致で、一意的にできると考えて、1995年以来、公共サービス決定、経済統合の論文を書いてきました。
経済学の立場は、大学・大学院時代で、数学、確率論、確率微分方程式、常微分方程式、数理統計学、計量経済学、数理経済学、数理計画法を学び、最適投資決定、分布ラグモデルの推定量の論文を書き、神戸大学の計算センターで日本の投資関数の推定を開始、1980年1月、2変数von Neumann-Morgenstern の英文論文を六甲台論集に載せ、それを多変数化した論文をJETに投稿、1980年12月査読後、採用されました。
追手門学院大学経済学部就職後
1981年4月就職後は、異時間一時的一般均衡論を確率微分方程式で、確率動学化するつもりでした。要するに、Hicks, Value and Capital, p126, ‛an Economics of Risk on beyond the Dynamic Economics’を具体化することをめざしてきたわけです。1986年、西ドイツ、ビーレフェルト大学数理経済学研究所で、研究する機会を与えられ、ヨーロッパの数理経済学の文献を調べ、多期間一時的一般均衡論に、確率分布の価格予想を導入し、市場均衡の存在を示すところまで、モデルを表現することができました。同研究所のRosenmueller教授の移転可能効用から、貨幣を資産でとらえれば、貨幣を移転可能効用で評価、和に分離できることを知りました。2018年3月、Hicksの目標にたどり着いた著書を発行し、同時に、公私混合経済の一般均衡理論を論文に書いて、追手門学院大学経済学部を退職しました。
宇空和研究所の理論・実証研究目的
以上、まとめると、宇空和研究所の理論・実証研究目的は、次の通りです。
資本主義経済には、民主主義の決定方式の一つである、満場一致原則があります。1985年、政治的決定に際して、この満場一致原則を取れば、租税を負担しつつ、相手のことを思いやる主観的集団効用を最大化して、公共サービスを決定できるという理論を考えます。経済は、個人的価値観で、財サービスの最大効用が得られ、政治は、予算・租税過程を経て、集団的価値観のもとで、公共サービスの最大効用を得るように決定します。
公私混合経済において、家計、企業、中央銀行、政府の経済主体によって構成される、異時間一時的一般均衡の存在を示し、長期的には、終局的定常均衡が存在する場合、予想価格確率過程を仮定し、確率微分方程式で、確率動学化します。要するに、Hicks, Value and Capital, p126, ‛an Economics of Risk on beyond the Dynamic Economics’を具体化することをめざしています。
貨幣経済のもとで、不確実性がある場合、各経済主体の予想形成を仮定し、予算制約式の下で最適決定を説明するのが、2章から6章まで、金融市場均衡が7章および8章です。9章および10章は、マクロ貨幣経済モデルです。
開放マクロ経済モデルの短期・中期モデルは、マンデル=フレミング・EX線形システムを基礎に置いています。長期モデルは、M=F・EX対数連続システムを提案しています。前者は、通常の計量経済学の手法で、四半期・3年予想を目指しています。後者は、連続システムの推計であり、研究中です。
2023年資産形成論を説明中、M=F・EX線形離散および対数連続モデルの計算を終わり、これらは、比較静学および比較動学で、システムが時間経過する。ドーンブッシュ・フィッシャー『マクロ経済学上・下』では、経済変動および経済成長の章は、理論の選択はない。中谷巌『入門マクロ経済学』では、新古典派成長論および内生的経済成長論を取り上げている。景気変動論では、LucasのBusiness Cyclesである。経済動態的変動の法則が存在すると想定するモデルと、それを否定する学派に分かれる。
私の属するHicks・Patinkin・Grandmont系列の一時的一般均衡論の系譜では、貨幣的景気変動論(Monetary Business Cycles)は、Grandmontの “On Endogenous Competitive Business Cycles,”Econometrica, 1985, Vol 53, No.5がある。
私の確率的動学モデルでは、消費者の賦存量が、離散的Markov過程にしたがう、Grandmont・Hildenbrandの “Stochastic Processes of Temporary Equilibria,”Journal of Mathematical Economics 1, 1974を出発点にしている。
もとにもどると、M=F・EX線形離散および対数連続モデルは、私の『金融論』講義において、学生・院生に、うまく説明できなかったので、退職後、その答えを出しただけである。M=F・EX線形離散および対数連続モデルにおいて、経済変動および経済成長はどう扱ったら、よいのか、示そうと考えた。
その一方で、『多期間一般均衡モデルの確率的動学』晃洋書房、2018年3月を出版した。その「第13章貨幣経済における現物・先物市場の一時的一般均衡確率過程」において、賦存量の離散過程および連続過程を取り扱っている。両過程のもとで、主体別最適化経済変動・成長論が終端目標である。実態的資本主義経済が、最適されるという意味ではない。経済主体別合理的行動を前提とすれば、時間経過で、どのような経済変動あるいは経済成長するかを動学的一般均衡理論的に示すのが、ミクロ経済モデルの目的である。その理論的研究は、M=F・EXモデルの開放マクロ制度部門別主体最適化動学モデルに応用することはできるだろう。
世界経済の動向と研究旅行
スウィージーやガルブレイスの本を読み、アメリカ経済社会を見れば、米国内に社会主義的政治組織はなく、強欲資本主義経済において、「福祉・厚生経済社会」は実現する話はない。1991年東西冷戦終結に、米国は、ソ連に対して政治的圧力を、1980年代たゆみなく、働きかけてきた事実は、皆無であったと外交文書から、証明できる。要するに、米国は今でもそうだが、世界の紛争に、ソフト面で、解決することがアメリカの国益を最大にするとはだれも考えない。米国の対外戦後史は、武力による征圧しか、説得手段を持たない大国であった。米軍撤退後、治安が収まったのは、東南アジアのベトナム、ラオス、カンボジアぐらいである。米軍が直接関与した他の国は、いまだに、戦争・紛争をしている。米国の評判は悪い。ウクライナ侵攻に対して、ロシア軍が包囲する前に、米軍がウクライナに、1万人派兵すれば、プーチンは、侵攻しなかったと誰もが思う。アフリカの黒人国家に、直接派兵の事例はほとんどない。米国社会に黒人が含まれるので、アメリカ白人は、アメリカ黒人兵を伴って、派兵するのに、ためらいがあるのかもしれない。
日本では、社会党を始め、社会主義的政党があるから、社会政策が制度化された。EU各国は、東西冷戦後、各国共産党は勢力を縮小したが、議会制民主主義政下において、ヒルファーデイングの社会民主主義は、いまだ、政治勢力を維持している。EUにおいて、「福祉、厚生社会政策」は、資本主義経済制度下で可能なのである。
就職後は、南側、中国、韓国、台湾、香港、ASEAN、インドを、東側ソ連の中央アジア、コーカサス諸国、ウクライナを含む東欧諸国、ユーゴスラビアおよび西側NATO諸国、エジプト、ギリシャ、イスラエル、モロッコ、トルコを視察、語学研修、研究留学していた。実態経済を見ると、東も西も、北も南も、マルクス主義が、有効な経済成長・開発理論であるとは言えなかった。
東西冷戦後、ソ連のマルクス主義統治が崩壊して、日本の経済学会では、マルクス経済学の退潮が進んだ。ソ連の中核は、ロシア連邦となって、ロシア経済は財閥的資本主義化したから、経済成長の途上にある。ロシア連邦は、プーチン政権から右傾化し、昔懐かしロシア帝国主義の復活をめざしている。これは、周辺諸国の国民が、認識している。マルクス主義独裁統治が復活しているのではない。
反面、日本の経済学会では、アメリカ経済学が勢力をふるっているわけでもない。日本経済は、強欲資本主義であると、社会批判を受ける。共産党、社会主義政党の支持者がいるからだろう。林先生の経済哲学研究にもあるが、歴史的伝統国では、外来の政治思想、経済思想は、勉強できるが、実態経済に影響を与えるのは、むつかしい。社会規範である憲法でさえ、国民に浸透するのはむつかしい。竹に釘は接げない。
石油ショックを発端とする実物経済成長論から貨幣的Business Cycleへ
神戸大学大学院経済学専攻では、確かに、ケインジアン経済成長論と新古典派経済成長論が、理論系のゼミでは、研究発表があったが、オイルショック後、米国経済はインフレに悩まされ、日本経済の米国輸出成長モデルは、立ち行かなくなり、この成長テーマは終わったように思うし、研究する興味は全くなかった。強いて言えば、確率的動学とあるように、確率的変動に関心があった。
オーバードクター時の指導教官であった後尾哲也教授は、置塩先生と親友だったそうだ。置塩先生の論文を見ると、私の大学院入学時から、マルクス経済学の研究が主になり、修士課程まで、後尾研究会および院演習は、置塩ゼミの先輩院生が参加されていたが、その後、私だけになった。
私は、置塩先生の新古典派経済成長論批判ならびにマルクス経済学研究とは、全く方向が違っている。修士・博士課程を通じ、林ゼミでは、Harrod, “Economic Dynamics,”1973年、およびBurmeister・Dobell, “Mathematical Theories of Economic Growth,”1970を輪読したが、興味なかった。
学部時代の3年生の秋、けがで入院したとき、Hicks, “A Contribution to the Theory of the Trade cycleを丸善で注文し、読んだが、経済運動を機械運動に当てはめているようで、経済実態的な運動とは、距離があると思った。Samuelson『経済分析の基礎』やAllenの『数理経済学』も読んだが、物理的な運動を直接、経済運動に当てはめるのは、無理がある。経済運動は、生身の労働と物理運動手段である資本財の協働で製品が生産されるから、景気変動論は、機械運動を主にした工学的な運動を数学で表現しているが、生体的な合成運動を表しているとは言えない。
経済学では、数学をもちいるが、経済計算およびそのデータは、自然科学の計算や工学のデータではなく、経済計算をした意思決定者の判断で生じたデータである。それでも、経済の長期動態では、最小二乗法による局所的統計的推測では、ほとんど価値がない推測になることがある。たとえば、最近の西側研究所が計算した中国のGDPが2030年に米国を超えるという推測は、早くも、外れて来た。
今週(2024年9月16日~9月20日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、10日米大統領候補者テレビ討論会が開かれました。トランプ氏より、ハリス氏の方が、優勢の評価でした。12日自由民主党総裁選告示がありました。27日投開票です。
今週のイベントは、9月15日ASEAN経済相会合がビエンチャンで22日まで開かれます。9月17日2024年の地価が公表されます。米連邦公開市場委員会が18日まで開かれます。19日日銀政策委・金融政策決定会合が20日まで開かれます。
先週の統計は、次の発表がありました。
予測値 実績値
9月9日 日8月景気ウォッチャー調査 47.7 49.0
7月国際収支 経常収支 2兆5000億円 3兆1930億円
貿易収支 -4242億円 -4827億円
4~6月GDP改定値 3.2% 2.9%
中8月中国消費者物価指数 0.7% 0.6%
10日 日8月工作機械受注額
中8月貿易収支 6493億元
11日 米8月消費者物価指数 2.6% 2.5%
12日 ECB政策金利 3.65% 3.65%
13日 日8月鉱工業生産 2.7% 2.9%
今週の統計は、次の発表があります。
予想値
9月17日 米8月小売売上高 -0.2%
8月鉱工業生産指数 0.2%
18日 日8月貿易収支 -1兆4062億円
7月機械受注統計 2.5%
9月月例経済報告
19日 米政策金利上限 5.25%
下限 5.00%
8月経常収支 -2620億ドル
20日 日銀政策金利 0.25%
日全国消費者物価指数 3.1%
統計は、国民総支出GDE構成 要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 6月 7月 8月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9622億7400万円 1050776百万円
スーパー売上高 1兆348億1520万円 105988434万円
百貨店売上高 5018億円 5011億円
投資(工作機械受注統計) 133816百万円 123960百万円
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル)
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
物価指数(総合指数)
利子率
株価
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格
ドバイ、現物1バレル、ドル、9月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率
景気動向一致指数
先行指数
米国
6月 7月 8月
GDP(前期比) 2.8%
個人消費
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支
物価指数
利子率
株価(NY)
第2金曜日の前営業日)
原油価格
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率
中国
6月 7月 8月
GDP(前期比)
個人消費
全国固定資産投資(4~6月期)
輸出(前年同期)
輸入
貿易収支
物価指数
利子率(1年物LPR)
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率
第2回目 2024年9月23日
第3章 企業の金融行動
ポイント
・企業の短期資金需要は、取引需要で決まる。
・長期資金需要は投資需要によって、決まる。
・2つの投資決定論を理解する。
3.1 企業の生産活動と資金調達活動
企業の生産活動
企業の生産活動を、図式化すると表3.
1になる。企業の生産活動は、生産要素(労働)を購入し、生産物を生産し、販売する。左下の流れは、企業の労働需要量を決める。右下は、企業経営者の立場から、貨幣で評価した利潤=収益-費用を最適化して、供給量を決める。結果は同じであるが、後者は、損益分岐点と休業するかどうかの操業停止点を決めることができる。
表3.1 および 図3.1、図3.2は、下の3firm.pdfを開いて参照してください。
3firm.pdf へのリンク
表3.1の上部の囲みにおいて、企業の生産活動は、購入した生産要素(資本財と労働)を生産工程に投入し、生産物を産出し、市場で販売する。売上高は、生産要素へ分配される。
表3.1の左半分IおよびIVにおいて、I生産の技術的関係は、生産関数Y=f (L,K0)で表され、IV生産要素価格(賃金率wと配当率r)および生産物価格pを与えられたものとして、企業は、利潤=総収入-総費用(π=pY-(wL+rK0))を最大化する労働量Lを求める。企業の労働需要関数は、L=L(p,w) と表される。生産物供給関数は、生産関数Y=f (L,K0)に、労働需要L=L(p,w)を代入すると、供給量が得られる。
表3.1の右半分ⅡおよびⅢにおいて、Ⅱ生産の経営的関係は、生産関数Y=f (L,K0)の逆関数f -1から、生産量を従属変数とし、労働量を独立変数と逆にとれば、可変費用V(Y)=wL=wf -1(Y)が求められる。生産の経営的関係においては、通例、生産関数は労働量が増加すれば、生産量が逓増し、変曲点で逓減する。その逆関数は、生産量が増加すれば、可変費用が逓減し、変曲点から、逓増する。図3.1に示されている総費用関数C=C0+V(Y)がえられる。総収入関数Rは、R=pYで表す。利潤は、π=R-Cである。
生産物価格が与えられると、直線である総収入線の傾きと総費用曲線の傾きが一致するのは、2点ある。最初の点Y1は、C>Rで、損失が最大である。次の点Y2は、C<Rで、利益が最大である。
図3.2において、経営者の観点から、利潤最大化の必要条件:価格=総費用曲線の傾き、p=dC/dY(限界収入=限界費用:p=MC)上で、供給量を決定する。図3.2の限界収入線p=p0は、市場で与えられる。限界費用曲線MCは、総費用曲線が逓減から逓増するから、二次曲線である。総費用が逓増するMC曲線と総収入線との交点が、生産者均衡点である。価格がそれより下がると、平均費用曲線AC=C/Yの最小値に達し、損益分岐点B(break-even point)という。さらに、価格が下がると、可変費用曲線AVC=V/Yの最小値に達し、操業停止点S(shutdown point)という。
このように、生産の経営的関係にしたがえば、経営者の観点から、市場価格を所与として、経営者が、利潤最大化できる生産量を求めることができる。
企業の資金調達活動
短期資金需要 資金調達方法 長期資金需要 資金調達方法
材料費 銀行借入 設備費 他人資本 銀行借入
労務費 自己資金 研究開発費 社債発行
経費 自己資本 自己資金
販売費 株式発行
Min L=Tb/C+Ci/2 Max V=V0 +
V1/i Min re =r(D/V)+ρ(S/V)
{C}
{K} { D/V }
K*=αp1Y1/r1 re*
I= K*-K0 M=M理論
Lo=uI/(1+rl) re*=X/V
企業の短期経営目標は「企業の生産活動の最適化」である.
機械設備等資本は固定した上で,利潤最大化の原則にもとづき供給量を決定する.
短期の資金需要は運転資金である.
生産要素支払(賃金,原材料費,経費,利息など)と生産財販売受取の差額を、自己資金または銀行の借入で調達する.企業は間接金融システムを利用する.
企業の長期経営目標は「企業の総価値の最適化」である.
企業総価値の定義は,企業総価値=負債+資本である.
他人資本(負債) 借入金,社債
自己資本(資本) 自己資金,株式
企業の経営状態は,企業価値変動で3段階のいずれかにある.
成長期 売上げが上昇,生産規模が拡大中である.
定常期 成熟期にあり売上げ停滞,生産規模に変化はない.
衰退期 同業者が市場から撤退,生産規模縮小する.
3段階の経営状態に応じて企業は長期の経営目標を立てる.
(1) 成長期 投資計画,研究開発
(2) 定常期 置換投資,研究開発
(3) 衰退期 M&D等で事業,資産売却
長期の資金需要は,投資資金と研究開発資金である.
投資資金調達は,企業の情報開示が十分であれば,直接金融市場から調達できるが,情報の非対称性があれば,自己資金または銀行借り入れになる.一般に,企業が銀行から調達する資金は,短期の資金需要に長期の資金需要を加えた資金である.
3.2 短期の生産活動と資金需要
短期は四半期の3ヵ月以内が実務的な期間である。会計学、金融論では、1年未満である。短期を3カ月以内とすると、企業が生産活動をすれば、労働者への賃金、調達した原材料の費用、光熱費、水道、ガソリン等の経費費用を1カ月以内で支払う。企業は取引銀行と当座預金契約を交わしているので、当座預金口座を通じて、当事者間で決められた日に、決済される。銀行は当座残高が不足する場合に備えて、当座貸越を企業と契約している。
企業間信用の買掛金、売掛金は、現金で回収する場合もあるが、当座預金によって決済する。2000年までの金融危機で、以降、日本では、約束手形は、企業間で振り出す場合が少なくなった。コマーシャルペイパーCPは、大企業で主に発行される約束手形である。中小企業では、銀行の貸付が手形貸付で短期間融資される。
このように、企業の生産活動では、間接金融の銀行を通じて、費用の支払いと売上の受取りを、当座預金から、主に、行っている。短期の借入は、手形貸付により、元金と利息を分割して、毎月元金と利息を返済する。たとえば、10月末満期、11月末満期、12月末満期の銀行宛支払手形で返済する。期間が長いほど、利息が増える仕組みである。
一方、設備投資の借入金は、元金と利息を分割して返済する場合と、利息を定期的に支払い、満期に元金を一括して支払う場合がある。後者は、事業債の償還方法と同じである。投資期間が1年以上ある場合は、操業して収益で返済するのが遅れるので、銀行側も返済可能か審査して、融資する。大企業であれば、1年以上の資金調達方法は、銀行の借入金以外、事業債の発行、増資による調達方法の選択肢が増える。
銀行に短期融資を申し込む場合、書類審査がある。企業は、1ヵ月の原価計算によって、材料費、労務費、経費の出金の実績と借入期間の予定表、収益の実績と借入期間の収益予定表で、日々の資金繰り表を計算する。資金不足は、特定の期日に、発生する。予定外の資金不足は、当座貸越で対応できる。銀行は当座貸越に担保を取っているから、当座預金不足は、担保価値額の換金可能値が限界である。追加の担保を必要としなければ、書類審査で融資が承認される。
コロナ不況では、特に、飲食店や芸能等サービス業は、休業状態に追い込まれている。コロナ以前、有名な芸能関係企業では、興行収入が消失している。芸能プロダクションに所属する演者は、長引く緊急事態宣言で、収入がなくなり、生活が困窮している。零細企業では、休業は、公共料金の基本料金、銀行の借入金返済、担保の家賃等の固定費が、資金不足になる。政府金融機関、自治体では、緊急事態宣言下、営業時間の短縮を要請した場合、固定費を補てんしてくれる。銀行は、貸付金の利息を政府から補てん、貸付金返済猶予によって、休業期間中、固定費を補てんしてくれる仕組みをとっている。行政命令が解除された場合、営業に入るので、材料費、労務費、経費、販売費等の可変費が営業再開に必要になる。ただし、人出は以前ほど回復していないし、売上、半減以下の中、コロナ対応改装、マスク、消毒液等の衛生経費がかかるので、銀行に融資を申し込んでいるだろう。
このように、短期では、企業は、支払いと受け取りの差額を現金か当座預金で準備しなければならない。短期資金管理は、資金繰りと呼ばれ、当座預金に、いくら準備すれば、費用を最小に出来るかという、現金残高モデルがある。テキストに、その公式を導いている。問題3.2から、企業の短期資金需要関数は、C=√2bT /iである。
3.3 投資の決定
生産物市場で、生産物価格が上昇すれば、企業は、設備稼働に余力をもっているから、製品在庫を増加させて対応する。これを在庫投資という。消費税が上がるとき、消費者が買いだめするのに対応する場合が在庫投資である。この最適在庫投資理論は、3.2節の公式C=√2bT /iを使う。見積在庫量T、倉庫・管理費用b、経過利子iとする。
生産物価格が継続して上昇する見込みがあれば、企業は固定設備を増強するために、投資をする。固定設備は耐用年数が来ると、陳腐化するが、減価償却費を積立てているから、その資金で固定設備を買い替えることができる。これを置換投資という。総投資は、純投資+置換投資からなる。ただし、企業規模が小さいほど、固定設備の減価償却期間は税法上、機械的に決まっているが、実際は、使用頻度が少なければ、期間を延長して使用している。しかし、延長した場合、商品の販売から、その設備の減価償却費は回収できないし、税法上償却が完了しているため、税法上の費用控除はなく、残存価値が未処分の状態になっている。
新設備にすると、技術進歩が導入されていることが多いから、旧設備よりは、生産高は上がり、労務費、動力費等経費は減少する。つまり、図3. 4のように、生産関数の形状が変わり、生産曲線が上にシフトする。
経済学で投資決定を考えるとき、投資は純投資をいう。投資決定論は、企業価値を最大にする設備量(台数)または稼働時間を求める。問題3. 3(テキスト40ページ)がその例である。生産関数は、機械設備に、材料(㎏、kl)、労働(労働時間)、動力(kw)を投入すると、製品がその工場で最も効率よく生産される量を対応させた物量的関係式である。次期の製品価格が上昇し、賃金率、レンタル率をそのままにして(所与)、次期の利潤を計算し、市場利子率で割り引いて、企業総価値を定義する。耐用年数までで、計算できるし、賃金率、レンタル率も変えることができる。
問題3. 3を解くと、最適資本量K1*が求められ、現在の固定資本量K0と差K1*-K0が正であれば、投資I=K1*-K0をする。例題3. 2において、生産関数をコブ・ダグラスにすると、K1*=αp1Y1/r1 となる。投資関数Iは、I=K1*-K0=(αp1Y1/r1)-K0となる。
企業は、この投資を投資財産業に発注する。その代金は、今期支払われる。その資金を、株式の増資または自己資金で資金調達する場合と、銀行からの借り入れや債券発行では、前者は返済しなくてよいが、後者は返済しなければならないが、投資前の企業総価値V0と投資後の企業総価値V1がV1-uI>V0の関係にあれば、投資額は返済できると債権者から判断される。
企業の自己資本と他人資本の構成は、企業設立からのいきさつの歴史を表している。それは、表3. 2 企業の継続性と資金の源泉にある。
企業は、大企業ほど、償却に5~10年かかる設備投資をする際、資金調達方法が多様化でき、資本コストが低下する。資本構成は、資金調達するとき、資本コストが最小となる最適構成があるとする理論と、資本構成と資本コストは無関係であるとする理論がある。表3. 2から,一般的に、企業は、資金調達の履歴から、資本構成が決まっており、資本コストが大きい銀行融資に依存し、大企業になるにつれて、債券、増資の選択ができる王になるので、資本コストは低下する。大企業は、株主に、配当するが、株主が要求する配当と留保を決める配当政策を実施する。日本では、2000年以降、大銀行の再編、中小零細銀行の再編があり、つまり、提携・吸収・合併があって、より規模が大きくなり、銀行との顧客関係が、過去の履歴と関係なく、温情融資がなくなって、ドライに返済を迫られることを経験した。再編銀行は、もとの銀行と融資企業の債務履歴の経緯を知らないから、新基準にもとづき、貸し渋り、貸しはがしを迫るので、怖いと認識したようだ。中小企業は、データで表面化しているように、自己資本比率を上昇させ、間接金融に頼らず、その高資本コストを低下させる傾向が進展している。
利害関係者から見ると、株主、投資家、銀行は、企業が開示する投資計画を精査して、実現可能であれば、投資、融資を実行する。通常、企業が開示する投資計画を精査する能力は、企業の利害関係者間で差がある。
不確実性下の投資決定は、問題3. 3の所与の価格p1、r1、利子率iが確率変数である。この問題は、新古典派のアプローチで定式化できる。さらに、企業総価値Vは、離散期間で定義すると、V=V0+V1/i であるが、連続モデルではV=V0+∫V1-itdψ(p1,r1)dtとなる。今年度は、3章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。企業も現物・先物市場均衡を求めることができる。合理的期待仮説では、期待形成は、市場で決定されるから、先物契約市場は、先物価格が市場で決定される予想価格になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、企業の投資決定も、先物価格が企業総価値を決定することになる。
テキストでは、2期間モデルで、企業投資を決定する。投資資金の資金調達は、銀行にその最適計算の情報を提示し、銀行側が審査し、2期間満期の借用証書によって、貸借関係を決定する。このようにして、間接金融の借用証書は、準証券発行とみなされる。住宅ローンの借用証書も、金融機関同士で、準証券と認定されるならば、市場流動化できる。
企業のフロー・ストック最適化の枠組みは、
現行生産活動の最適化と先物契約の締結
予想価格で評価した企業総価値を最大化した投資決定
短期現金残高最適化、最適投資の資金調達、負債・資本の最適資本構成
となる。
今週(2022年9月23日~9月27日)のイベントと市場への影響度
先週は、9月15日ASEAN経済相会合がビエンチャンで22日まで開かれました。9月17日2024年の地価が公表されました。米連邦公開市場委員会が18日まで開かれました。政策金利は0.5%引き下げられました。19日日銀政策委・金融政策決定会合が20日まで開かれした。政策金利は据え置きでした。
今週は、22日国連未来サミットが23日まで開かれます。24日国連総会で一般討論演説が開始されます。23日立憲民主党代表選が投開票です。27日自民党総裁選が投開票です。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
9月17日 米8月小売売上高 -0.2% 0.1%
8月鉱工業生産指数 0.2% 0.8%
18日 日8月貿易収支 -1兆4062億円 -6953億円
7月機械受注統計 2.5% 8.7%
9月月例経済報告 景気は穏やかに回復
19日 米政策金利上限 5.00% 5.00%
下限 4.75% 4.75%
8月経常収支 -2620億ドル -2668億ドル
20日 日銀政策金利 0.25% 0.25%
日全国消費者物価指数 3.1% 3.0%
今週の統計は、次の発表があります。
予想値
9月23日 米9月PMI速報値
25日 日8月全国スーパー売上高
8月全国百貨店売上高
26日 米4~6月期GDP確定値 3.0%
GDPデフレータ 2.5%
個人消費 2.9%
耐久財受注 -2.9%
27日 日9月東京都区部CPI 2.2%
景気動向指数先行 109.5
一致 117.1
米個人所得 0.5%
個人支出 0.3%
PCIコアデフレータ 2.7%
統計は、国民総支出GDE構成 要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 6月 7月 8月
日本 6月 7月 8月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9622億7400万円 1050776百万円
スーパー売上高 1兆348億1520万円 105988434万円
百貨店売上高 5018億円 5011億円
投資(工作機械受注統計) 133816百万円 123960百万円
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル)
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
物価指数(総合指数) 3.0%
利子率 0.25% 0.25% 0.25%
株価
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格
ドバイ、現物1バレル、ドル、9月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率
景気動向一致指数
先行指数
米国
6月 7 月 8月
GDP(前期比) 2.8%
個人消費
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支
物価指数
利子率 5.25% 5.25% 5.25%
株価(NY)
第2金曜日の前営業日)
原油価格
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率
中国
6月 7 月 8月
GDP(前期比)
個人消費
全国固定資産投資(4~6月期)
輸出(前年同期)
輸入
貿易収支
物価指数
利子率(1年物LPR)
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率
第3回目 2024年9月30日
3.5 モジリアーニ=ミラー理論
3.5.1 M=M理論以前の伝統的財務理論
3.5.2 効率的金融市場におけるM=M理論
コラム:株式市場価格理論の未発達について
3.5.3 中小企業の資金調達
3.5 モジリアーニ=ミラー理論
3.5.1 M=M理論以前の伝統的財務理論
貸借対照表勘定で、右側(貸方)の負債(他人資本)+純資産(自己資本)を企業総価値といい、他人資本比率または自己資本比率を資本構成という。伝統的財務理論とは、企業には、固有の資本構成があることを主張する。企業は、資本構成にしたがい、他人資本の債権者と自己資本の所有者である株主に対して、資本コストである利息と配当を、それぞれ毎期支払う。支払利息は確定しているが、配当は、当期の利潤から支払われるから、無配もあり、不確実であり確率変数である。
企業には、資本コストを最小にする資本構成があると主張するのが、伝統的財務理論である。同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益は同じであるから、金融市場が効率的であれば、資本構成は、企業価値に影響をされないとするのが、モジリアーニ=ミラー理論(M=M理論)である。
伝統理論を紹介する。
企業総価値Vは負債Dおよび株式価値Sからなる。負債コストrは負債比率D/Vの増加関数r(D/V )である。自己資本コストρは負債比率D/Vの増加関数ρ(D/V )である。平均資本コストreは、両者の加重平均re=D r (D/V )+(1-D ρ(D/V ))である。
V V
図3.5のように、負債比率が増加すると、平均資本コストreは、低下し、やがて、上昇するので、その底が、最適資本構成である。
モジリアーニ=ミラー理論(M=M理論)
モジリアーニ=ミラーは「負債コストの利子率は貸付資金市場および債券市場で決まり、負債比率に依存しない。自己資本コストの株式収益率は、株式市場で決まる。平均資本コストは、re=D r+(1-D )ρとなる。」と主張する。re V=rD+ρS 。
V
V
同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益Xは同じであるから、X=rD+ρS 。ゆえに、re V=Xとなり、平均資本コストは、資本構成に依存しない。
3.5.2 効率的金融市場におけるM=M理論
モジリアーニ=ミラーは、企業総価値は金融市場によって評価されるとして、企業が同じリスク・クラスにあり、期待収益が同じであれば、企業総価値は、資本構成に依存しない(命題Ⅰ)ことを理論的に証明した。企業が投資して、資金調達方法を、自己資金、借入金、社債および増資の形をとっても、同じ期待収益をあげるので、資本構成の変化に依存しない(命題Ⅲ)。
経営者の行動、投資家の行動を仮定し、金融市場、とくに、貸付資金市場、債券市場および株式市場は、完全競争を仮定している。テキストでは、命題I、命題Ⅱおよび命題Ⅲを取り上げている。証明は、命題I、命題Ⅱをのせている。
論法は、
「2企業が同じリスク・クラスにあり、資産構成が異なるとする。期待収益が同じであれば、投資家の投資収益は同じである。資本構成の違いで、企業総価値の違いを仮定する。企業総価値の低い企業に、ポートフォリオ(混合投資)を組んで、株式市場おいて、高い企業総価値の企業の株式を売却し、低い企業の株式を購入する。裁定取引の結果は、企業総価値は同じになる。」
投資家が、価格形成の関与ができる株式市場を、同じリスク・クラスにたいして、裁定取引に使用している。この論法は、ブラック・ショールズのオプション理論(1973)においても、金融市場に同様な仮定と、2市場の資産のポートフォリを作成し、裁定取引の市場メカニズムをオプション価格形成に取り入れている。金融市場の価格形成は、所与としている。
コラム:株式市場価格理論の未発達について
金融市場の価格、債券価格、株式価格、それらの先物価格は、当時の経済学では、金融市場均衡の存在は証明できなかったためでもあるし、期待形成をもつ投資家が、株式市場において、株式を交換する理論はなかった。ただし、資産市場のマクロ一般均衡論は、トービンTobin(1969)に枠組みがある。
ヒックスHicks(1939)の著作に、『価値と資本』があるが、ミクロ一時一般均衡論であり、動学と資本蓄積は、課題となっている。ヒックスは、『景気循環論』(1950)、『資本と成長』(1965)、『資本と時間』によって、動学と資本蓄積の課題に答えている。フランスの一般均衡の存在を証明したドブリューDebreu(1954)は、資産市場の一般均衡には、立ち入らなかった。『価値の理論』は確立したが、「資本の理論」は、ふれなかった。フランスでは、マルクスの『資本論』、ローザ・ルクセンブルグ『資本蓄積論』、ヒルファディングの『金融資本論』の影響のせいで、株式市場の経済学的効能や意義は、戦後、社会主義政治勢力が主導権を取り,支持されない。反面、株価の変動がBrown運動すると唱えたのは、フランス人バシャリエBachelier(1900)である。当時、Brown運動を理論的に定式化することが物理学上最先端の課題であった。
さて、私は、冷戦時代、オーストリア、西ドイツ、スペイン、イギリスには、長期間、滞在したが、パリに数日滞在しただけで、通過した。当時、フランスの政治は、社会主義者主導で、公務員がはばを利かし、金融界は国有銀行システムがあり、実業界は規模が小さい、米国や日本のように、株式会社が発展していない。『資本論』および『金融資本論』の影響で、ヨーロッパの経済学者にとって、ブルジョアジー階級の株式交換市場である資産市場の均衡論を研究する理論的重要性が低かったのだろう。政治が社会主義優位である場合、ブルジョアジー階級への課税強化、所得再分配、最低所得保障、年金制度、医療、教育負担軽減が政策優位となり、経済成長、産業の競争力を強化する政策は二の次になる傾向がある。中小企業や個人業に対して、行政としては、税制面で緩くはできるが、その産業の競争力を強化するための税金投入は、公平性の観点からできない。かくして、国や地方自治体で、政治が社会主義政党優位である場合、南イタリア、ギリシャ、フランス南欧のように、経済活動は旧態依然で、発展することはなく、国税を頼ることになる。日本でも、いわゆる旧革新自治体は、そういう傾向があった。
その結果、社会主義政治の怖いところは、企業の本社流出、海外流出、それが経済地盤の劣化を招き、地方交付金に依存する赤字財政が慢性化し、地域格差を招き、若年人口流出がおきてしまうのである。
一方、大衆株主のいるアメリカは、株式交換市場は発展したが、経済学における「株式市場価格の理論」はないまま、株式市場価格を所与とした、デリバティブ商品開発が盛んになった。理論的に価格形成がよくわからない現在株式価格を所与として、投資信託やオプションの商品が生成されると、それらの商品も理論的に説明できないはずである。
リーマン・ショックのサブ・プライムの信用しかない住宅購入者に、証券を合成して,銀行信用で、発行したために、FRBが高金利を戻したら、証券バブルは、はじけてしまった。日本のメガバンクで、この証券に手をだし、損失を出したのは1行だけだったと記憶する。債券市場回復は、民間主権の満期期間は、5年程度であるから、ショックから、5年以上は処理にかかるだろうと、米国の実情を知る報告者が、学界で報告していた。米国不動産業界がへたり込んだ時、米国の不動産王トランプ氏が突然現れ、大統領になった。トランプ氏は、手持ち不動産で損失を抱え込んだはずだが、在任中、シラー住宅価格指数は、ぼちぼちしか回復していない。バイデン氏になって、ウクライナ戦争で、米国は高インフレになり、不動産価格もあがってしまった。中低所得者は、陳tカウ住宅家賃が上昇、若年者は、高金利で奨学金が借りられず、米国のインフレには、苦しんでいる。高所得者は、不動産価格、株式価格が上昇し、バイデン様様であり、敢えて、トランプ氏に投票しなくてもいいと思っているはずだ。90%以上の米国民の生活苦の国民に、高所得者の命・財産を狙うものがふえるのは、いかがなものかと、米国の治安の安全性を、民主党ハリス氏に期待する富裕層は多いだろう。
習氏が、香港資本の不動産会社を、つぶす気なのか、中国本土不動産業界を根治する覚悟になったのかは、不明である。国民を借金づけにして、強制貯蓄を吸い上げ、中国経済成長を続けてきたが、人口減少の症状が出た現在、人口増に依存するネズミ算式マルチ不動産商法のようなことは、だれが考えても無理がある。中国も、日本、EU、米国の不動産バブルからの立ち直りは、各国で特色があるが、中国住宅債権の満期期間までは、物理的に損失を消滅させる時間がかかる。日本の例では1993年から2003年までかかり、国費の諸本注入をし、金融システムをリストラクチュアリングする歴史的おおごとになってしまう。その結果、東京八重洲口の日本銀行本店から、世界の金融機関が軒を並べていたが、撤退し、高級洋装店が並んでいるはずだ。大阪では、御堂筋が、同様に、日本全国の金融機関と太平洋諸国の金融機関が、軒を並べていたが、すべて、撤退してしまった。
東京に本社が集中し、関西の企業すら、東京本社をもつようになり、大阪経済に地盤低下の末、歴史ある大阪証券取引所は、日本証券取引所に統合された。株式市場の経済学的効能や意義は、企業価値を公正価値にし、上場企業の財務諸表は公認会計士により、監査されているが、世界経済のグローバル化に伴い、各国別会計基準から、国際会計基準への収斂に、向かい、各国別企業価値は国際公正価値に収斂することになっている。
一般の日本人は、株式市場はリスクが大きく、すなわち、株価変動が大きいため、株式を買うより、資産の半分以上は、預金、保険で保有している。金やダイヤモンドの取引は、経済学的に需要と供給で価格が決まると理解できるが、「任天堂の株価がなぜ、(2019年10月4万円台、2020年9月5万円台)なのか、わけがわからん。」と思う。人気投票のように、思っている人も多い。
本講8章8. 6先物価格の決定理論のように、将来予想を仮定する市場の現物・先物価格を同時決定する一般均衡理論では、株式の現物・先物均衡価格を決定できることは、わかっている。
現実問題として、株式市場だけでなく、債券市場を加えた、資産市場に拡大すると、現預金の管理をする日本銀行は、株式市場に介入する安倍ノミックス時代になり、債券、株式の買い手に回り、債券価格、株式価格形成をゆがめる事態を招いていた。日銀黒田総裁は、2023年4月に退任し、植田新総裁が就任した。植田和男氏には、『国際マクロ経済学と日本経済』東洋経済新報社、1983年の著作がある。本講第10章4節2項において、植田氏による、不完全雇用の場合、ドーンブッシュ・モデルの紹介を取り上げている。中央銀行が間接金融を越えて、直接金融の市場における有力な買い手になることは、漸次、終了するだろう。植田氏は、ケインジアンの立場に近いのであろう.
日本銀行のマイナス金利政策により、日本国債は流動性を失い、日本の国債発行は、ゼロ近傍発行となり、強制的に、日本銀行が投資家から徴税するようになってきた。つまり預金と同じである。配当のある株式は、1~2年で限れば、国債より利回りがよい。米国をはじめヨーロッパ、アジア諸国では、マイナス金利政策はとらないから、日本の投資家は、国際分散投資をしている。企業も、手持ち資金は潤沢なので、間接金融から資金調達しなくなっている。
菅政権から、岸田政権になったが、日本銀行の金融政策は変更なかった。株式相場は、米国の株式市場に連動して、米国が利上げに踏み切り、金融緩和から引き締めに入ったことを反映して、日本株価もその分、下落した。バイデン政権になってから、米国のインフレーションが顕著になっていたが、ウクライナ戦争を契機に、世界インフレーションがひどくなった。世界の中央銀行は、国内インフレを抑制するため、金利を上げている。日本だけ、コロナ禍からの経済・社会活動の回復を優先し、金融緩和を続け、世界金利の上昇で、金利差が開き、2022年1月4日115.42円/ドルが、2022年9月22日142.4円/ドルで、23%の減価の円安となった。
財務省の市場介入も効果はない。円高介入では、円買いの日本円は無制限に円玉があるが、円安介入では、日本の外貨準備高のドル玉が上限である。財務省の介入は効果がないどころか、輸入価格に外国インフレーションがかぶさっているので、ドル玉を放出していると、貿易収支の赤字のため外貨準備は、減少するから、介入は早晩できなくなる。米国が金利を上げた分の減価率が自動的に外国為替市場で上乗せされて、為替レートが決定される、明白な金利相場が続くだろう。
3.5.3 中小企業金融
日本では、金融市場は、銀行システムをもちいた間接金融が主流であったから、メインバンク制に象徴されるように、銀行が企業財務を支配した。また、日銀の低金利政策がつづくので、社債発行や増資による資金調達よりは、銀行融資の方が、資本コストが低かった。負債比率は50以上であった。しかし、大企業では、高度成長後、オイルショック後、米国との自動車・半導体摩擦で、円高もあり、海外進出せざるを得ず、資金調達を海外の金融市場で調達するようになった。その結果、大企業では、国内での資金調達は減少し、間接金融が縮小する。そして、貸付先を失い、40歳台団塊世代の住宅取得時代に入り、不動産バブルが発生し、過剰融資の末、バブルは破裂した。
その不良債権処理が1995年から、信用組合の取り付けに始まり、大手銀行の不良債権処理が終わるのは、2003年である。中小企業の不良債権処理が残され、中小企業の淘汰が始まる。リーマン・ショック後、民主党政権下、金融庁の政策で、一時、中小企業の不良債権処理が中断された。安倍政権となり、日銀が超金融緩和政策を取るので、倒産件数は減少し、中小企業の不良債権処理はうやむやになっている。中小企業にとっては、資金調達の方法は、間接金融に依存せざるをえない。その間、東北震災等、自然災害による中小企業の損失もあり、中小企業は、大企業と同じく、負債比率を50%以下に減少させてきている。中小企業がやむを得ず、手持ち資金を増やしているのは、災害倒産リスクのためであると言われてきた。
しかし、資金調達の方法も、多様化されてきている。その間、中小企業金融をテーマに、演習で学生を指導してきたが、クラウド・ファンディグなど、銀行を通さず、直接融資相手をインターネットで公募するIT金融が流行ってきたことにも注目するようになった。
日銀が超金融緩和政策を取っても、政策効果が発揮できないのは、日本の伝統的銀行システムが、資金供給の役目をはたさなくなりつつあるからだろう。銀行が過剰準備金を日銀に残さないように、マイナス金利の発行税を徴収しても、実物経済にはさっぱり効果がない。大企業が設備投資しなければ、中小企業はなおさらしないから、資金調達の必要がない。銀行が借り手を探してもいないのであるから、銀行の採算が悪化するばかりである。政府が、消費税対策と称して、キャッシュ・レスを推奨しているが、キャッシュ・レス時代がくれば、現金の象徴たる日本銀行券は現金決済に必要がない。人々が銀行に預金をしなくなれば、銀行業は廃業である。
今週(2024年9月23日~9月27日)のイベントと市場への影響度
先週は、22日国連未来サミットが23日まで開かれました。24日国連総会で一般討論演説が開始されました。23日立憲民主党代表選、投開票があり、野田佳彦氏が選出されました。27日自民党総裁選の投開票があり、1位高市早苗氏と2位石破茂氏が、決選投票となり、石破茂氏が新総裁に、逆転、選出されました。
今週は、10月1日臨時国会が召集され、石破茂氏が首相に指名されます。日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)が発表されます。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
9月25日 日8月全国スーパー売上高 1兆869億7370万円
8月全国百貨店売上高 4034億円
26日 米4~6月期GDP確定値 3.0% 3.0%
GDPデフレータ 2.5% 2.5%
個人消費 2.9% 2.8%
耐久財受注 -2.9% 0.0%
27日 日9月東京都区部CPI 2.2% 2.0%
景気動向指数先行 109.5 109.3
一致 117.1 117.2
米8月個人所得 0.5% 0.2%
個人支出 0.3% 0.2%
PCEコアデフレータ 2.7% 2.7%
今週の統計は、次の発表があります。
9月30日 日8月鉱工業生産指数 0.1%
中8月製造業PMI 49.5
10月1日 日8月完全失業率 2.6%
8月有効求人倍率 1.24倍
日銀短観大企業製造業先行き 13
大企業製造業業況 13
大企業非製造業先行き 28
大企業非製造業業況 32
米8月ISM製造業景気指数 47.1
3日 米8月耐久財受注 0.0%
8月ISM非製造業景気指数 51.5
4日 米8月失業率 4.2%
統計は、国民総支出GDE構成 要素、物価、利子率について、日本、米国、中国の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 6月 7月 8月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9622億7400万円 1050776百万円 1049070百万円
スーパー売上高 1兆348億1520万円1兆598億8434万円1兆869億7370万円
百貨店売上高 5018億円 5011億円 4034億円
投資(工作機械受注統計) 1338億16百万円 1239億60百万円
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル) 156.95 158.2 147.54
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
物価指数(総合指数) 3.0%
利子率 0.1 0.25(7/31) 0.25
株価 39038.16 41190.68 35025
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格 80.1 85.6 77.8
ドバイ、現物1バレル、ドル、9月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率
景気動向一致指数
先行指数
米国
6月 7月 8月
GDP(前期比) 3.0%(確定値)
個人消費 0.2%
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支
物価指数
利子率 5.25
株価(NY) 38868.04 40000.9 39497.54
第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格 77.74 82.21 76.84
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.2%
完全失業率
中国
6月 7月 8月
GDP(前期比)
個人消費
全国固定資産投資(4~6月期)
輸出(前年同期)
輸入
貿易収支
物価指数
利子率(1年物LPR)
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
個人所得
完全失業率
第4回目 2024年10月7日
要点 3.4 貨幣経済一般均衡論を適用した企業行動
3.4 貨幣経済一般均衡論を適用した企業行動
第2章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。貨幣経済一時的一般均衡論によって、企業も現物・先物市場均衡を求めることができる。先物契約市場において、先物価格が市場で決定され、それが市場均衡した予想価格になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、企業の投資決定も、先物価格が企業総価値を決定することになる。
企業のフロー・ストック最適化の枠組みは、
貨幣がある現行生産活動の最適化と先物契約の市場締結
先物市場価格で評価した企業総価値を最大化した投資決定
短期現金残高最適化、最適投資の資金調達、負債・資本の最適構成
となる。
昨年の金融論ノートにおいて,現金残高を第2期間の売上-仕入の差額の一定割合にしていたが,第1期間の差額にした.すなわち,m1=γ(p1x1-pg1 g1-w1 l1).
中間財・労働の最適化理論
まず,貨幣がある現行生産活動の最適化を示す.
生産者が投資しない場合
生産者の生産の決定を2期間モデルで考える.生産者は,第1期に貨幣で支払い準備できるが,第2期に,現金残高を残さない.各期間の1消費財があり,x1,x2がその生産量,生産投入は,材料量,例えば,原油量をg1,g2,労働量をl1,l2,資本量をk1,k2とする.生産者は投資しないから,k2 =k1とする.期間1の消費財価格をp1,期間2の生産者の主観的予想価格をp2とする.期間1の材料価格pg1,期間2の予想材料価格をpg2,期間1の労働賃金率をw1,期間2の生産者の予想賃金率をw2とする.資本財を保有する株主の配当率を株式1単位につき,ρ1,ρ2とする.
各期間における,生産者の利潤π1=p1 x1+m0-(pg1 g1+w1 l1+ρ1 k1)-m1,π2=p2 x2+m1-(pg2 g2+w2 l2+ρ2 k1),2期間の効用関数をu =π1+δπ2とする.ここで,δ(0<δ<1)は割引要素である. 初期貨幣残高をm0とする.期間2の貨幣残高をm
1とする(円表示である).貨幣残高m1は,次期の取引需要であり,今期の(収入-費用)の一定割合γとする.m1=γ(p1x1-pg1 g1-w1 l1).第1期の生産制約式は,コブ・ダグラス型生産関数 x1=g1αl1βk11-α-β ,第2期の生産制約式は,生産関数x2=g2αl2βk11-α-βである.2期間の利潤最大化問題は次のようになる.
問題3.4 期間1の消費財価格p1,材料価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,材料価格pg1,賃金率w2,配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0を所与とし,2期間の生産関数x1=g1αl1βk11-α-β,x2=g2αl2βk11-α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の投入量g1,g2,l1,l2および貨幣残高m1=γ(p1x1-pg1 g1-w1 l1)を求めよ.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
u =π1+δπ2
={p1 x1+m0-(pg1 g1+w1 l1+ρ1 k1)-m1}+δ{p2 x2+m1-(pg2 g2+w2 l2+ρ2 k1)}
=p1 x1+m0-(pg1 g1+w1 l1+ρ1 k1)+(δ-1) m1+δ{p2 x2-(pg2 g2+w2 l2+ρ2 k1)}
=p1 g1αl1βk11-α-β+m0-(pg1 g1+w1 l1+ρ1 k1)+(1+δ) m1+δ{p2 g2αl2βk11-α-β-(pg2 g2+w2 l2+ρ2k1)}.
L=u-λ{m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1)}を変数g1,g2,l1,l2,m1,λについて偏微分して,0とおく.
∂L=p1αg1α-1l1βk11-α-β-pg1-λγpg1=0, g1*={ pg1(1+λγ) }1-α
∂g1 p1αl1βk11-α-β
∂L=δ{p2αg2α-1l2βk11-α-β-pg2}=0, g2*={ pg2 }1-α
∂g2 p2αl2βk11-α-β
∂L=p1βg1αl1β-1k11-α-β-w1-λγw1=0, l1*={ w1(1+λγ) }1-β
∂l1 p1βg1αk11-α-β
∂L=δ{p2βg2αl2β-1k11-α-β-w2}, l2*={ w2 }1-β
∂l2 p2βg2αk11-α-β
∂L=(δ-1)-λ=0,ゆえに,λ=δ-1.1+λγ=1+(δ-1) γ.
∂m1
∂L=m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1)=0.
∂λ
g1*=p1αx1/pg1(1-λγ),g2*=p2αx2/pg2
l1*=p1βx1/w1(1-λγ) ,l2*=p2βx2/w2
m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1)=0に,g1*,l1*およびλ=1+δを代入して
m1*=γ{p1 x1*-pg1 p1αx1*/pg1(1+λγ)-w1 p1βx1*/w1(1+λγ)}
=γp1 x1*{1-(α+β)/(1+(δ-1)γ)}. □
生産者が投資する場合
第1期の生産制約式は,生産関数 x1=g1αl1βk11-α-β,第2期の生産制約式は,生産関数x2=g2αl2βk21-α-βである.2期間の利潤最大化問題は次のようになる.
問題3.5 期間1の消費財価格p1,消費財生産量x1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,生産量x2,賃金率w2,配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0を所与とし,2期間の生産関数x1=g1αl1βk11-α-β,x2=g2αl2βk21-α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の投入量g1,g2,l1,l2,資本量k2および貨幣残高m1を求めよ.投資量IをI=k2*-k1と表す.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
u =π1+δπ2=p1 x1+m0-(pg1 g1+w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ{p2 x2+m1-(pg2 g2+w2 l2+ρ2 k2)}
=p1 g1α l1βk11-α-β+m0-(pg1 g1+w1 l1+ρ1 k1)+(δ-1)m1+δ{p2 g2αl2βk21-α-β-(pg2 g2+w2 l2+ρ2 k2)}.
L=u-λ{m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1)}とおき,変数l1,l2,k2,m1について偏微分して,0とおく.
∂L=p1αg1α-1l1βk11-α-β-pg1-λγpg1=0, g1*={pg1(1+λγ) }1-α
∂g1 p1αl1βk11-α-β
∂L=δ{p2αg2α-1l2βk21-α-β-pg2}=0, g2*={ pg2 }1-α
∂g2 p2αl2βk21-α-β
∂L=p1βg1αl1β-1k11-α-β-w1-λγw1=0, l1*={w1(1+λγ) }1-β
∂l1 p1βg1αk11-α-β
∂L=p2βg2αl2β-1k2 1-α-β-w2=0, l2*={ w2 }1-β
∂l2 p2βg2αk21-α-β
∂L=p2(1-α-β)g2αl2β(1-α) k2-α-β-ρ2}=0,k2*={ ρ2 }1/(α+β)
∂k2 p2(1-α-β)g2αl2β(1-α)
∂L=(δ-1)-λ=0,∂L=m1-γ(p1 x1 -pg1 g1-w1 l1) =0.
∂m1 ∂λ
各投入量を生産物価格および生産量で表すと,
g1*=p1αx1/pg1(1+λγ),g2*=p2αx2/pg2
l1*=p1βx1/w1(1+λγ) ,l2*=p2βx2/w2,k2*=p2(1-α-β) x2/ρ2.
m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1)=0に,g1*,l1*を代入して
m1*=γ{p1 x1*-pg1 p1αx1*/pg1(1-λγ)-w1 p1βx1*/w1(1-λγ)}
=γp1 x1*{1-(α+β)/(1+(1-δ)γ)}.
ゆえに,投資量は
I=k2*-k1={p2(1-α-β) x2/ρ2}-k1. □
中間財・労働先物の最適化理論
現物市場における生産者の最適化
投入する中間財および労働に先物市場があるとする.生産者の最適化問題は,次のように設定される.価格ベクトルp1と賦存量(m0,k1)を所与として,生産関数fのもとで,期待効用関数vを最大にする行動(x1*,g1*,l1*,m1*)および計画(g2*,l2*)を決定する.計画を効用関数u2に代入し,期待効用関数vを最大にする先物契約(cg2,cl2)を求める.ここでは,中間財の先物契約と労働の先物契約を決定する.投資はしないものとする.
第1段階の問題において,生産者は,利潤流列π1=p1 x1+m0-(pg1 g1+w1 l1+ρ1 k1)-m1,π2=p2 x2+m1-{ pg2 (g2+cg2)+w2(l2+cl2)+ρ2 k1},2期間の効用関数をu =π1+δπ2とする.初期貨幣残高をm0とする.期間2の貨幣残高をm 1とする.第1期の生産制約式は,2期間同じコブ・ダグラス型で,生産関数 x1=g1αl1βk11-α-β,第2期の生産制約式は,生産関数x2=g2αl2βk11-α-βと表す.
先物モデルでは,自己清算条件qc=0があり,先物市場では,少なくとも,2財が必要である.消費財と投入財の2財も可能だが,生産関数の制約条件が消費財と投入財の2財にあり,いずれか1財の先物市場において,契約が成立すると,生産関数によって,他の1財がその契約に依存するから,自己清算条件が満たされない.
次の問題3. 6において,材料である原油と労働の先物契約を仮定している.期間1の現物取引と期間2の先物契約(cg2,cl2)を仮定した場合の取引最適化をする.
問題3.6 期間1の消費財価格p1,原油価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,予想原油価格pg1,予想賃金率w2,予想配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0,先物契約(cg2,cl2)を所与とし,2期間の生産関数x1=g1αl1βk11-α-β ,x2=(g2+cg2)α(l2+cl2)βk11-α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の生産量x1,x2,原油量g1,g2,労働量l1,l2および貨幣残高m1を求めよ.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
u =π1+δπ2=p1 x1+m0-(pg1g1+w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[
p2 x2+m1-{ pg2 (g2+cg2)+w2(l2+cl2)+ρ2 k1} ]
=p1 g1αl1βk11-α-β+m0-(pg1g1+w1 l1+ρ1 k1)+(δ-1)m1+δ[p2(g2+cg2)α(l2+cl2)βk11-α-β
-{ pg2 (g2+cg2)+w2(l2+cl2)+ρ2 k1}]
L=u-λ{m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1l1)}とおき,変数g1,g2,l1,l2,m1,λについて偏微分して,0とおく.
∂L=p1αg1α-1l1βk11-α-β-pg1-λγpg1=0,
∂g1
∂L=δ[p2α(g2+cg2)α-1(l2+cl2)βk11-α-β-pg2 ]=0,
∂g2
∂L=p1βg1αl1β-1k11-α-β-w1-λγw1=0,
∂l1
∂L=δ[p2β(l2+cl2)(g2+cg2)α(l2+cl2)β-1k11-α-β -w2=0,
∂l2
∂L= (δ-1)-λ=0,∂L=m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1) =0.
∂m1 ∂λ
λ=δ-1
g1*={pg1(1+λγ)/p1αl1*βk11-α-β}1-α,
g2*={pg2/p2α(l2*+cl2)βk11-α-β}1-α-cg2,
l1*={w1(1+λγ)/p1βg1*αk11-α-β}1-β,
l2*={w2/p2β(g2*+cg2)αk11-α-β}1-β-cl2,
x1*=g1*αl1*βk11-α-β,
x2*=(g2*+cg2)α(l2*+cl2)βk11-α-β.
m1*=γ(p1 x1*-pg1 g1*-w1 l1*). □
中間財・労働先物市場における生産者の最適化
投資がない場合
先物市場では,自己清算取引戦略(qg2,q l2)・(cg2, cl2)=0が予算制約式となる.これにより,自己清算取引戦略であれば,いかなる契約価格q=(qg2,ql2)であっても,利潤π2=p2x2+m1*-{ pg2(g2+cg2)+w2(l2+cl2)+ρ2 k1}はヘッジされる.
期待効用関数vに,x2*(p2 , cg2, cl2) ,l2*(p2 , cg2, cl2)を代入し,v=π1 (x1*,g1*,l1*) +δ∫ π2*( x2*,g2*, l2*) dψ(q)をえる.
π2*(x2*,g2*,l2*)=p2x2*+m1*-{ pg2(g2*+cg2)+w2(l2*+cl2)+ρ2 k1}
=(g2*+cg2)α(l2*+cl2)βk11-α-β+m1*-{ pg2(g2*+cg2)+w2(l2*+cl2)+ρ2 k1}.
問題 3.7 q≫0のもとで
max ∫π2*(g2*,l2*) d ψ(q),subject to(qg2,q l2)・(cg2, cl2)=0.
{
cg2,cl2}
解 L=∫π2*( g2*,l2*) d ψ(q)-λq・cとおく.
L=∫π2*( g2*,l2*) d ψ(q)-λq・c
=∫[p2x2*+m1*-{ pg2(g2*+cg2)+w2(l2*+cl2)+ρ2 k1} ]d ψ(q)-λq・c
=∫[p2 (g2*+cg2)α(l2*+cl2)βk11-α-β+m1*-{ pg2(g2*+cg2)+w2(l2*+cl2)+ρ2 k1}]d ψ(q)-λq・c.
∂∫π2*d ψ(q)=λqg2, ∂∫π2*d ψ(q)=λql2,q・c=0.
∂cg2 ∂cl2
解をcg2*,cl2*,λ*とおく. □
先物市場において,先物均衡価格を(qg2*,q l2*)とする.これが,企業の客観的な予想価格となる.
投資をする場合
企業が投資をする場合,投資財の購入と銀行からの借り入れが生じる.問題3. 3は,次の問題3.
8において,投資財量を決定する.
問題3.8 期間1の消費財価格p1,原油価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,原油価格pg2,賃金率w2,配当率ρ2,投資財価格pu, 期間1の貨幣残高m0,先物契約(cg2,cl2)を所与とし,2期間の生産関数x1=g1αl1βk11-α-β ,x2=(g2+cg2)α(l2+cl2)βk21-α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の生産量x1,x2,原油量g1,g2,労働量l1,l2,投資財量I=k2*-k1および貨幣残高m1を求めよ.ただし,投資財の借入金Lo は, 期間1の投資財価格をpu 1とし,pu 1I=(1+rl1)Loで計算されるが,期間2において,返済(1+rl1)Loは陽表化していない.配当から,支払われる.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
u =π1+δπ2=p1 x1+m0-(pg1g1+w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[
p2 x2+m1-{ pg2 (g2+cg2)+w2(l2+cl2)+ρ2 k2} ]
=p1 g1αl1βk11-α-β+m0-(pg1g1+w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[p2(g2+cg2)α(l2+cl2)βk21-α-β+m1
-{ pg2 (g2+cg2)+w2(l2+cl2)+ρ2 k2}]
L=u-λ{m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1)}とおき,変数g1,g2,l1,l2,m1,λについて偏微分して,0とおく.
∂L=p1αg1α-1l2βk11-α-β-pg1-λγpg1=0,
∂g1
∂L=δ[p2α(g2+cg2)α-1(l2+cl2)βk21-α-β-pg2]=0,
∂g2
∂L=p1βg1αl1β-1k11-α-β-w1-λγw1=0,
∂l1
∂L=δ[p2β(l2+cl2)(g2+cg2)α(l2+cl2)β-1k21-α-β] =0,
∂l2
∂L=δ{p2(1-α-β)(g2+cg2)α(l2+cl2)βk2-α-β-ρ2 }=0.
∂k2
∂L= (δ-1)-λ=0,∂L=m1-γ(p1 x1-pg1 g1-w1 l1) =0.
∂m1 ∂λ
λ=δ-1
g1*={pg1(1+λγ)/p1αl1*βk11-α-β}1-α,
g2*={pg2/p2α(l2*+cl2)βk11-α-β}1-α-cg2,
l1*={w1(1+λγ)/p1βg1*αk11-α-β}1-β,
l2*={w2/p2β(g2*+cg2)αk11-α-β}1-β-cl2,
k2*={ ρ2/p2(1-α-β)(g2*+cg2)α(l2*+cl2)β}α+β,
x1*=g1*αl1*βk11-α-β,
x2*=(g2*+cg2)α(l2*+cl2)βk2*1-α-β.
m1*=γ(p1 x1*-pg1 g1*-w1 l1*). □
問題3.9 q≫0のもとで
max ∫π2*(g2*,l2*,k2*) d ψ(q),subject to q・c=0.
{
cg2,cl2}
解 L=∫π2*( g2*,l2*,k2*) d ψ(q)-λq・cとおく.
L=∫π2*( g2*,l2*,k2*) d ψ(q)-λq・c
=∫[p2(g2*+cg2)α(l2*+cl2)βk21-α-β+m1*-{ pg2 (g2*+cg2)+w2(l2*+cl2)+ρ2 k1} ]d ψ(q)-λq・c .
∂∫π2*d ψ(q)=λqg2, ∂∫π2*d ψ(q)=λql2,q・c=0.
∂cg2 ∂cl2
解をcg2*,cl2*,λ*とおく. □
今週(2024年10月7日~10月11日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、10月1日臨時国会が召集され、石破茂氏が首相に指名されました。日銀の全国企業短期経済観測調査(短観)が発表されました。
今週のイベントは、7日から、11日までノーベル賞が、順次発表されます。9日国会で党首討論があり、衆議院が解散され、総選挙で、15日公示、27日投開票になります。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
9月30日 日8月鉱工業生産指数 0.1% -4.9%
中8月製造業PMI 49.5 49.8
10月1日 日8月完全失業率 2.6% 2.5%
8月有効求人倍率 1.24倍 1.25倍
日銀短観大企業製造業先行き 13 14
大企業製造業業況 13 13
大企業非製造業先行き 28 28
大企業非製造業業況 32 34
米8月ISM製造業景気指数 47.1 45.0
3日 米8月耐久財受注 0.0% 0.0%
8月ISM非製造業景気指数 51.5 54.9
4日 米9月失業率 4.2% 4.1%
今週の統計は、次の発表があります。
10月7日 日8月景気動向指数一致 113.6
先行 107.0
8日 日8月毎月勤労統計 3.2%
8月家計調査
8月国際収支経常収支 3兆円
貿易収支 -5324億円
9月景気ウオチャー調査 49.2
米8月貿易収支 -713億ドル
9日 日9月工作機械受注額
10日 米9月消費者物価指数 2.3%
中9月消費者物価指数
統計は、国民総支出GDE構成 要素、物価、利子率について、日本、米国、中国の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 6月 7月 8月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9622億7400万円 1050776百万円 1049070百万円
スーパー売上高 1兆348億1520万円1兆598億8434万円1兆869億7370万円
百貨店売上高 5018億円 5011億円 4034億円
投資(工作機械受注統計) 1338億16百万円 1239億60百万円
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル) 156.95 158.2 147.54
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
物価指数(総合指数) 3.0%
利子率 0.1 0.25(7/31) 0.25
株価 39038.16 41190.68 35025
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格 80.1 85.6 77.8
ドバイ、現物1バレル、ドル、9月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率 2.5% 2.7% 2.5%
景気動向一致指数
先行指数
米国
6月 7月 8月
GDP(前期比) 3.0%(確定値)
個人消費 0.2%
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支 -731億ドル -788億ドル
物価指数 3.0% 2.9% 2.5%
利子率 5.25
株価(NY) 38868.04 40000.9 39497.54
第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格 77.74 82.21 76.84
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.2%
完全失業率 4.1% 4.3% 4.2%
中国
6月 7月 8月
GDP(前期比)
個人消費
全国固定資産投資(4~6月期)
輸出(前年同期)
輸入
貿易収支
物価指数 0.2% 0.5% 0.6%
利子率(1年物LPR)
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
個人所得
完全失業率
第5回目 2024年10月14日
要点 4. 金融機関の行動
4.1 わが国の金融機構と業務
4.2
金融機関への諸規制
コラム 日本金融史
4.3 信用創造の理論
4.4 銀行間市場の理論
4. 金融機関の行動
4.1 わが国の金融機構と業務
わが国の金融機構と業務について、一覧表にしている。これは、預金取扱機関、すなわち、銀行を中心として、分類し、主な資金調達業務、資金運用業務および資金仲介業務を番号順に、取り上げている。表にある金融機構の形態は、(『<新版>わが国の金融制度』日本銀行金融研究所、1986年)にしたがったものである。1986年以来、金融制度史は変遷をし、バブル、金融再編があったことは、末尾の「日本金融制度史」第7期に記録している。明治以来、日本の金融制度が大きく変動する契機は、戦争が多い。西南戦争、日清戦争、日露戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦である。1986年まで、戦後の預金取扱機関中心の金融機構は、大蔵省、日本銀行も通貨の供給、金融の調節が円滑に機能していたと評価されている。
しかし、土地神話にもとづく、土地担保価値上昇率トレンドと都市土地価格の上昇率にかい離が生じ、バブルが発生、崩壊した。その結果、2003年まで、間接金融機構は、中小金融機関の統合が進み、大手都市銀行も3行に統合された。金融行政の流れでは、合併・吸収、資本金増強、大口規制など、これまでの日本金融史上激変期にとられた手法である。
その間、1997年日本銀行法が改正された。1882年日本銀行条例、1942年日本銀行法公布、1949年日本銀行法一部改正(政策委員会設置)に次ぐ大改正であり、人生50年ではないが、金融行政においても、日本銀行という金融根幹制度も50年周期で、制度改正する必要があると、どこかに記述してあったと思う。金融制度は、与信期間が10年単位であり、制度の見直しは、10年周期で実情に合わせる必要がある。国の行政制度も同様の省庁再編50年、省庁管轄の諸制度は10年以上経過すると提供する行政サービスが実情に合わなくなって、予算不足、予算の余剰がはなはだしくなっているはずである。金融行政では、通貨の供給、金融の調整が制度由来の目詰まりになると、信用崩壊になるので、定期的に、見直ししている。
従来、日本銀行役員会が、企業で言う取締役会に相当し、GHQにより設置された政策委員会は、金融政策を発案、実施できるのであるが、実質、大蔵省で金融政策を主導され、役員会で実行案になおし、実施されていて、政策委員会は、有名無実であったといわれている。政策委員会制度の取扱いは、小中学校のホームルームみたいなアメリカお仕着せ学級自治であったと、学生には、話していたが。日本銀行に議事録は存在するのか、さだかではない。1997年以前は、金融政策の実施について、立案の経過が公表されないので、外部の専門家は、事後的な推測しかできない。日本金融学会では、金融政策の決定過程が公表されないとこぼすコメントもあった。また、外部の専門家の指摘は、反映されることはない。たとえば、バブル前後の金融政策は、大蔵省、日本銀行に、バブルの認知が遅く、銀行の不動産担保貸し出しに異常事態が見られたはずだし、最悪な事態では、地上げ屋が、住民をド―ベルマンで、追い払うテレビレポートもあった。山口県に住んでいた私の父が珍しく、「地上げに、暴力団が活動している。」と私に注意した。私は、普段は、経済活動には、注意を払うのが仕事であるが、新婚で、住宅は購入する気がなかったので、関心が薄れていた。東京の地価は、土地ころがしで、2年間で2倍以上になった。
大蔵省は地価税を課税し、日本銀行は、金融引き締めで、公定歩合の2倍以上引き上げした。これでは、すぐさま銀行の貸し出し余力は失われて、「夢の住宅街」「夢のリゾート」実家近くの「ゴルフ場建設計画」は中断される。
現行の日本銀行法は、政策委員会が、政府から独立して金融政策を立案、実施し、国会、金融業界、国民に対して、金融政策の実施説明責任を果たしているし、議事録の公表もある。
4.2 金融機関への諸規制
金融機関は、株式会社、信用金庫、相互会社、信用組合等の組織形態と目的、業務、監督官庁との係わりを個別に定めている。例えば、銀行は株式会社であるから、会社法にしたがうが、銀行法にしたがう。証券会社は株式会社であるが、金融商品取引法にしたがう。株式会社は、会社法により、その目的を定款で定められるが、株式会社である銀行は、銀行法によって目的が定められている。
金融機関は、各業法によって、縦割りの組織が、監督機関である金融庁に、ぶら下がっている。ただし、日本銀行は、財務省に監督されている。
戦後、GHQは軍を廃止、財閥に戦争責任を取らせる形で、財閥解体をした。しかし、金融業界の財閥解体はしなかった。旧日本銀行法もナチスのライヒスバンクが法源なのだが、現代文調の政策委員会を追加するだけで、漢文調カタカナ混じりの法律だった。金融は米国でもユダヤ人が強いし、ライヒスバンクをまねていることは、米国の専門家は認識していただろう。GHQは、法文としては問題ないとしたのか、それが、1997年改正まで続いた。
法規制では、金融業界は、縦割りであるが、金融業界も財閥系、新興企業系および銀行系に分かれ、金融業界は系列企業をしたがえていて、系列融資が行われていた。地方金融機関は、戦間期の銀行合同で、1件1行主義により、軍から強制合併させられた。県外に、支店はなかなか認可がおりないので、県内の企業は各府県の地方銀行1行と取引するしかない。
バブル後の金融再編は、信用組合、信用金庫の破たんが始まり、1997年山一證券の自主廃業、1998年北海道拓殖銀行破たんに連鎖し、終わると、都市銀行は13行から、3行に、中小金融機関の456信用金庫、448信用組合が現在、それぞれ、257金庫、146組合に合併・吸収されている。
3メガバンクに、今も系列融資は存在するのか、メインバンク制自体も風化しているので、系列企業は、間接金融より、直接金融、海外資金調達の選択肢中から、資本コストの低い方を選択していると思われる。
保険会社および証券会社も財閥系を主要な取引相手とする場合がある。その商品開発も運用も、取引相手の企業を組み入れる場合がある。外国の証券会社は、そのような考慮はないから、たとえば、投資信託であれば、自由に選択しているので、運用成績がよい。
金融行政は、大蔵省銀行局から金融庁になって、銀行の業務のユニバーサル化がみられ、金融持ち株会社も認められる。ユニバーサル銀行経営が、うまくいっているのか、疑問だが。ユニバーサル銀行は、多角化しても、それに伴う商品開発ができる人材はいないし、専業の保険会社および証券会社から、商品を仕入れて、小売りしているだけであろう。日本銀行の超金融緩和は、2023年終わり、2024年はゼロ金利政策から、有利子に転換した。理由は、持続するインフレを抑制することと、内外金利差を縮小して、過度の円投機による超円安を適正水準に戻すことである。
コラム 日本金融史
明治維新以前は、日本の金融機関は、関東と関西で金本位制と銀本位制を取っていたため、両地域で両替商が存在し、庶民金融の頼母子講(無尽)、町内のいわゆる10日で1割の高利貸しがあり、各藩内では藩札が流通していた。頼母子講は、中国・韓国でもある。横浜の南京街商店主間でもある。あの忠臣蔵で有名な浅野家の断絶では、藩の財務担当重役は、塩の専売を藩の財政にしていて、藩札・信用が藩外に流通していたため、藩の債権債務処理に、苦労したようだ。敵討ちも、大石ら藩士に清算した軍資金があればこそ、本懐を果たせたのである。塩製造販売事業で、もうけているのに、吉良に、その塩田技術を教えないから、いやがらせを受けたのである。浅野藩を意図的につぶされ、藩士を路頭に迷わされて、藩が攻撃されたと同じことだ。大石でなくとも、浅野藩の組織力では、完全に吉良はとれる相手だった。ここは、幕藩体制を揺るがす大問題にして、いつでもとれる爺さんを泳がしていたのである。浅野家取り潰しの裁断はゆるがず、吉良をとった。
浅野家の経営していた塩田技法は、取り潰し以後、各藩で塩田適地では、広がった。浅野家の周辺各藩との取引は、塩と引き換えに、塩を煮詰める芝・松薪を帰り舟で運び、差額を貸し借りしていた。江戸時代に、藩間経済循環が形成されたことを金融史的に考察する論文はある。藩札は藩内で流通するが、赤穂藩は、当時の保存添加物である塩は、塩蔵食品、牛馬の飼料添加物であるから、比較的大量生産できた赤穂の塩は、各藩で需要が高かった。藩間の物々交換の例は少なく、米が決済商品であり、大阪の蔵屋敷に、余剰の米・藩特産品を送り、商人を仲介者として、海路・陸路で、交換品を持ち帰っていた。塩は砂糖と同様に、くさらず、長期保存ができる商品であり、価値が安定していた。
赤穂の塩田は、瀬戸内海の花崗岩を産出する地域の砂は、石英質であり、温暖かつ日照時間がながいため、その技法は各藩に伝播した。私は、防府市の塩田が実際に稼働しているとき、塩田に入ったことがある。生産現場で働いている労働者を見るのが、好きになったのはそのせいかもしれない。
大阪の北摂地域の明治以来の金融史を教えたことがある。最初は、神戸灘の銀行が、酒米である山田錦を買い付け代金と次年度の栽培貸付を農地担保でしたのがはじまりで、大阪府茨木市の安威郵便局が、唯一の庶民貯蓄銀行であった。1890年から、金融恐慌があり、銀行が破たんする。後は、欧米と同じように、大戦後、軍需が落ち、企業が倒産、貸付金が焦げ付けるで、銀行破たんが起きた。その屑債権を買って、その銀行の本店・支店を吸収するから、支店網は充実していった。政府は、太平洋戦争後に生じるであろう、反動恐慌を怖れたのか、戦間期に、銀行合同政策を取る。いわゆる1県1行主義である。その下に、無尽会社(頼母子講から営業無尽の発展形態)、産業組合の中小金融機関が発達した。保険会社、株式取引所、手形交換所は、国立銀行、日本銀行が設立した頃、明治11年から明治14年にかけて設立している。銀行金融を中心とする間接金融が、優勢で、手形交換所、銀行間金融の短期資金市場は発達したが、直接金融市場である株式市場および事業債市場は、産業の銀行支配が、財閥を形成し、新興産業は、財閥内で設立されるので、発達しなかった。戦後、GHQが産軍癒着の経済構造を財閥解体したが、財閥系の銀行を解体しなかった。このため、戦後復興は、系列融資という形態で、旧財閥産業に優先的に資金を供給した。戦後の主に、米国新機軸の産業である石油化学工業が埋め立て地に、1955年以降、順次、コンビナートが建設され、稼働して、化学工業製品が普及、各種の最終消費財を大量生産する高度成長時代が1970年まで続くことになる。
敗戦後、台湾銀行、朝鮮銀行、満州中央銀行の行員を、長期信用銀行に吸収し、中小企業対策の相互銀行、信用金庫、信用組合を設立させた。戦後の金融システムの系譜は、戦中間に基盤が形成され、支店銀行業(Branch Banking)であり、米国のように、1本店銀行業(Unit Bankinng)ではない。米国では、戦後の対外戦争が終結すると、銀行不況が発生、そのたびに、1本店銀行業の破たんが多かった。たとえば、第1次湾岸戦争後、イラク戦争後のリーマン・ショックがその例である。
戦後、各業界で系統銀行が形成されたのも、特色の一つである。たとえば、農林水産業において、農林中央金庫を各協同組合の中央銀行として、系統内外の預金・融資、政府の補助金、政府の農産物の価格調整金等の取扱いをしていて、協同組合の本支所が内外業務を担当している。
4.3 信用創造の理論
銀行業務は、銀行の独占的業務として、預金業務がある。手形担保に、満期期限までの利息を手数料としてとる短期貸し出しや設備投資・住宅ローンの長期貸し出し、資金の送金等の業務は、金融会社で業務ができることになっている。
銀行は、資金調達業務である預金および銀行間市場からの資金を元手に、資金運用業務である短期・長期貸出、投資目的のための債券・株式保有をする。その他に、手形割引等の取引手数料がある。銀行経営で、資金運用先の破たん等で、資金が回収できなくなるリスクがあり、銀行は預金保険をかけ、貸出先に貸倒引当金をリスクランクに応じて、積立てる。中央銀行は、銀行が流動性不足に陥らないように、強制的に準備預金をさせる。銀行に預金引出が発生した場合、中央銀行は、緊急融資をして、銀行システムが不安定にならないようにする義務がある。
銀行経営は、預金を資金需要者に、貸出利子率で貸し出し、預金者に支払う預金利子率との利ザヤが銀行の主要な収益である。一度、銀行システムから、貸し出しが実行されると、その資金は、現金として、費消される額はあるが、銀行システムに還流する。還流預金は、再び、その銀行の貸出先に貸出される。最初の預金を本源的預金とすれば、還流する預金は派生的預金という。
問題は、本源的預金から、日本銀行に強制的に預金する法定準備金を差し引いて、銀行システム全体で、預金総額と貸出金総額がいくらになるかを計算する。本源的預金から、銀行システムを通じて、預金総額および貸出金総額が増加することを信用創造という。『金融論2023年』では、無限等比級数を用いた計算例を示している。
4.4 銀行間市場の理論
完全競争市場下における銀行行動は、4.5.1において、銀行の利潤最大化で求めている。銀行にとって、利潤は、収益マイナス費用である。フローである収益は、手形割引料、取引手数料および保有する債権からの収益からなる。費用は、経費、労務費および債務である預金利息からなる。
バランス・シート制約式は、準備預金制度から強制される。貸付債権のリスク管理は、貸倒引当金であり、5段階に分類される。貸付債権は、正常、利息延滞、元金返済延滞、破産懸念、破産であり、3%、20%、50%、80%、100%を引き当てると仮定する。
融資後の債務履行はコベナンツ条件といわれ、既存貸付債権の契約に適用され、銀行にはモニタリングコスト(監視費用)が掛かる。時間通じて、リスク管理により、5段階のランクが変わるので、引当金も変化する。
銀行の投資は、新規貸付債権と新規国債購入である。前者は、審査により、リスク管理で評価される。貸付先の情報提供により、①期間返済可能、②貸付利子率と債券利回り(リスク・アプローチ)、③余力=預金+返済金+償還金(バランス・シート制約式)から、融資実行可能か判定する。
銀行は、市場、自己制約条件を与件とし、収益の割引将来価値を最大化する投資を決定する。2期間モデルで、短期と長期を区別し、短期利子率と長期利子率を分ける定式化することができる。ここでは、1期間モデルである。
以上を定式化すると、次のようになる。
完全競争下の銀行モデルで、所与の預金利子率および債券利回りのもとで、銀行の最適貸付資金を求める。
銀行のバランス・シートの制約式
R+L+B=D+εL+E 債券投資:B,還流率:ε、派生預金:εL
法定準備預金の条件式
R=α(D+εL) 法定準備率:α
貸付量Lの収益P (L)は手数料および利息収入である。債券投資B0はB0=(1-α)D+(ε-αε-1)L+E、債券利子率rbとする。投資Lの増大とともに貸倒引当金が増大するから、P (L)は、貸付量の増大に逓減する。経常費用Cは預金利息と固定費用である。
C=rd(D+εL)+C0、預金利子率:rd、固定費用:C0。
利潤は、収益から経常費用を差し引いたものである。
利潤関数 π =P(L)+rbB0-C
=P(L)+rb{(1-α)D+(ε-αε-1)L+E}-{rd(D+εL)+C0 }
銀行の利潤最大化
銀行の利潤最大化は、π=P(L)
+rbB0-CをL,Dで偏微分し、0とおく。
∂π =PL+rb(ε-αε-1)- rd ε=0、
∂L
すなわち、 PL = rb(αε-ε+1)+rd ε (1)
∂π =(1- α) rb-rd=0、すなわち、(1- α) rb=rd (2)
∂D
預金利子率と債券利回りの関係式が求められた。(1)式に(2)式を代入すると
PL =rb(αε-ε+1)+ε(1- α) rb=rb (3)
限界収益=限界費用=債券利回りとなる。(3)式から、債券利回りに対して、最適貸付金L*が求められる。
今週(2024年10月14日~10月18日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、7日から、11日までノーベル賞が、順次発表されました。9日国会で党首討論があり、衆議院が解散され、総選挙で、15日公示、27日投開票になりました。米国は、大統領選が終盤戦に入り、2つの大型ハリケーンが襲来し、両候補は、被災地で対応を訴えています。ウクライナのゼレンスキー大統領は、勝利終結計画を、12日バイデン大統領を迎えた会議で、説明するはずでしたが、ハリケーンに対応するため、中止になりました。ゼレンスキー大統領は、トランプ氏が当選すると見ていると伝えられています。マスク氏が、国務大臣になるべく、トランプ氏についたという。世界をかき乱す、Wild Cardになるので、非常に危険な錯乱要因になる恐れがあります。イスラエル、ネタニヤフ首相は、ガザから戦線拡大し、バイデン大統領の制止は聞かず、トランプ氏当選にかけて、米国支援をあてにし、大統領選後、イラン攻撃を本格化しそうです。ネタニヤフ首相は、ガザを終戦せず、米国の軍備支援を全面的にあてにしています。フランスは、レバノンに権益があるのか、武器の供給停止を主張しています。バイデン氏は、弾薬、ミサイルの供与は中止すべきですが。二重基準というか、でたらめな戦略で、米国の国益とどうつながるのか、でたらめ裁量ゆえに、その場しのぎの現実主義でしかない。そのために、迷惑するのは、当事国である。
イランの弾道ミサイルを打ち落としたのは、中東に展開する米軍です。ウクライナとえらい違いがある。ロシアが弾道ミサイルをウクライナに撃ち込んでも、落とすミサイルシステムTHAADはウクライナに供与していない。韓国には配備している。日本には、配備していない。米国にとって、韓国は防衛する価値は全くないと、トランプ氏が豪語していたが、強いて、こじつければ、北朝鮮がしきりに弾道ミサイルを開発するので、近場で、THAADで落とそうと、米国防衛網のつもりなのだろう。
今週のイベントは、10月15日衆議院選挙公示があります。17日欧州連合首脳会議が18日まであります。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
10月7日 日8月景気動向指数一致 113.6 113.5
先行 107.0 106.7
8日 日8月毎月勤労統計 3.0% 3.0%
8月家計調査 -2.5% -1.9%
8月国際収支経常収支 3兆円 3兆8036億円
貿易収支 -5324億円 -3779億円
9月景気ウオチャー調査 49.2 47.8
米8月貿易収支 -713億ドル -704億円
9日 日9月工作機械受注額 125297百万円
10日 米9月消費者物価指数 2.3% 2.4%
13日 中9月消費者物価指数 0.7%
経済統計は、次の発表があります。
予想値
14日 中9月貿易収支
16日 日8月機械受注 4.3%
17日 日9月貿易収支 -6210億円
米9月小売売上高 0.3%
9月鉱工業生産指数 -0.1%
18日 日全国消費者物価指数 2.5%
中9月鉱工業生産指数 5.7%
7~9月期GDP 4.6%
9月小売売上高 3.3%
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 6月 7月 8月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9622億7400万円 1050776百万円 1049070百万円
スーパー売上高 1兆348億1520万円 1兆598億8434万円 1兆869億7370万円
百貨店売上高 5018億円 5011億円 4034億円
投資(工作機械受注統計) 1338億16百万円 1239億60百万円 1107億7100万円
輸出
輸入
貿易収支 5363億円 -4827億円 -3779億円
為替レート(円/ドル) 156.95 158.2 147.54
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
物価指数(総合指数) 3.0%
利子率 0.1 0.25(7/31) 0.25
株価 39038.16 41190.68 35025
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格 80.1 85.6 77.8
ドバイ、現物1バレル、ドル、9月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 498887円 403090円 296588円
完全失業率 2.5%
2.7%
2.5%
景気動向一致指数 113.7 117.1 113.5
先行指数 108.6 109.5 106.7
米国
6月 7月 8月
GDP(前期比) 3.0%(確定値)
個人消費 0.2%
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支 -731億ドル -788億ドル
物価指数 3.0% 2.9% 2.5%
利子率 5.25
株価(NY) 38868.04 40000.9 39497.54
第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
原油価格 77.74 82.21 76.84
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.2%
完全失業率 4.1%
4.3% 4.2%
中国
6月 7月 8月
GDP(前期比) 4.7%
個人消費(小売売上高) 2.0% 2.7% 2.1%
全国固定資産投資(4~6月期)
輸出(前年同期)
輸入
貿易収支 7037億元 6019億元 6493億元
物価指数 0.2% 0.5% 0.6%
利子率(1年物LPR)
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日) 6/10 7/12 8/9
個人所得
完全失業率
第6回目 2024年10月21日
要点 債権・労働先物の最適化理論
4.5 市場のルールに基づく貸付資金市場均衡
4.5.2 完全競争市場条件の変更
4.6 金融取引における情報
4.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動
2024年度金融論説明ノートでは、フロー理論である、貨幣がある預託与信活動の最適化と先物契約の最適決定、ストック理論である、金融投資の間接・直接証券の最適配分とそれらの先物契約の最適決定を示す。2期間モデルで,金利先物の期間構造の決定には入らない。テキスト『金融論2023年』は、発行を急いだため、ストック理論の設定に、家計の資産選択と同様な、銀行の資産最適配分ととらえていなかった。今回のノート4.7節で訂正した。
4.5 市場のルールに基づく貸付資金市場均衡
完全競争市場下における銀行行動は、4.5.1において、銀行の利潤最大化で求めている。銀行にとって、利潤は、収益マイナス費用である。フローである収益は、手形割引料、取引手数料および保有する債権からの収益からなる。費用は、経費、労務費および債務である預金利息からなる。
バランス・シート制約式は、準備預金制度から強制される。貸付債権のリスク管理は、貸倒引当金であり、5段階に分類される。貸付債権は、正常、利息延滞、元金返済延滞、破産懸念、破産であり、3%、20%、50%、80%、100%を引き当てると仮定する。
融資後の債務履行はコベナンツ条件といわれ、既存貸付債権の契約に適用され、銀行にはモニタリングコスト(監視費用)が掛かる。時間通じて、リスク管理により、5段階のランクが変わるので、引当金も変化する。
銀行の投資は、新規貸付債権と新規国債購入である。前者は、審査により、リスク管理で評価される。貸付先の情報提供により、①期間返済可能、②貸付利子率と債券利回り(リスク・アプローチ)、③余力=預金+返済金+償還金(バランス・シート制約式)から、融資実行可能か判定する。
銀行は、市場、自己制約条件を与件とし、収益の割引将来価値を最大化する貸付・債券投資を決定する。
4.5.2 完全競争市場条件の変更
2) 独占的競争下における差別金利の決定
財の独占企業の理論を、完全競争下の銀行行動に適用する。独占競争下にある銀行は、大企業の優遇貸付利子率(プライム・レート)rBと中小企業の貸付利子率rM(サブ・プライム・レート)の差別利子率をつける。
大企業の資金需要をDBで表し、中小企業の資金需要をDMで表す。簡単化のため、それぞれの需要曲線は直線で、r=aBDB+bB、r=aMDM+bMとする。大企業の需要の利子率弾力性はεB、中小企業需要の利子率弾力性はεMとする。εB>εMである。
銀行の総費用Cは、
C=rdD+C0、預金利子率:rd、固定費用:C0と表す。
銀行の収益Rは、R=rLB+rLM+F0、大企業向け貸出利子率:rB,中小企業向け貸出利子率:rMで表す。
銀行の利潤はπ=R-C=rLB+rLM+F0-Cである。限界費用は,両市場共通で一定であるとする。
独占理論から、利潤関数を貸出量で偏微分すると,
∂π=r(1- 1 )-MC=0、∂π=r(1- 1 )-MC=0 。
∂LB εB ∂LM εM
それぞれの限界収益が限界費用に等しい貸出量において、需要曲線上の プライム・レートrB*=rd/(1- 1/εB )とサブ・プライム・レートrM*=rd/(1- 1/εM )が2つの市場で決まる。εB>εMと仮定しているから、rM*>rB*である。
4.6 金融取引における情報
日本の間接金融市場のように、借り手が弱く、貸し手の要求する情報提供をする貸付資金市場は、米国のそれではない。米国の中小企業の起業率は、日本より高く、逆に、倒産率も高い。米国銀行にとって、貸し倒れリスクが高い。その原因は、企業側の情報提供が銀行を説得するほどでもないためであろう。銀行の規模も小さく支店網はない。
銀行行動の理論は、従来、ヨーロッパ留学だった流れが、戦勝国米国に変更された。金融論は、エール大学に留学した学生が、ト―ビンの理論を日本の現実に適用したのが、教科書で取り上げられていた。それが、都市銀行と地方銀行のコール市場で、それぞれの利潤最大となる最適貸出が決まるという理論で、本論に紹介している。日本では、金利水準は、大蔵省が決定しているのであって、日本銀行の政策委員会は決定を承認しているにすぎなかった。したがって、自由金利市場は、インターバンク市場しかなかった。
現在では、企業が投資する場合、借入金は2期間以上で返済する。銀行は返済可能性を審査して、条件をみたせば、貸出すが、利息と元金は2期以上で回収される。企業の債権は、債券と性質がよく似ている。そうすると銀行は、過去の債権の元利金と1期間の割引料、手数料で通常の利益を上げていることになる。この債権を貸付資金市場において、標準化すると、2期間以上の貸付利子率が決まる。
当然、2期以降の不確実性は、両者にあるので、不確実性下の期待利潤最大化になる。しかし、金融論の貸付資金市場は、資金需要者は、確実性下のもとで、現在、必要な財・サービスに支出をするために、資金を借りる。銀行側から見れば、資金需要曲線は、確実性下にあるとみる。合理的期待論のMuthも、企業の需要曲線は確実性下にある。財の供給は第2期の予想価格に依存するので、不確実性下である。不確実性下、米国発祥のミクロ市場理論は、この設定で、学会にコンセンサスあるようだ。
資金供給者は、担保をとり、その企業の貸出極度額を決め、不確実性下の2期以降の借り手の返済能力を精査して、期待利潤を最大化する設定が多い。すなわち、資金需要者は、右下がりの直線を仮定するのは、独占競争理論も逆選択理論も同じである。テキスト図4.7のように,銀行の供給曲線が、高金利になると供給量が減少する、つの字型になる。つまり、高金利で借りる需要者の返済リスクに対する貸倒引当金が増加するので、銀行の貸出余力が減少する。また、高金利では、リスクの高いプロジェクトをもつ企業ばかりになるので、逆選択が発生する。
情報の経済学で取り上げられる事象は、非常にリスクのある借り手を問題にしているので、日本の銀行優位の貸付市場では、相手にされないだろう。消費者金融市場や、スコアリングの統計手法を使った、顧客情報の評点化によって、貸出するネットローンでは、そのような顧客もいるであろう。実際、日本の消費者金融業者が、スコアリングの統計手法を実務で利用している事例はないだろう。
本論で、金融理論における情報の取扱いをまとめた。ITを使った金融手法は、仮想空間で決済口座が当座預金口座にあたり、電子商取引が発生すると、その口座を通じて決済する。人的な記帳の流れが全くない。記帳は、個人のスマホ口座と銀行にある双方の口座になる。融資の審査も、IT化されると、銀行に店舗は必要なくなる。金融機関にとって、情報管理と情報加工技術が、営業になるような時代になりつつある。
4.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動
第2章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。貨幣経済一時的一般均衡論によって、銀行行動を最適化し、現物・先物市場均衡を求めることができる。金融先物契約市場において、先物利子率が市場で決定され、それが市場均衡した予想利子率になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、銀行の営業資金の金融投資決定も、先物利子率が企業総価値を決定することになる。
銀行のフロー・ストック最適化の枠組みは、
貨幣がある預託与信活動の最適化と先物契約の市場締結
短期預託与信の最適化、金融投資の間接・直接証券の最適配分
先物市場利子率で評価した総価値を最大化した金融投資決定
となる。
銀行の経常業務と金融投資業務の決定を2期間モデルで考える。銀行は,企業以外の普通預金および定期性預金D1と企業の要求払い預金(当座預金)D2を引き受け,中央銀行に準備率γをかけたR1=γ(D1+D2)を有利息で準備預金R1をする.前期の貸付金L-1から,貸付利息および元本(1+rl-1)L-1,国債の利息rbB-1を受け取る.前期預金D-1に対して,預金利子率rd-1で,預金利息rd-1D-1を支払う.今期の預金D1は,預金利息を払った預金の引き出しWi1と新規の預金増ΔD1を合わせたD1=D-1-Wi1+ΔD1である.銀行の期末バランス・シート制約式は、R1+L1+B1+p1k1=D1+D2+E1である。ここで、p1は実物資本k1の再調達価格である。E1は株式資本金である。
銀行は、企業に対する短期与信で、持ち込まれた残存期間1ヵ月の企業手形btを割引率rcで割り引く。割引料はΣt=112btr30/365とする。前期の貸付金L-1から、元利合計(1+rl-1)L-1、国債の利息rbB-1を受け取る。前期預金D1-1に対して、預金利子率rd-1で、利息を支払う。銀行員の労働量をl1、銀行の不動産・設備等の資本量をk1とする。以上を、年間の経常業務とする。
今期の預金D1は、前期預金D1-1から今期の引出金Wi 1を差し引き、新規の預金d1を合わせたものである。D1=D1-1-Wi 1+d1。準備預金R1を差し引いた預金の残り(1-γ)(D1+D2)と返済金L-1を、投資資金余力A=(1-γ)(D1+D2)+L-1とする。余力の制約式L1+ΔB1=Aのもとで、1年満期貸付金L1で生成し、余力の残りで、国債ΔB1を購入する。これを金融投資業務ということにする。
間接金融市場の短期貸付債権と銀行員の労働量を決める。間接金融市場では、割引率(短期利子率)が決まり、労働市場では、賃金率が決まる。期間2の割引債権市場および労働市場では、先物割引率および先物賃金率が決まる。資産市場において、貸付利子率および債券利回りが決まり、先物資産市場において、先物貸付利子率、債券利回りが決まる。
銀行の利潤π1は、π1=rl-1L-1+rb-1B-1+Σt=112btrc130/365-(w1 l1+ρ1 k1)-rd-1(1-γ)(D-1+D2-1)と表す。第1期の生産制約式は、産出を企業流動債務b1=Σt=112btrc30/365とおく。コブ・ダグラス型生産関数b1=l1αk11-αを仮定する。
期間1のフロー利潤最大化問題は次のようになる。
問題4.1 期間1の割引率rc1、賃金率w1および配当率ρ1を所与とし、生産関数b1=l1αk1 1-αのもとで、効用関数をu =π1を最大にする割引量b1、労働量l1を求めよ。
解 利潤π1に生産関数を代入する。
π1=rl-1L-1+rb-1B-1+rc1 b1-(w1 l1+ρ1 k1)-rd-1(1-γ)(D-1+D2-1)
=rl-1L-1+rb-1B-1+rc1 l1αk1 1-α-(w1 l1+ρ1 k1)-rd-1(1-γ)(D-1+D2-1)
変数l1について偏微分して、0とおく。
∂π1=αrc1 l1α-1k1 1-α-w1=0、
∂l1
l1*={w1/(αrc1 k1 1-α)}1/(α-1)、
b1*=l1*αk1 1-α。 □
期間1の銀行の最適化問題は、次のように設定される。価格ベクトル(rl1,rb1)、(rl2,rb2)と預金量D1、D2を所与として、間接金融資産および直接金融資産を選好する効用関数u1(L1,ΔB1)+u2(L2,ΔB2)を最大にする行動(L1,ΔB1)および計画(L2,ΔB2)を決定する。銀行は、貸付金に対して、貸倒引当金をリスクランクに応じて、余力から差し引く。貸倒引当金関数A1、A2をA1=A1 (L1) 、A2=A2 (L2)とおく。それぞれ、L1、L2の増加関数である。
期間1の資産投資余力制約式は、(1+rl1)L1-A1 (L1)+(1+rb1)ΔB1= (1+rd1)(1-γ)D1+L-1と表す。期間2の資産投資余力制約式は、 (1+rl2)L2-A2(L2)+(1+rb2)ΔB2=(1+rd2)(1-γ)D2+L1と表す。
期間1の効用関数をu 1=u1(L1,ΔB1)とする。まず、期間1の金融資産最大化問題は次のようになる。
問題4.2 期間1の貸付利子率r l1、債券利回りrb1、預金利子率rd1および預金量D1を所与とし、資産投資余力制約式(1+rl1)L1-A1 (L1)+(1+rb1)ΔB1= (1+rd1)(1-γ)D1+L-1のもとで、資産の効用関数をu1 =u1(L1,ΔB1)を最大にする貸付金L1および債券量B1を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
L=u1(L1,ΔB1)-λ{(1+rl1)L1-A1 (L1)+(1+rb1)ΔB1-(1+rd1)(1-γ)D1-L-1 }とおく。変数L1、ΔB1について偏微分して、0とおく。
∂L=0、∂u1 -λ{(1+rl1)-∂A(L1)}=0、
∂L1 ∂L1 ∂L1
∂L=0、 ∂u1 -λ(1+rb1)=0、
∂ΔB1 ∂ΔB1
∂L=0、(1+rl1)L1-A1 (L1)+(1+rb1)ΔB1-(1+rd1)(1-γ)D1-L-1=0。
∂λ
L1*、ΔB1*、λ*が求められる。 □
企業行動と同様に、銀行は、経常業務において、第2期企業短期先物債権・労働先物契約を最適化することができる。また、金融投資業務においても、第1期の貸付金を生成し、残りの余力を債券投資する。次期以降の資産期待効用関数を最大化する、第2期先物貸付金・先物債券契約を求める。
短期貸付先物債権・労働先物市場における銀行の最適化
第2期において、利潤を最大にする先物契約(cb2,cl2)を求める。期間2の効用関数から第2期の最適消費量を決定し、それを第2期の効用関数に代入し、予想価格の分布で期待効用を取り、期待効用を最大にする先物契約量を求める。
問題 4.3 期間2の割引率rc2、預金利子率rd2、賃金率w2および配当率ρ1を所与とし、生産関数b2=l2αk11-αのもとで、利潤π2を最大にする割引量b2、労働量l2を求めよ。
解 期間2の利潤π2に生産関数を代入する。
π2=rl1L1+rb1ΔB1+rc2 (b2+cb2)-{w2 (l2+cl2)+ρ2 k1}-rd1(1-γ)D1
=rl1L1+rb1ΔB1+rc2 (l2+cl2)αk11-α-{w2 (l2+cl2)+ρ2 k1}-rd1(1-γ)D1
変数l2について偏微分して、0とおく。
∂π2=αrc2 (l2+cl2)α-1k11-α-w2=0、
∂l2
2*={w2/(αrc2 k11-α)}1/(1-α)-cl2 、
(b2+cb2)=(l2+cl2)αk11-αより,
b2*=l1*αk11-α-c2b ={w2/(αrc2)}α/(1-α) k12-α-cl2。 □
利潤関数π2=rl1L1+rb1ΔB1+rc2 (b2+cb2)-{w2 (l2+cl2)+ρ2 k1}-rd1(1-γ)D1に、b2*、l2*を代入し、期待利潤関数v=∫π2*(b2*,l2*)
dψ(q)をえる。
問題 4.4 期間2の割引率rc2、賃金率w2は、予想価格であり、確率変数である。それぞれの先物契約価格q=(q c2,q w2)≫0のもとで,期待利潤を最大化する先物契約量(cb2,cl2)を求めよ。
max ∫π2*(b2*,l2*)
d ψ(q)、subject
to q・c=0 。
{ cb2,cl2}
解 L=∫π2*( b2*,l2*)
d ψ(q)-λq・cとおく。
∂∫π2*d ψ(q) =λqb2、∂∫π2*d ψ(q)=λql2、q・c=0。
∂cb2 ∂cl2
解をcb2*、cl2*、λ*とおく。
□
中期貸付先物債権・労働先物市場における銀行の最適化
資産の期待効用関数を最大にする先物契約(cL2,cB2)を求める。期間2の資産効用関数から第2期の最適貸付量、最適債券量を決定し、それを第2期の資産効用関数に代入し、予想先物価格の分布で期待効用を取り、期待効用を最大にする先物契約量を求める。
問題4. 5 期間2の貸付利子率r L2、債券利回りrB2、預金利子率rd2および預金量D1を所与とし、資産投資余力制約式(1+rL2)L2-A2 (L2)+(1+rB2)ΔB2= (1+rd2)(1-γ)D1+L1のもとで、資産の効用関数をu2 =u2(L2,ΔB2)を最大にする貸付金L2および債券量ΔB2を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
L=u2(L2,ΔB2)-λ{(1+rL2)L2-A2 (L2)+(1+rB2)ΔB2- (1+rd2)(1-γ)D1-L1}
とおく。変数L2、ΔB2について偏微分して、0とおく。
∂L=0、∂u2-λ{(1+rL2)-∂A(L2)}=0、
∂L2 ∂L2
∂L2
∂L=0、∂u2-λ (1+rB2)=0、
∂ΔB2 ∂ΔB2
∂L=0、(1+rL2)L2-A2 (L2)+(1+rB2)ΔB2- (1+rd2)(1-γ)D1-L1=0 。
∂λ
u2は凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。
L2*、ΔB2*、λ*が求められる。 □
期待効用関数vに、L2*、ΔB2*を代入し、v=∫u2*(L2*,ΔB2*)
dψ(q)をえる。
問題 4.6 期間2の貸付利子率rL2、債券利回りrB2は、予想率であり、確率変数である。それぞれの先物契約利率q=(qL2,qB2)≫0,自己清算条件q・c=0のもとで,期待資産効用関数を最大化する先物契約量(cL2,cB2)を求めよ。
max ∫u2*(L2*,ΔB2*)
d ψ(q)、subject
to q・c=0 。
{ cL2,cB2}
解 L=∫u2*( L2*,ΔB2*)
d ψ(q)-λq・cとおく。
∂∫u2*d ψ(q) =λql2、∂∫u2*d ψ(q)=λqb2、q・c=0。
∂cL2 ∂cB2
u2*は凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解をcL2*、cB2*、λ*とおく。 □
今週(2024年10月21日~10月25日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、10月15日衆議院選挙公示がありました。17日欧州連合首脳会議が18日までありました。
今週のイベントは、21日に、IMF・世界銀行年次総会がワシントンで26日まで開かれます。22日BRICS首脳会議がロシア・カザンで、24日まであります。23日G20財務相・中央銀行総裁会議がワシントンであります。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
14日 中9月貿易収支 5826億元
16日 日8月機械受注 3.9% -3.4%
17日 日9月貿易収支 -5150億円 -1872億円
米9月小売売上高 0.3% 0.4%
9月鉱工業生産指数 -0.1% -0.3%
ECB政策金利
3.40% 3.40%
18日 日全国消費者物価指数 2.5% 2.5%
中9月鉱工業生産指数 4.7% 5.4%
7~9月期GDP 4.6% 4.6%
9月小売売上高 3.3% 3.2%
経済統計は、次の発表があります。
予想値
21日 中10月中国最優遇貸出金利(LPR)
米9月景気先行指数 -0.3%
23日 日9月全国スーパー売上高
25日 日10月東京都区部CPI 1.7%
9月全国百貨店売上高
8月景気先行指数 106.7
一致指数 113.5
米9月耐久財受注 -1.0%
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 6月 7月 8月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9622億7400万円 1050776百万円 1049070百万円
スーパー売上高 1兆348億1520万円1兆598億8434万円 1兆869億7370万円
百貨店売上高 5018億円 5011億円 4034億円
投資(工作機械受注統計) 1338億16百万円 1239億60百万円 1107億7100万円
輸出
輸入
貿易収支 5363億円 -4827億円 -3779億円
為替レート(円/ドル) 156.95 158.2 147.54
(第2金曜日の前営業日) 6/13 7/11 8/8
物価指数(総合指数) 3.0%
利子率 0.1 0.25(7/31) 0.25
株価 38720.47 42224.02 34831.15
(第2金曜日の前営業日) 6/13 7/11 8/8
原油価格 81.95 85.7 76.8
ドバイ、現物1バレル、ドル、9月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 498887円 403090円 296588円
完全失業率 2.5%
2.7%
2.5%
景気動向一致指数 113.7 117.1 113.5
先行指数 108.6 109.5 106.7
米国
6月 7月 8月
GDP(前期比) 3.0%(確定値)
個人消費 0.2%
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支 -731億ドル -788億ドル
物価指数 3.0% 2.9% 2.5%
利子率 5.25
株価(NY) 38647.1 39753.75 39446.49
第2金曜日の前営業日) 6/13 7/11 8/8
原油価格 78.62 82.62 78.19
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.2%
完全失業率 4.1%
4.3% 4.2%
中国
6月 7月 8月
GDP(前期比) 4.7%
個人消費(小売売上高) 2.0% 2.7% 2.1%
全国固定資産投資(4~6月期)
輸出(前年同期)
輸入
貿易収支 7037億元 6019億元 6493億元
物価指数 0.2% 0.5% 0.6%
利子率(1年物LPR) 3.35% 3.35% 3.35%
株価(上海) 3,028.92 2,970.39 2869.90
(第2金曜日の前営業日) 6/13 7/11 8/8
個人所得
完全失業率(四半期ごと)5.0%
第7回目 2024年10月28日
要点 5章 日本銀行と金融政策
5.1 日本銀行の組織
5.2 日本銀行の機能
5.3 金融政策の枠組み
5.4 金融政策の運営
5.1 日本銀行の組織
日本銀行の目的(日本銀行法第一章第一条,第二条)
「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨および金融の調節を行うこと」および「銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。」
日本銀行の理念(日本銀行法第一章第二条)「日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することを持って、その理念とする。」
日本銀行の組織は、次のようになっている。政策委員会の権限は、日本銀行法第二章第十五条に定められている。第十六条に政策委員会の組織が表5.1.1のように定められている。日本銀行法第三章に、政策員会以外の通常業務等を行う本店各局、地方各支店、海外駐在所、金融研究所等に所属する、役員および職員の定めがある。
表5. 1.1 日本銀行の組織図
政策委員会
総裁1名 副総裁2名 政策委員会室
監事 審議委員 6名 参与
海外駐在所 各支店 本店各局 金融研究所
旧法の組織は、表5.1.2である。
表5. 1.2 旧法日本銀行の組織図
日銀総裁1名、副総裁1名
3名以上の理事 2名以上の監事 参与 政策委員会
執行役員会 日銀総裁1名
任命委員4名(都銀、地銀、商工業、農業の有識者)
海外駐在所 各支店 本店各局 政府代表2名(大蔵省、経済企画庁)議決権なし
金融研究所
日本銀行は、明治15年(1882年)6月に、日本銀行条例の公布にしたがって、同10月設立された。太平洋戦争中、昭和17年(1942年)2月、日本銀行法が公布された。法律大改正は、経済社会の区切りが50年であるという説がある。日本銀行条例では、制度的に無理があったのだろう。戦争中に改正している。
旧法の第1条は、「日本銀行ハ国家経済総力ノ適切ナル発揮ヲ図ル為国家ノ政策ニ即シ通貨ノ調節、金融ノ調整及信用制度ノ保持育成ニ任ズルヲ以テ目的トス」である。国家の付属機関として、国家政策に準じて、通貨供給を調節し、市中金融を調整、金融制度を保持育成することが目的である。
戦争終結後、占領軍の管理下、昭和24年(1949年)6月、政策委員会が追加された。GHQのねらいは、政策委員会を最高意思決定機関とし、国家の付属機関としての中央銀行から、金融政策の意思決定を独立させたい要望があった。次の戦争に、戦費調達する国家機関であっては、再戦争する懸念が払拭できないためである。しかし、表5.1.2にある組織図の意思決定の構造は、政策委員会があっても、政府が、主要な政策手段を審議委員会で決定し、日本銀行政策委員会がそれを追認するだけであり、実務は、日銀総裁・副総裁のもとで、役員会が責任を負っていた。
日本銀行総裁の任命権は、内閣にあり、いわゆる「たすき掛け」任命で、5年ごとに、日銀出身者と大蔵省出身者が交代する人事が続いた。大蔵省は、通常、予算・税制・金融行政3権限あった。大蔵省出身者が日銀総裁になった場合、予算・税制・金融・日銀と4権限を担い、予算・税制を優先する金融緩和政策を採用する傾向がある。バブル期を招いた超緩和政策は、1989年12月退任した大蔵省出身澄田智日銀総裁であった。
旧法のもとで、準備預金制度による準備率の設定・変更・廃止は、大蔵大臣の認可を要する。市中金利の最高限度の決定・変更・廃止について、大蔵大臣の発議にもとづき金利調整審議会に諮問後、審議会の決定を実施することになっていた。表5.2にあるように、残った通貨供給量と債券売買操作が、日本銀行の政策手段であった。前者は、役員会で、戦後、国債発行量は、高度成長が終わる1970年まで、少なく、債券市場は銀行間市場であったから、債券売買操作で、長期金利を調整する必要はなかった。
したがって、旧法下では、政策委員会は、表5.2にある政策手段の発動の決定は、すべて、大蔵省で決められ、政策委員会で、審議の上、決定される。政策委員会は、大蔵省で決められた金融政策を名目的に追認する機関であった。したがって、議事録は公表されなかった。このように、金融政策の意思決定が、日銀以外の政治・政府機関によって実施されるような、権限構造では、日本銀行政策委員会が、独自に政策を実施することはできないのである。
1989年12月新任の日銀出身者三重野康総裁は、バブルを高金利で抑え込もうとしたのは、金利調整審議会の審議を経たのか、分からない(調べればわかるが)。緊急時で、大蔵省は地価税で資産バブルを抑え込もうとし、超金融緩和を停止、金利を上昇させるという、三重野総裁の判断が通ったのかもしれない。バブルは、急速にしぼんだが、地方自治体の開発事業、民間の開発事業が中断され、一気に、景気が悪化した。大蔵省は、世間の非難を受けなかったが、日銀の高金利は、猛反発がおきた。自民党は、1993年宮澤内閣から、下野した。
再び、「法律の有効期限は、経済社会の区切り50年におおむね従う。」という説がある。バブル後、不良債権の山は未処理であったが、1942年から50年、1997年日本銀行法は、改正され、1997年、現行日本銀行法が施行された。旧法の国家主義の文言はなくなり、新法は、国家の文言がない旧第1条の目的を遂行する中央銀行である。
改正後、日銀総裁は、日銀出身から、速水、福井、白川と続き、大蔵省出身、黒田2期、植田学者出身と任命されている。「たすき掛け」人事は、黒田2期で終わった。
日銀出身の3代では、政府と独立した、金融政策を実施し、市場、金融利害関係者に政策を丁寧に説明し、黒田氏に交代すると、新法の理念よりは、旧法下で大蔵省にいたせいか、安倍氏の国家主義政治観と一致した政府と協調した金融政策を実施したことは明らかである。間接金融市場および短期金融市場、債券市場を、問答無用で強圧的、管理する手法は、旧法の大蔵省手法である。10年在任中、物価上昇率2%以上は達成できなかったとしている。ウクライナ戦争で、物価上昇率は継続して、2%を越えたのであるが、10年間、実質賃金率がマイナスに沈んだためだそうだ。結局、超円安、物価上昇率1年以上2%達成したが、10年間、政策目標は未達だったと、任期を終えた。
世界の中央銀行法と比較しても、そん色がない日銀法ではあるが、旧来の大蔵頑固頭では、法律にしたがって、運用して来なかった。それは、資源インフレに対して、一斉に、世界の中央銀行がゼロ金利政策を解除、金利を上げるのが、中央銀行として、常識的、政策転換である。それが、黒田前総裁は出来なかった。
黒田前総裁の3権限と一体化した金融政策運営は、新日本銀行法の理念とは、適合していない。短期金融市場および長期金融市場を、日本銀行の独占権限、金利の変更、債券市場操作を駆使して、デフレション脱却、リフレーションを政策目標とした。大蔵省流の超金融緩和で、株価上昇、債券価格上昇(ゼロ金利)となったが、地価は上昇しなかった。農地改革後の分配された農地が、都市周辺で供給過剰になり、少子時代で買い手がいなく、企業は、海外流出するから、都市の地価は、さっぱりだった。実物経済への金融政策の無効性が意識されている。
日本銀行は、10年間、株式、国債などの異次元緩和商品を買い上げてきたが、バランス・シートを正常化するプランもない。国家主義に毒された黒前総裁時代で、実質的に、戦時国債を全額引き受けた戦時中と同じ結果になっている。植田総裁が、金融市場、金融利害関係者と対話をていねいにし、政府・財務省・日銀の一体化した状況から、どのように、脱却して、政府・財務省から独立した中央銀行に回帰できるのか、長短金融市場の金利・利回り・株価機能回復、通貨の国際信認の回復とともに、仕事は、かなり、難解である。
5.2 日本銀行の機能
5.3 金融政策の枠組み
金融政策の波及過程を図式化すると、次のようになる。
表5.2 金融政策の波及過程の図式
政策手段 手段の数値 中間目標 最終目標(目標数値)
貸出政策 ハイパワード・マネー マネーサプライ ①物価水準の安定(消費者物価指数)
H M2+CD
公定歩合操作 公定歩合 ②経済成長の持続(GDP成長率)
準備率操作 準備率 ③雇用の維持(完全失業率)
債券・手形 債券利回り
売買操作 債券売買量
為替市場 外為資金特別会計 純輸出 資金流出入 ④為替市場の安定(為替レート)
介入操作
この表では、金融政策手段は、日本銀行の重視する政策手段の順に、最終目標は同様に、①から、④まで重視する目標の順に、掲げている。それぞれ数値で公表することができる。
2022年10月16日現在では、日本銀行は、最終目標を①物価水準の2%を目標にしている。これは、従来の物価水準の安定という目標ではない。物価水準の安定でいえば、安倍政権になってから、2015年4月消費税率3%の引き上げ、2019年10月2%引き上げた。このとき、物価水準は、上昇した。それ以外は、2%を超えるときはなく、1%以下で納まっている。日本銀行が消費者物価指数を政策目標にしているのか、企業側の生産者物価指数、輸入物価指数を目標にしているのか、はっきりしない。2022年の4月から、消費者物価が明らかに2%を越える状態となり、目標に到達して、毎月、継続して、2%以上を記録している。半年たつが、依然、何もしない。苦し紛れに、賃金率の上昇が2%に達していないと言い出した。その間、世界の全ての中央銀行は、インフレ抑制に、金利を上げている。インフレになっているのに,その程度のインフレは,想定内であるらしい。しかし、10月の消費者物価指数は、明白に、3%を越え、4%台になるだろう。
金融論テキストでは、消費者物価指数である。雇用状態、失業率ないし賃金率を金融の政策目標に考慮する国は、米国FRBだけである。雇用状態、失業率ないし賃金率、いわゆる、経済成長の好循環なる文言は、日本銀行法の目的の第1条および第2条に明記されていないのは言うまでもない。
コロナ禍2020年では、基準改定が行われ、2020基準年平均0.0%、2021年5月-0.8、6月-0.5、7月-0.3、8月-0.4(前年同月比)(総務省統計局HP)であるから,デフレ傾向が続いている。米国のFRBは、政策目標はコア消費者物価指数であり、2021年5月3.8、6月4.5、7月4.3、8月5.3(前年同月比)で、夏から、ガソリン価格が上昇しているためである。日本より深刻なコロナ禍にある米国で、継続した物価上昇が続いているのは、継続した物価下落が続く日本と対照的である。
日本の物価は、生産者側の寡占価格支配力が需要者側より強い傾向があり、中小零細業者の生産物・サービスは、競争的市場価格形成がある。総合スーパー・コンビニエンスストア、宅配HPストアに、コロナ禍で消費者が集まっていると、寡占価格が効き、企業者物価指数と輸入物価指数が、消費者物価指数を左右しやすくなる。日本経済では、生産者物価指数は、円高もあり、消費者物価指数とは逆に、低下傾向がある。日本は、北海道から鹿児島まで、1500km以上、高速道路が整備されているから、運輸コストは、米国ほど高くない。今年になって、デフレ傾向が続くのは、日本の経済構造からすれば、当然の結果である。
このような日本経済構造で、一般物価水準が決定される。その下で、ゼロ金利政策と金融市場の独占的買い手となっても、2%を超えるインフレは不可能であることを示している。白川総裁の時代のデフレ脱却で、黒田総裁が0%目標より高い1%目標を取ったとすれば、確かに、8年間、1%水準をコントロールの目標としてその上下0.5%の幅では、完全に日銀コントロールに入っていて、成功したと評価されただろう。ちなみに、2015年基準で,2015年0.0、-0.1、0.4、1.3、1.8、2020年1.8である。
従来のIS=LM、AD=ASモデルで、目標のGDPを計算するモデルにおいて、目標のα%の物価水準を決定する貨幣供給量と利子率を求めることは、教科書では示されていない。理論の想定外のことを、『異次元緩和』で日本銀行がやろうとしたが、2%目標は未達であった。しかし、コロナ期に入る前まで、デフレは脱却したといえる。
物価水準は、日本経済構造のもとで、国内内外生産物・金融市場において決定されている。金融政策によって、貨幣供給量と利子率をコントロール変数として、物価水準を決定できるのだろうか。マンデル・フレミング・為替・線形モデルで、パラメターを推計し、金融政策で、制御可能なのか、研究している。
5.4 金融政策の運営
日本銀行が政策目標をデフレ脱却として、期間連続して、2%の物価上昇率を目標とすれば、公定歩合を限りなく0%とし、銀行の日銀当座預金に、マイナス利子率をつけ、国債を市場から規則的に買い取り、ETF投資信託を毎年一定額購入してきた。公定歩合操作、貸出政策、債券・(ETF投資信託)売買操作を総動員して、最終目標を達成しようとしたが、不可能だった。このように、金融政策が有効でない経済状態もある。
それでは、経済成長の持続に最終目標をとり、GDP成長率2%を数値目標にしたらどうだろうか。これは、官民挙げて、国家プロジェクトを立ち上げ、日本経済の世界先進性を促進するプロジェクトに政策融資、投資するようにしたら、GDP成長率2%は、持続的に可能であろう。アベノミクスはそれをめざしたのであるが、根本が戦前の国家社会主義を岸元総理から受け継いでおり、資本主義的成長より、資本主義経済の稼ぎを社会主義的政策である社会保障、育児・教育無償化、働き方改革等に回すから、成長するわけがない。米国流覇権資本主義、つまり、米国は過去がないから未来を実現することで軍事・経済をリードする成長を目指しているタイプと、中国、ロシアのような国家資本主義(主要な国有企業が支援するプロジェクトで、世界覇権をねらう)と比較すると、爺むさく、番茶でお茶を濁すようなものであり、成果はでてこない。結局、日本銀行が、銀行、企業を激励しても、爺むさいプロジェクトが莫大な利益を生むわけもないから、バブルらない。
黒田前総裁は、バブル時代の経験を持っているので、バブルんじゃないかと期待して、超緩和したのだろうが、現在の銀行システムは、2003年までドジな銀行がすべて淘汰され、競争相手が減少し、規模の収益で、そこそこ、生きられるのである。それが証拠に、リーマン・ショックが銀行システムに与えた効果はない。
貸金業法で、所得制限が規定され、零細貸金業は淘汰された。消費者ローンで稼いでいた米系金融業(シティコープ等外銀、証券、保険)は、本国に帰還し、競争相手がいなくなった。米国もそうだが、韓国も、庶民では、小口借金漬けになっている。日本の大手貸金業者が韓国に進出して行った。日本では、名目所得が右肩上がりで、ベースアップが2%あった時代は、年収300万円の所得層は20年で、300万円×1.0220=445.7万円となる。ゼロが20年続くと、年収300万円の所得階層は、そのままである。ここに、日本の労働者の生活困窮化の原因がある。階層シフトが生じず、300万円以下の低所得者は、所得制限で、出世借りができなくなった。日本から、消費者行動から、前食い需要が消滅する歴史的な転換が起きたのである。日本の消費需要は、所得の範囲内、堅実型消費になったのである。これでは、日本経済は成長するわけがない。
所得300万階層は、製造業、第3次産業に多いが、製造業が中国・アセアンに流出した。現在、非製造業が主流の日本経済では、非製造業における生産効率性で評価されることはなく、人間関係・上下関係によって給料が出ているので、その関係間に、モノ、カネが介在しないから、インフレにならない。たとえば、美容院のカリスマ職人は、1顧客当り、1時間で、100万円稼ぐことはできない。銀座のクラブでは、トップクラスのホステスを指名すると、そのような事例はある。コロナ禍で、浮き草家業の著名人の講演会がなくなり、講演料は数百万円だった。また、稼ぎ頭の40歳台~50歳台が、金融再編で、貸しはがし、貸し渋りで、中小企業を淘汰され、製造業の中国流出に、転職を余儀なくされ、「高卒ですか、前社の経歴は0査定で、17万でお願いします。」と言われた人が多い。人間関係でフラット化しているから、給与は上がらず、みんな余力のカネはない。結局、モノのインフレは生じなかった。最悪なことに、サービスの時給が上がるわけがなく、サービス・インフレもなかった。2回の消費税値上げで、賃金が、10%上昇しなかった。消費税5%上げるなら、強制賃上げ5%させるよう、最低賃金を同時に上げるべきであった。企業は財サービスに転嫁はさけ、労働者の「安倍さん・山口さん、非製造業のサービス残業常態化を何とかしてくれ」との声は届かなかった。
黒田前総裁が想定する、1989年のバブルと違って、金融市場と不動産市場の2倍資産リバブルは、生じなかった。しかし、株価は、リーマン・ショック以前を回復した。ゼロ金利政策で、債券価格は、高騰(利回りのゼロ化)したが、日本銀行が国債の発行高の半分買い上げているから、玉がない。株式市場で、投機を仕掛けようにも、業務用の当座預金に、マイナス金利をつけるから、投機マネーの一時預かりができない。東京株式市場は、米国と違って、投機的な変動が少なかったのは、代替安全資産がなかったからである。不動産は、東京オリンピック会場のように、もとの競技場の地上げでしかない。東京都全域は、不動産の地上げは出来なくなっているほど、建て込めている。当然、土地売買の事例が少ないから、地価は2倍にはならない。
結局、物価のインフレーションは、賃上げ不足、寡占支配価格の横行で、歯止めがかかり、資産のインフレーションも同じ状況であった。超緩和では、日本経済の構造に金融ショックを当てられないということである。
2021年12月から、世界情勢が、ウクライナ戦争勃発に動き、2022年2月24日までに、エネルギー価格が上昇した。戦争開始後、ロシア・ウクライナが小麦・食用油・カリウム肥料の輸出国だったため、食料品価格が世界的に上昇した。世界同時インフレーションの始まりである。日本も例外でなく、4月消費者物価指数は2%を越え、8月まで2%以上を持続的に、上昇している。世界の中央銀行は、中央銀行の目的である物価安定のため、景気回復より、インフレ抑制に最終目標を切り替え、金利を上げてきている。この目的に違反しているのが、日本銀行である。世界で、日本に協調して円安を是正する中央銀行は、皆無である。むしろ、貿易利益をあげるから、世界インフレ抑制のため、協調利上げをしたらどうかと言われるだろう。
今週(2024年10月28日~11月1日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、21日に、IMF・世界銀行年次総会がワシントンで26日まで開かれました。22日BRICS首脳会議がロシア・カザンで、24日までありました。23日G20財務相・中央銀行総裁会議がワシントンでありました。
今週のイベントは、27日衆議院議員選挙投開票がありました。開票結果は、自公で過半割れしました。石破氏は、国会で首相に選出され、組閣しました。内閣の仕事は何もせず、すぐさま、解散総選挙に持ち込みました。石破氏の下半白目で、にらみながら、地方を回り、誠心誠意の政治をすると主張しました。都会は、政治家の素養が不足する小泉氏を当てたが、政策がなく、生活難がある市民には、野党の減税政策の方を期待した結果になった。
巷では、闇サイトで、募集、高齢者、弱者を標的に強盗殺人をする犯罪グループが闊歩する。時給1500円にあげる石破首相の政策目標は、日本の労使交渉システムでは、10年かかる。岸田氏の減税政策の名残も薄い。内閣は何もしていない。10月の値上げ攻勢、米の5㎏、2000円から3000円に値上げがずしんと、効いた。結局、自民党としては、裏金派を追い落とす選挙になってしまいました。自民党はすっきり、200人を割ったので、裏金議員はみそぎされた結果はでました。石破首相が、来年までもつかどうかどうかは、危うくなりました。日本国憲法では、衆議院解散総選挙は、選出された衆議院議員で、首相を選出するので、事実上、首相選出選挙です。間接的な実権のある大統領選挙でもあります。
30日日銀政策委・金融政策決定会合が31日まであります。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
21日 中10月中国最優遇貸出金利(LPR) 3.1%
米9月景気先行指数 -0.3% 1.8%
23日 日9月全国スーパー売上高 9945億1727万円
25日 日10月東京都区部CPI 1.7% 1.8%
9月全国百貨店売上高 4229億円
9月全国コンビニエンストア売上高 9773億92百万円
8月景気先行指数 106.7 106.9
一致指数 113.5 114.0
米9月耐久財受注 -1.0% -0.8%
経済統計は、次の発表があります。
予想値
10月29日 日9月有効求人倍率 1.24倍
9月完全失業率 2.5%
10月月例経済報告
30日 日10月消費動向調査 36.8
米7~9月国内総生産 3.0%
10月個人消費
31日 日9月鉱工業生産指数 -3.1%
日銀政策金利 0.25%
米個人消費支出 0.4%
個人所得 0.4%
中10月製造業PMI
11月1日 米10月雇用統計 4.1%
ISM製造業景気観指数 47.6
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 9月 10月 11月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9773億92百万円
スーパー売上高 9945億1727万円
百貨店売上高 4229億円
投資(工作機械受注統計)
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル)
(第2金曜日の前営業日)
物価指数(総合指数)
利子率 0.25%
株価
原油価格
ドバイ、現物1バレル、ドル、9月渡し、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率
景気動向一致指数
先行指数
米国
9月 10月 11月
GDP(前期比)
個人消費
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支
物価指数
利子率
株価(NY)
(第2金曜日の前営業日)
原油価格
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率
中国
9月 10月 11月
GDP(前期比)
個人消費(小売売上高)
全国固定資産投資
輸出
輸入
貿易収支
物価指数
利子率(1年物LPR) 3.1%
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率(四半期発表)
第8回目 2024年11月4日
要点 5章 日本銀行と金融政策
5.5 金融政策を実施するためのマクロ貨幣経済モデル
5.6 金融政策の理論
5.7 日本の金融政策
5.8 貨幣経済一般均衡論における日本銀行の行動モデル
5.6 金融政策の理論
5.4金融政策の運営において、2022年1月から、世界資源・食糧輸入インフレ下、一斉に、世界中央銀行は、インフレ対策の政策手段、公定歩合の引き上げをとりました。日本銀行とFRBとの金利差が5.5-(-0.1)=5.6%に開き、金利差で為替レートは変化するので、2023年10月150円/$に超円安となっています。その間、長短金利差を若干上げただけで、国内インフレおよび超円安に、不作為の態度を取っており、国益を著しく毀損しています。金融政策が硬直的である主な理由は、財政政策の赤字国債利払いを軽減するためです。現在、不作為の日本銀行で、1年8カ月の毎月生鮮食料品を含む2%持続的インフレーションで、(1.02)(12+8)=1.486%となりました。自販機の110円コーヒーは、110×1.486≒163円です。財務省および日本銀行にも、職員食堂に自販機があり、170円になっているはずです。職員も人も子、「給与は上がらないが、インフレで、生活は苦しい。」と実感している。
日本銀行の現在の金融政策目標は、物価上昇率2%、それに誘導できる政策手段を講じていないから、止まらない。世界各国は、昨年の高インフレーションから、物価上昇率半減したままであるが、4~5%はある。引き続き、金利は高止まりしている。
金融政策の理論を述べる。大きく、2種類の両極端の認識がある。一つは、ケインジアンであり、もう一つは、マネタリストである。マクロ・モデルをもっているのは、前者であり、後者は、貨幣需要関数が中心であり、マクロ・モデルは提案されていない。マネタリストは、M.フリードマンが、ミクロ一般均衡理論を想定しているのかもしれないが、断定はできない。
私の立場である新古典派理論では、経済主体が合理的な最適化をするという立場から、最適化の集計によって、各市場が形成され、均衡価格が決まり、最適成長も、均衡価格が変動していくことを想定している。したがって、新古典派には、ケインズがいうようなマクロ変数が存在し、それらの関係式が成立して、マクロ・モデルを形成するという考えはない。
ケインジアン・マクロ・モデルで、労働市場は不完全雇用状態、財市場は、有効需要決定論で、マクロ諸変数の決定をする。
閉鎖ケインジアン・マクロ・モデルで、教科書的に、IS=LM分析と総需要=総供給で、マクロ諸変数を決定し、財政政策と金融政策の有効性を判定してきた。
しかし、日本銀行は、米国の金融政策に従属的であり、株式市場も、米国経済に連動する市場連鎖過程がある。特に、変動為替相場制に、1972年以降して、為替レートの増価に悩まされてきた。開放ケインジアン・マクロ・モデルである、マンデル・フレミング・モデルが、日米の経済連動性を考慮して、金融政策を実施する場合、一つの典型的モデルになる。しかし、変動為替制下、為替市場を金利平価説でモデル化すると、日米の金利差は、日米の為替レートの決定に大きく左右する要因になる。本論は、日米の為替市場を導入し、マクロ変数を決定し、金融政策の有効性を判断している。さらに、ドーンブッシュ・モデルをマンデル・フレミング・モデルに取り込み、比較動学的に、長期的に、到達可能か、分析する。
新古典派の経済主体が合理的な最適化をするという立場から、制度部門別最適化行動は、中央銀行の独占的行動としたモデルを示した。政府部門の最適予算・最適税制の民主的決定モデルを準備している。
中央銀行の金融政策決定と政府から独立まで
日本の学界では、近代経済学とマルクス主義政治経済学が併存していたソ連崩壊まで、マルクス主義政治経済学の立場から、近代経済学批判を批判する立場で、大学で講義されていたはずである。要するに、世界恐慌や金融恐慌は資本主義経済の本質的な矛盾であり、それらが発生すると、大量の失業が発生し、疲弊する人民が革命を起こし、社会主義政府を樹立すると結論づける。したがって、自由資本主義政府が、資本主義経済体制を制御できることは、マルクス主義政治経済学が歴史的発展段階説を取っているため、歴史的必然である革命が発生しないことになり、発展段階に移行しないので困るわけである。
近代経済学では、市場の失敗や政府の失敗が資本主義経済には発生し、独占企業が超過利潤を稼いでいくから、公共財の供給を代替し、民主主義で政権交代をさせ、独占禁止法で競争を促進する、混合経済を主張するようになってきた。
高校の『政治経済』の国定教科書では、資本主義経済は混合経済を主張するケインズと、第1次世界大戦後、社会主義革命がロシアで発生し、敗戦国ドイツ、オーストリアは、オーストリア革命、ドイツ革命が起き、帝政が倒れ、社会民主党等が指導する共和国に移行している。『資本蓄積論』のユダヤ人ローザ・ルクセンブルクはドイツ革命当時、ドイツ共産党を創設し、1月蜂起後、逮捕虐殺されている。ドイツ社会民主党の理論指導者は、ウィーン大学医学部卒、『金融資本論』のユダヤ人ヒルファーディングであり、ナチスに追われ、やはり、フランスで拘束され死亡している。ともに、マルクス経済学者である。
シュンペーターは、オーストリアが社会民主党政権になり、資本主義の本質の研究は、ヨーロッパでは不可能な時代になったし、1927年、ハーバード大学の客員教授で渡米し、1929年の米国発世界大恐慌を目のあたりにして、自説の研究のため、米国に残ったのかもしれない。2020年、私のリマインダーを書いて、ウィーン大学のカール・メンガーをハーバード大学に呼び寄せたのは、シュンペーターだろうと思う。シュンペーター『資本主義、民主主義、社会主義』では、民主主義がファッシズムで全体主義を強制されたことに、民主主義に力の弱さを見たか、資本主義は、独占資本に牛耳られ、利潤率、自然利子率がゼロになり、官僚制がはびこって、社会主義に移行するという結論に至っている。
世界で、中央銀行の強制的なゼロ金利時代があり、政府は社会主義的政策をとってきた。一体どこの誰が、ゼロ金利をしたのかと言うと、欧州中央銀行総裁であったイタリア人のドラギ氏である。その間、ゼロ金利で、国家経済は成長せず、資本主義経済が劣化し、米国・EUでは、極右ポピュリズム政治家の台頭を招いた。日本では、右派安倍政権の台頭である。
ウクライナ戦争で、化石燃料・食糧・肥料等で世界的な生活用品インフレーションが発生した。この際、資本主義経済では、政府が、化石燃料・食糧・肥料等の安定供給を確保し、その在庫が備蓄タンク・倉庫に半年以上あることを国民に見せれば、インフレーションの根本原因を政府が抑えたことになり、楽々、インフレーションを抑制することができる。しかし、各国政府は、緊急・一時的に、価格上昇補てんでインフレ対策をしている。これでは、インフレーションは収まらない。需要者は、インフレ価格で購入できるからである。
金融政策で、ゼロ金利政策をとるのは、政府が、資本主義経済を否定し、社会主義経済にすることを強制しているのではないか。日本経済が成長しているときに、経済成長率以下の低金利政策2%をとったが、銀行システムを否定する愚の骨頂はしなかった。過去の経験から、ケインズの言うように、銀行システム維持のための『流動性のワナ』1%は、維持すべきだった。これがあると、ハイパー・インフレーションに対するバックアップ金利になるし、金融政策もインフレーションの頭を抑えやすい。特に、中小零細企業の生活必需品・生鮮食料品のハイパー・インフレーションは、上昇を緩和できる。
社会主義の台頭と修正資本主義
第2次大戦後、ヨーロッパ諸国において、社会主義政党が支持された。特に、社会民主党が躍進した。中国は1949年、社会主義国として、建国した。しかし、共産党の計画経済はうまくいかず、1978年、経済開放に踏み切った。中国は天安門事件後、1993年、社会主義市場経済へ移行、ソ連の崩壊で社会主義体制の記述は終わっている。日本経済は、大企業の不祥事で経済倫理が欠如する経営者が頭を下げている写真がのせてあり、公共財の供給を重視する公共経済の記述が多い。資本主義の特徴である市場経済の需要曲線と供給曲線が交差したところで均衡価格が決まることは、コラムで載せてあるだけだ。半官半民の日本銀行の機能と金融政策の実施については、金融論の教科書どおりである。高校教科書著者の認識では、日本銀行は政府の歳出と歳入、短期融資、国債発行の実務、外国為替の実務を担当しているから、準政府機関なのだろう。
毎年、新入生に、経済学を教えるのに、高校政治経済の教科書を取り寄せ、以上の記述を、大学の経済学と連携するように、資料配布とパワーポイントで、1時間教えた。毎年、調べると、新入生が『政治経済』を履修したのは3分の1以下であった。実業界の取締役が「学生時代はマルクス経済学を勉強したが、就職後は自由資本主義経済だ。特に、労働組合はマルクス主義だ。」と話すのはよく聞いた。戦前の社会主義者の勉強会の話がある小説では、「マルクスの資本論は、理解しがたい。」とある。私は、『資本論』がユダヤ人特有の歴史叙述があるのと、ドイツ哲学を組み込んで、古典派経済学を批判しているので、よほどのヨーロッパの学問の素養がないと、戦前の労働者には、理解できないのは当然だ。しかも、19世紀以来、キリスト教批判が出て、無神論者、唯物論者が社会運動に加わってくるからややこしい。金融論で言えば、私の大学院時代に流行った、ユダヤ人D.Patinkinの『貨幣・利子および価格』は、ミクロ理論が期待効用を使って独特であるのと貨幣の学史が独特であるが、ミクロ・マクロの整合性がついていないので、難しい。
戦後世界の政治の世界では、労働者階級の立場から、資本家を擁護する自由主義政党を攻撃する社会主義政党が勢いを得た。
追手門学院大学では、経済原論を担当するようになって、全く触れないわけではないが、ソ連崩壊後、1994年、日本社会党が自民党と連立すると、社会党の公務員政治勢力が、共産党対策の受け皿だったようで、日本共産党が政権を取る可能性はなくなったと考える国民が多くなったのか、1996年日本社会党は分解した。経済学会でも、1990年代は、社会主義的な資本主義経済批判の報告は少なくなっていった。私が1980年代、ヨーロッパの東西冷戦問題で特に、東側のバルト3国以外の各国を研究視察している間、ゴルバチョフ書記長時代によって、最後はブッシュ米大統領と核軍縮をし、冷戦は終結した。東欧革命はソ連の内部問題であり、米国は東欧革命には関与していない。ソ連と米国の核軍縮によって、ヨーロッパから、東西向けの核ミサイルが撤去され、ソ連の西側都市へのミサイル照準がはずされた。プーチン大統領は、ウクライナ問題のとき、また、照準を付けようかと言ったぐらいだから、現在も外されているのだろう。
日本は、日米同盟により、米国の傘に入っているため、現在も、ロシア連邦の地下サイロには、日本向けの核ミサイルは存在する。ソ連解体よって、日本外交上のポジションは、影響なく、平和条約は締結されない。ロシア連邦になって、4島返還しないのは、中国が尖閣諸島をしつこくねらっているのと同じ理由で、ロシア海軍の艦船の出口を確保、米国艦船の侵入を阻止するためである。
日本では、ソ連崩壊後、ケインズが生き残こり、大学では、ケインズマクロ経済学が主流となった。アメリカでは、ケインズの主張は、公共財の供給を景気対策に使い、失業を解消するととらえているが、できるだけ、公共財は最適供給にし、民営化を主張する市場主義者の主張が通る。新古典派経済学の流れも、ウィーン大学から、アメリカに亡命、あるいは移民した学者を中心に活躍したので、ケインズ経済学がアメリカ経済学の典型的な経済学ではなくなっている。イギリスは、サッチャー時代から、公共企業が非効率性で慢性赤字化するので、民活を主張するようになった。民間でできることは民営化することで、公共経済の肥大化を適正化する政策である。日本も国鉄民営化、電電公社民営化、郵政民営化、国立法人化で、準企業、教育・医療機関を国営から切り離してきているのが同様な流れである。
したがって、政府は、市場が成立する条件を整理し、市場の失敗が生じないように、法規制、行政指導することが任務となっている。市場機能が発揮できる財・サービスは、民間に権限を委譲し、市場が競争機能を発揮できるように促すことである。
日本銀行法の1997年改正 政府から独立して金融政策を実施できる
日本銀行は、1997年以前では、政策委員会に、金融政策を市場関係者、国会において、説明する義務はないから、政策の変更は、新聞に発表する程度でしかなかったろう。政策金利は、大蔵省の審議会で決定されるのであるから、日銀の役員会が、実務を粛々とつかさどっていたのであり、メディア、学会や業界で、米連邦準備制度理事会のような説明を期待しても、無理であった。したがって、大蔵省が3権限(予算、租税、金融・国際金融)を掌握して、公共経済を運営している間は、官界はケインズであったから、大蔵省は、ケインジアンだったのであろう。1997年日本銀行法改正以降、検査情報の漏えい等で、大蔵省は金融行政をはずされ、金融庁に移管され、省庁改革により、財務省と改称、権限として予算、租税(国際金融)が残された。ただし、日本銀行の監督権限は、財務省に残されている。
私が、日本金融学会に入会したのは、阪神大震災以降、1995年頃だった。実は、1982年頃、上智大学で開催されたころ、見学に行ったのだが、歴史学派のセッションでは、特別な言い回しの報告があり、近代経済学とマルクス主義政治経済学が併存できた「いい時代」であった。その頃から1989年まで、社会主義諸国を回る研究旅行を、ソ連、東欧、ユーゴスラビアの各国のご好意で、ビザを出してもらい、全旅程の手配を希望通りしてもらい、航空券・列車乗車券・宿泊バウチャーで、不都合もなく、社会主義経済を研究視察することができた。その反面、西ヨーロッパも見聞することができた。また、中国、インド、東南アジア諸国も同様である。しかし、パキスタンは1985年、インドで敵対的な雰囲気を感じたし、イラクは第1次湾岸戦争後、アーメダバードから観測するだけで、行くどころではなく、イランは、1988年夏、バルト3国にインツーリストで旅程の手配を取ってり、トルコ・イスタンブールから、気になるイランを訪問しようと、テヘランに予約を取っていたが、当時、航空会社で断られた。イラン・イラク戦争が1988年8月20日国連決議を受けて停戦したときだった。現在、イランに行くと、米国に入国できないそうで、退職前、ペルシャじゅうたんを研究室に敷こうと思い、ドバイ経由で旅行手配を頼み、行けるようにしたが、米国とイランが緊迫して、中断した。
米国の入国制限は、中東でもあった。私が、イスラエルにビザなしで、1986年夏、西ドイツから行ったとき、イスラエルの入国スタンプがあると、アラブ諸国には入国できないと、旅行書にたったので、スタンプなしの申請をしたのと同じである。その足で、ジブラルタル海峡とカサブランカを視察しに、モロッコに行ったら、welcomeだった。
イスラム乾燥ベルトは、砂漠と禿山しかないのに、自由に通行できないイスラム統治の伝統がある。これが、スペイン・ポルトガルが大航海時代を開いた原因でもある。日本の藩政時代、関所があり、一般人は通行不可能だったが、それに似たイスラム封建統治が今も各国政府に残っている。南北問題が、共産主義と自由民主主義の西洋発生統治理念対立という、フランス革命を発端とする、キリスト教圏で発生した暴力革命を内包する統治理念対立より、とてつもなく、解消が困難な歴史的な統治理念対立問題でもある。東西冷戦問題の解決は、私の予想通り、1982年夏、ソ連研究旅行を開始して、1989年秋、平和裏に、終結した。
日本銀行の金融政策の基本は、バックが大蔵省の財政政策の立場がケインジアンであることを踏まえ、公共経済による景気対策が継続してあること、対米貿易黒字による為替レート増価対応、大蔵省の決めた金利のもとで、貸付、国債発行をすることになる。したがって、日本銀行は、行き過ぎた円高にならない日米の金利差を維持、景気対策のための低金利、大手銀行に対する貸付、国債発行利回りを低く設定により、大蔵省のケインジアン財政金融政策を中央銀行として実行していたのであろう。公共経済による景気対策が補正予算のように継続すると、いわゆる、インフラ投資であるから、それが税収増となって、国債を償還できるわけではない。国債発行残高1000兆円となっている。
1997年改正法から、日本銀行は、政策委員会による金融政策決定会合の決定事項を、説明するようになった。現在、財務省の財政政策を考慮に入れつつ、2%のインフレ・ターゲットを最終目標にして、超金融緩和を継続している。『金融論2022年』では、テーラー・ルールを紹介しているが、すでに、実施している国々では、理論的なルールが公表されているわけではない。
日本銀行の金融政策とマクロ開放貨幣経済モデル
従来のIS=LM、AD=ASモデルで、目標のGDPを計算するモデルにおいて、目標の100ε%の物価水準を決定する貨幣供給量と利子率を求めることは、教科書では示されていない。比較静学モデルであるから、中央銀行が金融政策で、貨幣供給量をΔM増加させ、1回で、目標物価水準ΔP/P=εとなるΔMを求める。テキスト第10章から、為替市場の均衡を所与とする。
IS曲線は、財市場の均衡式から導く。
Y=C0+c(Y-T0)+I0-i +G0+mwYw-e Pw(mY) /P 10.
1
LM曲線は、貨幣市場の均衡式から導く。
M/P=kY-i
10.
2
投資関数と流動性選好関数を線形化した10.1式と10. 2式から、iを消去すると、Y、Pの関数が得られる。
Y=C0+c(Y-T0) +I0+M/P-kY+G0+mwYw-e Pw(mY) /P (1)
これは,AD曲線である。
不完全雇用の場合をCase Iとすると、労働市場の均衡式は、第9章の結果から、w0=PFNである。AS曲線は、線形化すると、P=αYとすることができる。新古典派の完全雇用の状態をCaseⅡとすると、AS曲線は、PY=Aと表すことができる。したがって、CaseIとCaseⅡとを一致させると、不完全雇用が長期的に解消する物価水準と完全雇用国民所得が決まる。すなわち、Y=√A/α。
このマクロ貨幣経済モデルにおいて、中央銀行が金融政策で、貨幣供給量をΔM増加させ、目標物価水準ΔP/Pを仮定し、逆算できる。
まず、現行均衡価格と均衡国民所得を求める。(1)式に、P=αYを代入し、整理する。
α(1-c+k) Y2-(αU-e Pwm)Y-M=0
これは、異なる正負2根をもつ。正根を均衡国民所得Y*とする。均衡価格はP*=αY*である。目標物価水準ΔP/P*=εであるから、ΔP=P-P*=εP*。すなわち、P=(1+ε)P*となればよい。AS曲線に代入すると、P=αYより、Y1=(1+ε)P*/α。
貨幣供給量をΔM増加させる。α(1-c+k) Y2-(αU-e Pwm)Y-(M+ΔM)=0を上と同様にして、解く。正根を均衡国民所得Y**とする。均衡価格はP**=αY**である。この均衡価格と目標物価水準P=(1+ε)P*と一致させるP**=(1+ε)P*から、ΔMを求める。為替市場は所与としているから、解はある。日銀の目標は、理論的には、比較静学ではなく、比較動学で、継続して、物価が上昇し、2%上昇になると想定している動学的目標になるのである。
物価水準は、日本経済構造のもとで、国内内外財・サービス市場・金融市場において決定されている。日本銀行は、為替市場は変動相場で決まるとし、為替介入は出来ない。財務省が円の国際価値維持のため、為替介入ができる。マイナス金利-0.1%のもとで、貨幣供給量をコントロール変数として、継続して、物価が上昇し、2%上昇に抑えることは、2024年3月まで、日銀はできないでいたが、以降、マイナス金利を解除、政策金利として,無担保コールレートとし、誘導目標を決定し、0.1%とした。
5.8 貨幣経済一般均衡論における日本銀行行動モデル
4章4.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動に対応して、日本銀行の経常業務と金融投資業務の決定を2期間モデルで考える。日本銀行は、銀行および金融機関に対して、独占的に行動する。
経常業務
・発券業務により、その国の通貨を発行できる。
・通貨の供給量は、日本銀行が裁量で決める。
・銀行が持ち込む銀行手形を割引率rcで割引、日銀券を渡す。銀行に貸出す場合、貸出利子率である公定歩合をrl、市中預金利子率をrdとする。預金 利子率は、銀行間の競争があるが、rl>rdである。日本銀行は、短期利子率の関係を決定している。
・日本銀行は、国から国庫の出納を委任されている。短期の納税金の収納、予算執行の小切手による支払は、日本銀行の当座預金で行われ、つなぎ の政府短期証券および短期国債は、前者が割引債、後者が付利債の違いがあるが、市中消化し、売れ残りは日本銀行が引き受ける。
金融投資業務
日本銀行は、長期債券市場において、投資目的で、中・長期国債、適格事業債等を売買できる。これを公開市場操作という。日本の債券市場は、高度経済成長が終了した1970年代、経済成長率の低下が生じた。その底打ちは、1980年代であった。その間、膨張した生産力に見合う総需要を建設国債で支えた。税収不足は、建設国債でまかなった。債券市場は、国債の日本銀行引き受けは禁じられているので、市中消化がすすんで、市場規模が増大した。銀行、証券会社、保険会社は、投資目的の債券保有が増大し、日本銀行の一時的、公開市場操作で、公定歩合を引き上げる金融引締め期は、債券市場で、債券の売り操作をし、通貨の流動性を引き締める。
日本銀行行動モデル
4章で、独占的競争下における銀行行動を定式化したので、それを応用して、日本銀行行動モデルを定式化する。
経常業務
まず、経常業務は次のようにモデル化される。
全銀行は、預金D1から、準備率γをかけたγD1を預金利子率で、日本銀行に準備預金R=γD1をする。
短期与信で、持ち込まれた残存期間1ヵ月の銀行手形btを割引率rcで割り引く。割引料はΣt=112btr30/365とする。政府短期証券および短期国債合計bgtを引き受ける。前期の貸付金L-1から、元利合計(1+rl-1)L-1、長期国債の利息rbB-1を受け取る。前期預金D-1に対して、預金利子率rd-1で、利息を支払う。日本銀行員の労働量をl1、銀行の不動産・設備等の資本量をk1とする。以上を、年間の経常業務とする。
日本銀行は、国家公務員に準じて、年間予算で、労働費l1、経費、固定資本k1が決められる。これらは一定である。日本銀行の総費用C1は、C1=ΔM+R1+Dg1+C0、銀行券発行枚数ΔM 、準備預金R1=γD1、政府預金Dg1、固定費C0=w1 l1+ρ1 k1とする。全銀行システムの信用創造で貸出金b1は預金になる。すなわち、全銀行の預金はD1+b1となる。
C1=ΔM+rd1γ(D1+b1)+Dg1+(w1 l1+ρ1 k1)=ΔM+rd1{γ(D1+b1)+Dg1}+C0。
日本銀行の利潤π1は、π1=rl-1L-1+rb-1B-1+Σt=112btrc130/365+Σt=112bgtrg130/365-C1と表す。期間1の利潤関数をπ1とする。銀行手形をb1=Σt=112btrc30/365とおく。政府短期証券をbg1=Σt=112bgtrg130/365とする。
日本銀行は独占銀行行動をとる。期間1のフロー利潤最大化問題は次のようになる。
問題5.1 期間1の割引率rc1および預金利子率rd1は、日本銀行が独占的に決定できる。割引量b1は割引率rc1の関数である。政府短期利回りrg1、預金利子率rd1、賃金率w1および配当率ρ1を所与とし、利潤π1を最大にする割引量b1を求めよ。
解 π1=rl-1L-1+rb-1B-1+rc1 b1+rg1 bg1-C1を変数b1について微分して、0とおく。
dπ1=rc1(1-1/ε1)-rd1γ=0。
db1
限界収入MRはMR=rc1(1-1/ε1)であり、限界費用MCはMC=rd1γである。短期金融市場において、限界収益が限界費用に等しい割引量において、銀行需要曲線上の割引レートr c1が決まる、すなわち、
rc1*=rd1γ/(1-1/ε1)。 □
金融投資業務
日本銀行の期末バランス・シート制約式は、L1+B1+p1k1=M1+R1+D1+Dg1+E1である。ここで、M1 は、発券高である。p1は実物資本k1の再調達価格である。E1は株式資本金である。今期の預金D1は、前期預金D-1から今期の引出金w1を差し引き、新規の預金d1を合わせたものである。D1=D-1-w1+d1。今期間の発券量をΔMとする。ΔM,返済金L-1および準備預金R=γD1を投資資金余力A=ΔM+L-1+γD1とする。
今期間において、日本銀行の資産評価制約式は
(1+rl1)L1-Al(L1)+(1+rb1)(B-1+ΔB1)+p1k1=M-1+ΔM+L-1+(1+rd1)γD1+ (1+ρ1)E1 (1)
である。
今期間の資産評価制約式のもとで、全銀行を貸出資金需要者として、1年満期貸出金L1を生成し、余力の残りを、公開国債市場において、国債ΔB1を購入する。これを金融投資業務ということにする。金融投資業務においは、第1期の貸付金を生成し、残りの余力を債券投資する。
日本銀行の最適化問題は、次のように設定される。価格ベクトル(rl,rb)と賦存量(k1,D1)を所与として、資産効用関数u1を最大にする行動(L1,ΔB1)を決定する。日本銀行は、貸出金に対して、貸倒引当金を銀行リスクランクに応じて、余力から差し引く。貸倒引当金関数AlをAl=Al(L1)とおく。L1の増加関数である。
日本銀行は貸出資金市場において、独占銀行行動をとる。期間1の効用関数をu 1(L1,ΔB1)とする。期間1の資産効用最大化問題は次のようになる。
問題5.2 期間1の貸出利子率r l1、債券利回りrb1、預金利子率rd1および配当率ρ1を所与とし、資産評価制約式
(1+rl1)L1-Al(L1)+(1+rb1)(B-1+ΔB1)+p1k1=M-1+ΔM+L-1+(1+rd1)γD1+ (1+ρ1)E1 (1)
のもとで、資産効用関数u1(L1,ΔB1)を最大にする貸出金L1および債券量B1を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
L=u1(L1,ΔB1)-λ{(1+rl1)L1-Al(L1)+(1+rb1)(B-1+ΔB1)+p1k1-M-1-ΔM-L-1-(1+rd1)γD1- (1+ρ1)E1
とおく。
変数L1、ΔB1について偏微分して、0とおく。
∂L=∂u1-λ{(1+rl1)(1-1/ε2)-∂Al(L1)}=0、
∂L1 ∂L1 ∂L1
∂L = ∂u1 -λ (1+rb1)=0、
∂ΔB1 ∂ΔB1
∂L=0、(1+rl1)L1-Al(L1)+(1+rb1)(B-1+ΔB1)+p1k1=M-1+ΔM+L-1
∂λ +(1+rd1)γD1+ (1+ρ1)E1
貸出利子率rl1は、独占的に決定できるが、債券利回りは市場機構で決まる。 □
以上、日銀の金融政策手段、預金利子率rd1、準備預金率γ、貸出利子率rl1、通貨発行量ΔMは、パラメターとして、L1,ΔB1の最適値に入っている。
テキスト本文では、日本銀行勘定と全銀行勘定で、第一段階、各手段の波及効果を勘定の変化で見た。ケインジアン金融政策波及過程は、不均衡経済成長論における動学的乗数過程であるが、金融論のテキストの範囲内では、見かけない。マネタリストおよび新古典派による金融政策波及過程は、一般均衡モデルを基礎とするので、ケインジアンの乗数過程とは、違いがある。それは、7章M.フリードマンの新貨幣数量説の調整過程、図7.5をみてもわかる。
今週(2024年11月4日~11月8日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、30日日銀政策委・金融政策決定会合が31日までありました。
今週のイベントは、5日米大統領選投開票日です。東証が取引時間を午後3時30分に延長します。6日米連邦公開市場委員会が7日まで開かれます。パウエルFRB議長が、0.25%政策金利を下げる予想が有力です。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
10月29日 日9月有効求人倍率 1.24倍 1.24倍
9月完全失業率 2.5% 2.4%
10月月例経済報告 一部足踏みも穏やかに回復
30日 日10月消費動向調査 36.8 36.2
米7~9月国内総生産 3.0% 2.8%
GDPデフレータ 2.1% 1.8%
10月個人消費
3.7%
31日 日9月鉱工業生産指数 -3.1% -2.8%
日銀政策金利 0.25% 0.25%
米個人消費支出 0.4% 0.5%
個人所得 0.4% 0.3%
中10月製造業PMI 49.9 50.1
11月1日 米10月雇用統計 4.1% 4.1%
ISM製造業景気観指数 49.8 50.3
経済統計は、次の発表があります。
予想値
11月5日 米耐久財受注 0.4%
6日 米ISM非製造業景気指数 51.2
7日 米貿易収支 ―745億ドル
日毎月勤労統計
8日 米FRB政策金利(上限) 4.75%
日全世帯家計調査 -1.2%
景気一致指数(速報) 115.5
先行指数(速報) 109.1
9日 中消費者物価指数
第9回目 2024年11月11日
要点 6章 政府の活動と財政政策
この章は、財政学のテキストに沿った構成になっている。すなわち、
・政府の活動は、日本国憲法にもとづいて行われる。政府の活動の3つの機能と予算過程・租税過程・決算の経過を説明する。
・マクロ経済3部門モデル財・サービス市場において、均衡国民所得を求める。
・政府は、財・サービス市場において、政府支出と租税を政策手段に用いて、最終目標を定め、財政政策を行うことができる。
6.1 政府の活動
6.2 3部門モデルでの国民所得の決定
6.3 財政政策の有効性
6.4 貯蓄・投資の均等図による財政政策
6.5 貨幣経済一般均衡論における政府活動モデル
6.1 政府の活動
貝塚啓明・館 龍一郎の『財政』岩波書店、1973年を読んで、流れを考えたが、日本政府の最終目標は経済成長であり、短期的には、マクロ経済3部門モデルで均衡所得を求める。長期的には、新古典派成長論が根底にあった。しかし、バブル以降、公共投資が削減され、全国的に、建設業の600万人産業は、半減して行き、小泉内閣から、地方への公共投資を中心としたいわゆる景気対策は減少し、都市開発に重点投資されるようになった。公共投資による景気対策を主張する政治家は力を失った。その結果、国債の発行残高が積み上がったまま、国債管理はどうするのかという議論は、貝塚啓明『財政学』第3版2003年ではない。
この問題に答えるために、長期的モデルである新古典派成長論から発展させるにも、新古典派経済は実質変数で解を求めるから、ストックである国債資産残高は、導入できない。したがって、国債残高による財政圧迫と経済成長の目標を達成する財政政策は、日本経済の試算可能な長期モデルから公共サービスの供給量を決定することが望まれる。
ここで、公共サービスの供給は、議会制度で選出された内閣が原則的に政府支出を算出、国会で審議され、修正された予算案が承認されれば、毎年、実施される。その際、日本国憲法において、財源は、租税法の改正案が国会で決議される。米国憲法では、予算も租税も法律であり、決議が必要である。
新古典派では、基本は市場原則で、私的財の取引が決まる。以上の財政学では、政府がどのような政治過程から選ばれたかは、問題にされない。財政学は、選出された政府から議論が始まり、定められた租税法にしたがい強制的に徴税し、公共サービスの供給は、政府が独占的に決めるとしている。議会制度に基づいて、4年間という中期に国民が選出し、負託した政府が、国民の公共サービスの満足度を満たすように、公共サービスを供給するという最適政府理論はある。J.
Tinbergen et al “Optimal Social Welfare
and Productivity,” 1972にある、自由・資本主義体制と共産主義政治経済体制を比較し、冷戦下、両体制の今後を論じたものである。
東西冷戦が1989年終結し、ソ連・ユーゴスラビア連邦は、1993年、解体し、共産主義政治経済体制は終わった。EU、ロシア連邦、旧ソ連加盟国、旧ユーゴスラビア連邦加盟国では、それぞれの議会制民主主義制下で、共産党、社会主義政党は支持を残している。経済・社会活動の仕組みは、資本主義体制に移行し、冷戦体制時代よりは、相互間の民間取引は、はるかに、取引量は増加している。
新古典派にある最適政府論は、最適租税論のもとに、国民の社会的厚生を最大にする最適公共サービス供給論にまとめられるかもしれない。社会的厚生関数の存在をうさん臭く思う経済学者は、多く存在する。1年間、経済・社会活動の成果は、階級に従って分配されると考える社会主義者は、公共サービス供給も、階級的分配になる。しかし、最適租税論では、公共サービスの財源は、最下層の階級は、サービスの恩恵は受けるが、課税さえることはない。また、最上層の階級は、サービスの提供をは受けないことで、満足している。公共サービスの財源負担は、所得を稼ぐか、働く労働者が累進的に負担し、公平に、公共サービスの提供を受けている。公共サービスを累進的負担金で、公平に享受する仕組みを運営する主体が、議会制民主主義で選出された政党・政府である。この理論を、東西冷戦終結後、書いたのだが、いまだに、日の目を見ることはない。現在、政府部門の経済・社会活動規模が、大きくなりすぎている。マクロ経済モデルの最適化理論を研究している中で、長期モデルでは、政府部門の経済・社会活動の最適決定過程を導入する必要がある。例えば、地球温暖化対策で、各国政府が実質ゼロを30年間で達成するという経済・社会活動は、機械的な計画では、達成できない。
日本の人口構造の長寿化で、社会保障費の増大に、消費税を充てる議論が進み、10%になった。新古典派成長論は、人口構造を仮定し、長期的には、経済成長の内容に、新製品、新産業など需要の創造を伴う技術革新があれば、経済平衡点に、早く収束することを主張している。最適な、「小さな政府」で、社会保障サービスの需要者に最適な提供をし、市場経済に新製品、それらを供給する新産業など需要の創造を伴う技術革新を支援する制度、投融資をするのが、その理論に沿った財政になり、国債残高は減少する最適経路が存在するということを示すのが、『財政学』の役割である。
6.3 財政政策の有効性
前回、日本銀行の金融政策は、改正法まで、役員会の金融政策の運営責任を自覚して、政策目標を決定し、政策手段を実施していたようには思えないとのべた。近年の日本銀行の失敗は、バブルを放置したことであるが、バブル後、学界では、マネタリストの発言が大きくなり、急激に利子率を上昇させ、銀行を貸付金の回収に追い込むべきではなく、ソフトランディングさせるべきだと、1929年以降の米連邦準備制度理事会の政策と重ね合わせた議論が多かった。これは、リーマン・ショックの際、米連邦準備制度理事会は、日本の経験を参考にしたようだ。世界の金融界は、米金融機関のサブ・プライム・ローンの証券化で大迷惑したわけだが、中国、ロシアも、新興国も景気後退に対して、財政政策がとれる国は、内需を支え、中国は南欧の国債暴落を買い支えた。日本は、財政政策で内需を支え、米国のサブ・プライム証券を買った銀行は少なく、金融システムにダメージがなかったことは幸いだった。米銀行、米証券、米保険は日本から撤退していった。
今考えると、中国が南欧の国債暴落を買い支えたことは、当時、問題視されなかったが、ギリシャや南欧などを債務漬けにし、それを、てこに「一帯一路」の戦略構想を実現する布石だったようだ。その証拠に、ギリシャは、すでに、中国に港湾を与えている。ロシアにキプロスを与えてトルコに対抗しているギリシャは、すでに海運資本が資本逃避しているから、主要産業は観光と農林漁業で、公的企業と公務員が巾を利かす社会主義国家であり、中国には、ギリシャ政府の窓口で話しやすいのだろう。
2010年以降、中国経済が膨張し、EUへの終点地港湾と契約し、「一帯」の拠点攻略に入っていたわけで、日米豪は対抗上、従来の軍事、経済関係を維持するように要請する展開になっている。そこに、トランプ大統領が登場し、中国経済が膨張に、米国が利用されることに反対し、米中貿易戦争の最中である。
中国が債権国を盾に、使用権を確保し「一帯」の拠点攻略することは、中国の自己中的な戦略であり、従来の関係が築かれている国々から批判が高まっている。従来の関係が築かれているアジアとヨーロッパと間の自由経済回廊と、中国の主張する「一帯」は、中国の製造業の製品を輸出することが目的ではなかろうか。それらの国々に中国製品を供給していくのである。日本はそこまで厚かましく売り込んではいかないが。米国も悩むが、日本も、技術ただ取り、知的財産権を無視して、偽ブランドを新興国に売り込まれると困る。2019年は、以上で終わっている。
2020年に入って、2月から、中国武漢発の新型コロナウイルスの流行が始まり、緊急事態宣言下、経済・社会活動は、部分的に停止し、財政の緊急支援が必要になった。日本銀行も、企業、個人業に資金繰りを支援することになった。緊急事態宣言が開城されると、その反動で、第2波が発生し、小康状態になると、冬季に入り、再び、流行都道府県で感染者の増加がみられた。その後、第4波と第5波が流行し、2021年、11月では、第5波は小康状態になった。以上のような、緊急事態に対する財政・金融政策が実施中であり、政府・日銀は、経済・社会活動が2019年の活動水準に復旧するまで、国民を支えるしかない。
財政政策の有効性については、経済理論では、財政支出の経済的効果は、即時的効果があっても、経済全体に波及する効果は弱いという見解が多数である。特に、国際貿易に依存度が高い開放経済国では、財政政策は、経済成長や、雇用には、効果はない。日本では、自公政府が、景気対策と称して、補正予算を組むということを毎年、実施しているが、日本経済を押し上げる効果はない。かつて、全国土木事業がある時代のイメージを政治家がもっていて、補正の知恵を絞りだそうとするが、地方人口減少で、土木事業の対象がない。反対に、人口が集中する都市は、土地が密集建物で埋め尽くされ、やはり、公共用地がなくなり、無料の最深度地下30メートルを利用するか、サービス業しかないから、ここには、バラ撒けない。メインテナンスの時代になっているかもしれない。たとえば、決壊した千曲川の河川敷を利用したりんご畑を、掘りあげて、千曲川の流量を底上げする、ダムの蓄積した土を排出する、それは、建材に利用して、利益を上げる。かつて、京都左京区上高野にもどったとき、鴨川に三条まで中州ができて、見苦しかったが、国土交通省が、中州にダンプを入れて、撤去した。当時の民主党代議士への忖度かと思った。全国的に、河川敷利用を禁止するほうが、100年に一度の洪水災害に対する防災効果が上がる。首都圏で言えば、相模川、多摩川の河川敷利用は禁止するということである。地震、津波等の大規模災害には、その河川敷を利用するに決まっている。
デジタル政府機構を、中央・地方政府をつないで、中期的に、構築するデジタル庁が開設された。公共サービスの提供と徴税システムが、中長期的に、稼働し、進捗状況も、リアルタイムで、政府中央コントロール室で「見える化」されるだろう。サービスの需給バランスは、リアルタイムで把握でき、弾力的に、供給できるようになる。コロナ禍で例を取れば、感染者の発生から2週間の観察期間中、サービスの供給は、命にかかわる問題であるから、最優先で、サービスが余剰な地域から、その感染者に、観察期間中に、症状の段階が上がれば、医療サービスを提供できる。
6.5 貨幣経済一般均衡論における政府活動モデル
5章5.5 貨幣経済一般均衡論を適用した中央銀行行動に対応して、民主主義制下で、政府の活動を予算と徴税の決定を2期間モデルで考える。民主主義制は、直接民主制と間接民主制がある。
直接民主制は、全国有権者が、政府の提出した、政府支出の予算案と税制改正案を、スイスのように、直接総会で、審議、修正した案を、全体で決議し、政府が決議案にしたがい、予算と徴税業務をルールに従って、遂行する。
間接民主制は、選挙民が選んだ代議士を国会に送り、国会で、政府機関の代表を選出、政府代表は、次年度、政府が国民のために活動をする際、財政支出を予算案と、その財源の税制改正案を作成、両者を国会に提出、審議、修正、国会で決議し、政府が決議案にしたがい、予算と徴税業務をルールに従って、遂行する。
表6.1に、1年間、日本の間接民主制下の予算過程と租税過程が表されている。間接民主制は、国会議員が全国から選出され、政府代表を国会で選出、政府代表が政府機関で8月に次年度の予算案と税制改正案を作成、12月末、政府代表が閣議決定、1月下旬、最初、予算案を承認、4月から、税制改正案を国会に提出、審議、決議している。
予算過程
各省予算編成 予算の議決 予算執行 会計検査
閣議決定 国会開催
8月 12月末 1月下旬 4月1日より 翌年4月
予算に伴う税法改正
表6. 1 予算過程・租税過程の経過図
このプロセスを理論化するのが、本節の目的である。直接民主制の方が、理論化しやすいし、最適予算および最適租税を一意的に求められる。
短期的に、年間の予算案は、政府支出G=租税T+国債増発ΔBとなる。政府の最適理論は、この政府制約式下で、有権者の社会的厚生関数を個別の公共財制約式のもとで最大化する。
公共財および公共サービスは、実際、国や地方自治体で提供される財・サービスである。私的サービスと公共サービスと比較すると、前者は、個人の専有サービスであるが、後者は、誰でも享受できるサービスである。
新SNA1993では、機能的に、一般政府の総支出の分類は、
1.一般公共サービス
2.防衛サービス
3.公共秩序および安全サービス
4.教育サービス
5.保健サービス
8.リクリエーション、文化および宗教サービス
12.運輸および通信サービス
である。
これらのサービスは、義務を伴う人権と社会権の平等性および公平性の原則にもとづき、移転と便益を配給する。
租税制度は、経済主体の期間内に発生した所得に対して、税率構成にしたがって課税徴集する。税率構成は、所得額による累進性がある。ストックである不動産・金融資産等の財産の譲渡益については、所得とは別の税率構成がある。経済主体に直接課税する租税を直接税という。経済主体間の取引量にかかる租税を間接税という。消費者が最終財・サービスを購入する量にかかる消費税、酒税、燃料税は、企業が徴収し、政府に納税する。間接税にも、税率構成がある。
日本政府の最終目標は経済成長であり、短期的には、マクロ経済3部門モデルで均衡所得を求め、長期的には、経済成長論のひとつである新古典派成長論がある。
新古典派では、基本は市場原則で、私的財の取引が決まる。財政学では、政府がどのような政治過程から選ばれたかは、問題にされない。財政学は、選出された政府から議論が始まり、定められた租税法にしたがい強制的に徴税し、公共サービスの供給は、政府が独占的に決めるとしている。政治過程は、議会制度に基づいて、4年間という中期に国民が議員を選出し、付託した政府が、国民の公共サービスの社会的効用を最大にするように、公共サービスを供給するという最適政府理論はある。
新古典派にある最適政府論は、最適租税論のもとに、国民の社会的厚生を最大にする最適公共サービス供給論にまとめられるかもしれない。社会的厚生関数の存在をうさん臭く思う経済学者は、多く存在する。1年間、経済・社会活動の成果は、階級に従って分配されると考える社会主義者は、公共サービス供給も、階級的分配になる。しかし、最適租税論では、公共サービスの財源は、最下層の階級は、サービスの恩恵は受けるが、課税さえることはない。また、最上層の階級は、サービスの提供をは受けないことで、満足している。公共サービスの財源負担は、所得を稼ぐか、働く労働者が累進的に負担し、公平に、公共サービスの提供を受けている。公共サービスを累進的負担金で、公平に享受する仕組みを運営する主体が、議会制民主主義で選出された政党・政府である。
貨幣経済一般均衡論を適用した直接民主主義制下で、政府の活動を予算と徴税の決定を2期間モデルで考える。『金融論2024年』には、モデルを示す。経済成長するには、企業の成長と同じく、政府投資が必要である。一般政府の公共サービスの配給では、成長の牽引力にはなりえない。
予算過程
8月 12月末 翌年1月下旬 4月1日より翌年4月
各省予算編成 直接総会
各省の標準公共サービス量を計算、有権者に公表 全有権者で公共サービス享受量合計
新規、改廃サービスを通知 新規、改廃サービスで修正
有権者 税収の不足を増税か、国債発行か決議
個別予算制約式のもと 予算に伴う税法改正
社会期待効用関数を最大化する
個人公共サービス享受量を求める
表6. 2 直接民主制下、予算過程・租税過程の経過図
今週(2023年11月11日~11月15日)の影響度
先週のイベントは、5日米大統領選投開票日でした。東証が取引時間を午後3時30分に延長しました。6日米連邦公開市場委員会が7日まで開かれました。パウエルFRB議長が、0.25%政策金利を下げました。6日トランプ氏の大統領に当選確実が出ました。
今週のイベントは、11日特別国会が召集され、第2次石破内閣が発足します。アゼルバイジャンのバクーにおいて、国連気候変動会議COP29が22日まで開かれます。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
11月5日 米耐久財受注 0.4% 0.5%
貿易収支 -845 億ドル -844億ドル
6日 米ISM非製造業景気指数 53.6 56.0
7日 中貿易収支 6791億元
日毎月勤労統計 3.0% 2.8%
8日 米FRB政策金利(上限) 4.75% 4.75%
日全世帯家計調査 -1.8% -1.1%
景気一致指数(速報) 115.5 115.7
先行指数(速報) 109.1 109.4
経済統計は、次の発表があります。
予想値
11月11日 日10月景気ウォッチャー調査 47.1
10月国際収支経常収支 3兆5650億円
貿易収支 -664億円
13日 米10月消費者物価指数 2.6%
15日 日7~9月期国内総生産速報値 0.1%
GDPデフレータ 2.8%
中10月小売売上高 3.8%
10月鉱工業生産指数 5.5%
米10月小売売上高 0.3%
10月鉱工業生産指数 -0.3%
第10回目 2024年11月18日
要点 9章9.1 古典派マクロ経済モデルと金融政策
9.1.1 古典派マクロ経済モデルの市場均衡および金融政策
9.1.2 貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派モデル
9章 マクロ貨幣経済モデルと経済政策
ポイント
・古典派マクロ経済モデルの均衡を理解する。
・金融政策の効果を調べる。貨幣数量説と貨幣の中立性が成立することを理解する。
・ケインズ・マクロ経済モデルの均衡を理解する。
・財政政策と金融政策の効果を調べる。
・物価水準の決定を示し、財政政策と金融政策の効果と合わせる。貨幣数量説と貨幣の中立性は成立しないことを理解する。
2024年金融論説明ノートでは、古典派マクロ経済モデルにおいて、家計の効用関数を積型、生産関数をコブ・ダグラス生産関数として、均衡解を求め、貨幣数量説および貨幣の中立性を均衡解で確認する計算をしている。9.1.1は実質モデルであり、9.1.2は名目モデルであるが、前者は、図解で示し、後者は、計算だけである。その対照性を示す目的で、計算した。次回、結果を示す。
9.1 古典派マクロ経済モデルと金融政策
古典派マクロ経済モデルの枠組み
完全雇用モデルに対応して、『金融論2022年』pp.
150-151のように、例題1(完全雇用CASE Ⅱ)にしたがうことにする。
政府部門がない場合、古典派マクロ経済モデルの各市場均衡式は次のように表せる。
古典派モデルの各市場均衡式
財市場 Y = C(w/P) + I(i)
フロー 労働市場 NS(w/P) = ND(w/P)
債券市場 S(i,Y) = I(i)
ストック 貨幣市場 M =kPY
未知数:実質賃金率w/P、実質利子率 i、物価水準 P
各関数の定義
実質生産関数 Y = F(K0,N)
実質消費関数 C = C(w/P)
実質投資関数 I = I(i)
実質貯蓄関数 S = S(i,Y)
実質労働供給関数 NS = NS(w/P)
実質労働需要関数 ND = ND(w/P)
名目貨幣供給関数 MS = M
名目貨幣需要関数 MD = kPY*
図をもちいて、古典派マクロ経済モデルの3つの変数w/P、i、物価水準Pがどのように決まるかを説明する。
古典派では、家計の主体的均衡から、家計の消費需要関数、労働供給関数、貯蓄関数が導かれる。また、古典派政府部門は均衡財政を取る。すなわち、政府支出G0、租税T0 とすると、均衡財政はG0=T0である。マクロ経済モデルではG0=T0は与えられているものとして、省く。
それぞれの需要関数、供給関数は、ミクロ的基礎がある。『金融論2022年』p.22 -23のように、2期間実質モデル問題2.1では、期間1の消費関数、貯蓄関数が求められている。消費関数C(w/P)は、2期間の実質所得現在価値と初期資産の平均に依存する。貯蓄関数S(i,Y)は、初期資産+期間1の実質所得から、期間2の実質所得現在価値を引いて、平均を取る。
企業の投資関数I(i)が、『金融論2022年』pp. 55-57のように、I=(αp1/i1)Y1-K0で決まる。
債券市場では、集計した貯蓄関数S(i,Y)と投資関数I(i)が等しいとき、市場均衡する利子率が決まる。
古典派の財政政策は、均衡財政が原則であるから、政府支出の増加は、増税で賄う。増税の分だけ、民間の貯蓄は減るから、民間の投資は減り、利子率が上昇する効果が出る。
古典派の金融政策は、貨幣市場の均衡式M=kPYから、貨幣数量説「貨幣供給量Mを増加させれば、物価Pがその分上昇する」が成立するので、通貨の価値が下落する。貨幣の価格は、均衡式を変形し(1/P)M=kYから、1/Pで計る。Pが上昇するならば、逆数は下落する。貨幣の中立性は、「実質所得Y1が、実質賃金率w/Pで決まるので、貨幣の増加に影響されない。」ことをいう。
以上、古典派実質モデルでは、財政政策は、利子率を上昇させ、民間投資を減少させる。金融政策は、物価を上昇させる。実質所得は変化しない。労働市場は、常に、完全雇用である。
9.1.2 貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派モデル
『金融論2022年』では、各制度部門の主体的最適化を、貨幣経済一時的一般均衡論からの知見にもとづき、示している。前項の実質モデルに対して、名目モデルと呼んでいる。主体的最適化問題から、古典派モデルを以下のように、導き出す。T. J. Sargent、Macroeconomic
Theory Second Edition 1987では、Chapter XVⅢ The New Clasisical Macroeconomics「新しい古典派モデル」が展開されているが、本テキストと重なる定式化もあるが、同じではない。
財市場の均衡 Y = C(w/P) + I(rl)
消費需要関数 C(w/P)= (w/P)N
投資需要関数 I(rl)=αPY/r -K0
労働市場の均衡 NS = ND
労働供給関数
w/P=(m/p)/2(IT/2-N)
労働需要関数 w/P=(1-α)Y/N
債券市場の均衡 Ls=Lo
投資資金需要関数 Lo=uI/(1+rl)
貸付資金関数 Ls=D1(1+rl)
貨幣市場の均衡 Ms=Ld
貨幣供給関数 Ms=M
貨幣需要関数 Ld=√2bT/rs+m1
T=kPY
本テキストの主体的最適化問題から、各需要、供給関数を導いた説明は、次回にする。
今週(2024年11月18日~11月22日)の影響度
先週のイベントは、11日特別国会が召集され、第2次石破内閣が発足しました。アゼルバイジャンのバクーにおいて、国連気候変動会議COP29が22日まで開かれます。
今週のイベントは、18日20カ国・地域首脳会議がリオデジャネイロにて、19日まで開かれます。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
11月11日 日10月景気ウォッチャー調査 47.1 47.5
10月国際収支経常収支 3兆5650億円 1兆7171億円
貿易収支 -664億円 -3152億円
13日 米10月消費者物価指数 2.6% 2.6%
15日 日7~9月期国内総生産速報値(年率) 0.7% 0.9%
GDPデフレータ 2.8% 2.5%
中10月小売売上高 3.8% 4.8%
10月鉱工業生産指数 5.5% 5.3%
米10月小売売上高 0.3% 0.4%
10月鉱工業生産指数 -0.3% -0.3%
経済統計は、次の発表があります。
予想値
11月18日 日9月機械受注統計 2.1%
20日 日10月貿易統計 ―2943億円
10月全国コンビニエンストア売上高
中11月最優遇貸出金利(LPR)
22日 日10月全国消費者物価指数 2.4%
10月スーパー売上高
第11回目 2024年11月25日
要点
9章9.1 古典派マクロ経済モデル
9.1.1 古典派マクロ経済実質モデルの市場均衡
9.1.2 古典派マクロ経済名目モデルの市場均衡
9.1 古典派マクロ経済モデル
古典派マクロ経済モデルは、ケインズ・マクロモデルと対照するために、経済学の教科書では説明される。古典派は、家計部門の効用最大化で、消費需要、貯蓄が決まる理論が開発されて、新古典派と呼ばれる。ケインズは、集計量間に、関数関係があるとして、マクロ経済学を立ち上げた。戦後、集計量は、経済統計の整備により、月間、四半期、年間、計測され、政府により、公表されるようになった。
ケインズ・マクロモデルは、関数関係がそれらのデータによって検証され、統計学および計量経済学的に、有意性が劣る関数関係があることが実証されている。また、ケインズ・マクロモデルは、一部の市場が不均衡のまま、市場メカニズムとは別の決定、有効需要原理および協定賃金の決定がなされる不均衡モデルである。
新古典派マクロ経済モデルは、ミクロ経済学理論にしたがって、構築されている。経済主体間の取引量にもとづく集計量と統計学的な関係は、ケインズ理論よりは、有意性があるのは自明の理である。
本節では、教科書的な「古典派マクロ経済モデル」を、9.1.1古典派実質モデルと9.1.2古典派名目モデルに分けて、家計部門、企業部門および中央銀行の3部門を、ミクロ経済学の最適化による、需要関数、供給関数をみちびく。労働、財および株式の3実物市場と貨幣市場の4市場において、市場均衡値を求める。実質モデルでは、貨幣市場は3実物市場と分断され、貨幣数量説および貨幣の中立性が成立する。名目モデルでは、3実物市場に、貨幣残高が含まれ、貨幣数量説および貨幣の中立性は成立しない。
9.1.1 古典派マクロ経済実質モデルの市場均衡
古典派マクロ経済実質モデルにおいて、労働市場、財市場、株式市場は、実質変数である実質賃金率と実質収益率によって、市場均衡解が求められる。貨幣市場は、経済主体は、貨幣需要は、取引動機のみで保有され、貨幣需要関数は、名目所得のPYに、一定割合kをかけた額である。中央銀行は、貨幣供給をM枚(円)発券している。貨幣市場において、物価水準Pは、中央銀行の貨幣供給量Mと、3実物市場で内生的に決まる実質所得kYを釣り合わせるように決まる。古典派マクロ経済実質モデルにおいて、3実物市場と名目市場である貨幣市場とは、分断されるのが、実質モデルの大きな特徴である。
実質変数Yは、3実物市場で決まり、モデル内生的に、所与であるから、貨幣市場では、物価水準Pの決定に影響しない。これを貨幣数量説という。逆に、実物市場の内生均衡に、物価水準Pが影響しないので、貨幣の中立性が成立する。
古典派マクロ経済実質モデルにおいて、生産関数をコブ・ダグラス生産関数として、均衡解を求める。貨幣数量説および貨幣の中立性を均衡解で確認する。
古典派では、家計の主体的均衡から、家計の消費需要関数、労働供給関数、貯蓄関数が導かれる。また、古典派政府部門は均衡財政を取る。すなわち、政府支出G0、租税T0 とすると、均衡財政はG0=T0である。マクロ経済モデルではG0=T0は与えられているものとして、省く。
経済主体は、家計部門、企業部門、中央銀行の3部門である。家計部門と企業部門は、ミクロ経済理論にしたがって、制約条件もとで最適化し、需要関数と供給関数に集計化する。各市場で市場均衡解が存在する。家計に変数の積となる効用関数および企業にコブ・ダグラス生産関数を仮定すると、それぞれの最適解が求められる。労働市場、財市場、株式市場および貨幣市場において、各部門で集計された供給関数および需要関数から、未知数の市場均衡解が求められる。貨幣数量説と貨幣の中立性が示される。
家計部門の最適化
1期間モデルで、財価格を、家計の消費量c、余暇時間l、1期間総時間をTとする。財価格をP、家計の労働時間Nは、N=T-lであり、賃金率(時給)をwとする。予算制約式は、Pc=w(T-l)である。家計の効用関数をu(c, l)=c lとする。
問題9.1 財価格P、賃金率(時給)wを所与とする。家計は予算制約式のもとで、効用を最大にする消費量cと労働量N=T-lを求める。
max u(c, l), subject to Pc=w(T-l)。
{c, l }
解 ラグランジュ式は、L=c l-λ{ Pc-w(T-l)}である。変数c, lについて、Lを偏微分する。
∂L=l-λP=0、∂L=c-λw=0、pc-w(T-l)=0。
∂c ∂l
λ=l/P=c/wから、l=Pc /wを予算制約式に代入し、
Pc-w(T-P c/w )=0、2 Pc=wT。ゆえに、c=wT /2 P。l=p c /w=T /2。
最適消費量c
*=wT /2 P、最適労働量N *=T-l * =T /2となる。 □
各家計を集計化して、期間1の消費関数Cは、C=wT /2 P、貯蓄関数Sは、S=Y-C、労働供給関数Nは、N=T /2となる。
労働力人口を「働く意思のある労働者がすべて雇用される労働者人口」と定義すると、完全雇用という。労働者が求職活動中である場合を摩擦的失業という。その国に発生した経済ショックで、構造的に失業が発生した場合、完全雇用労働力人口から、摩擦的失業人口を引いた失業者は、構造的失業者ということにする。古典派では、構造的失業者はいない。
企業部門の最適化
賃金wで働く意思のある労働時間をNとする。企業の労働需要は、利潤最大化で決まる。
問題9. 2 資本K0は一定とする。コブ・ダグラス生産関数Y=K0αN 1-αを仮定する。利潤を最大化するN*を求めよ。
解 利潤πは、π=PY-(wN+ρ0K0)で表す。利潤最大化の必要条件は
∂Y = w より、N*=(1-α)PY 、
∂N P w
∂Y = ρ0 より,K0*=αPY 。
∂K0 P ρ0
N*は、労働需要関数である。 □
コブ・ダグラス生産関数Y=K0αN 1-αは一次同次関数である。実際、K0およびNをそれぞれt倍すると、(tK0)α(tN )1-α=tYとなる。
オイラーの定理
Y=K0αN 1-αが一次同次関数であれば、Y=K0∂Y + N∂Y 。
∂K0 ∂N
証明 Yは一次同次関数であるから、tY=(tK0)α(tN )1-α。左辺をtについて微分すると、Yであり、右辺をtについて微分すると、αK0(tK0)α-1(tN )1-α+(1-α) N(tK0)α(tN )-α=αK0αN 1-α+(1-α)
K0αN 1-α=K0αN 1-α=Yとなる。
問題9. 2において、∂Y =ρ0 、 ∂Y = w であるから、オイラーの定理から
∂K0 P ∂N P
Y=K0∂Y + N∂Y = ρ0K0 +w N 。
∂K0 ∂N P P
Nに労働需要関数N=(1-α)PY/wを代入すると、
Y=ρ0K0/P+(w/P)(1-α)PY/w=ρ0K0/P+(1-α)Y
オイラーの方程式はY=ρ0K0/αPとなる。
オイラーの方程式によって、生産物は、株主と雇用者に、それぞれ、完全に分配される。古典派分配論では、株主だけが貯蓄する。
すべての市場均衡の場合は、労働市場均衡式T /2=(1-α)PY/wから、オイラーの方程式はY
*=ρ0K0/P+(w/P)(T /2)となる。このとき、貯蓄Sは、
S=Y *-C
*=(ρ0/P) K0+(w/P)(T /2) -(w/P)(T /2)=(ρ0/P) K0である。
古典派実質モデルでは、株主に配当された実質分配分(ρ0/P) K0は、銀行貸付や事業債発行市場を想定しないから、株主の貯蓄は、株式投資される。
次に、企業の投資関数I(i)は、『金融論2023年』例題3.3、p. 59のように、I=(αP1/ρ1)Y1-K0で決まる。
問題 9.3 コブ・ダグラス生産関数Y1=K1αL11-αを仮定する。企業総価値V=V0 +V1/iを最大化するL1*,K1*を求めよ.
解 企業総価値最大化の必要条件は、問題9. 2で、期間1の必要条件がでた。期間2は、
∂Y1 = w1 より、N1*=(1-α)P1Y1 、
∂N1 P1 w1
∂Y1 = ρ1 より、K1*=αP1Y1 、
N1*、K1*は、それぞれ、 労働需要関数、資本需要関数である。 □
期間2の売上P1Y1が期間1の売上PYより大きければ、K1*>K0であり、企業は投資する。投資関数は、I =K1*-K0=α(P1/ρ1)Y1-K0となる。
株式市場において、家計部門の貯蓄が企業の投資に運用される
金融市場では、銀行が仮定されないので、貸付資金市場はない。企業部門は、事業債を発行しないから、債券市場もない。株式市場がある。集計した貯蓄関数S (ρ0)=Y-C=(ρ0/P
) K0と投資関数I (ρ1)が等しいとき、市場均衡する利子率が決まる。
中央銀行部門
通貨発行当局である中央銀行は、貨幣を発行し、価値尺度を貨幣1単位1円で決め、各主体は、法的保護のある取引の支払い手段として、各種取引に使用する。その貨幣発行量は、Mとする。取引期間内に、貨幣量Mが、取引相手に存在する。主に、家計部門が、貨幣を保有するとする。
古典派の金融政策は、貨幣市場の均衡式M=kPYから、貨幣数量説「貨幣供給量Mを増加させれば、物価Pがその分上昇する」が成立するので、通貨の価値が下落する。貨幣の価格は、均衡式を変形し(1/P)M=kYから、1/Pで計る。物価Pが上昇するならば、逆数の貨幣価格は下落する。貨幣の中立性は、「実質所得Yが、実質賃金率w/Pで決まるので、貨幣の増加に影響されない。」ことをいう。
古典派実質モデルの各市場均衡式
I 労働市場は、家計部門の実質労働供給関数NS、企業部門の実質労働需要関数NDによって、労働市場均衡式が、成立する。
実質労働供給関数 NS = NS(w/P)=T
/2
実質労働需要関数 ND = ND(w/P)=(1-α)PY/w
であり、労働市場均衡式は、次の式になる。
労働市場均衡式 NS = ND すなわち、T/2=(1-α)PY/w (1)
(1)式から、実質賃金率w/Pは、
w/P=(2/T )(1-α)Y=(2/T )(1-α)
K0αN 1-α
=(2/T )(1-α) K0α(T /2)1-α=(1-α)
K0α(T /2)-α
と表せる。
Ⅱ 財市場は、企業部門の生産物の実質生産物供給関数が、コブ・ダグラス生産関数Y =K0αN 1-αであり、家計部門の実質消費需要関数C、企業部門の実質投資需要関数Iによって、財市場均衡式が成立する。
実質生産物供給関数 Y = F(K0,N) =K0αN 1-α
実質消費需要関数 C = C(w/P) =wT /2 P
実質投資需要関数 I = I(ρ1/P ) =(αP1/ρ1)Y1-K0
財市場均衡式 Y = C(w/P) + I(ρ1/P)
= wT
/2 P +{(αP1/ρ1)Y1-K0} (2)
国民総生産物Yと国民所得Yおよび国民総支出Yは三面等価の原則で一致している。実質貯蓄関数S は、国民所得から消費支出を差し引いた差で、定義される。
実質貯蓄関数 S =Y-C(w/P) =Y-wT
/2 P
財均衡式(2)から、移行して、
Y-C(w/P) = I(ρ1/P)
すなわち、財均衡式は S =I(ρ1/P) となり、貯蓄と投資の均等式になる。
Y-wT /2 P= (αP1/ρ1)Y1-K0 (3)
生産関数に一次同次関数を仮定しているため、オイラーの定理から、
Y=K0∂Y + N∂Y = ρ0K0 +w N =ρ0K0 +w (1-α)PY
∂K0 ∂N P P P P w
Y=ρ0K0/αP
r0=ρ0/P=αY/K0
市場均衡では、Y=K0α(T /2)1-αとなるから、r0=ρ0/P=αK0α-1(T /2)1-α
(3)式に均衡のY *=ρ0K0/P+wT /2 Pを代入すると、実質貯蓄関数は、
S =Y *-wT /2 P=ρ0K0/Pとなる。
オイラーの定理が成立する場合、貯蓄・投資の均等式S =Iは、
ρ0K0/P=(αP1/ρ1)Y1-K0 (4)
となる。(4)式は、
(1+ρ0/P) K0=(P1/ρ1)αY1
となる。市場均衡では、Y1=K1α(T
/2)1-αとなるから、期間2の実質収益率r1=ρ1/P1と期間1の実質収益率r0=ρ0/Pとの関係式は
r1=αY1/(1+r 0) K0=αK1α-1(T /2)1-α/(1+r 0)
になる。
Ⅲ 貨幣市場は、中央銀行の貨幣発行高Mが名目貨幣供給関数MS=Mとなり、家計部門の取引需要kPYが名目貨幣需要関数MD=kPY となる。貨幣市場均衡式が成立する。
名目貨幣供給関数 MS = M
名目貨幣需要関数 MD = kPY
貨幣市場均衡式 MS = MD すなわち、M=kPY (5)
(5)式は、
P=M/kY=M/kK0α(T
/2)1-α
となる。
以上から、古典派マクロ経済実質モデルにおいて、未知数:実質賃金率w/P=(1-α) K0α(T /2)-α、実質収益率 r0=ρ0/P=αK0α-1(T /2)1-α、r1=αK1α-1(T /2)1-α/(1+r 0)、物価水準 P=M/kK0α(T /2)1-αが決まる。
古典派マクロ経済実質モデルの枠組み
古典派マクロ経済実質モデルの各市場均衡式は次のように表せる。
古典派実質モデルの各市場均衡式
労働市場 T/2=(1-α)PY/w (1)
フロー 財市場 Y =wT
/2 P +{(αP1/ρ1)Y1-K0} (2)
(株式市場)ρ0K0/P=(αP1/ρ1)Y1-K0
(4)
ストック 貨幣市場 M =kPY (5)
未知数:実質賃金率w/P、実質収益率r1、r1、物価水準 P
各関数の定義
実質労働供給関数 NS =T /2
実質労働需要関数 ND =(1-α)PY/w
実質生産関数 Y =K0αN 1-α
実質消費関数 C = wT /2 P
実質投資関数 I = (αP1/ρ1)Y1-K0
実質貯蓄関数 S = ρ0K0/P
名目貨幣供給関数 MS = M
名目貨幣需要関数 MD = kPY
古典派マクロ経済実質モデルの3つの変数実質賃金率w/P、実質収益率r0=ρ0 /P、r1=ρ1/P1、物価水準 Pは、各市場均衡式(1)、(2)、(4)、(5)から、次のように決まる。
Y =K0α(T /2)-α
w/P=(1-α) K0α(T /2)-α
r0=ρ0/P=αK0α-1(T /2)1-α、r1 =ρ1/P1=αK1α-1(T /2)1-α/(1+r 0)
P =M/kK0α(T
/2)1-α
9.1.2 古典派マクロ経済名目モデル
『金融論2023年』では、各制度部門の主体的最適化を、貨幣経済一時的一般均衡論からの知見にもとづき、示している。前項の実質モデルに対して、名目モデルと呼んでいる。主体的最適化問題から、古典派モデルを以下のように、導き出す。
本項では、貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派マクロ・モデルを説明する。
経済主体の予想形成を入れるため、2期間貨幣モデルに変更する。古典派の消費者の価格予想が可能な、2期間貨幣モデルを、テキスト『金融論2023年』2章において、問題2.6で解いた。期間1の価格は、市場価格p1を所与としている。期間2の価格p2は、主観的予想価格である。期待形成は、①静態的予想、②適合的予想、③合理的予想、④期間1において決まる、先物市場価格を客観的予想として、もちいる場合を想定する。本項では、価格予想を①静態的予想とする。すなわち、2期間の全ての価格は、同じである。さらに、家計は、貨幣残高を持ち越す。貯蓄は、すべて、株式投資する。
家計部門: 消費需要関数、労働供給関数、貨幣需要関数
消費需要関数 C(w/P)= (w/P)(IpT-N)
労働供給関数 NS=IpT/2-m0/4 w
w/P=m0/4P (IpT/2-N)
ここで、Ip:労働者数、m0=Σi=1Ipm0i
、N=Σi=1IpNiとおく。
貨幣需要関数 m0=Σm0i/2
消費財と余暇時間の選好(家計の消費財需要関数および労働供給関数)
古典派では、家計の主体的均衡から、家計の消費財需要関数および労働供給関数が導かれる。消費者は、消費財を束として、余暇時間との間の選好関係を考える。余暇時間は、労働者にとって、消費すれば、効用を増加させるが、労働時間は、企業に拘束されるので、不効用を増加させる。家計の効用関数は、消費量と余暇時間の関数である。
家計は、労働することによって、所得を得るが、それを消費財の束cと次期の取引に貨幣m1を残す。消費財の束の価格は、p1とする。市場が開かれている短期において、総時間をTとし、家計が、労働に費やす時間はT-l1、余暇時間l1とする。労働は、時間によって測られる。
2期間モデルで、家計は、消費財の量(c1,c2)と余暇時間(l1,l2)に対して、序数的効用を持つとする。効用関数であらわせば、u=u(c1,l1,c2,l2) である。予算制約式は、p1c1+m1=w1(T-l1)+m0、p1c2=w1(T-l2)+m1、ただし、0
≦l1≦
Tである。2期間の全ての価格は、同じである。予算制約式の右辺のw1は。名目賃金率である。
以上の仮定のもとで、テキスト『金融論2023年』2章において、問題2. 6は次のようになる。
問題9. 4 消費量(c1,c2)、余暇時間(l1,l2)、総時間T、時間給w1、初期貨幣保有高m0、労働量N1=T-l1、N2=T-l2とする。家計の効用関数は、u(c1,l1,c2,l2 )=c1 l1+c2l2とする。
max u(c1,l1,c2,l2 ) subject to p1c1+m1=w1(T-l1)+m0、
{ c1,l1,c2,l2 } p1c2=w1(T-l2)+m1。
解 2期間の予算制約式は、 p1c1+p1c2={w1(T-l1)+m0}+w1(T-l2)である。ラグランジュの未定乗数法によって、最適解を求める。
L=c1 l1+c2l2-λ[p1c1+p2c2-{w1(T-l1)+m0}-w1(T-l2)]とおく。
∂L =l1-λ1p1=0、∂L =c1-λ1w1=0、
∂c1
∂l1
∂L =l2-λ2p1=0、∂L =c2-λ2w1=0、
∂c2
∂l2
∂L =p1c1+p1c2-{w1(T-l1)+m0}-w1(T-l2)=0。
∂λ
ゆえに、 c1=λw1、c2=λw1、l1=λp1、l2=λp1。c1=(w1/p1) l1
。c2=(w1/p1) l2 。
c2=c1
l1=(p1/w1)c1
l2=(p1/w1)c1
p1c1+p1c2-{w1(T-l1)+m0}-w1(T-l2)=0
p1c1+p1c1-{w1(T-(p1/w1)c1)+m0}-w1(T-(p1/w1)c1)=0
{p1+p1+p1+p1}c1=(w1T+m0)+w1T
4 p1c1=2 w1T+m0
c1*=(2w1T+m0)/4p1
l1*=(p1/w1)c1*
最適貨幣保有高m1*は、次のようになり、これが最適貯蓄である。
p1c1*+m1*=w1(T-l1*)+m0
m1*=w1(T-l1*)+m0-p1c1*=w1(T-(p1/w1)c1*)+m0-p1c1*
=w1T+m0-2p1c1*=w1T+m0-2p1[2w1T+m0]/4p1
=m0/2
最適余暇時間l1*から、労働供給量N1*が決まる。
N1*=T-l1*=T-(p1/w1)c1*
=T-(p1/w1)(2w1T+m0)/4p1
=T/2-m0/4 w1。
消費需要量を労働供給量で表すと、
c1*=(w1/p1)(T-N1*) □
以上の結果から、名目モデルの家計消費関数c1*=(2w1T+m0)/4p1は、実質賃金率w1/p1、2期間平均実質所得(w1/p1)T/2、実質貨幣保有高m0/4p1に依存する。労働供給関数N1*=T/2-m0/4 w1は、総労働時間の半分から、時給w1で計った貨幣残高を控除する。貨幣需要関数m1*=m0/2である。労働供給関数N*=T/2-m0/4 w1から、実質賃金率で解くと、家計の労働供給関数w1/p1=m0/ 4p1 (T/2-N) が得られる。
市場消費関数
家計全体で、消費関数を集計すると、市場消費関数C=Σi=1Ipc i*=Σi=1Ip(2wT+m0 i)/4P=(2wIpT+m0)/4Pをえる。
市場労働供給関数
労働者数Ip人、第i労働者の貨幣保有量をm0iとする。労働市場全体で集計すると
N =Σi=1IpN i*=IpT/2-m0 /4 wから、変形し、市場労働供給関数w/P=m0/4P (IpT/2-N)をえる。
市場貨幣需要関数
家計全体で、貨幣需要関数を集計すると、市場貨幣需要関数m0D=Σi=1Ipm0 i/2=m0/2をえる。
企業部門
賃金wで働く意思のある労働時間をNとする。企業の労働需要は、利潤最大化で決まる。9.1.1の実質モデルの企業部門は、名目モデルにおいても、変更はない。問題9. 2によって、利潤最大化の必要条件は、w=PFNである。生産関数に、コブ・ダグラス生産関数Y=K0 αN 1-αを仮定する。FN=(1-α)
K0 αN -αを必要条件w =PFNの右辺に代入し、
w =PFN=P (1-α)
K0 αN -α=P (1-α) K0 αN 1-α/N=P (1-α)Y/N 。
問題9. 3によって、2期間の企業総価値Vを最大化して、期間2では
∂Y1 = w1 より、N1*=(1-α)p1Y1
∂Y1 = ρ1 より、K1*=αp1Y1 。
N1*、K1*は、それぞれ,、労働需要関数、資本需要関数である。 □
問題9. 3の結果から、投資財需要は、I=K1*-K0より、I= αp1Y1/ρ1-K0 。ここで、r1は、期間2の実質収益率r1=ρ1/P1である。
労働需要関数
J企業全体で、労働需要関数を集計すると、N=Σj=1J Nj*=Σj=1J(1-α)PYj /w=(1-α)PY/w
となる。実質賃金で表すとw/P=(1-α)Y/N=(1-α) K0α/Nαとなる。
投資需要関数
J企業全体で、投資需要関数を集計すると、I=Σj=1J I j*=Σj=1J(αPY j/r1 -K0 j)=αP1Y1/r1 -K0となる。
コブ・ダグラス生産関数Y=K0αN 1-αを仮定しているからオイラーの定理が成立する。
オイラーの定理
Y=K0αN 1-αが一次同次関数であれば、Y=K0∂Y + N∂Y 。
∂K0 ∂N
利潤最大化の必要条件を代入して、集計した必要条件は
Y =K0∂Y + N∂Y = ρ0K0 +w N = ρ0K0 +w { (1-α)PY/w}
∂K0 ∂N P P P P
=ρ0K0 +(1-α)Y
P
Y =ρ0K0
αP
となる。生産物は、株主と雇用者に、それぞれ、完全に分配される。市場が均衡する場合、貯蓄Sは、
S
=Y*-C ={(ρ0/P) K0+(w/P)(IpT/2-m0/4w)}-(2wIpT+m0)/4P
=(ρ0/P) K0-m0/2 P
である。古典派名目モデルにおいても、銀行貸付や事業債発行市場をしなければ、家計である株主の貯蓄は、株式投資される。
中央銀行部門
通貨発行当局である中央銀行は、貨幣を発行し、価値尺度を貨幣1単位1円で決め、各主体は、法的保護のある取引の支払い手段として、各種取引に使用する。その貨幣発行量は、Mとする。取引期間内に、貨幣量Mが、取引相手に存在する。主に、家計部門が、貨幣を保有するとする。企業は、期間中の取引で、原材料の仕入、経費・労務費の支払と売り上げの受取が同時化しないので、貨幣を売上PYの一定割合kを保有する。
3市場の総超過供給は、ワルラス法則によって、任意の変数に対して、恒等式が成立する。
(NS-ND)+(Y-C-I)+(M-kPY) =(NS-ND)+(S-I)+(M-kPY)
={(IpT/2-m0 /4 w)- (1-α) PY/w}+{(ρ0/P) K0-m0/2P -αP1Y1/r1 +K0}+(M-kPY )
={IpT/2- (1-α) PY/w}+{(1+ρ0/P) K0-αP1Y1/r1}+(M-kPY-m0 /4 w-m0/2P)≡0
したがって、貨幣市場では、家計の実質現金残高を加える。貨幣市場の均衡式は、
M=kPY+m0/4w+m0/2Pとなる。
古典派名目モデルにおいては、金融政策によって、貨幣供給量Mを増加させても、貨幣市場の均衡式が、M=kPY+m0/4w+m0/2Pであるため、貨幣数量説「貨幣供給量Mを増加させれば、物価Pがその分上昇する」は成立しない。貨幣の中立性も成立しない。
古典派名目モデルの各市場均衡式
労働市場、財市場(株式市場)および貨幣市場均衡式から、未知数の市場均衡値を、順に求める。
I 労働市場は、家計部門の実質労働供給関数NS、企業部門の実質労働需要関数NDによって、労働市場均衡式が、成立する。
実質労働供給関数 NS = NS(w/P)=IpT
/2-m0/4w
実質労働需要関数 ND = ND(w/P)=(1-α)PY/w
であり、労働市場均衡式は、次の式になる。
労働市場均衡式 NS = ND すなわち、
IpT/2-m0/4w=(1-α)PY/w (1)
(1)式から、賃金率wは、
w = (2/IpT ){m0+4(1-α)
P Y}
と表せる。
Ⅱ 財市場は、企業部門の実質生産物供給関数が、コブ・ダグラス生産関数Y =K0αN 1-αであり、家計部門の実質消費需要関数C、企業部門の実質投資需要関数Iによって、財市場均衡式が成立する。
実質生産物供給関数 Y = F(K0,N) =K0αN 1-α=K0α{(1-α)PY/w} 1-α
実質消費需要関数 C = C(w/P) =(2wIpT+m0)/4P
実質投資需要関数 I = I(ρ1/P1 ) =(αP1/ρ1)Y1-K0
財市場均衡式 Y = C(w/P) + I(ρ1/P)
= (2wIpT+m0)/4P+{(αP1/ρ1)Y1-K0} (2)
国民総生産物Yと国民所得Yおよび国民総支出Yは三面等価の原則で一致している。実質貯蓄関数S は、国民所得から消費支出を差し引いた差で、定義される。
実質貯蓄関数 S =Y-C(w/P) =Y-(2wIpT+m0)/4P
財均衡式(2)から、移行して、
Y-C(w/P) = I(ρ1/P1)
すなわち、財均衡式は S =I(ρ1/P1) となり、貯蓄と投資の均等式になる。
Y-(2wIpT+m0)/4P =(αP1/ρ1)Y1-K0 (3)
オイラーの定理が成立する場合、市場均衡では、貯蓄・投資の均等式S =Iは、
ρ0K0/P-m0/2P=(αP1/ρ1)Y1-K0
(4)
となる。(4)式は、
(1+ρ0/P) K0-m0/2P=(P1/ρ1)αY1
となり、期間2の実質収益率r1=ρ1/P1と期間1の実質収益率r0=ρ0/Pとの関係式
r1=αY1/{(1+r 0) K0-m0/2P}になる。
Ⅲ 貨幣市場は、中央銀行の貨幣発行高Mが名目貨幣供給関数MS=Mとなり、家計部門の取引需要kPYが名目貨幣需要関数MD=kPY となる。貨幣市場均衡式が成立する。
名目貨幣供給関数 MS = M
名目貨幣需要関数 MD = kPY+m0/2w+m0/2P
貨幣市場均衡式 MS = MD すなわち、M=kPY+m0/2w+m0/2P (5)
以上から、古典派マクロ経済実質モデルにおいて、未知数:実質賃金率w/P、実質収益率r0、 r1、物価水準 Pが決まる。
古典派マクロ経済名目モデルの枠組み
古典派マクロ経済名目モデルの各市場均衡式は次のように表せる。
古典派マクロ経済名目モデルの各市場均衡式
労働市場の均衡式 (m0/P)/4(IpT/2-N)=(1-α)Y/N
労働供給関数
w/P=(m0/P)/4(IpT/2-N)
労働需要関数
w/P=(1-α)Y/N
Ip:労働者数、T:総労働時間、N:労働時間
財市場の均衡式 Y = C(w/P) + I
消費需要関数C(w/P)=(w/P)(IpT-N)=(2wIpT+m0)/4P
投資需要関数 I=αPY/ρ1-K0
ρ1:期間2の収益率
コブ・ダグラス生産関数Y=K0 αN 1-α
オイラーの定理 Y =ρ0K0/αP
(株式市場)の均衡式 S=I
貯蓄関数 S=ρ0K0/αP-m0/2P (均衡するとき)
投資関数 I=α(P1/ρ1)Y1-K0=αr1Y1-K0
貨幣市場の均衡式 M=kPY+m0/2w+m0/2P
貨幣供給関数 Ms=M
貨幣需要関数 Md=kPY+m0/2w+m0/2P
未知数: 実質賃金率w/P、実質収益率r0、r1、物価水準P
未知数の均衡解を陽表的に求められるか、計算中である。
今週(2024年11月25日~11月29日)の影響度
先週のイベントは、アゼルバイジャンのバクーにおいて、国連気候変動会議COP29が24日まで開かれました。途上国支援は、2035年までに、年間3000億ドルを目標とすることになりました。18日20カ国・地域首脳会議がリオデジャネイロにて、19日まで開かれました。
今週のイベントは、25日G7外相会議が26日までイタリアで開かれます。28日臨時国会が召集されます。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
11月18日 日9月機械受注統計 2.1% -4.8%
20日 日10月貿易統計 -3900億円 -4612億円
10月全国コンビニエンストア売上高 9702億1800万円
中11月最優遇貸出金利(LPR) 3.1% 3.1%
22日 日10月全国消費者物価指数 2.4% 2.3%
10月スーパー売上高 1兆235億円
経済統計は、次の発表があります。
予想値
11月25日 日9月景気先行指数(改定) 109.4
9月景気一致指数改定(改定) 115.7
27日 米6~9月期実質GDP 2.8%
GDPデフレータ 1.8%
28日 米10月個人消費支出 0.3%
10月個人支出
0.4%
10月PCEコアデフレータ 2.8%
29日 日10月有効求人倍率 1.24倍
10月完全失業率 2.5%
10月鉱工業生産指数 2.0%
11月東京都区部消費者物価指数 2.0%
10月全国百貨店売上高
30日 中11月製造業PMI 50.4
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 9月 10月 11月
GDP(前期比) 0.9%
消費コンビニ売上高 9773億92百万円
スーパー売上高 9945億1727万円
百貨店売上高 4229億円
投資(工作機械受注統計)
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル) 142.76円/ドル 149.28円/ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
物価指数(総合指数 )
利子率 0.25% 0.25%
株価 36833.27円 39380.89円
原油価格 71.5ドル/バレル 76.6ドル/バレル
ドバイ、現物1バレル、ドル、12月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率 2.4%
景気動向一致指数
先行指数
米国
9月 10 月 11月
GDP(前期比) 2.8%
個人消費 3.7%
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支
PCEコアデフレータ 2.7%
利子率 5.0% 5.0% 4.75%
株価(NY) 41096.77ドル 42454.12ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
原油価格 68.97ドル 75.85ドル
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.3%
完全失業率 4.1%
中国
9月 10 月 11月
GDP(前期比)
個人消費(小売売上高)
全国固定資産投資
輸出
輸入
貿易収支
物価指数
利子率(1年物LPR) 3.1% 3.1%
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率(四半期発表)
第12回目 2024年12月2日
要点
9. 2 ケインズ・マクロ経済モデル市場均衡および財政・金融政策
10章 開放マクロ経済モデルと経済政策
10.1 開放マクロ経済モデルにおける労働市場と為替市場
1 労働市場の均衡(金融論説明ノートでは省略)
2 為替理論と為替市場
前回において、古典派マクロ経済モデルの実質モデルと名目モデルの現行解を求めた。今回は、ケインズモデルで、線形化した体系で現行解を求めた。
11章において、均衡モデルを動学化する研究に入ったので、成長理論は、ケインズモデルの動学化と新古典派の動学がある。前者は、生産物市場が有効需要原理で需要と供給を一致させ、労働市場は労使の協定賃金を一定期間契約するので、経済を実働させる2つの実物取引が市場価格機構を用いていない、不均衡動学であり、後者は、市場価格機構で、各市場が決定する均衡動学である。計量経済学では、推定式のデータは、時間がついているが、ケインズモデルは時間がつけられない欠点がある。ケインズモデルは、集計値間の関係があるとする、ケインズ消費関数のような変数関係を前提としている。ケインズモデルは、そのままでは、経済原理的に、計量計量経済学では、推定、検証はできない。政策運営上、このような時間的欠点があるケインズモデルにもとづいて、経済政策を立案、また、景気政策を実施しても、政策効果は、時間どおりに達成できないのは、自明の理である。
本稿10章のMFEXモデルは、均衡動学をめざしているので、ケインズモデルの動学が困難な比較をするため、古典派モデルとケインズモデルの現行解を求めた。教科書では、テキスト金融論2023年と同様に、マクロモデルは、線形化までして、現行解は求めない。
9. 2 ケインズ・マクロ経済モデル市場均衡および財政・金融政策
ポイント
・線形化したケインズ・マクロ経済モデルで、現行解を求める
・財政・金融政策の比較静学効果を求める
ケインズ・マクロ経済モデルは、財・サービス市場、労働市場の2つのフロー市場とストック市場である貨幣市場、合わせて3つの市場で構成される。政府部門が明示的に導入される。輸出・輸入は省く。不完全雇用モデルに対応して、CASE Ⅰにしたがう。価格予想は①静態的予想とする。すなわち、2期間の全ての価格は、同じである。貯蓄は、すべて、株式投資する。
家計部門: 消費需要関数、労働供給関数、貨幣需要関数
消費需要関数 C = C(Y-T0)=C0 +c(Y-T0)
貯蓄関数 S ≡ Y-C =Y-{ C0 +c(Y-T0)}=(1-c) Y-C0+cT0
=s Y-C0+cT0
労働供給関数 NS=Ip
ここで、c:限界消費性向、s:限界貯蓄性向、Ip:雇用者数とおく。
市場消費関数 C = C0 +c(Y-T0)
古典派モデルでは、労働供給は労働時間で計られる。ケインズでは、労働組合に所属する労働者数Ip人である。協定期間に、固定された協定賃金w0で、契約する。
市場労働供給関数 NS=Ip
家計全体で、貨幣需要は、取引需要、予備的需要、投機的需要の3つの要因に分解される。取引需要+予備的需要はL1 (Y)、可処分国民所得Y-T0に依存する。古典派の需要関数L=kPYに対応する。投機的需要は、流動性選好説により、長期実質利回りiに依存する流動性選好関数L2 (i)である。L2 (i)はiの減少関数であり、ケインズは、債券は永久国債であり、債券利回りiが減少すると、債券1単位を1/iポンドで、永久債を売って、貨幣を保有することを示す。事業債は発行されない。L2 (i)は線形化して、L2 (i)=-hiとする。
市場貨幣需要関数 L =kPY-hi
企業部門
賃金wで働く意思のある労働者数をNとする。企業の労働需要は、利潤最大化で決まる。9.1.1の実質モデルの企業部門は、ケインズモデルにおいても、変更はない。問題9. 2によって、利潤最大化の必要条件は、w=PFNである。生産関数に、コブ・ダグラス生産関数Y=K0 αN 1-αを仮定する。FN=(1-α)
K0 αN -αを必要条件w =PFNの右辺に代入し、
w =PFN=P (1-α)
K0 αN -α=P (1-α) K0 αN 1-α/N=P (1-α)Y/N 。労働者一人当たりの協定賃金w0は、時間間隔を入れると日給、週給、月給、年収である。協定賃金は労使交渉で決まる。協定賃金で雇用される労働者数は、N=P (1-α)Y/w0である。
企業の投資は、ケインスは古典派と同じである。問題9. 3によって、2期間の企業総価値Vを最大化して、期間2では
∂Y1 = w1 より、N1*=(1-α)p1Y1
∂Y1 = ρ1 より、K1*=αp1Y1 。
N1*、K1*は、それぞれ,、労働需要関数、資本需要関数である。 □
J企業全体で、労働需要関数を集計すると、N=Σj=1J Nj*=Σj=1J(1-α)PYj /w0。
労働需要量は、労働時間ではなく、労働者数である。
労働需要関数 N=(1-α)PY/w0となる。
問題9. 3の結果から、投資財需要は、I=K1*-K0より、I= αp1Y1/ρ1-K0 。ここで、r1は、期間2の実質収益率r1=ρ1/P1である。J企業全体で、投資需要関数を集計すると、I=Σj=1J I j*=Σj=1J(αPY j/r1 -K0 j)=αP1Y1/r1 -K0となる。
本項では、この投資関数を用いず、ケインズの投資関数は線形化する。
投資需要関数 I=I0-bi
コブ・ダグラス生産関数Y=K0αN 1-αを仮定しているからオイラーの定理が成立する。
オイラーの定理
Y=K0αN 1-αが一次同次関数であれば、Y=K0∂Y + N∂Y 。
∂K0 ∂N
利潤最大化の必要条件を代入して、集計した必要条件は
Y =K0∂Y + N∂Y = ρ0K0 +w0 N = ρ0K0 +w0{ (1-α)PY/w0}
∂K0 ∂N P P P P
=ρ0K0 +(1-α)Y
P
Y =ρ0K0
αP
となる。生産物は、株主と雇用者に、それぞれ、完全に分配される。ケインズモデルは、銀行貸付や事業債発行はないから、株主の貯蓄は、株式投資され、企業は投資財を購入する。
所得分配に関して、ケインズの不均衡モデルでは、失業の存在を認めてモデルを作成している。オイラーの定理が成立する場合、資本家が、総生産の配当をすべて受け取る。カルダーモデルに、労働者の貯蓄を入れているが、ケインズモデルでは、資本家の分配率は高止まりするだろう。聖書で言う、金持ちはこの経済では、ますます、金持ちになるもでるである。政府が公共事業をすれば、資本家は税金が企業の繁栄に使われるので、人生を謳歌し、高笑いするばかりである。実際、ケインズは、株式投資をして、永久債の売買と相見互いをして儲けた実績がある、数少ない経済学者で有名である。
中央銀行部門
通貨発行当局である中央銀行は、貨幣を発行し、価値尺度を貨幣1単位1円で決め、各主体は、法的保護のある取引の支払い手段として、各種取引に使用する。その貨幣発行量は、Mとする。取引期間内に、貨幣量Mが、取引相手に存在する。主に、家計部門が、貨幣を保有するとする。企業は、期間中の取引で、原材料の仕入、経費・労務費の支払と売り上げの受取が同時化しないので、貨幣を売上PYの一定割合kを保有する。
3市場、労働、財、貨幣の総超過需要は、ワルラス法則によって、任意の変数に対して、恒等式が成立する。
(NS-ND)+(Y-C-I-G0)+(M/P-kY-hi) ={Ip-(1-α)PY/w0)}+{ Y-C-I -G0}+(M/P-kY-hi )≡0
ケインズモデルにおいては、金融政策によって、貨幣供給量Mを増加させても、貨幣市場の均衡式が、M/P=kY+hiであり、債券利回りiが変数として、含まれるから、貨幣数量説「貨幣供給量Mを増加させれば、物価Pがその分上昇する」は成立しない。貨幣の中立性も成立しない。
ケインズモデルの各市場均衡式
労働市場、財市場(株式市場)および貨幣市場均衡式から、未知数の現行解を、順に求める。
I 労働市場は、家計部門の実質労働供給関数NS、企業部門の実質労働需要関数NDによって、労働市場均衡式が、成立する。
実質労働供給関数 NS = Ip
実質労働需要関数 ND = (1-α)PY/w0
であり、労働市場均衡式は、次の式になる。
労働市場均衡式 NS = ND すなわち、Ip=(1-α)PY/w (1)
(1)式から、協定賃金w0は、w0 =(1-α)PY/Ipと表せる。
Ⅱ 財市場は、企業部門の実質生産物供給関数を、コブ・ダグラス生産関数Y =K0αN 1-αとし、家計部門の実質消費需要関数C、企業部門の実質投資需要関数I、政府支出G0によって、財市場均衡式Y=C+I+G0が成立する。
実質生産物供給関数 Y = F(K0,N) =K0αN 1-α=K0α{(1-α)PY/w} 1-α
実質消費需要関数 C = C0 +c(Y-T0)
実質投資需要関数 I = I0-bi
財市場均衡式 Y = C+I+G0
= C0 +c(Y-T0)+I0-bi+G0 (2)
国民総生産物Yと国民所得Yおよび国民総支出Yは三面等価の原則で一致している。実質貯蓄関数S は、可処分国民所得から消費支出を差し引いた差で、定義される。
実質貯蓄関数 S =Y-T0-C= s (Y-T0)-C0
財均衡式(2)から、移行して、Y -{C0
+c(Y-T0)}=I+G0
すなわち、財均衡式は S +T0=I +G0 となり、貯蓄と投資の均等式になる。
Y-{C0
+c(Y-T0)}= I0-bi+G0 (3)
Ⅲ 貨幣市場は、中央銀行の貨幣発行高Mが名目貨幣供給関数MS=Mとなり、家計部門の取引需要kPYが名目貨幣需要関数MD=kPY となる。貨幣市場均衡式が成立する。
実質貨幣供給関数 MS = M/P
実質貨幣需要関数 MD = kY-hi
貨幣市場均衡式 MS = MD すなわち、M/P=kY-hi
(4)
以上から、ケインズ・マクロ経済モデルにおいて、未知数:実質国民所得Y、物価水準 Pおよび債券利回りiが決まる。
まとめ ケインズ・閉じたマクロ経済モデルの各市場均衡式
財市場 Y =C(Y-T0)+I(i)+G0 (45度線による均衡図示) 9.1
Y = C0 +c(Y-T0)+I0-bi+G0 (2)
フロー または S(Y-T0)+T0= I(i)+G0 (貯蓄・投資の均等図示) 9.2
9.2式の導き方
貯蓄の定義S≡Y-T0-CからY≡C+S+T0を財市場の9.1式左辺に代入し,
C+S+T0=C+I+G0よりS+T0=I+G0 .
労働市場 NS(w0)=ND(w0/P)
Ip=(1-α)PY/w0
(1)
ストック 貨幣市場 M/P =kY-hi (4)
未知数:Y、i、P 政府支出Gおよび租税Tは外生変数である。
各関数の定義 線形化の定義
生産関数 Y = K0αNⅠ-α
消費関数 C=C0 +c(Y-T0)
投資関数 I=I0-bi
労働供給関数 NS=w0
労働需要関数 ND=P(1-α)Y/N=P(1-α)Y/Ip
実質貨幣供給関数 MS = M/P
実質投機的貨幣需要関数 L2 =-hi
実質貨幣需要関数 LD =kY-hi
ここで、w0は協定貨幣賃金率、Ipは労働者数、Pは物価水準である。
古典派とケインズモデルとの違い
・消費関数が、実質可処分所得に依存する。
・労働供給関数が、使用者側との協定賃金率w0に依存する。組合に所属しない労働者は、考慮されない。
・貨幣需要関数について、新古典派のマーシャルは、マーシャルkの分ほど、名目所得PYを、次期の取引のために保蔵するとして、貨幣市場均衡式をM=k
P Yとした。ケインズは、貨幣保有の動機として、取引動機、予想される支出、たとえば、冠婚葬祭、旅行、耐久消費財の購入などのための予備的動機および資産の一種としてゼロ収益率貨幣を投機的動機に挙げた。取引動機および予備的動機は、マーシャルの設定と同じ、実質需要kYで表され、実質投機的需要は、債券利回りiに依存し、L2 (i)であらわす。これらの貨幣需要を加えた貨幣の実質需要関数LD =kY+L2 (i)を流動性選好関数という。貯蓄Sのうち、取引需要および予備的需要は、kYで決まり、残りは、蓄積された貸借対照表勘定にある貨幣残高に追加され、他の資産と何らかの基準で資産選択される。ケインズの貨幣市場は、取引需要は利子率に反応しないが、投機的需要は利子率に反応するので、縦軸を利子率にとり、横軸を貨幣量にとる図で、貨幣市場の均衡が成立する。債券利回りiは、物価上昇率pの影響を除去した実質利子率riを表す。フィッシャーの関係式を用いると、実質利子率はri= i-pである。
失業状態から完全雇用への移行過程
テキストp.143において、失業状態から完全雇用への移行を、非正規労働者の雇用を含めていない過程を描いている。含める場合は、雇用量は、正規労働者と非正規労働者を加える。ともに労働時間で計る。企業の労働需要関数はそのままで、正規労働者N1および非正規労働者N1nは、前者は協定賃金w1、後者は実質賃金w1/P1で雇用される。P1>1とすると、実質賃金は協定賃金より低い。経済政策か、自然ないし自律回復によって、物価水準がP1からP2 ( P1 <P2 ) に上昇するならば,正規労働者と非正規労働者は増加し、非正規労働者の貨幣賃金は上昇し、協定賃金に近づく。
未知数:実質国民所得Y、物価水準 Pおよび債券利回りiの現行解
テキストでは、9.3節において、図をもちいて、ケインズ・マクロ経済モデルの3つの変数Y、i、Pがどのように決まるかを説明している。IS曲線とLM曲線を導いて、実質所得と利子率を決定することを示す。AD曲線とAS曲線を導いて、物価水準を決定することを示す。線形モデルでない場合は、図で示すしか、方法はない。
線形化した本項のケインズ・閉じたマクロ経済モデルにおいて、各市場均衡式から、以下のように、解が求められる。さらに、政策変更による効果も計算できる。
Ⅱ 財市場 IS曲線は、財市場の均衡式Y=C(Y-T0)+I(i)+G0に、線形化した関数を代入する。
Y=C0 +c(Y-T0) +I0-bi+G0
bi=-(1-c)Y+C0+I0+G0-cT0 は、IS曲線である。
Ⅲ 貨幣市場 LM曲線は、貨幣市場均衡式M/P =kY-hiか
hi =kY -M/P はLM曲線である。
AD曲線は、IS曲線i =(1/b){-(1-c)Y+A0}、A0=C0+I0+G0-cT0、LM曲線i =(1/h)(kY -M/P)から
(1/h)(kY -M/P)=(1/b){-(1-c)Y+A0}。
{k/h+(1-c)/b}P
Y-A0 P/b=M/hはAD曲線である。B0=k/h+(1-c)/bとおき、B0 P Y-A0 P/b=M/hとする。
I 労働市場 労働市場均衡式Ip=(1-α)PY/w0はAS曲線である。
物価水準 P、実質国民所得Y、債券利回りiの現行解
B0 P
Y-A0 P/b=M/h
にPY=w0Ip/(1-α) を代入し、
B0 w0Ip/(1-α) -A0 P/b=M/h。ゆえに、
P*={b
B0 w0Ip/(1-α) -b M/h}/A
Y*=w0Ip/(1-α) P*
i*={-(1-c)Y*+A0}/b
A0=C0+I0+G0-cT0、B0=k/h+(1-c)/b
のように、未知数が求められる。
10章 開放マクロ経済モデルと経済政策
10.1 開放マクロ経済モデルにおける労働市場と為替市場
10.1.2 為替レートの決定理論と為替市場
10.1.2 為替レートの決定理論と為替市場
1) 購買力平価説
国際取引される財で、物価指数を作ると日本の物価指数をP、世界の物価指数をPwとし、
名目為替レートをeとすれば、P=ePw 表せる。これを購買力平価という。購買力平価説は
長期的に成立するといわれる。P=ePw の両辺に対数をとると
log P = log e + log Pw
p=log P 、pw=log Pw 、s = log eと表して、p=pw+sとも表される。
2) 金利平価説
円金利i、ドル金利iw、直物為替レート(円/ドル)es、先物為替レート(円/ドル)efとする。
取引手数料はないものとする。
現在の円 円資金市場 将来の円
1円 → (1+iJ)円 =(1+iA)ef / es円
(1+iA)/ esドルは、ef(1+iA)/ es円に交換
直物為替市場es (円/ドル) ↓ ↑ 先物為替市場ef (円/ドル)
1円は1/ esドルに交換 → 1/ esドルをドル運用 (1+iA)/ esドル
1ドル (1+iA)ドル
現在のドル ドル資金市場 将来のドル
現在の1円は、円市場で運用すると将来では(1+iJ)円となる。取引コストがないとすれば、現在の1円でドルを直物為替市場で買うと、1/ esドルとなり、ドル資金市場で運用すれば、将来では(1+iA)/ es ドルとなる。先物市場でこのドルで円を買えば、将来では(1+iA)ef / es円となる。どちらの市場も、円価値は、同じであるから、裁定取引が働き、(1+iJ)=(1+iA)ef / es 。したがって、先物カバー付き金利裁定条件は、ef/es=(1+iJ)/(1+iA)である。両辺から1を引くと
(ef-es)/es =(iJ- iA)/(1+iA)。
近似的には、
(ef-es)/es ≒ iJ- iA 。
先物カバーがない場合は、(ef-es)/esを為替レートの変化率e^=(e′-es)/esに置き換える。すなわち、e^= iJ- iA 。e′ は、何らかの予測値、たとえば、合理的期待仮説による予測値である。
3) 合理的期待仮説
合理的期待仮説では、為替レートの変化率の主観的期待値E[e^]が、モデル内で決定される為替レートの変化率の客観的期待値E[s˙]に一致する。すなわち、
E[e^]=E[s˙]。
4) 先物為替市場均衡値
合理的期待仮説を先物為替市場に適用すると、市場参加者の主観的先物為替レートが、市場で決定される為替レートに等しくなる。したがって、先物為替市場がある場合は、先物為替レートefを、金利平価説に代入すれば、直物為替レートが決まる。
近似的には、金利平価説は(ef-es)/es ≒ iJ- iAであるから、直物為替レートesは
es = ef 。
1+iJ- iA
先物為替市場の均衡理論があれば、先物為替レートefは、均衡先物為替レートになる。
変動相場制下の為替市場
実質貿易収支NXをNX=Ex-Im=mwYw-e Pw(mY ) /P、資本収支CFをCF=ΔB/i-e ΔBw/iwとおく。m、mwは、限界輸入性向とし、国際収支BPはBP=NX+CF/Pとする。世界通貨W 1単位当たりの円表示¥の為替レート(¥/W)を自国通貨建という。世界通貨がドルの場合、自国通貨建為替レートは円/ドルで計る。日本債券Bは円表示、世界債券Bwは世界通貨表示とする。期間内の債券量をΔB、ΔBwとする。それぞれの債券価格は、永久債価格の公式PB=1/i、PBw=1/iwで表す。自国通貨建為替市場は、円需要をD¥で表し、円供給をS¥で表す。
円供給は、日本の貿易財を輸入する海外輸入業者がその輸入代金P (mwYw)を、ドルを売って円で支払う。国内証券会社が国内債の注文ΔB/iを海外証券会社から受け、ドルを売って円で支払う。為替市場の円供給は、S¥ =P(mwYw)+ΔB/iである。
円需要は、海外の貿易財を輸入する国内輸入業者がその代金e Pw(mY )を、円でドルを買って支払う。テキスト『金融論2022年』10章p.170の表10.1に、個人輸入者Aさんが、日本の大阪銀行から、外国為替手形千ドルを為替レート100円/ドル、10万円で買い、米国の輸出業者にその外国為替手形を郵送する例を示している。
外国為替の貿易実務を紹介した手引書に、『外国為替読本第2版』東京銀行調査部編、東洋経済新報社、1985年がある。外国為替は、国際取り決めなので、出版が古くても、実際上問題は少ない。
外国為替市場は、貿易財の輸出入取引においては、表10.1の例のように、銀行が金融取引の仲介をしている。市場の主要なメンバーは、直物および先物で、銀行間(インターバンク)市場である。1995年以降インターネットが世界的に普及し、金融派生証券も発達した。
日本の金融工学では、オプション理論の紹介が、非常に盛んになったが、日本の市場規模は欧米ほどもない。外国為替市場は、貿易財の輸送期間が船便の場合1カ月以上あるため、先物為替市場はあるが、通貨オプション、国際金利派生証券の市場利用は、日本の機関投資家、銀行には普及していない。
国内証券会社が外債の注文e ΔBw/iwを海外証券会社に発注し、円でドルを買って支払う。為替市場の円需要はD¥ =e Pw(mY )+e ΔBw/iwである。したがって、自国通貨建為替市場の均衡は、S¥=D¥、すなわち、
P(mwYw)+ΔB/i=e Pw(mY ) /P +e ΔBw/iw
によって、均衡為替レートが決まる。
2020年の金融論ノートでは、テキスト2022年の10.1図と違って、教科書的部分市場均衡図のように、外国為替需要曲線は、右下がり、外国為替供給曲線は右上がりに描いていた。縦軸は為替レートであり、為替レートは、相対価格表示であるから、自国建て為替レートの場合、¥/$である。このレートが上昇すると、1ドル買いの円貨は増加する。横軸は、1ドルの外国為替を買うための円貨を表している。
為替レートの市場均衡図を表す際、縦軸の通貨相対交換比率と横軸の為替手形という証券を買う円貨を表していることに留意しなければならない。つまり、自国通貨建ての為替レートを縦軸に、為替手形の円貨高を横軸に取って、ドル為替需要を外国為替需要関数とし、円為替供給を外国為替供給関数とした。
自国通貨建為替市場の均衡は、
S¥=D¥、すなわち、
P(mwYw)+ΔB/i=e Pw(mY ) /P +e ΔBw/iw
によって、均衡為替レートが決まる。この均衡式をそのまま図示すると、D¥=e {Pw(mY ) /P +ΔBw/iw}は、図10.1において、原点を通る直線になり、傾きのPw(mY ) /P +ΔBw/iwが、世界債券購入量ΔBwの増加で右に回転する。
外国為替供給関数は、S¥=P(mwYw)+ΔB/iであり、為替レートには反応しない。海外投資家が円債券ΔBを購入すれば、右へシフトする。
資本移動は、(1) i <iwの場合、日本人が世界債券を購入するため、資本流出e ΔBw/iwが生じる。資本流入ΔB/iは0である。(2) i >iwの場合、資本流出は0であり、資本流入ΔB/iが生じる。
(1) i <iwの場合、D¥1→D¥2、本文154ページ、図10.1、均衡点Aにおいて、世界利子率が国内利子率より高いとする。資本移動が自由であるから、資本流出e ΔBw/iwが生じる。図10.1において、ドル買いの円需要はD¥2 =e Pw(mY )+e ΔBw/iwで、右上に回転する。ドル売りの円供給はS¥1=P(mwYw)である。国内利子率iが世界利子率iwに等しくなるまで、資本流出する。均衡はB点である。
(2) i >iwの場合、S¥1→S¥2、図10.11、均衡点Bにおいて、世界利子率iwが国内利子率iより低いとする。資本移動が自由であるから、資本流入 ΔB/iが生じる。図10.1において、ドル売りの円供給はS¥2 =P(mwYw)+ΔB/iで、右にシフトする。円供給はS¥1=P(mwYw) +ΔB/iである。国内利子率iが世界利子率iwに等しくなるまで、資本流入する。均衡はC点である。
直物・先物為替市場の理論 家計部門
国内資産保有者は、期首国内債券量B、期首外国債券量Bwをもつ。家計部門は、外国商品を輸入するだけだから、輸入代金は、支払のため外貨預金DWで保有する。世界資産保有者も同様に、BW、期首外国債券量BJをもつ。世界資産保有者の輸入代金は、外貨預金DJで保有する。期末に、資金余力ΔLeのもとで、資産の効用を最大化するように、国内資産所有者の期首資産と経済活動から得た資金余力を配分する。海外資産保有者も同様である。
企業部門は、債券取引はない。輸出代金は円で受け取る。原材料の輸入は、家計と同じく、外貨預金で、支払準備をする。
銀行は、毎日、顧客から、期間構造をもつ、円の受取りとドルの支払を、各期間で、為替リスクをヘッジするため、外国為替持高操作をする。外国為替持高とは、同じ外国通貨表示の債権・債務を抜き出した表である。持高表の債権合計と債務合計の差額を外国為替持高という。同じ通貨の債権超過であれば、「買い持ち」、債務超過は「売持ち」、差額がゼロは、スクエア()という。期間構造をもつ同じ通貨の為替持高を同じ時点で、スクエアにすることを為替持高操作という。現行より先の期間に対しては、先物市場の限月に合わせて、先物の売買で、スクエアする。
為替市場では、政府および中央銀行が、為替相場の大きな変動に対して、為替相場の安定を図るために、外国為替資金特別会計の資金により、為替市場に介入操作をすることがある。これは、外国為替介入操作(平衡操作)という。財務省が外国為替操作する対象は米ドル直物為替である。先物為替は介入しない。
家計部門の直物為替と先物為替市場を介する資産の最適配分を決定する問題を解く。企業部門および銀行部門の最適化はしない。テキスト『金融論2022年』8章8. 5節、問題8.
1を適用して、2期間、家計は、円資産と外国資産に選好をもち、資産市場価格および期首資産に資金余力加えた資産価値額を所与に、資産の効用を最大にするように、資産配分を決定する。外貨預金の直物価格はe1pdw1、e2pdw1であり、先物価格は、q dw2である。預金価格pdw1、 pdw2は、中央銀行によって先決めである。したがって、e1pdw1、e2pdw1は、外国預金金利で割り引いた為替レートを表す。
問題 10.1 ( pb1,epbw1,epdw1),(b0,bw0,dw0), e1を所与として,
max u1(b1,bw1,dw1)
{b1,bw1,dw1}
subject to pb1・b1+e1 pbw1・bw1+e1pdw1 dw1=pb1・b0+e1 pbw0・bw0+e1pdw1 dw0+Δle.
解 ラグンジュ関数Lは、次のように書かれる。
L =u1(b1,bw1,dw1)-λ(pb1・b1+e1 pbw1・bw1+e1pdw1 dw1-pb1・b0-e1pbw1・bw0-e1pdw1 dw0-Δle)。
必要条件は、
∂b1 ∂bw1 ∂dw1
pb1・b1+e1 pbw1・bw1+e1pdw1 dw1-pb1・b0-e1pbw1・bw0-e1pdw1 dw0-Δle=0。
u1は、凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解の存在は明らかであるから、解をb1*、bw1*、dw1*、λ*とする。 □
先物為替市場に対する予算制約式
直物為替市場の最適化問題10.1から、最適債券量b1*、bw1*、最適預金量dw1*が求められた。先物為替市場では、自己清算取引戦略(qb2,q bw2,q dw2)・(cb2, cbw2,cdw2)=0が予算制約式となる。これにより、自己清算取引戦略であれば、いかなる契約価格q=(qb2,q bw2,q dw2)であっても、富W2=pb2・(b1*+cb2)+e2pbw2・(bw1*+cbw2)+e2pdw2( dw1*+cdw2)はヘッジされる。
仮定 10.1 (qb2,q bw2,q dw2)・(cb2, cbw2,cdw2)=0.
先物為替市場における消費者の予算集合は、
β2c(p2)={(b2,d2)∈A2∣ pb2・b2+e2 pbw2・bw2+e2pdw2 dw2≦pb2・(b1*+cb2)+e2pbw2・(bw1*+cbw2)+e2pdw2( dw1*+cdw2)}と表す。
期間2の期首における支払い可能条件を次のように仮定する。
仮定 10.2 任意の( pb2,pb2,e2pdw2)∈suppψ(q)に対して,pb2・(b1*+cb2)+e2pbw2・(bw1*+cbw2)+e2pdw2( dw1*+cdw2)≧0.
先物為替市場における消費者の最適化
期間2の効用関数から第2期の最適債券量および最適預金を決定し,それを第2期の効用関数に代入し,予想価格の分布で期待効用を取り,期待効用を最大にする先物契約量cを求める.
問題 10.2 p2≫ 0,b1*,bw1*,dw1*≧0を所与として
max
u1(b2,bw2,dw2)
{b2, bw2, dw2}
subject to pb2・b2+e pbw2・bw2+epdw2 dw2=pb2・(b1*+cb2)+e2pbw2・(bw1*+cbw2)++e2pdw2( dw1*+cdw2)。
解 L=u2(b2,bw2,dw2) - λ{ pb2・b2+e2 pbw2・bw2+e2pdw2 dw2- pb2・(b1*+cb2)-e2pbw2・(bw1*+cbw2)-e2pdw2( dw1*+cdw2) }とおく。
∂u2 =λpb2 、∂u2 =λe2pbw2、∂u2 =λe2pdw2
∂b2 ∂bw2 ∂dw2
pb2・b2+e pbw2・bw2+epdw2 dw2-pb2・(b1*+cb2)-epbw2・(bw1*+cbw2)-epdw2( dw1*+cdw2)=0。
u2は凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解をb2*(p2, cb2 , cbw2, cdw2)、bw2*(p2 , cb2, cbw2, cdw2) 、dw2*(p2 , cb2, cbw2, cdw2)、λ*とする。 □
式8.2に,b2*(p2 , cb2, cbw2, cdw2) ,bw2*(p2 , cb2, cbw2, cdw2 ) 、dw2*(p2 , cb2, cbw2, cdw2)を代入し、v(a1 , p1 )=u1 (b1*,bw1*,dw1*) +∫u2*( b2*, bw2*,dw2*) dψ(q)をえる。
問題 10.3 q≫0のもとで
max ∫u2*(b2*,bw2*,dw2*) d ψ(q),subject
to q・c=0.
{ cb2, cbw2, cdw2}
解 L=∫u2*( b2*,bw2*,dw2*) d ψ(q)-λq・cとおく。
∂∫u2*d ψ(q) =λqb2、∂∫u2*d ψ(q)=λqbw2、∂∫u2*d ψ(q)=λqdw2、
∂cb2 ∂cbw2 ∂cdw2
q・c=0。
u2は凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解をcb2*、cbw2*、cdw2*、λ*とおく。
□
問題10. 1の結果から、国内資産保有者の期間内取引債券量ΔB、ΔBwは、国内利子率、世界利子率、為替レートの関数ΔB(e,i,iw)、ΔBw (e,i,iw)である。同様に、海外資産保有者の期間内取引債券量ΔBa、ΔBawは、国内利子率、世界利子率、為替レートの関数ΔBa (e,i,iw)、ΔBaw (e,i,iw)である。
今週(2024年12月2日~12月6日)の影響度
先週のイベントは、25日G7外相会議が26日までイタリアで開かれました。28日臨時国会が召集されました。
今週のイベントは、3日NATO外相会合が4日まで、本部であります。5日OPECプラスの閣僚級オンライン会合があります。欧州安保協力機構閣僚理事会がマルタであります。6日国防担当者の国際会議マナマ対話が、8日までバーレーンであります。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
11月25日 日9月景気先行指数(改定) 109.4 109.1
9月景気一致指数改定(改定) 115.7 115.3
27日 米6~9月期実質GDP 2.8% 2.8%
GDPデフレータ 1.8% 1.9%
28日 米10月個人消費支出
0.3% 0.6%
10月個人支出 0.4% 0.4%
10月PCEコアデフレータ 2.8% 2.8%
29日 日10月有効求人倍率
1.24倍 1.25倍
10月完全失業率
2.5% 2.5%
10月鉱工業生産指数
2.0% 1.6%
11月東京都区部消費者物価指数
2.0% 2.2%
10月全国百貨店売上高 4477億円
経済統計は、次の発表があります。
予想値
12月2日 中11月製造業PMI 50.3
3日 米11月ISM製造業景気指数 47.6
5日 米10月耐久財受注 0.2%
11月ISM非製造業 55.5
10月貿易収支 -750億ドル
6日 日10月全世帯家計調査 -3.3%
10月毎月勤労統計 2.6%
10月景気動向指数一致(速報)
先行
米11月失業率 4.2%
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 9月 10月 11月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9773億92百万円 9702億1800万円
スーパー売上高 9945億1727万円 1兆235億円
百貨店売上高 4229億円 4477億円
投資(工作機械受注統計)1253億60百万円 1224億19百万円
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル) 142.76円/ドル 149.28円/ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
物価指数(総合指数)
利子率 0.25% 0.25%
株価 36833.27円 39380.89円
原油価格 71.5ドル/バレル 76.6ドル/バレル
ドバイ、現物1バレル、ドル、1月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率 2.4% 2.5%
景気動向一致指数 115.3
先行指数 109.1
米国
9月 10 月 11月
GDP(前期比) 2.8%
個人消費 3.7%
投資(耐久財受注)
輸出
輸入
貿易収支
PCEコアデフレータ 2.7%
利子率 5.0% 5.0%
株価(NY) 41096.77ドル 42454.12ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
原油価格 68.97ドル 75.85ドル
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.3%
完全失業率 4.1%
中国
9月 10 月 11月
GDP(前期比)
個人消費(小売売上高)
全国固定資産投資
輸出
輸入
貿易収支
物価指数
利子率(1年物LPR) 3.1% 3.1%
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率(四半期発表)
第13回目 2024年12月9日
要点
10.2 マンデル・フレミング開放マクロ経済モデルの枠組み(線形モデル)
現行均衡点から長期均衡点への移行
10.2.1 マンデル・フレミング・モデルCASE I
10.2.2 固定為替相場制下、財政政策の有効性・金融政策の無効性
10.2.3 変動為替相場制下、財政政策の無効性・金融政策の有効性
10.2 マンデル・フレミング開放マクロ経済モデルの枠組み(線形モデル)
現行均衡点から長期均衡点への移行
第9章における不完全雇用モデルに対応して、マンデル・フレミング・モデルの不完全雇用CASE Iにしたがうことにする。ドーンブッシュ・フィッシャー『マクロ経済学上・下改訂第4版日本版』1989にしたがった線形化をしている。投資関数、流動性選好関数は、債券価格表示の方法もあるが、一次関数で線形化している。今年度の9章2でのケインズ・線形モデルは、マンデル・フレミング・モデルの不完全雇用CASE Iと、国際貿易がない場合に対応する。
10.2.1 マンデル・フレミング・モデルCASE I
不完全雇用モデルに対応して、CASEⅠにしたがう。
各関数の定義 線形化の定義
生産関数 Y = K0αNⅠ-α
消費関数 C =C0 +c(Y-T0)
投資関数 I =I0-bi
労働供給関数 NS =w0 (CASE
Iケインズの場合)
労働需要関数 ND = P (1-α)Y/N
実質貨幣供給関数 MS = M/P
実質投機的貨幣需要関数 L2 = -hi
実質貨幣需要関数 LD = kY-hi
貿易・サービス収支関数
NX = mwYw-e Pw(mY ) /P
自国通貨建為替供給関数 S¥ = P(mwYw)+ΔB/i
自国通貨建為替需要関数 D¥ = e Pw(mY )+e ΔBw/iw
w0:協定貨幣賃金率 P:物価水準、i:国内利子率、iw:世界利子率、e:為替レート、
Y:国民所得、Yw:世界国民所得
マンデル・フレミング・モデルCASE Iの各市場均衡式
財市場 Y=C0 +c(Y-T0) +I0-bi +G0+mwYw-ePw(mY ) /P
労働市場 w0=P (1-α)Y/N
貨幣市場 M/P=kY-hi
自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔB/i=ePw(mY ) +eΔBw/iw
(1)i <iwの場合,資本流入ΔB/i=0,(2) i >iwの場合,資本流出eΔBw/iw=0とする.
未知数:Y,i,P,e 政府支出G0および租税T0は外生変数である.
貿易収支NXをNX =Ex-Im=mwYw-ePw(mY ) /P,資本収支CFをCF =ΔB/i-eΔBw/iwとおく.国際収支BPはBP=NX+CF/Pとする.
(1)i <iwの場合、資本流入ΔB/i=0、(2) i >iwの場合、資本流出eΔBw/iw=0とする。
均衡の決定
財市場均衡式はY=C0 +c(Y-T0) +I0-bi +G0+mwYw-e Pw(mY ) /Pであり、IS曲線という。
貨幣市場均衡式はM/P=kY-hi であり、LM曲線という。
IS曲線に、LM曲線の利子率i=(1/h)(-M/P+kY )を代入すると、次の総需要曲線ADが求められる。
(1-c+e Pwm/P)Y= C0 -cT0+I0+G0+mwYw-(b/h)(-M/P+kY )
労働市場均衡式からP={w 0/ (1-α)K0}Yとなる。これを総供給曲線ASという。
ASから、Y =A P
、A=(1-α)K0/w 0 をADに代入すると3市場が均衡する価格と為替レートの組み合わせであるQQ線が導かれる。
(1-c+e Pwm/P) A P
= C0 -cT0+I0+G0+mwYw-(b/h)
(-M/P+k A P )
(1-c) A P+e PwmA=U-(b/h)
(-M/P+k A P )、ここで、U=C0 -cT0+I0+G0+mwYwとする。
e PwmA=U -(1-c+kb/h) A P+(b/h)M/P。これをQQ線という。 (1)
最後に、為替市場からi <iwの場合、P(mwYw)=ePw(mY )+eΔBw/iw
Y =A Pを代入すると、P(mwYw)=ePw(m A P)+eΔBw/iw
e=P(mwYw)/{ Pwm A P+ΔBw/iw }。これをEE線という。 (2)
現在均衡点の求め方
方程式は次の4本で、未知数は、Y、P、i、eであるから、この線形モデルでは、Pの2次方程式となり、正負の実根がある。i <iwの場合、
e PwmA=U -(1-c+kb/h) A P+(b/h)M/P (1)
M/P=kY-hi
Y =A P
P(mwYw)=ePwm A P +eΔBw/iw (2)
ここでは、(1)、(2)の式から、解(P1 *,e1 *)がえられ、図10.1に図示する。QQ線とEE1線との交点は、図10. 1において、Pの2負根と1正根で、3交点がある。QQ線とEE1線との交点Aが均衡点(P1
*,e1 *)である.
長期均衡点への移行
図10.
1において、資本流出eΔBw/iw>0が生じ、資本移動の完全性によって、i =iwとなるまで続く。ΔBw/iwは0になり、利子率の長期均衡はi =iwである。EE1線の縦軸は、e軸方向に移動し、EE2線になる。
資本流出が止ったときの均衡為替レートは、ΔBw/iw =0となり、e=P
** (mwYw)/Pw(m A P** ) =mwYw/Pwm A である。これは、購買力平価説の表現になる。
資本流出が止ったとき, CASE Iでは、不完全雇用を仮定しているから、労働市場では、不完全雇用の状態にあるかもしれない。Y
**=A P
**である。
労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P f が長期均衡値である。P={w 0/ (1-α)K0}YをP=AYとおき、P Y=(1/2)( T+m/w0) w0/(1-α)をP Y=Bとおくと、P 2=A B。
完全雇用均衡為替レートは、資本流出が止っているから、ΔBw/iw =0となり、e=P f (mwYw)/Pw(m A P f ) =P f (mwYw)/Pw(m Y f )である。これは、購買力平価説の表現になる。
貿易収支はNX=mwYw-e Pw(mY ) /P=mwYw-{P f (mwYw)/Pw(mY f )}Pw(mY )/P f =mwYw-mwYw=0であるから、このとき、NX=0となり、資本収支CF/Pも0であるから、国際収支は0となり国際均衡する。
EE線は、EE1からEE2に移行する。現在均衡点Aは均衡点Bに移行する。資本流出で、完全雇用均衡点Cに移行することはできない。
その結果、1)国民所得は減少する。
2)利子率は世界利子率になる。
3)物価は下落する。
4)為替レートは減価する。ただし、この線形モデルでは、オーバーシュートは比較静学なので発生しない。
10.2.3 変動為替相場制下、財政政策の無効性・金融政策の有効性
2)金融政策は有効である
図10.14の現在均衡点Aにおいて、世界利子率iwと国内利子率iは一致しているとする。金融当局は、金融政策によって、ΔM増加させる。QQ線は、QQ1からQQ2に移行する。EE1線は、当局の為替介入政策がないから、そのままである。国内利子率iは、金融緩和によって、低下するから、i<iwとなる。資本流出が始まるから、EE線は、EE1から点線EE2に移行し、均衡点は、QQ2線との交点Bとなる。i=iwとなれば、資本流出が止まり、水平線EE3線とQQ2線との交点Cとなる。点Cは、完全雇用水準とは限らない。金融政策の最終目標が、完全雇用であれば、当局は、政策手段を取って、完全雇用均衡価格水準P fになるまで、さらに、貨幣供給量を増加させる。QQ線が、EE3線と完全雇用均衡価格水準P fで交わる交点Dまで、貨幣供給量を増加させる。QQ線が、右へシフトし、国内利子率は、再び、世界利子率より下がり、為替レートは増価する。資本流出が始まり、為替レートはオーバーシュートして、e3にもどる。
その結果、1)国民所得は増加する。
2)利子率は世界利子率になる。
3)物価は上昇する。
4)為替レートは現在均衡点Aから点Bに移り、均衡点Cに移行するとき、減価する。均衡点Cから完全雇用均衡点Dに移行するとき、
為替レートはオーバーシュートして、もどる。
今週(2024年12月9日~12月13日)の影響度
先週のイベントは、12月3日尹韓国大統領が「非常戒厳」を発令、国軍が国会議事堂に入りました。4日未明、解除されました。7日尹大統領の謝罪声明の後、国会で、尹大統領弾劾議案が採決に入りましたが、与党議員が退場し、採決に必要な議員数に満たず、廃案になりました。8日シリアのアサド大統領は、航空機でダマスカスを離れ、家族でロシアに亡命しました。反政府軍がダマスカスに入りました。シリア政府は崩壊しました。
今週のイベントは、ノーベル平和賞授賞式がオスロであります。クリスマス・新年前で、国際政治活動は、低調です。
シリアは、「アラブの春」以前の政府に、平和裏に戻る可能性が高い。イラン革命防衛隊、ヒズボラ、ロシア軍事基地の影響が絡んで、14年間、諸派入り乱れた内戦が続きました。それらの勢力は、ハマス奇襲に加担し、イスラエルが、イラン、イラン革命防衛隊、ヒズボラを攻撃することにより、戦争継続能力に打撃を与えたことが、今回の反転攻勢の勝因です。アサド政権では、内戦で、国内生産がとまり、経済崩壊していた。ロシア・イランの経済援助で政府を維持していた。政府軍には、反撃余力が払底していた。
政権崩壊で、トルコ国境のシリア難民300万以上が、帰還できる見通しが立ちます。シリア国境で、トルコ大地震で、災害復旧に財政負担が増したこともありました。アサド政権崩壊は、トルコにとっては、軍事・財政負担が逓減でき、国内経済を立て直すことができます。イランは、イスラエルへの手がかりを失い、イスラエル包囲網は、崩れました。イランは、トランプ氏4年間は、海外支援は中断、国内経済立て直しをするでしょう。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
12月2日 中11月製造業PMI
50.3 51.5
3日 米11月ISM製造業景気指数 47.6 48.4
5日 米10月耐久財受注 0.2% 0.3%
11月ISM非製造業 55.5 52.1%
10月貿易収支 -750億ドル -738億ドル
6日 日10月全世帯家計調査 -3.3% -1.3%
10月毎月勤労統計 2.6% 2.6%
10月景気動向指数一致(速報) 117.6 116.5
先行 108.8 108.6
米11月失業率 4.2% 4.2%
経済統計は、次の発表があります。
予想値
12月9日 日7~9月GDP改定値 1.0%
GDPデフレータ
2.5%
10月国際収支経常収支 2兆3000億円
貿易収支 -2950億円
11月景気ウォッチャー調査 47.1
中11月消費者物価指数 0.4%
10日 日11月工作機械受注統計
中11月中国貿易統計
11日 米11月消費者物価指数 2.7%
12日 ECB理事会政策金利 3.15%
13日 日日銀短観大企業製造業先行 12
業況 13
大企業非製造業先行 28
業況 33
日10月鉱工業生産指数 1.6%
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 9月 10月 11月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9773億92百万円 9702億1800万円
スーパー売上高 9945億1727万円 1兆235億円
百貨店売上高 4229億円 4477億円
投資(工作機械受注統計)1253億60百万円 1224億19百万円
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル) 142.76円/ドル 149.28円/ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
物価指数(総合指数)
利子率 0.25% 0.25%
株価 36833.27円 39380.89円
原油価格 71.5ドル/バレル 76.6ドル/バレル
ドバイ、現物1バレル、ドル、1月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率 2.4% 2.5%
景気動向一致指数 115.3 116.5
先行指数 109.1 108.6
米国
9月 10 月 11月
GDP(前期比) 2.8%
個人消費 3.7%
投資(耐久財受注) -0.7% 0.3%
輸出
輸入
貿易収支 -844億ドル -738億ドル
PCEコアデフレータ 2.7%
消費者物価指数 2.4% 2.6%
利子率 5.0% 5.0%
株価(NY) 41096.77ドル 42454.12ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
原油価格 68.97ドル 75.85ドル
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.3%
完全失業率 4.1% 4.2%
中国
9月 10 月 11月
GDP(前期比)
個人消費(小売売上高)
全国固定資産投資
輸出
輸入
貿易収支 5826億元 6791億元
物価指数
利子率(1年物LPR) 3.1% 3.1%
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率(四半期発表)
第14回目 2023年12月16日
要点
10.3 マンデル・フレミング・モデルCASE Ⅱ
10.3.1 CASE Ⅱ現行均衡点から長期均衡点への移行
10.3.2 CASE Ⅱ・金融政策の有効性
10.4 貨幣経済一般均衡論にしたがうMFEX・モデル
10.3 マンデル・フレミング・モデルCASE
Ⅱ
10.3.1 CASE Ⅱ現行均衡点から長期均衡点への移行
マンデル・フレミング・為替モデル(MFEXモデル)は、ケインジアンの不完全雇用状態CASE Iを10.
2節で、分析した。本節は、ケインジアンの完全雇用状態CASE
Ⅱを分析する。変更点は、労働市場が完全雇用で定義される。労働者の予算制約式に貨幣残高が入る貨幣モデルになっている。テキストでは、p.
169問題Ⅱおよび例題において、1期間モデルで、最適労働供給量(1/2)(T+m/w)を求めている。ここでは、テキスト2023年p.
181例題9.2の2期間モデルから、価格予想は静態的予想、すなわち、2期間変化しないと仮定し、最適労働供給量をT/2-m0/4 wとする。
CASE Ⅱの各市場均衡式
財市場 Y=C0 +c(Y-T0) +I0-bi +G0+mwYw-ePw(mY ) /P
労働市場 T/2-m0/4 w=P (1-α)Y/w
貨幣市場 M/P=kY-hi
自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔB/i=ePw(mY ) +eΔBw/iw
未知数:Y,i,P,e 政府支出G0および租税T0は外生変数である。
(1)i <iwの場合、資本流入ΔB/i=0、(2) i >iwの場合、資本流出ΔBw/iw=0とする。
総需要曲線ADは、
(1-c+e Pwm/P)Y= C0 -cT0+I0+G0+mwYw-(b/h)(-M/P+kY )
総供給曲線ASは、労働市場均衡式から
T/2-m0/4 w=P (1-α)Y/wとなる。
ASから、Y =B/P
、B=(T w/2-m0/4)/ (1-α)を、ADに代入すると3市場が均衡する価格と為替レートの組み合わせであるQQ線が導かれる。
e={ U P+(b/h)(M-kB)-(1-c) B }/Pwm P =U/Pwm+{(b/h)M-〔(b/h)k+1-c〕B
}/Pwm P 。 (5)
EE線は、為替市場からi <iwの場合、P(mwYw)=ePw(mY )+eΔBw/iw
Y =B/Pを代入すると、P(mwYw)=ePw(m B/P)+eΔBw/iw
e=P(mwYw)/{ Pw(m B/P )+ΔBw/iw }=P 2 (mwYw)/{Pwm B+(ΔBw/iw) P }。 (6)
現行均衡点の求め方
方程式は、次の4本で、未知数は、Y、P、i、eである。
Y=C0 +c(Y-T0) +I0-bi +G0+mwYw-ePw(mY ) /P
T/2-m0/4 w=P (1-α)Y/w
M/P=kY-hi
P (mwYw)=ePw(mY ) +eΔBw/iw
(5)式と(6)式から、eを消去すると、Pの3次方程式になる。
P
3 (mwYw) Pwm-(ΔBw/iw) U P 2-[Pwm B U-(ΔBw/iw) {(b/h)(M-kB)-(1-c) B
}]P-Pwm B {(b/h)(M-kB)-(1-c) B
}=0
この方程式には、1正根と2負根がある、この1正根をP
*とする。
現行均衡点は、Y *=B/P
*、i*=(kY
*-M/P *)/h、e*= P
* (mwYw)/{ Pw(m B/P
*)+ΔBw/iw }。
長期均衡への調整方法
国内利子率が、世界利子率と乖離していると、資本移動の完全性によって、資本移動が生じ、国内利子率が、世界利子率に近づく。図10.13において、軸P=-(Pwm B)/(ΔBw/iw)が、資本流出ΔBw/iwが止まるまで、右に移動する。極限では,縦軸P=0になり、(6)式はe=P 2 (mwYw)/Pwm Bとなり、原点を通る2次曲線になる、これをE3E3とする。長期的には、交点B(P **,mwYw/PwmA)に収束する。
P **は、3次方程式P 3 (mwYw) Pwm-Pwm B UP-Pwm B {(b/h)(M-kB)-(1-c) B
}=0の正根である。
長期均衡点
利子率の長期均衡はi =iwである。資本流出が始まると、縦軸の境界線が右に移動し、軸P=0になる。均衡点は、点Aより、為替レートは減価し、価格は下落する。最終的に、EE線は、E1E1から原点を通る二次曲線E3E3に移行する。現在均衡点Aは長期均衡点Bに移行する。
労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P
**が長期均衡値である。 P
** Y=(T w0/2-m0/4)/(1-α)から、Y f =(T w0/2-m0/4)/(1-α)
P **。
長期均衡為替レートe**は、資本流出が止まるとき、ΔBw/iw =0となり、e=P ** 2 (mwYw)/Pwm Bである。
図解 10.
2節のQQ線およびEE線は、変更された。解の存在と金融政策の効果は、変更はないが、直感的な判断では、CASE
Iよりは、物価、為替レートに対する金融政策の効果は小さく見える。総供給曲線ASは、P Y=(T w0/2-m0/4)/(1-α)と表せ、双曲線であるから、物価と国民総生産はトレード・オフの関係がある。
QQ線は、
e=U/Pwm+{(b/h)M-〔(b/h)k+1-c〕B
}/Pwm P。 (5)
図10. 15に示すように、縦軸がP=0、横軸がe=U/Pwmの双曲線である。
EE線は、
e=P 2 (mwYw)/{Pwm B+(ΔBw/iw) P }。 (6)
図10. 15において、縦軸P=-(Pwm B)/(ΔBw/iw)および横軸e=0の双曲線と直線e=(mwYw iw/ΔBw ) P-Pwm BmwYw(iw/ΔBw ) 2を合成した曲線になる。
図10. 15において、QQ線とE1E1線が、3つの交点で交わっている。第1象限の交点が現行解である。資本流出が0に向かうにつれて、縦軸P=-(Pwm B)/(ΔBw/iw)は右へ平行移動する。直線は傾きが大きくなる。
図10. 16において、資本流出が終わるとき、原点を通る2次曲線E2E2線とQQ線の交点Bで均衡し、点Aより、物価が下落、為替レートが減価する。
その結果、1)国民所得は減少する。
2)利子率は世界利子率になる。
3)物価は下落する。
4)為替レートは減価する。
CASE Iと違って、労働市場は、完全雇用が維持される。経済は、資本移動により、縮小した。
CASEⅡの金融政策
金融当局が金融政策を実施すると、貨幣供給がΔM増加する。(5)式は、
e=U/Pwm+{(b/h)(M+ΔM)-〔(b/h)k+1-c〕B
}/Pwm P. (5)′
となる。
i <iwの場合、次の為替市場均衡式は変化しない。
e=P(mwYw)/{ Pw(m B/P )+ΔBw/iw }。 (6)
(5)′および(6)から、eを消去すると次の3次方程式になる。
P
3 (mwYw) Pwm-(ΔBw/iw) U P 2-[Pwm B U-(ΔBw/iw) {(b/h)(M+ΔM-kB)-(1-c) B
}]P-Pwm B {(b/h)(M+ΔM-kB)-(1-c) B
}=0。
この方程式は、1正根と2負根がある。
現行均衡点
正根をP
*とする。他の現行均衡点は、Y
*=B/P
*、i*=(kY
*-(M+ΔM)/P *)/h,e*= P
* (mwYw)/{ Pw(m B/P
*)+ΔBw/iw }となる。
長期均衡点
利子率の長期均衡はi =iwである。金融政策を実施したので、資本流出が始まると、縦軸の境界線が右に移動し、二次曲線E3E3線となる。図10.16において、QQ線は、Q1Q1からQ2Q2にシフトする。現在均衡点Aは長期均衡点Bに移行する。
労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P
**が長期均衡値である。 P
** Y=(T w0/2-m0/4)/(1-α)から、Y f =(T w0/2-m0/4)/(1-α)
P **。
長期均衡為替レートe **は、資本流出が止まるとき、ΔBw/iw =0となり、e **=P ** 2 (mwYw)/Pwm Bである。
図解 EE線QQ線によって均衡点(p,e)を示す図10. 17において、金融政策により、ΔM増加させるとする。QQ線は、Q1Q1からQ2Q2に移行する。現行均衡点Aは均衡点Cに移行、二次曲線との交点、長期均衡点Dに移行する。
その結果、1)国民所得は増加する。
2)利子率は世界利子率になる。
3)物価は上昇する。
4)為替レートは現在均衡点Aから均衡点Cに移行するとき、減価する。さらに、均衡点Cから長期均衡点Dに移行するとき、
為替レートは減価する。
CASE Iと違って、労働市場は、完全雇用が維持される。経済は、金融政策により、物価のオーバーシュートを生じ、物価が現行点Aと比較すると期均衡点Dでは、物価が上昇し、国民所得は拡張する。
10.4 貨幣経済一般均衡論にしたがうMFEX・モデル
第11回目2024年11月25日において、
9章9.1 古典派マクロ経済モデル
9.1.1 古典派マクロ経済実質モデルの市場均衡
9.1.2 古典派マクロ経済名目モデルの市場均衡
を説明した。貨幣経済一般均衡論にしたがうMFEX・モデルは古典派名目モデルが対応する。以下は、9.1.2の名目モデルを基礎に、名目MFEX・モデルをのべる。
2期間モデルが新古典派の場合になる。財市場の国民総生産Yは、生産関数に労働需要量を代入すると決まる。消費支出Cは、実質賃金率w/P、貯蓄残高、利子率、租税の関数になる。投資関数は新古典派に変える。政府支出は、外生変数である。輸出・輸入は、ケインズをそのまま使う。労働市場において、企業の労働需要はケインズと同じく、新古典派の利潤最大化で求められる。新古典派の労働供給は、2期間モデルから求められる。価格予想は、静態予想を仮定する。
完全雇用CASE Ⅱ
新古典派の労働市場では、労働者は時間給で働く。働きたい労働者はすべて雇用される状態を完全雇用と定義する。ケインズの協定賃金と時間給の労働者の二分はない。労働の需要関数は、ケインズは利潤最大化原則を採用しているから、新古典派と変わらない。
CASEⅡの場合、労働市場は、完全雇用となる。企業の労働需要関数w=P (1-α)Y/Nから、N=P (1-α)Y/wである。新古典派労働市場の均衡は、T/2-m/4 w=P (1-α)Y/wとなる。したがって、総供給関数ASは、P Y={ T/2-m/4 w }w/(1-α)と表せ、双曲線である。
CASE IからCASE Ⅱへの長期均衡価格
CASE IおよびCASE Ⅱは、前者の総供給曲線は原点を通る直線であり、後者は原点に対して凸の直角双曲線であるから、交点が一意に決まる。すなわち、P={w / (1-α)K0}YをP=AYとおき、P Y= (T/2-m0/4 w)
w/(1-α)をP Y=Bとおくと、P 2=A B。ゆえに、不完全雇用経済状態から、経済政策の誘導があれば、完全雇用に到達し、長期均衡価格は、P =√A Bとなる。
債券市場は、家計は、国内債券と外国債券を需要する。家計は、Tobinが示したように、国内債券と外国債券に、収益率0の貨幣を加えた資産選好をする。流動選好関数は、一部は貨幣で保有され、家計の取引需要および予備的需要に、資産としての貨幣需要を加えたkPY-Phiになる。
貨幣経済一般均衡論にしたがうMFEX線形モデルに、変更すると、これまでの最適化モデルから、以下の体系に、変更される。
新古典派MFEX線形モデルは、ミクロ最適化の基礎から、集計できる。ケインズ体系のように、集計不完全なマクロ変数はない。経済取引は、個別の取引の売買・契約で構成されるから、一般均衡理論のように、需要関数、供給関数が、価格と利子率の関数となる。
すでに、労働市場は、完全雇用CASE Iによって、貨幣経済に対応している。財市場の消費需要関数および投資関数が、家計の最適化、企業の総価値の最適化で計算される。それぞれ、2期間モデルで、計算されるが、価格予想は、完全予見である。今年度の古典派モデルでは、貯蓄は、株式に投資される。銀行システムは仮定していない。新古典派MFEX線形モデルは、銀行システムを仮定している。しかし、家計部門の直物・先物為替市場の理論を金融論説明ノート12回に載せている。自国通貨建為替市場において、国内債券市場と海外債券市場のフロー取引が決済されている。国内債券市場と海外債券市場はストック市場で取り扱い、それぞれの債券均衡価格を決定すべきかもしれない。
新古典派MFEX線形モデル体系
財市場 Y=C(w/P)+I+mwYw-ePw(mY ) /P
労働市場 T/2-m/4 w=P (1-α)Y/w
貨幣市場 M/P=kY-hi
自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔB/i=ePw(mY ) +eΔBw/iw
コブ・ダグラス生産関数 Y=K0 αN 1-α
財市場の均衡式 Y = C(w/P) + I
消費需要関数 C(w/P)= (w/P)(IpT-N)
投資需要関数 I=αPY/ρ-K0
ρ:配当率
労働市場の均衡式 (m1/P)/2(IpT/2-N)=(1-α)Y/N
労働供給関数
w/P=(m1/P)/2(IpT/2-N)
Ip:労働者数、T:総労働時間、N:労働時間
労働需要関数 w/P=(1-α)Y/N
フロー債券市場の均衡式
m1 =Lo/(1+rl)
貸付資金供給関数 Ls=m1=Σi=1Ip m1 i
投資資金需要関数 uI=Lo/(1+rl)
u:投資財価格、I:投資量、rl:利子率
Lo:金融請求権(債券)=次期の元利合計uI(1+rl)
ストック貨幣市場の均衡式 M=kPY+m1
貨幣供給関数 Ms=M
貨幣需要関数 Ld=kPY+m1
未知数: 実質賃金率w/P、利子率rl、物価水準P
以上の新古典派MFEX線形モデルは、テキストのMFEX線形モデルCASE Ⅱのように、現行解、長期解、図解、金融政策の各解を求められる。
今週(2024年12月16日~12月20日)の影響度
先週のイベントは、10日シリアで、暫定政府が成立し、来年3月まで、政権運営をします。10日オスロでノーベル平和賞授与式があり、日本原水爆被災者団体協議会が受賞しました。14日午後、韓国尹大統領の弾劾訴追案決議が可決しました。15日包括的・先進的環太平洋経済連携協定に英国が加盟し、12カ国になりました。
今週のイベントは、16日ショルツ独首相の信任投票があります。17日米連邦公開市場委員会が18日まであります。18日日銀政策委・金融政策決定会合が19日まであります。19日プーチンの直接対話と年末記者会見があります。EU首脳会議があります。21日臨時国会が閉会します。
トランプ世界経済分断政策をしのぎつつ、世界経済起動開始
次期米大統領トランプ氏の通商政策および地球温暖化離脱によるエネルギー政策が始まります。省エネ、脱化石燃料、再エネ振興策はなく、石炭・原油・シェールガス・LNGを掘って掘りまくると声明を出しました。米国内のそれらの価格は、国際価格と連動します。世界の化石燃料・食糧価格は、産出国内では、国内価格が低価格で販売されます。その国の経済保障のため、どの国でも、国際価格で国内販売する国はありません。米国メジャーは、米国に、経済社会保障規制がない国です。ウクライナ戦争に端を発した高インフレーションの頭を押さえることがない。OPECプラスの寡占価格に同調して、米国メジャーは、米国内価格は、世界インフレーションに同期しています。さすがに、車社会の米国消費者は、降参しました。トランプ氏の「掘って掘りまくる。」政策により、ガソリン価格が下がるのは賛成であるし、アパラチアの石炭採掘業者は、息を吹き返す。ロシアがウランを売らんと声明を出しましたが、これは、トランプ氏には効果はない。原発・核兵器開発は主張していない。
関税は、すべての輸入財に、10%から25%、特定国には100%をかけると主張しています。同盟国にも、不法移民・麻薬等の取り締まりなど、米軍の安全保障を取引し、関税率を加減する政策です。同盟国すら、対抗関税をかける国もあります。中国からの輸入は、米国民の生活必需品が多く含まれているので、関税分値上げになり、米国低所得者には、消費税を10%から100%の範囲でとられる増税効果があります。高所得者、企業には、所得税・法人税を減税します。
トランプ氏の第2期目4年間は、社会保障制度が、雀の涙で、ホームレスが増大、貧富の差が拡大します。中南米およびアフリカ諸国と同じ社会現象が蔓延するのは確実です。麻薬・犯罪が激増するのは目に見えています。アメリカ経済は、リーマン・ショックで、成長産業だった金融業・不動産業が成長力を失い、製造業は、中国・アジアを中心に、産業空洞化を招きましたが、第1期トランプ時代で、金融業・不動産業、製造業は不振のままでした。米国民の借金体質は、自己破産し、クレジット・カードが使えない国民が増え、現金体質に変わりました。バイデン時代で、家賃・ガソリン・生活必需品の高インフレーションが、米国民の中低層を襲い、生活苦に落ちいっている。トランプ氏の国内減税政策と関税政策で、献金をした高所得者は、減税還付金を得、マスク氏の様に、60兆円に資産が評価され、人生絶好調と高笑いをしている。トランプ氏は、低所得者にその関税増収分を、トランプ氏の嫌悪する社会保障に回すわけでもない。トランプ氏が、世界経済をリードすることはないので、世界各国は、米国経済・市場に期待はできず、ブロック経済でのしのぎをしっかりやって、米国抜き世界貿易体制の連携・協力関係を強化することになる。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
12月9日 日7~9月GDP改定値 1.0% 1.2%
GDPデフレータ
2.5% 2.4%
10月国際収支経常収支 2兆3000億円 2兆4569億円
貿易収支 -2950億円 -1557億円
11月景気ウォッチャー調査 47.1 49.4
中11月消費者物価指数 0.4% 0.2%
10日 日11月工作機械受注統計
中11月中国貿易統計 6928億元
11日 米11月消費者物価指数 2.7% 2.7%
12日 ECB理事会政策金利 3.15% 3.15%
13日 日日銀短観大企業製造業先行 12 13
業況 13 14
大企業非製造業先行 28 28
業況 33 33
日10月鉱工業生産指数 1.6% 1.4%
経済統計は、次の発表があります。
予想値
16日 日10月機械受注統計
中11月固定資産投資
小売売上高 5.1%
鉱工業生産指数 5.4%
17日 米11月小売売上高 0.5%
18日 日11月貿易収支 ‐6866億円
19日 日銀政策金利 0.25%
米FRB政策金利上限 4.5%
実質GDP 2.8%
GDPデフレータ 1.9%
個人消費 3.5%
20日 日11月全国消費者物価指数 2.8%
米11月個人消費支出 2.9%
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 9月 10月 11月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9773億92百万円 9702億1800万円
スーパー売上高 9945億1727万円 1兆235億円
百貨店売上高 4229億円 4477億円
投資(工作機械受注統計)1253億60百万円 1224億19百万円
輸出
輸入
貿易収支
為替レート(円/ドル) 142.76円/ドル 149.28円/ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
物価指数(総合指数) 2.5% 2.3%
利子率 0.25% 0.25%
株価 36833.27円 39380.89円
原油価格 71.5ドル/バレル 76.6ドル/バレル
ドバイ、現物1バレル、ドル、1月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)
完全失業率 2.4% 2.5%
景気動向一致指数 115.3
先行指数 109.1
米国
9月 10 月 11月
GDP(前期比) 2.8%
個人消費 3.7%
投資(耐久財受注) -0.7% 0.3%
輸出
輸入
貿易収支 -844億ドル -738億ドル
PCEコアデフレータ 2.7%
消費者物価指数 2.4% 2.6%
利子率 5.0% 5.0% 4.75%
株価(NY) 41096.77ドル 42454.12ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10
原油価格 68.97ドル 75.85ドル
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.3%
完全失業率 4.1% 4.2%
中国
9月 10 月 11月
GDP(前期比)
個人消費(小売売上高)
全国固定資産投資
輸出
輸入
貿易収支 5826.2億元 6791億元 6928億元
物価指数 0.7% 0.4%
利子率(1年物LPR) 3.1% 3.1%
株価(上海)
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率(四半期発表)
第15回目 2024年12月23日
要点
11. 動学理論
11.1 ケインジアン・モデルの短期変動
動学化、乗数理論と投資の加速度原理
11. 動学理論
M=F・EX・連続モデルは、調整型の比較動学モデルである。CASEⅠ不完全雇用およびCASEⅡは、ともに、ケインジアン・モデルが基本になっている。テキスト『金融論2023年』では、制度部門別マクロ・モデルを各部門の最適計算をし、主体最適化を各市場で集計、一般均衡論的均衡解を求める方向で、ケインジアン・モデルを置き換えて来た。
モデル内から生じる内生的成長要因、投資、資本蓄積、資産形成、技術進歩などが、動学化され、モデル与件の外生的成長要因、人口、資源制約、環境制約が、外的な動学化を受ける。それらを合わせて、経済変動が生じる。
ケインズ以来、マクロ経済学が形成され、その動学が短期変動をモデル内から、生じさせた、乗数と加速度原理の関係から、数理モデルを構成し、乗数の範囲により、成長、循環運動を発生させた。それが、ハロッド・ドーマー経済成長論となった。新古典派は、移行均衡はなく、完全均衡の長期変動を調べ、貯蓄=投資が消滅する長期均衡を動学モデルで表す。
M=F・EX モデルは、基本的にケインジアン・モデルであるために、動学化して、CASEⅠ不完全雇用状態が、CASEⅡ完全雇用に到達する経路を示せても、新古典派の動学モデルではないから、移行均衡と長期均衡は同じではない。前者は、モデルの不安定が残ったままであり、後者は、均斉的で、安定的である。
11. 1節において、M=F・EX ケインジアン・モデルを、動学化して、CASEⅠ不完全雇用状態が、CASEⅡ完全雇用に到達する移行均衡を示し、安定性を調べる。
11.2節において、新古典派実質モデルを動学化して、長期均衡を調べる。
11.3節において、貨幣経済、制度部門別マクロ・モデルを各部門の最適計算をし、主体最適化を各市場で集計、一般均衡論的均衡解を求めきた。新古典派貨幣経済変動を最適成長論の観点から、研究する。
11.1.1 ケインジアン・モデルの短期変動
テキスト9.2において、線形モデルは、財・サービス市場、労働市場と貨幣市場の3つの市場で構成された。政府部門は、省く。労働市場には、失業が存在でき、他の2市場は、市場均衡する。
ケインズ・閉じたマクロ経済モデルの各市場均衡式
財市場 Y =C(Y)+I(i)
フロー または S(Y)= I(i)
労働市場 NS(w0)=ND(w0/P)
ストック 貨幣市場 M/P =kY+L2 (i)
未知数:Y,i,P
各関数の定義 線形化の定義
生産関数 Y = K0αNⅠ-α
消費関数 C = C(Y) C=cY
投資関数 I = I(i) I=I0
労働供給関数 NS
= NS(w0) NS=w0
労働需要関数 ND = ND(w0/P) ND=P(1-α)Y/N
実質貨幣供給関数 MS = M/P
実質投機的貨幣需要関数 L2 = L2 (i) L2=-hi
実質貨幣需要関数 LD = kY+L2 (i) LD=kY-hi
ここで,w0は協定貨幣賃金率,Pは物価水準である.
線形ケインズ体系を動学化するために、財市場均衡式に、時間tを各変数に入れる。労働市場は、失業があり、不均衡市場である。貨幣市場は、3市場の総需要=総供給となるWalras法則で、自動的に均衡する。
財市場 Y(t)=C(t)+I(t) (1)
労働市場 NS(w0)=ND(w0/P(t))
貨幣市場 M(t)/P(t) =kY(t)+L2
(i(t))
Walras法則:各市場の超過供給総計は、恒等式的に0である。
{Y(t)-C(t)-I(t)}+{NS(w0)-ND(w0/P(t))}+{M(t)/P(t) -kY(t)-L2 (i(t))}≡0
線形ケインズ体系で、まず、財市場が動学できる。
投資関数I(t)は、期間tにおいて、計画されているから、I0で、定数であり、独立投資とも呼ばれる。内容は、設備更新の置換投資である。
11.1.2 乗数理論と投資の加速度原理
英国の経済学者の動学モデルは、ニュートン力学のとらえ方に従っている。国民所得の時間的推移を経済量が運動する軌跡ととらえ、国民所得Yが、期間tにおいて、実現すれば、その量をY(t)と表す。
2期間の差ΔY(t-1)=Y(t)-Y(t-1)は、国民所得の1期間あたりの速度である。速度の差ΔY(t-1)-ΔY(t-2)は、国民所得の1期間あたりの加速度である。
加速度原理:機械設備は、技術進歩がなく、旧来の技術をもちいた設備が、財の消費需要の増加分ΔC(t-1)により、増加させられる。
ΔC(t-1)=C(t)-C(t-1)=cY(t)-cY(t-1)=c{Y(t)-Y(t-1)}=cΔY(t-1)
となるから、加速度原理にしたがった誘発投資I(t)は、国民所得の増分ΔY(t-1)に一定の比例定数v(一定の加速度)で比例する。v=ΔY(t-1)-ΔY(t-2)。ゆえに、誘発投資I(t)は
I(t)=vΔY(t-1) (2)
となる。(1)と(2)から、独立投資が0の場合
Y(t)=C(t)+I(t)=cY(t)+vΔY(t-1) =cY(t)+v{Y(t)-Y(t-1)}
Y(t)について解くと、
Y(t)={v/(v-(1-c))} Y(t-1)。
差分方程式になる。g={v/(v-(1-c))}-1とおけば、v>(1-c)ならば、g>0で、国民所得は成長率gで、幾何的成長をする。v<(1-c)ならば、g<0で、時間で、振動する。
ケインズモデルは、乗数cと加速度定数vで、国民所得の時間経路、軌跡を表すことができる動学モデルになった。
11.1.3 ハロッド・ドーマー・モデル
ハロッド・ドーマー・モデルによる経済成長論を説明する。時間は,離散的時間と連続的時間があるが,離散的時間をとる.
ハロッド・モデルでは,財市場は,ケインズの有効需要理論を取る.消費需要は,国民所得Yに依存し,限界消費性向ΔC/ΔY=cは,一定である.貯蓄Sは,所得から消費を差し引く残差で定義する.S≡Y-C=Y-c Y=(1-c)Y=sY.s=1-cは限界貯蓄性向で一定である.
財市場 Yt =Ct +It または St=It
労働市場(完全雇用) LtS=LtD
生産関数(固定係数型:レオンチェフ) 完全操業 Yt=Kt/v=Lt/u
消費関数 Ct=C (Yt) Ct=cYt
貯蓄関数 St=S(Yt) St=Yt-Ct=(1-c) Yt=sYt
投資関数 It=Kt+1-Kt
労働供給関数 労働供給の自然成長率n(一定) (Lt+1 -Lt)/ Lt = n
線形1階差分方程式 Lt+1=(1+n
)Ltの解は Lt=L0(1+n)t
労働需要関数 生産関数よりLt =u
Yt
市場は,財市場,労働市場,貨幣市場の3市場ある.新古典派にしたがって,ワルラス法則から,
{Y(t)-C(t)-I(t)}+{NS(t)-ND(t)}+{M(t)/P(t) -kY(t)}≡0.
貨幣市場が自動的に成立する.
現行解 財市場の均衡式St=Itから,St=sYt,It=Kt+1-Kt=v(Yt+1 -Yt)を代入する.
sYt=v(Yt+1 -Yt).g= s/v とおいて,gを生産物の成長率,適正成長率という.
(v+s)/v=1+gと表せるから,財市場を均衡させる生産物Ytは,
Yt+1=(v+s)/v Yt=(1+g)
Ytの解,Yt=Y0(1+g)t . (1)
労働市場の均衡式 L0(1+n)t=u Yt から,
Yt=(L0/u )(1+n)t=Y0(1+n)t . (2)
(1)式と(2)から,財市場の生産物と労働市場の生産物が,一致すれば,
Y0(1+g)t=Y0(1+n)tとなり,適正成長率と自然成長率が一致し,g=nで経済は成長する.この成長率を均斉(steady state)成長率という.
11.2 新古典派実質成長モデル
古典派マクロ経済モデルの枠組み
完全雇用モデルに対応して、『金融論2023年』pp.
150-151のように、例題1(完全雇用CASE Ⅱ)にしたがうことにする。
政府部門がない場合、古典派マクロ経済モデルの各市場均衡式は次のように表せる。
古典派モデルの各市場均衡式
財市場 Y = C(w/P) + I(i)
フロー 労働市場 NS(w/P) = ND(w/P)
債券市場 S(i,Y) = I(i)
ストック 貨幣市場 M =kPY
未知数:実質賃金率w/P、実質利子率 i、物価水準 P
各関数の定義
実質生産関数 Y = F(K0,N)
実質消費関数 C = C(w/P)
実質投資関数 I = I(i)
実質貯蓄関数 S = S(i,Y)
実質労働供給関数 NS = NS(w/P)
実質労働需要関数 ND = ND(w/P)
名目貨幣供給関数 MS = M
名目貨幣需要関数 MD = kPY*
図をもちいて、古典派マクロ経済モデルの3つの変数w/P、i、物価水準Pがどのように決まるかを説明する。
今年の本ノートでは、古典派マクロ経済線形モデルの、実質モデルと名目モデルを示し、現行解を求めている。
教室の最後に
線形モデルは、短期分析、連続モデルは中・長期モデルの実証分析に応用できる。M=F・EX・連続モデルは、開放モデルの中長期の推計にもちいれば、予測精度があがるだろう。連続モデルの実証は、統計学的にむつかしいが、短期モデルと合わせて、経験を積み重ねていきたい。
モデルでは、貨幣市場だけが、資産市場になっているが、貸付資金、債券、株式、外債のストック資産市場の均衡を定式化する研究をしている。2024年度は、市場調整型動学ではなく、制度部門別最適化モデルで、最適成長型動学に拡張する準備をしている。以上の研究成果を反映した『金融論2022年』のテキストは、改訂が多いので、2024年9月開講まで、準備した。
『金融論2024年』の説明ノートは、ミクロ・マクロにおいて、貨幣経済一般均衡論にしたがう制度部門最適化、集計した貨幣経済マクロ線形モデルの現行解を求めている。11章において、経済成長論・景気循環論・最適成長論と、モデルの動学方法を確認し、制度部門別最適化モデルを、最適成長型動学につなげたい。
従来のケインジアンの生産物市場または労働市場の不均衡動学は、実証経済学の立場から、欠点がいいろいろある。貨幣市場の動学的仮定は、単純に、貨幣供給の成長率を(dM/dt)/Mとするモデルがある。資産市場の動学に拡張したものはない。
制度部門別最適化モデルは、実証経済学の立場から、GDP統計のデータ収集の方法と矛盾するモデルではない。極端にいえば、ケインジアン不均衡モデルでは、市場価格、異時間利子率が固定されるので、モデルに、予想価格、予想利子率、予想為替レートは、影響しない。長期的経済変動を取り扱うのであれば、各市場が均衡し、市場価格、利子率、為替レートおよびそれらの予想価格が先物市場で決まる制度部門別最適化モデルの方が、計量経済学的方法による実証性が優れている。テキスト『金融論2024年』では、制度部門別最適化モデルの動学化を試論して、示すことがかなりできると思う。財政政策の経済主体、政府と金融政策の経済主体が、制度部門別最適化モデルの動学経路を、それぞれの政策手段を使って、目標に誘導できるかどうかは、検討できる。自律的に、混合経済で、目標に到達させるという、うまい話は、現代経済学では、論証できていない。すべての経済変数がそれぞれ一定の成長率でのびていく「黄金律」ないし「均斉成長」は、戦後80年となるが、「懐疑的」と実証されている。
ドーンブッシュの時代と現在では、マクロ・モデルは、労働市場、為替市場を市場化する設定になっている。貨幣市場は、フロー市場の取引需要でとらえ、資産運用分すなわち流動性選好分は、3資産市場のストック資産市場での余力分とする。余力分をストック資産市場に流入させる方法はSNAベースモデルと矛盾しない。また、実証できる設定も、実践面で求められている。M=F・EX・線形モデルに、3資産市場を明示化する。
M=F・EX・線形モデルおよびM=F・EX・連続モデルでは、ともに、物価と為替レートの2変数に帰着するモデルであるから、物価変動と為替変動を同時にとらえている。日銀の主張では、日本経済は、アベノミクス時代、賃金上昇率が固定され、労働市場に制度的・寡占的力が強すぎて、不均衡があると評価している。したがって、M=F・EX・線形モデルおよびM=F・EX・連続モデルでは、CASE Iの不完全雇用モデルに相当する。日本経済を、長期デフレーション状態から、2~3%忍び足インフレーションで、完全雇用に軌道を向かわせるには、財政・金融政策だけでなく、公正取引委員会および労働政策が必要なのである。
家計は、貯蓄がなく、企業の社内留保200兆円が投資に投入されず、企業の「アニマル・スピリット」がへたっているのも問題である。自民党政府が、この貯蓄に課税するか、防衛予算のGDP2%の財源としているのは、自由資本主義の法人が、本来の企業活動をせず、金融投資していると見ているのであろう。自民党が少数与党となり、企業に対する、賃上げ要求、低金利で資金調達が緩和されていて、株価も、ある自民党役員は、株式だけで4000億円あるとか、自民党の議員が株式を資産で保有しているのを問題視する野党議員もいる。
今週(2024年12月23日~12月27日)のイベントと市場への影響度
先週のイベントは、16日ショルツ独首相の信任投票があり、議会で否決され、連邦議会が27日解散、2月23日総選挙となる予定です。17日米連邦公開市場委員会が18日まであり、政策金利は4.5%に引き下げました。18日日銀政策委・金融政策決定会合が19日まであり、政策金利は据え置きました。
19日プーチンの直接対話と年末記者会見がありました。特別軍事作戦は、会見を取り繕うため、毎度ロシアイベント攻撃のプーチンハッパをかけ、1日1000人以上の無謀な突撃戦法を取り、東部戦線の西進、同様に、クルスク州北朝鮮兵突撃隊を消耗しました。昨年度は国防費20%予算、来年度は30%予算を消耗します。兵士・軍装備・資源の国富を、ウクライナ領土および自国領で、破壊工作に使うので、ロシア連邦の国富を減少させている。ロシアにも軍事オタクが、戦果を流すため、毎年、国富の消耗が倍増するのは、作戦が失敗していると判断しますが、会見までに、ロシア軍を頑張らせ、東部戦線、ハルキュウ緩衝帯、クリコフ州で、戦果を強調しました。ロシア連邦は、特別軍事作戦を、連邦予算極度額50%まで費やし、続行できます。ロシア連邦国防費は、2022年2月で、10%から、20%、30%と増額し、(40%、50%)で、経済制裁が、2026年か2027年、ロシア連邦経済を圧迫し、内部的に、停戦する限界になる。
プーチンには、ヨーロッパの人間倫理、私が言う「広義の愛」の観念がなく、ロシア連邦人民であろうが、北朝鮮人であろうが家畜と同等だ。戦場で兵士、戦場以外、ウクライナ領の民間人の取扱いに、人間倫理規範が全くない。組織内でも、自分に反対する者がいれば、排除する。しきりに、核攻撃をすると脅し、戦術核部隊をベラルーシに派遣して、見せている。先制攻撃をちらつかすロシア人首脳は、これまで、いなかった。
OECD諸国は、プーチンがへたる2026年まで、ウクライナ軍民支援をする義務は、ヨーロッパ愛の戦争であり、「隣人愛・同胞愛」の破壊者、現ロシア連邦に勝利しなければ、ヨーロッパ史に汚点を残す。
東アジアの倫理は、いくらなんでも、ロシア連邦の野蛮性に基づいてはいない。東アジアでは、孔子の隣国と礼をもって遇する付き合い方が、戦争手段に訴えることが少なくなると、東アジア栄枯盛衰の地域の覇者に浸透してきた。変わり者北朝鮮の首領は、国内で、残虐性を発揮し、人民を家畜のように使役しているが、ソ連の影響が強い。マルクス主義に、社会主義倫理が、資本主義倫理を克己したという話は聞かない。東洋倫理は、ヨーロッパ倫理と、一致するものではないが、プーチンのように、人間性が壊れた首領は、排除されるのが通例である。プーチン・ロシアを中国、インドが受け入れているわけではない。ロシア史でも、「とんでもない食わせ者だった。」と汚点を記すだろう。
19日からEU首脳会議がありました。ゼレンスキー大統領が出席し、トランプ氏就任後、ウクライナ戦争への対応を、議論したようです。
今週のイベントは、24日臨時国会が閉会します。
経済統計は、次の発表がありました。
予想値 実現値
16日 日10月機械受注統計 0.4% 5.6%
中11月固定資産投資
小売売上高 5.1% 5.1%
鉱工業生産指数 5.4% 5.4%
17日 米11月小売売上高 0.5% 0.7%
18日 日11月貿易収支 ‐6866億円 ‐1176億円
19日 日銀政策金利 0.25% 0.25%
米FRB政策金利上限 4.5% 4.5%
実質GDP(7~9月) 2.8% 3.1%
GDPデフレータ 1.9% 1.9%
個人消費 3.5% 3.7%
20日 日11月全国消費者物価指数 2.8% 2.9%
米11月個人消費支出 0.6% 0.4%
個人所得 0.5% 0.3%
経済統計は、次の発表があります。
予想値
24日 日11月全国百貨店売上
11月全国スーパー売上高
米11月耐久財受注 ‐0.3%
25日 日10月景気先行指数
10月景気一致指数
27日 日11月有効求人倍率 1.25倍
11月完全失業率 2.5%
11月鉱工業生産指数 ‐3.1%
12月東京都区部CPI 2.5%
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本 9月 10月 11月
GDP(前期比)
消費コンビニ売上高 9773億92百万円 1兆92億6600万円 9640億1400万円
スーパー売上高 9945億1727万円 1兆235億円
百貨店売上高 4229億円 4477億円
投資(工作機械受注統計)1253億60百万円 1224億19百万円 1193億円36百万円
輸出 9兆1986.36億円 9兆4269.81億円 9兆1524億円
輸入 9兆1655.54億円 9兆8891.11億円 9兆2700億円
貿易収支 -3308.2億円 -4621.3億円 -1176億円
為替レート(円/ドル) 142.76円/ドル 149.28円/ドル 154.6円/ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10 11/07
物価指数(総合指数) 2.5% 2.3% 2.9%
利子率 0.25% 0.25% 0.25%
株価 36833.27円 39380.89円 39381.41円
原油価格 71.5ドル/バレル 76.6ドル/バレル 72.36ドル/バレル
ドバイ、現物1バレル、ドル、1月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291712円 293401円
完全失業率 2.4% 2.5%
景気動向一致指数 115.3
先行指数 109.1
米国
9月 10 月 11月
GDP(前期比) 2.8%
個人消費 3.7%
投資(耐久財受注) -0.7% 0.3%
輸出
輸入
貿易収支 -844億ドル -738億ドル
PCEコアデフレータ 2.7%
消費者物価指数 2.4% 2.6%
利子率 5.0% 5.0% 4.75%
株価(NY) 41096.77ドル 42454.12ドル 43729.34ドル
(第2金曜日の前営業日) 9/12 10/10 11/07
原油価格 68.97ドル 75.85ドル 72.36ドル
NY、先物、標準品WTI、1バレル、ドル、 (第2金曜日の前営業日)
個人所得 0.3%
完全失業率 4.1% 4.2%
中国
9月 10 月 11月
GDP(前年同期比) 4.6%(7~9月期)
個人消費(小売売上高)
全国固定資産投資
輸出
輸入
貿易収支 5826.2億元 6791億元 6928億元
物価指数 0.7% 0.4%
利子率(1年物LPR) 3.1% 3.1%
株価(上海) 2717.12元 3301.93元 3470.66元
(第2金曜日の前営業日)
個人所得
完全失業率(四半期発表) 5.14%
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