金 融 論 

金融論2023年テキスト 説明ノート

2023年7月1日 『金融論2022年』テキストの改訂が終わりました。
22kinyurontext.pdf へのリンク


『金融論2023年テキスト』は改訂中のため、2022年のテキストを参照してください。
2024年9月30日までに改訂が終わります。
PDFファイルで、このページにリンクします。

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1回目 2023911

 

はじめに

本教室の目的は、『金融論2023年テキスト』の補足説明です。2023年度前半の資産形成論教室において、「今週のイベントと市場への影響度」を予想するとき、経済学の知識がある方が、イベントの方向性を間違えにくい。特に、開放マクロ経済モデルの短期・中期変動経路は、理論的推論ができる方が、大筋を読み間違えなくてよい。

2019年から、開放マクロ経済モデルの短期・中期モデルは、マンデル=フレミング・EX線形システムを基礎に置いています。長期モデルは、MFEX対数連続システムを提案しています。前者は、通常の計量経済学の手法で、四半期・3年予想を目指しています。後者は、連続システムの推計であり、研究中です。

『金融論』の目次の内、2.家計の金融行動、7.金融市場と利子率決定、8.金融派生商品市場は、『資産形成論』の内容とダブっています。

 

『金融論2023年テキスト』宇空和研究所202310月以降発行。

目次

    1.国民経済循環における金融
     2.家計の金融行動
      3.企業の金融行動
     4.金融機関の行動
     5.日本銀行と金融政策
     6.政府の活動と財政政策
       7.金融市場と利子率決定
    
8.金融派生商品市場    
     9.マクロ貨幣経済モデルと経済政策
      10.開放マクロ経済モデルと経済政策
    11.貨幣的景気変動論

『金融論2022年テキスト』は、特に、2章について、2023年度『資産形成論』説明ノート、10章について、2022年金融論説明ノートの結果を反映しています。11章は、MFEXモデルのケインジアン不完全雇用と新古典派完全雇用における貨幣経済の景気変動論を比較対照してみます。開放マクロ制度部門別、主体最適化動学モデルは研究中です。

3章から11章を15回で補足説明をします。2023年度前半に引き続き、「今週のイベントと市場への影響度」において、日本の主にGDP推測の月次データと、金融政策に影響する比率および価格データである、物価指数、利子率、米国利子率、為替レート、株価、原油価格を表にしています。短期予測値は、マネックス経済指標カレンダーに掲載されているデータです。

 

『金融論』の理論的立場

私の理論的立場は、追手門学院大学在職中から、スタッフで同じ立場を共有しにくいので、海外の論者の研究を勉強しつつ、自問自答し、『金融論』を毎年、研究した結果を反映し、改訂してきました。研究所を開設しても、その研究仕法は変わりありません。すなわち、モデルを論証するか、数理的なモデルを仮定し、数学的方法で均衡値を求めるか、経路を決定するか、それらのモデルを時系列データで、統計学的、計量経済学的方法で、推定するかです。

経済イデオロギーの選択

私の学生・院生時代は世界イデオロギー戦争の最中でした。神戸大学経済学部を選んだのは、マルクス経済学が主流でない大学だと立命館大学の学生たちが言っていたからです。入学し、大学紛争時代に入りました。大学の教学は一時、機能停止になり、自学自習が2年、続きました。紛争学生による大学封鎖が解除され、教学が開始されましたが、どこの大学でも教官、教員と学生の意識の断絶は大きなものがありました。自学自習の時代、マルクス、エンゲルス、ゲバラ選集、マルクス経済学を読みましたが、紛争学生ほど、共感、感化される思想ではなかった。当時、マルクス主義は、社会科学、人文科学および自然科学を統一的に把握できる科学であると、日本では、理解されていたようです。社会科学では、政治・経済・軍事が共産党独裁で統治機構が存在すれば、その国にとって最善の機構である。人文科学では、唯物史観で、人類の発展段階が決定されている歴史経路が説明できることになっている。自然科学では、宇宙法則にしたがい、ビッグバン以降の膨張的宇宙が存在する。地球で存在する生命は、宇宙法則の中で、物的合成結合した水泡にすぎない。ということで、自然科学系の学生も、共産主義運動にしたがい、手っ取り早く、日本を革命によって、終息点である理想共産社会軌道に乗せなければならないという新左翼運動がありました。

私は、高校時代、明治・大正・昭和文学全集を読み、古典文学を読み、特に、世界史を熱心に、教科書以外の通史を図書館で借り出して、東洋と西洋で発展を分けて、勉強していました。入試に必要とされる以上の知識を貯め込み、諸文明の発生から変遷・年表を記憶しました。

日本の私小説は、体験文学です。特に、昭和時代は、敗戦までの、共産主義・社会主義の信奉者の私小説をかいていました。倉橋由美子の『スミヤキストQの冒険』1969年辺りで、日本文学は、私小説から離脱し出したので、面白くなく、卒業しました。

紛争時代は、大学は封鎖中で、世界文学、世界思想の本を丹念に読んでいきました。紛争時代、大学が、ほぼ、1年間、休校状態で、アルバイトは、いろいろな職種で、職場体験しました。最後に、賄いつき、料理旅館で、アルバイトをしていました。年配の板長さんが、京都の紛争学生と機動隊、セクト同士が、ヘルメット、角材でデモ、衝突をして、市民生活に影響を与えていたのをみて、「学生君、あの運動をしない方がいい。」と言いました。51日のメーデーが京都市内で、盛大に、労働組合が旗をもって、市内を行進していた時代です。労働者、既成革新政党は、新左翼の学生運動を醒めた目でみていました。

学生時代、日本では、社会・人文・自然科学の分野で、社会主義・マルクス主義を指導原理とする学会が主流でした。イデオロギーや政治は、マルクス経済学で取り扱う政治経済学であり、経済学が、1900年から、推進して来た研究仕法では、取り扱うことはできないと考えていました。また、シベリア鉄道、ヨーロッパ鉄道で、ナホトカからベネチアまで、ユーラシア大陸を往復し、東西の各国民の実情を見聞して、イデオロギー戦争の負荷は、東側の方が大きく、消費財の慢性的な不足があると思いました。私は、東側と同じ、食うや食わずで、暮らしていたので、東側と生活的な違和感は全くありませんでした。シベリア鉄道の食事も、立命館大学や同志社大学の学食のようなもので、京都市内で、質素、倹約学生生活に慣れていました。資本主義経済下の日本で、私の贅沢は、本ばっかり、毎月、あれこれ、古本屋、定期購入の近所の書店、ときに、新刊洋書を丸善で買って読んでいました。

神戸大学経済学部大学院時代の研究方向

大学院に入り、林治一教授のゼミで、ArrowHahnを研究する先輩がいて、Debreuの“Theory of Value”を図書館で見つけ、だれかの書き込みがあるので(斎藤光雄教授にその書評があるので、斎藤先生かなと思いましたが)、コピーして、読みました。また、丸谷助教授の講義で、ArrowSocial Choice and Individual Values”を知り、購入、読みました。

当時、政治学を数理的に取り扱う立場があり、もともと、資本主義経済には、民主主義の決定方式の一つである、満場一致原則があります。1985年、政治的決定に際して、この満場一致原則を取れば、租税を負担しつつ、相手のことを思いやる主観的集団効用を最大化して、公共サービスを決定できるという理論を考えました。経済は、個人的価値観で、財サービスの最大効用が得られ、政治は、集団的価値観で、公共サービスの最大効用が得られるということです。これは、1981年から、私が東西問題で行動を開始した、キリスト教の個人的愛と普遍的愛の関係が大きく影響していると思います。ともに、愛は同じ源泉です。学生時代のキルケゴール、オルテガが影響しているかもしれません。EUが誕生してからは、政治的決定は、スイスの直接民主主義を想定すると、満場一致で、一意的にできると考えて、1995年以来、公共サービス決定、経済統合の論文を書いてきました。

経済学の立場は、大学・大学院時代で、数学、確率論、確率微分方程式、常微分方程式、数理統計学、計量経済学、数理経済学、数理計画法を学び、最適投資決定、分布ラグモデルの推定量の論文を書き、神戸大学の計算センターで日本の投資関数の推定を開始、19801月、2変数von Neumann-Morgenstern の英文論文を六甲台論集に載せ、それを多変数化した論文をJETに投稿、198012月査読後、採用されました。

追手門学院大学経済学部就職から退職まで

19814月就職後は、異時間一時的一般均衡論を確率微分方程式で、確率動学化するつもりでした。要するに、Hicks, Value and Capital, p126, an Economics of Risk on beyond the Dynamic Economics’を具体化することをめざしてきたわけです。1986年、西ドイツ、ビーレフェルト大学数理経済学研究所で、研究する機会を与えられ、ヨーロッパの数理経済学の文献を調べ、多期間一時的一般均衡論に、確率分布の価格予想を導入し、市場均衡の存在を示すところまで、モデルを表現することができました。同研究所のRosenmueller教授の移転可能効用から、貨幣を資産でとらえれば、貨幣を移転可能効用で評価、和に分離できることを知りました。20183月、Hicksの目標にたどり着いた著書を発行し、同時に、公私混合経済の一般均衡理論を論文に書いて、追手門学院大学経済学部を退職しました。

宇空和研究所の理論・実証研究目的

宇空和研究所の理論・実証研究目的は、次の通りです。

資本主義経済には、民主主義の決定方式の一つである、満場一致原則があります。1985年、政治的決定に際して、この満場一致原則を取れば、租税を負担しつつ、相手のことを思いやる主観的集団効用を最大化して、公共サービスを決定できるという理論を考えます。経済は、個人的価値観で、財サービスの最大効用が得られ、政治は、予算・租税過程を経て、集団的価値観のもとで、公共サービスの最大効用を得るように決定します。

公私混合経済において、家計、企業、中央銀行、政府の経済主体によって構成される、異時間一時的一般均衡の存在を示し、長期的には、終局的定常均衡が存在する場合、予想価格確率過程を仮定し、確率微分方程式で、確率動学化します。要するに、Hicks, Value and Capital, p126, an Economics of Risk on beyond the Dynamic Economics’を具体化することをめざしています。

貨幣経済のもとで、不確実性がある場合、各経済主体の予想形成を仮定し、予算制約式の下で最適決定を説明するのが、2章から6章まで、金融市場均衡が7章および8章です。9章および10章は、マクロ貨幣経済モデルです。

開放マクロ経済モデルの短期・中期モデルは、マンデル=フレミング・EX線形システムを基礎に置いています。長期モデルは、MFEX対数連続システムを提案しています。前者は、通常の計量経済学の手法で、四半期・3年予想を目指しています。後者は、連続システムの推計であり、研究中です。

 2023年資産形成論を説明中、MFEX線形離散および対数連続モデルの計算を終わり、これらは、比較静学および比較動学で、システムが時間経過する。ドーンブッシュ・フィッシャー『マクロ経済学上・下』では、経済変動および経済成長の章は、理論の選択はない。中谷巌『入門マクロ経済学』では、新古典派成長論および内生的経済成長論を取り上げている。景気変動論では、LucasBusiness Cyclesである。経済動態的変動の法則が存在すると想定するモデルと、それを否定する学派に分かれる。

私の属するHicksPatinkinGrandmont系列の一時的一般均衡論の系譜では、貨幣的景気変動論(Monetary Business Cycles)は、Grandmont “On Endogenous Competitive Business Cycles,”Econometrica, 1985, Vol 53, No.5がある。

私の確率的動学モデルでは、消費者の賦存量が、離散的Markov過程にしたがう、GrandmontHildenbrand “Stochastic Processes of Temporary Equilibria,”Journal of Mathematical Economics 1, 1974を出発点にしている。

 もとにもどると、MFEX線形離散および対数連続モデルは、私の『金融論』講義において、学生・院生に、うまく説明できなかったので、退職後、その答えを出しただけである。MFEX線形離散および対数連続モデルにおいて、経済変動および経済成長はどう扱ったら、よいのか、示そうと考えた。

 その一方で、『多期間一般均衡モデルの確率的動学』晃洋書房、20183月を出版した。その「第13章貨幣経済における現物・先物市場の一時的一般均衡確率過程」において、賦存量の離散過程および連続過程を取り扱っている。両過程のもとで、主体別最適化経済変動・成長論が終端目標である。実態的資本主義経済が、最適されるという意味ではない。経済主体別合理的行動を前提とすれば、時間経過で、どのような経済変動あるいは経済成長するかを動学的一般均衡理論的に示すのが、ミクロ経済モデルの目的である。

その理論的研究は、MFEXモデルの開放マクロ制度部門別主体最適化動学モデルに応用することはできるだろう。

大学院時代の政治イデオロギー
 最近、林治一先生の大学院の講義を受けた時だと思う、後輩が渡してくれた、林先生の論文のコピーが見つかった。

「レイとミクスターとボェーム・バヴェルク」国民経済雑誌第116巻第11967

「経済理論の純粋性と社会的基盤」神戸大学経済学研究151968

「経済理論の基盤的考察の二面性」神戸大学経済学研究171968

「経済理論の基盤的考察」国民経済雑誌第118巻第61968

これらの論文は、経済学史か経済哲学の領域の研究だった。林先生には、『オーストリア経済学派研究序説』有斐閣1966年の著作がある。私が学部で林ゼミを選んだのも、『経済学を築いた人々<増補版>』大河内一男編、「近代経済学の祖メンガー」林治一、青林書院新社、1966年を読んだからである。私は、オーストリア経済学派に属する。

1次大戦後、ウィーン大学から、経済学・経済哲学・数理経済学・統計学・コンピュータ・核爆弾等の諸学と工学は、両大戦間にウィーン大学、ドイツの大学を起点に、米国・日本に伝播している。ウィーン大学出身のヒルファーデイングは、『ベーム・バヴェルクのマルクス批判』1904年、『金融資本論』1910年がある。ヒルファーデイングは、ドイツ社会民主主義の理論的指導者でもあった。

 他方、1981年3月大学院を退学する前、置塩信雄教授のゼミ生から、置塩先生の論文集を渡され、「これを読みなさい。」と言われた。

N. KALDORの均衡成長MODEL」『季刊理論経済学』Vol. XV, No. 3, 19658

Marxの生産価格論について」神戸大学経済学研究年報1972

「新古典派成長論の政策的含意」立命館経済学第22巻第341973

Marxの「転形」手続の収束性」『季刊理論経済学』 24, 2, 19738

「新古典派成長論の検討」国民経済雑誌第129巻第21974

3 生産価格・平均利潤率」柴田敬博士古希記念論文集『経済学の現代的課題』ミネルヴァ書房1974

「マルクスの基本命題-結合生産を考慮して-」国民経済雑誌第134巻第11976

 置塩先生の1965年論文では、戦後の資本主義国の経済成長論の系譜は、ブルジョワ経済学の継続性を意図する理論であるが、どの理論も、不安定であり、恐慌に落ちると批判しておられる。

 大学院で、置塩先生の数理経済学は、実際は表看板で、置塩先生の研究は、ブルジョワ経済学批判、マルクス経済学の必然的帰結を証明された。私は、学部時代、新左翼、マルクス経済学を勉強したが、興味はなかった。その知識で、新左翼系の学生と、マルクス経済学について、議論していた。安保闘争からの流れで、当時まで、学生の政治参加は、全国大学学生組織が形成されていた。われわれ新入生は兵隊でしかなく、丁寧な革命理論の説明は、全くなかった。当時テレビでも、彼らの議論が中継されたことはあるが、学生幹部は、一方的で、相手の主張は認めない。新左翼の闘士も、自派の主張を十分理解していない。日本の戦後教育では、討論の技法(ディベート)がない。大学生がわめき散らしているのである。就職して、学界は4つ入って、先生方の報告と議論を熱心に聞くことに徹した。ルールがあるから、議論は生産的である。2000年以降、教養ゼミでは、ディベートを何回かしてみた。
 社会主義的社会政策に対抗して、近代経済学派の立場から、資本主義経済制度のもとで、「福祉・厚生経済社会」は、政府予算が十分なければ、達成できないと思っていた。

若手教官は、米国留学をして、PHDを取得して帰国するようになった。林ゼミの後継者もPHDである。日本の経済学会も、英国留学より米国留学の時代になっていた。米国で流行している研究が持ち込まれる。
 米国資本主義については、学部時代、スウィージーやガルブレイスの本を読んだことがある。米国内に社会主義的政治組織はなく、強欲資本主義経済において、「福祉・厚生経済社会」は実現する見込みはない。したがって、米国の社会主義・共産主義学者は非常にまれである。他方、ヨーロッパでは、西側は、社会主義政党が幅を利かし、ソ連は共産主義である。戦後、日本人で、ヨーロッパに留学し、学位を取る人は少ない。私自身の研究の、資産市場関係は、米国の論文で研究した。一時的一般均衡理論は、1970年代、フランス・ドイツで、多くの論文が発表され、ヨーロッパの数理経済学の分野を形成した。私の1980年代からの市場均衡の存在、安定性、確率的動学の研究は、その流れに依存している。日本には、同じ分野の研究者はほとんどいない。
 
1991年東西冷戦終結に、米国は、ソ連に対して政治的圧力を、Berlin封鎖以来、たゆみなく働きかけてきた事実は、皆無であったと外交文書から、証明できる。米国は今でもそうだが、世界の紛争に、ソフト面で、解決することがアメリカの国益を最大にするとはだれも考えない。米国の対外戦後史は、武力による紛争国征圧しか、説得手段を持たない大国であった。米軍撤退後、治安が収まったのは、東南アジアのベトナム、ラオス、カンボジアぐらいである。米軍が直接関与した他の国は、いまだに、戦争・紛争をしている。介入した国では、米国の評判は悪い。ウクライナ侵攻に対して、ロシア軍が包囲する前に、米軍がウクライナに、1万人派兵すれば、プーチンは、侵攻しなかったと誰もが思う。アメリカ白人はヨーロッパの移民であり、ロシア、ウクライナの紛争に、移民の立場から、介入しずらいのだろう。要するに、本国がだめだから、ロシア・ウクライナ戦争が勃発するのであり、移民の正当化をしているのだろう。血を出して、助ける気にはならない。同じことは、アフリカの黒人国家に、直接派兵の事例はほとんどない。米国社会に黒人が含まれるので、アメリカ白人は、アメリカ黒人兵を伴って、派兵するのに、ためらいがあるのかもしれない。アジア人およびアラブ人に対しては、直接介入するのは、アメリカ人の生い立ちと全く関係ないからだろう。

 さて、日本では、戦後、弾圧から解放された共産党、社会党を始め、社会主義的政党があったから、社会政策が制度化された。EU各国は、東西冷戦後、各国共産党は勢力を縮小したが、議会制民主主義政下において、ヒルファーデイングの社会民主主義は、いまだ、政治勢力を維持している。北欧の社会民主主義もある。ゴルバチョフ氏は、ソ連が北欧の社会民主主義の理念で、再建出来たらという希望があったと言われている。EUにおいて、「福祉・厚生社会政策」は、資本主義経済制度下で可能であることを実証した。

就職後は、南側、中国、韓国、台湾、香港、ASEAN、インドを、東側ソ連の中央アジア、コーカサス諸国、ウクライナを含む東欧諸国、ユーゴスラビアおよび西側NATO諸国、エジプト、ギリシャ、イスラエル、モロッコ、トルコを視察、語学研修、研究留学していた。実態経済を見ると、東も西も、北も南も、マルクス主義が、有効な経済成長・開発理論であるとは言えなかった。日本の国立大学でマルクス主義の講座があっても、開発途上国の政治体制としては、マルクス主義も有効な国内統合理念である国は多いから、開発経済論では、有用な経済理論なのかなと思ったこともある。2001年ロンドン大学の本屋を訪ねると、確かに、マルクス主義経済学はあった。置塩信雄先生は2003年に、関西出身の森嶋通夫先生は2004年に亡くなられた。置塩先生の論文集を私に渡した先輩は、森嶋先生の英文の著書を私に見せたくれた。阪神大震災の前、神戸大学の後輩を訪ね、博士論文の件について、相談に行ったら、「数学の論文のはだめだ。」といわれた。その後輩は、学界で分厚い草稿を見せてもらったが、その博士論文は不採択になったという。こういう事情を「知らぬが仏。」というのかもしれない。精神的ストレスは全くないから、自由活発に、羽を伸ばせて、研究・熟考・実践できたと思う。

東西冷戦後、ソ連のマルクス主義統治が崩壊して、日本の経済学会では、マルクス経済学の退潮が進んだ。ソ連の中核は、ロシア連邦となって、ロシア経済は財閥的資本主義化したから、経済成長の途上にある。ロシア連邦は、プーチン政権から右傾化し、ロシア帝国主義の復活をめざしている。これは、周辺諸国の国民が、認識している。マルクス主義独裁統治が復活しているのではない。

日本の経済学会では、アメリカ経済学が勢力をふるっているわけでもない。日本経済は、米国強欲資本主義であると、社会批判を受ける。共産党、社会主義政党の支持者がいるからだろう。林先生の経済哲学研究にもあるが、歴史的伝統国では、外来の政治思想、経済思想は、勉強・研究するが、それらが、実態政治経済に影響を与えるのは、むつかしい。社会規範である憲法でさえ、国民に浸透するのはむつかしい。竹に釘は接げない。

石油ショックを発端とする実物経済成長論から貨幣的Business Cycle
 神戸大学大学院経済学専攻では、確かに、ケインジアン経済成長論と新古典派経済成長論が、理論系のゼミでは、研究発表があったが、オイルショック後、米国経済はインフレに悩まされ、日本経済の米国輸出成長モデルは、立ち行かなくなり、この成長テーマは終わったように思うし、研究する興味は全くなかった。強いて言えば、確率的動学とあるように、確率的変動に関心があった。

オーバードクター時の指導教官であった後尾哲也教授は、置塩先生と親友だったそうだ。置塩先生の論文を見ると、私の大学院入学時から、マルクス経済学の研究が主になり、修士課程まで、後尾研究会および院演習は、置塩ゼミの先輩院生が参加されていたが、その後、私だけになった。

私は、置塩先生の新古典派経済成長論批判ならびにマルクス経済学研究とは、全く方向が違っている。修士・博士課程を通じ、林ゼミでは、Harrod,  “Economic Dynamics,”1973年、およびBurmeisterDobell, “Mathematical Theories of Economic Growth,”1970を輪読したが、興味なかった。

学部時代の3年生の1970年秋、けがで入院したとき、Hicks, “A Contribution to the Theory of the Trade cycle,"を丸善で注文し、読んだ。経済運動を機械運動に当てはめているようで、経済実態的な運動とは、距離があると思った。Samuelson『経済分析の基礎』やAllenの『数理経済学』も読んだが、物理的な運動を直接、経済運動に当てはめるのは、無理がある。経済運動は、生身の労働と物理運動手段である資本財の協働で製品が生産されるから、景気変動論は、機械運動を主にした工学的な運動を数学で表現しているが、生体的な合成運動を表しているとは言えない。さらに、政治運動が優先されると、経済運動は政治に従属するから、軌道が変わってしまう。

経済学では、数学をもちいるが、経済計算およびそのデータは、自然科学の計算や工学のデータではなく、経済計算をした意思決定者の判断で生じたデータである。それでも、経済の長期動態では、最小二乗法による局所的統計的推測では、ほとんど価値がない推測になることがある。たとえば、最近の西側研究所が計算した中国のGDP2030年に米国を超えるという推測は、早くも、外れて来た。中国の政治運動は、社会主義経済に復帰させているから、歴史的経験から、中国の成長軌道は、GDPでみれば、転落の一途の軌道をたどり始めた。
 今週(2023911日~915)のイベントと市場への影響度
 先週は、5日東南アジア諸国連合関連首脳会議が7日までジャカルタでありました。国連総会が開幕しました。920カ国・地域(G20)首脳会議がニューデリーで10日までありました。
 今週は、10日、ウラジオストックで、東方経済ホォーラムが13日まで開かれます。12日、アップルが新型iPhoneなど新製品を発表します。
 
 経済統計は、次の発表がありました。
                  予想値      実現値
5日 日7月の家計調査       -2.6%      -5.0
6日 米7月の米貿易収支      -675億ドル   -650億ドル
   米ISM製造業景気指数      52.4       54.5
7
日 日7月の景気動向指数一致   114.6       114.5  
   中
8月の貿易統計             4,880億元
8日 日7月の国際収支経常     22,770億円    27,717億円
          貿易      1379億円    682億円
   日46月期の国内総生産   6.0%       4.8
   日8月の景気ウォッチャー調査現状        53.6 
                 先行き       51.4
9日 中8月消費者物価指数     0.0%       0.1
 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値
11日 日工作機械受注額            ―
13日 米8月消費者物価指数(前年比)      3.6
    79月期法人企業景気予測      ―
14日 日7月の機械受注統計(内閣府)    -10.5
15日 日8月貿易収支             ―
   米8月小売売上高(前月比)        0.2
   米鉱工業生産指数(前期比)        0.2%  
16日 中8月社会消費商品小売総額(前年比)    3.0
       鉱工業生産(前年比)       3.8

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                                   4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1193.16億円
輸出     88243億円         82884億円   72926億円
輸入     95788億円         87208億円   86651億円
 貿易収支   -7545億円          4544億円    -13725億円
物価指数   3.2%                3.5       3.2
利子率   -0.1%                 0.1%     -0.1
株価    28143.97(3/9)           28156.97 (4/13)  29126.72(5/11)  
 (2金曜日の前営業日)
原油価格  80.1(3/9)                  86.8 (4/13)   70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)291,081円        284,595円     
完全失業率    2.8%              2.6%       2.6
景気動向一致指数 98.7       (速報)改訂(99.4)97.3    
先行指数         97.5       (速報)改訂(97.6)96.8   

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円
投資(工作機械受注統計)
輸出    
輸入    
 貿易収支                682億円
物価指数     
利子率     0.1%           0.1%        -0.1 
株価       31641.27(6/8)           32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)  139.87 (6/8)              138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格        76(6/8)                  80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得     
完全失業率    
景気動向先行指数 
    一致指数


2回目 2023918

3章 企業の金融行動

ポイント
・企業の短期資金需要は、取引需要で決まる。
・長期資金需要は投資需要によって、決まる。
2つの投資決定論を理解する。

表3.1 および 図3.1、図3.2は、下の3firm.pdfを開いて参照してください。
                  3firm.pdf へのリンク

 企業の生産活動を、図式化すると表3. 1になる。企業の生産活動は、生産要素(労働)を購入し、生産物を生産し、販売する。左下の流れは、企業の労働需要量を決める。右下は、企業経営者の立場から、貨幣で評価した利潤=収益-費用を最適化して、供給量を決める。結果は同じであるが、後者は、損益分岐点と休業するかどうかの操業停止点を決めることができる。


3.1の上部の囲みにおいて、企業の生産活動は、購入した生産要素(資本財と労働)を生産工程に投入し、生産物を産出し、市場で販売する。売上高は、生産要素へ分配される。


 表3.1の左半分IおよびIVにおいて、I生産の技術的関係は、生産関数Yf (LK0)で表され、IV生産要素価格(賃金率wと配当率r)および生産物価格pを与えられたものとして、企業は、利潤=総収入-総費用(πpY-(wLrK0)を最大化する労働量Lを求める。企業の労働需要関数は、LL(p,w) と表される。生産物供給関数は、生産関数Yf (LK0)に、労働需要LL(p,w)を代入すると、供給量が得られる。

 3.1の右半分およびⅢにおいて、生産の経営的関係は、生産関数Yf (LK0)の逆関数f -1から、生産量を従属変数とし、労働量を独立変数と逆にとれば、可変費用V(Y)wLwf -1(Y)が求められる。生産の経営的関係においては、通例、生産関数は労働量が増加すれば、生産量が逓増し、変曲点で逓減する。その逆関数は、生産量が増加すれば、可変費用が逓減し、変曲点から、逓増する。3.1に示されている総費用関数CC0V(Y)がえられる。総収入関数Rは、RpYで表す。利潤は、πRCである。


 生産物価格が与えられると、直線である総収入線の傾きと総費用曲線の傾きが一致するのは、2点ある。最初の点Y1は、CRで、損失が最大である。次の点Y2は、CRで、利益が最大である。


 図3.2において、経営者の観点から、利潤最大化の必要条件:価格=総費用曲線の傾き、pdC/dY限界収入=限界費用pMC)上で、供給量を決定する。図3.2限界収入線pp0は、市場で与えられる。限界費用曲線MCは、総費用曲線が逓減から逓増するから、二次曲線である。総費用が逓増するMC曲線と総収入線との交点が、生産者均衡点である。価格がそれより下がると、平均費用曲線ACCYの最小値に達し、損益分岐点Bbreak-even pointという。さらに、価格が下がると、可変費用曲線AVCVYの最小値に達し、操業停止点S(shutdown point)という。
 このように、生産の経営的関係にしたがえば、経営者の観点から、市場価格を所与として、経営者が、利潤最大化できる生産量を求めることができる。

3.2 短期の生産活動と資金需要

 短期は四半期の3ヵ月以内が実務的な期間である。会計学、金融論では、1年未満である。短期を3カ月以内とすると、企業が生産活動をすれば、労働者への賃金、調達した原材料の費用、光熱費、水道、ガソリン等の経費費用を1カ月以内で支払う。企業は取引銀行と当座預金契約を交わしているので、当座預金口座を通じて、当事者間で決められた日に、決済される。銀行は当座残高が不足する場合に備えて、当座貸越を企業と契約している。
 企業間信用の買掛金、売掛金は、現金で回収する場合もあるが、当座預金によって決済する。2000年までの金融危機で、以降、日本では、約束手形は、企業間で振り出す場合が少なくなった。コマーシャルペイパーCPは、大企業で主に発行される約束手形である。中小企業では、銀行の貸付が手形貸付で短期間融資される。
 このように、企業の生産活動では、間接金融の銀行を通じて、費用の支払いと売上の受取りを、当座預金から、主に、行っている。短期の借入は、手形貸付により、元金と利息を分割して、毎月元金と利息を返済する。たとえば、10月末満期、11月末満期、12月末満期の銀行宛支払手形で返済する。期間が長いほど、利息が増える仕組みである。
 一方、設備投資の借入金は、元金と利息を分割して返済する場合と、利息を定期的に支払い、満期に元金を一括して支払う場合がある。後者は、事業債の償還方法と同じである。投資期間が1年以上ある場合は、操業して収益で返済するのが遅れるので、銀行側も返済可能か審査して、融資する。大企業であれば、1年以上の資金調達方法は、銀行の借入金以外、事業債の発行、増資による調達方法の選択肢が増える。
 銀行に短期融資を申し込む場合、書類審査がある。企業は、1ヵ月の原価計算によって、材料費、労務費、経費の出金の実績と借入期間の予定表、収益の実績と借入期間の収益予定表で、日々の資金繰り表を計算する。資金不足は、特定の期日に、発生する。予定外の資金不足は、当座貸越で対応できる。銀行は当座貸越に担保を取っているから、当座預金不足は、担保価値額の換金可能値が限界である。追加の担保を必要としなければ、書類審査で融資が承認される。

 コロナ不況では、特に、飲食店や芸能等サービス業は、休業状態に追い込まれている。コロナ以前、有名な芸能関係企業では、興行収入が消失している。芸能プロダクションに所属する演者は、長引く緊急事態宣言で、収入がなくなり、生活が困窮している。零細企業では、休業は、公共料金の基本料金、銀行の借入金返済、担保の家賃等の固定費が、資金不足になる。政府金融機関、自治体では、緊急事態宣言下、営業時間の短縮を要請した場合、固定費を補てんしてくれる。銀行は、貸付金の利息を政府から補てん、貸付金返済猶予によって、休業期間中、固定費を補てんしてくれる仕組みをとっている。

 行政命令が解除された場合、営業に入るので、材料費、労務費、経費、販売費等の可変費が営業再開に必要になる。ただし、人出は以前ほど回復していないし、売上、半減以下の中、コロナ対応改装、マスク、消毒液等の衛生経費がかかるので、銀行に融資を申し込んでいるだろう。

 このように、短期では、企業は、支払いと受け取りの差額を現金か当座預金で準備しなければならない。短期資金管理は、資金繰りと呼ばれ、当座預金に、いくら準備すれば、費用を最小に出来るかという、現金残高モデルがある。テキストに、その公式を導いている。問題32から、企業の短期資金需要関数は、C2bT iである。

3.3 投資の決定

 生産物市場で、生産物価格が上昇すれば、企業は、設備稼働に余力をもっているから、製品在庫を増加させて対応する。これを在庫投資という。消費税が上がるとき、消費者が買いだめするのに対応する場合が在庫投資である。
 この最適在庫投資理論は、3.2節の公式C2bT iを使う。見積在庫量T、倉庫・管理費用b、経過利子iとする。

生産物価格が継続して上昇する見込みがあれば、企業は固定設備を増強するために、投資をする。固定設備は耐用年数が来ると、陳腐化するが、減価償却費を積立てているから、その資金で固定設備を買い替えることができる。これを置換投資という。総投資は、純投資+置換投資からなる。ただし、企業規模が小さいほど、固定設備の減価償却期間は税法上、機械的に決まっているが、実際は、使用頻度が少なければ、期間を延長して使用している。しかし、延長した場合、商品の販売から、その設備の減価償却費は回収できないし、税法上償却が完了しているため、税法上の費用控除はなく、残存価値が未処分の状態になっている。

新設備にすると、技術進歩が導入されていることが多いから、旧設備よりは、生産高は上がり、労務費、動力費等経費は減少する。つまり、図3. 4のように、生産関数の形状が変わり、生産曲線が上にシフトする。

 経済学で投資決定を考えるとき、投資は純投資をいう。投資決定論は、企業価値を最大にする設備量(台数)または稼働時間を求める。問題3. 3(テキスト40ページ)がその例である。生産関数は、機械設備に、材料(㎏、kl)、労働(労働時間)、動力(kw)を投入すると、製品がその工場で最も効率よく生産される量を対応させた物量的関係式である。次期の製品価格が上昇し、賃金率、レンタル率をそのままにして(所与)、次期の利潤を計算し、市場利子率で割り引いて、企業総価値を定義する。耐用年数までで、計算できるし、賃金率、レンタル率も変えることができる。

 問題3. 3を解くと、最適資本量K1*が求められ、現在の固定資本量K0と差K1*K0が正であれば、投資IK1*K0をする。例題3. 2において、生産関数をコブ・ダグラスにすると、K1*=αp1Y1r1 となる。投資関数Iは、IK1*K0(αp1Y1r1)K0となる。

 企業は、この投資を投資財産業に発注する。その代金は、今期支払われる。その資金を、株式の増資または自己資金で資金調達する場合と、銀行からの借り入れや債券発行では、前者は返済しなくてよいが、後者は返済しなければならないが、投資前の企業総価値V0と投資後の企業総価値V1V1uIV0の関係にあれば、投資額は返済できると債権者から判断される。

 企業の自己資本と他人資本の構成は、企業設立からのいきさつの歴史を表している。それは、表3. 2 企業の継続性と資金の源泉にある。

 企業は、大企業ほど、償却に510年かかる設備投資をする際、資金調達方法が多様化でき、資本コストが低下する。資本構成は、資金調達するとき、資本コストが最小となる最適構成があるとする理論と、資本構成と資本コストは無関係であるとする理論がある。表3. 2から,一般的に、企業は、資金調達の履歴から、資本構成が決まっており、資本コストが大きい銀行融資に依存し、大企業になるにつれて、債券、増資の選択ができる王になるので、資本コストは低下する。大企業は、株主に、配当するが、株主が要求する配当と留保を決める配当政策を実施する。日本では、2000年以降、大銀行の再編、中小零細銀行の再編があり、つまり、提携・吸収・合併があって、より規模が大きくなり、銀行との顧客関係が、過去の履歴と関係なく、温情融資がなくなって、ドライに返済を迫られることを経験した。再編銀行は、もとの銀行と融資企業の債務履歴の経緯を知らないから、新基準にもとづき、貸し渋り、貸しはがしを迫るので、怖いと認識したようだ。中小企業は、データで表面化しているように、自己資本比率を上昇させ、間接金融に頼らず、その高資本コストを低下させる傾向が進展している。
 利害関係者から見ると、株主、投資家、銀行は、企業が開示する投資計画を精査して、実現可能であれば、投資、融資を実行する。通常、企業が開示する投資計画を精査する能力は、企業の利害関係者間で差がある。

 不確実性下の投資決定は、問題3. 3の所与の価格p1r1、利子率iが確率変数である。この問題は、新古典派のアプローチで定式化できる。さらに、企業総価値Vは、離散期間で定義すると、VV0V1iであるが、連続モデルではVV0+∫V1itdψ(p1r1)dtとなる。今年度は、2章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。企業も現物・先物市場均衡を求めることができる。合理的期待仮説では、期待形成は、市場で決定されるから、先物契約市場は、先物価格が市場で決定される予想価格になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、企業の投資決定も、先物価格が企業総価値を決定することになる。

 テキストでは、3期間モデルで、企業投資を決定する。投資資金の資金調達は、銀行にその最適計算の情報を提示し、銀行側が審査し、2期間満期の借用証書によって、貸借関係を決定する。このようにして、間接金融の借用証書は、準証券発行とみなされる。住宅ローンの借用証書も、金融機関同士で、準証券と認定されるならば、市場流動化できる。企業のフロー・ストック最適化の枠組みは、
 現行生産活動の最適化と先物契約の締結
 予想価格で評価した企業総価値を最大化した投資決定
 短期現金残高最適化、最適投資の資金調達、負債・資本の最適資本構成
となる。

今週(2022918日~922)のイベントと市場への影響度
 先週は、10日、ウラジオストックで、東方経済フォーラムが13日まで開かれました。12日、アップルが新型iPhoneなど新製品を発表しました。岸田内閣改造が13日にありました。岸田首相は「賃上げと投資拡大の流れを強化する」と言っています。
 今週は、19日岸田首相が22日まで訪米します。米連邦公開市場委員会が20日まで開かれます。20日中国BYDが小型電気自動車を販売します。21日日銀政策委員会が金融政策決定会合を22日まで開きます。政策金利は、これまでマイナス0.1%ですが、予想はブランクです。 
 経済統計は、次の発表がありました。

                      予想値      実現値
11日 日工作機械受注額(前年比)        ―      1,147億円(18)
13日 米8月消費者物価指数(前年比)      3.6%      3.7
   日79月期法人企業景気予測大企業   ―      13.3ポイント
14日 日7月の機械受注統計(内閣府)    -10.5%    -13.0
15日 米8月小売売上高(前月比)        0.2%     0.6
   米鉱工業生産指数(前期比)        0.2%     0.4
16日 中8月社会消費商品小売総額(前年比)   3.0%     4.6
       鉱工業生産(前年比)       3.8%     4.5
 経済統計は、次の発表があります。        
                       予想値
19日 日2023年基準地価
20
日 日8月通関ベース貿易統計     -6,425億円
   米FRB政策金利 上限          5.5       
          下限          
5.25   
   米経常収支            -
2,200億ドル
22日 日8月消費者物価指数          3.0   
   日銀政策金利              ―
   日8月全国スーパー売上高        ―
 

統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                                   4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1193.16億円
輸出     88243億円         82884億円   72926億円
輸入     95788億円         87208億円   86651億円
 貿易収支   -7545億円          4544億円    -13725億円
物価指数   3.2%                3.5 %      3.2
利子率   -0.1%                 -0.1%     -0.1
株価    28143.97(3/9)           28156.97 (4/13)  29126.72(5/11)  
 (2金曜日の前営業日)
原油価格  80.1(3/9)                  86.8 (4/13)   70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計)291,081円        284,595円     
完全失業率    2.8%              2.6%       2.6
景気動向一致指数 98.7       (速報)改訂(99.4)97.3    
先行指数         97.5       (速報)改訂(97.6)96.8   

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円
投資(工作機械受注統計)
輸出        8兆7438億円    8兆7250億円
輸入        8兆7046億円    8兆8037億円
 貿易収支       392億円     -787億円
物価指数      3.3%          3.1%
利子率     0.1%           -0.1%        -0.1 
株価       31641.27(6/8)           32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)  139.87 (6/8)              138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格        76(6/8)                  80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得     
完全失業率    
景気動向先行指数 
    一致指数


 3回目 2023925

35 モジリアーニ=ミラー理論
 3.5.1  M=M理論以前の伝統的財務理論
 3.5.2 効率的金融市場におけるM=M理論
 コラム:株式市場価格理論の未発達について
 3.5.3 中小企業の資金調達

35 モジリアーニ=ミラー理論

3.5.1 M=M理論以前の伝統的財務理論
 貸借対照表勘定で、右側(貸方)の負債(他人資本)および純資産(自己資本)を企業総価値といい、他人資本比率または自己資本比率を資本構成という。伝統的財務理論とは、企業には、固有の資本構成があることを主張する。企業は、資本構成にしたがい、他人資本の債権者と自己資本の所有者である株主に対して、資本コストである利息と配当を、それぞれ毎期支払う。支払利息は確定しているが、配当は、当期の利潤から支払われるから、不確実であり確率変数である。
 企業には、資本コストを最小にする資本構成があると主張するのが、伝統的財務理論である。同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益は同じであるから、金融市場が効率的であれば、資本構成は、企業価値に影響をされないとするのが、モジリアーニ=ミラー理論(M=M理論)である。
 伝統理論を紹介する。
 企業総価値Vは負債Dおよび株式価値Sからなる。負債コストrは負債比率DVの増加関数r(DV)である。自己資本コストρは負債比率DVの増加関数ρ(DV)である。平均資本コストreは、両者の加重平均reD r(DV)(1D r(DV))である。
                                  V       V
35のように、負債比率が増加すると、平均資本コストreは、低下し、やがて、上昇するので、その底が、最適資本構成である。

 次に、モジリアーニ=ミラーは「負債コストの利子率は貸付資金市場および債券市場で決まり、負債比率に依存しない。自己資本コストの株式収益率は、株式市場で決まる。平均資本コストは、reD r(1D )ρとなる。」と主張する。re VrD+ρS
                                 V     V
同じリスク・クラスに属する企業では、期待収益Xは同じであるから、XrD+ρS 。ゆえに、re VXとなり、平均資本コストは、資本構成に依存しない。

3.5.2 効率的金融市場におけるM=M理論
 モジリアーニ=ミラーは、企業総価値は金融市場によって評価されるとして、企業が同じリスク・クラスにあり、期待収益が同じであれば、企業総価値は、資本構成に依存しない(命題Ⅰ)ことを理論的に証明した。企業が投資して、資金調達方法を、自己資金、借入金、社債および増資の形をとっても、同じ期待収益をあげるので、資本構成の変化に依存しない(命題Ⅲ)。
 経営者の行動、投資家の行動を仮定し、金融市場、とくに、貸付資金市場、債券市場および株式市場は、完全競争を仮定している。テキストでは、命題I、命題Ⅱおよび命題Ⅲを取り上げている。証明は、命題I、命題Ⅱをのせている。論法は、
「2企業が同じリスク・クラスにあり、資産構成が異なるとする。期待収益が同じであれば、投資家の投資収益は同じである。資本構成の違いで、企業総価値の違いを仮定する。企業総価値の低い企業に、ポートフォリオ(混合投資)を組んで、株式市場おいて、高い企業総価値の企業の株式を売却し、低い企業の株式を購入する。裁定取引の結果は、企業総価値は同じになる。」
 投資家が、価格形成の関与ができる株式市場を、同じリスク・クラスにたいして、裁定取引に使用している。この論法は、ブラック・ショールズのオプション理論(1973)においても、金融市場に同様な仮定と、2市場の資産のポートフォリを作成し、裁定取引の市場メカニズムをオプション価格形成に取り入れている。金融市場の価格形成は、所与としている。

コラム:株式市場価格理論の未発達について
 金融市場の価格、債券価格、株式価格、それらの先物価格は、当時の経済学では、金融市場均衡の存在は証明できなかったためでもあるし、期待形成をもつ投資家が、株式市場において、株式を交換する理論はなかった。ただし、資産市場のマクロ一般均衡論は、トービンTobin1969)に枠組みがある。
 ヒックスHicks1939)の著作に、『価値と資本』があるが、ミクロ一時一般均衡論であり、動学と資本蓄積は、課題となっている。ヒックスは、『景気循環論』(1950)、『資本と成長』(1965)、『資本と時間』によって、動学と資本蓄積の課題に答えている。フランスの一般均衡の存在を証明したドブリューDebreu1954)は、資産市場の一般均衡には、立ち入らなかった。『価値の理論』は確立したが、「資本の理論」は、ふれなかった。フランスでは、マルクスの『資本論』やヒルファーディングの『金融資本論』の影響のせいで、株式市場の経済学的効能や意義は、社会主義政治勢力に支持されない。反面、株価の変動がBrown運動すると唱えたのは、フランス人バシャリエBachelier1900)である。当時、Brown運動を理論的に定式化することが物理学上最先端の課題であった。
 さて、私は、冷戦時代、オーストリア、西ドイツ、スペイン、イギリスには、長期間、滞在したが、パリに数日滞在しただけで、通過した。当時、フランスの政治は、社会主義者主導で、公務員がはばを利かし、金融界は国有銀行システムがあり、実業界は規模が小さい、米国や日本のように、株式会社が発展していない。『資本論』および『金融資本論』の影響で、ヨーロッパの経済学者にとって、ブルジョアジー階級の株式交換市場である資産市場の均衡論を研究する理論的重要性が低かったのだろう。政治が社会主義優位である場合、ブルジョアジー階級への課税強化、所得再分配、最低所得保障、年金制度、医療、教育負担軽減が政策優位となり、経済成長、産業の競争力を強化する政策は二の次になる傾向がある。中小企業や個人業に対して、行政としては、税制面で緩くはできるが、その産業の競争力を強化するための税金投入は、公平性の観点からできない。かくして、国や地方自治体で、政治が社会主義政党優位である場合、南イタリア、ギリシャ、フランス南欧のように、経済活動は旧態依然で、発展することはなく、国税を頼ることになる。日本でも、いわゆる旧革新自治体は、そういう傾向があった。その結果、社会主義政治の怖いところは、企業の本社流出、海外流出、それが経済地盤の劣化を招き、地方交付金に依存する赤字財政が慢性化し、地域格差を招き、若年人口流出がおきてしまうのである。
 一方、大衆株主のいるアメリカは、株式交換市場は発展したが、経済学における「株式市場価格の理論」はないまま、株式市場価格を所与とした、デリバティブ商品開発が盛んになった。理論的に価格形成がよくわからない現在株式価格を所与として、投資信託やオプションの商品が生成されると、それらの商品も理論的に説明できないはずである。
 リーマン・ショックのサブ・プライムの信用しかない住宅購入者に、証券を合成して,銀行信用で、発行したために、FRBが金利を戻したら、証券バブルは、はじけてしまった。日本のメガバンクで、この証券に手をだし、損失を出したのは1行だけだったと記憶する。
 習氏が、香港資本の不動産会社に、つぶす気なのか、中国不動産業界を根治するすきになったのかは、不明である。国民を借金づけにして、強制貯蓄を吸い上げ、中国経済成長を続けるのは、人口減少の症状が出てきて、マルチ商法のようなことは、だれが考えても無理がある。鄧小平氏が1990年南方講話で、中国に株式会社を導入、海外資本を直接誘致する道を開いた。香港は、国安法で、一つの中国になり、香港地場資本は、減価していしまった。深圳新興市場、および上海市場は、コロナ都市封鎖解除後、さえない。3年間、国内の不動産業が封鎖の影響で、事業が凍結してしまった。香港資本のアクセスが遮断、香港から、海外資本が逃避し出した。しかも、習近平主席は社会主義社会建設に重点を置き、消費財・第3次産業・情報社会インフラの完全統制をするから、総需要は、社会需要に偏向し、しかも、個人消費につながるものは、全くない。
 日本で例えれば、NHKの娯楽番組に出演するするのは、岸田首相の人事関係者、岸田氏好みのタレントだけということになる。首相官邸で、親類の忘年会を官邸備蓄のビールと柿の種で、しみったれてするようなことで、世の中が盛り上がるわけもなし。広島県人はこのような人が多いが、全国的に知られていないから、家族・親類づきあいを大切にする県民性なのだろう。

 東京に本社が集中し、関西の企業すら、東京本社をもつようになり、大阪経済に地盤低下の末、歴史ある大阪証券取引所は、日本証券取引所に統合された。株式市場の経済学的効能や意義は、企業価値を公正価値にし、上場企業の財務諸表は公認会計士により、監査されているが、世界経済のグローバル化に伴い、各国別会計基準から、国際会計基準への収斂に、向かい、各国別企業価値は国際公正価値に収斂することになっている。
 一般の日本人は、株式市場はリスクが大きく、すなわち、株価変動が大きいため、株式を買うより、資産の半分以上は、預金、保険で保有している。金やダイヤモンドの取引は、経済学的に需要と供給で価格が決まると理解できるが、「任天堂の株価がなぜ、(2019104万円台、202095万円台)なのか、わけがわからん。」と思う。人気投票のように、思っている人も多い。
 本講88. 6先物価格の決定理論のように、将来予想を仮定する市場の現物・先物価格を同時決定する一般均衡理論では、株式の現物・先物均衡価格を決定できることは、わかっている。
 
 現実問題として、株式市場だけでなく、債券市場を加えた、資産市場に拡大すると、現預金の管理をする日本銀行は、株式市場に介入する安倍ノミックス時代になり、債券、株式の買い手に回り、債券価格、株式価格形成をゆがめる事態を招いていた。日銀黒田総裁は、20234月に退任し、中央銀行が間接金融を越えて、直接金融の市場における有力な買い手になることは、漸次、終了するだろう。
 日本銀行のマイナス金利政策により、日本国債は流動性を失い、日本の国債発行は、ゼロ近傍発行となり、強制的に、日本銀行が投資家から徴税するようになってきた。つまり預金と同じである。配当のある株式は、1~2年で限れば、国債より利回りがよい。米国をはじめヨーロッパ、アジア諸国では、マイナス金利政策はとらないから、日本の投資家は、国際分散投資をしている。企業も、手持ち資金は潤沢なので、間接金融から資金調達しなくなっている。
 2022年になって、岸田政権になり、日本銀行の金融政策は変更なかった。株式相場は、米国の株式市場に連動して、米国が利上げに踏み切り、金融緩和から引き締めに入ったことを反映して、日本株価もその分、下落した。バイデン政権になってから、米国のインフレーションが顕著になっていたが、ウクライナ戦争を契機に、世界インフレーションがひどくなった。世界の中央銀行は、国内インフレを抑制するため、金利を上げている。日本だけ、コロナ禍からの経済・社会活動の回復を優先し、金融緩和を続け、世界金利の上昇で、金利差が開き、20221411542/ドルが、2022922142.4/ドルで、23%の減価の円安となった。
 財務省の市場介入も効果はない。円高介入では、円買いの日本円は無制限に円玉があるが、円安介入では、日本の外貨準備高のドル玉が上限である。財務省の介入は効果がないどころか、輸入価格に外国インフレーションがかぶさっているので、ドル玉を放出していると、貿易収支の赤字のため外貨準備は、減少するから、介入は早晩できなくなる。米国が金利を上げた分の減価率が自動的に外国為替市場で上乗せされて、為替レートが決定される、明白な金利相場が続くだろう。

3.5.3 中小企業金融
 日本では、金融市場は、銀行システムをもちいた間接金融が主流であったから、メインバンク制に象徴されるように、銀行が企業財務を支配した。また、日銀の低金利政策がつづくので、社債発行や増資による資金調達よりは、銀行融資の方が、資本コストが低かった。負債比率は50以上であった。しかし、大企業では、高度成長後、オイルショック後、米国との自動車・半導体摩擦で、円高もあり、海外進出せざるを得ず、資金調達を海外の金融市場で調達するようになった。その結果、大企業では、国内での資金調達は減少し、間接金融が縮小する。そして、貸付先を失い、40歳台団塊世代の住宅取得時代に入り、不動産バブルが発生し、過剰融資の末、バブルは破裂した。
 その不良債権処理が1995年から、信用組合の取り付けに始まり、大手銀行の不良債権処理が終わるのは、2003年である。中小企業の不良債権処理が残され、中小企業の淘汰が始まる。リーマン・ショック後、民主党政権下、金融庁の政策で、一時、中小企業の不良債権処理が中断された。安倍政権となり、日銀が超金融緩和政策を取るので、倒産件数は減少し、中小企業の不良債権処理はうやむやになっている。中小企業にとっては、資金調達の方法は、間接金融に依存せざるをえない。その間、東北震災等、自然災害による中小企業の損失もあり、中小企業は、大企業と同じく、負債比率を50%以下に減少させてきている。中小企業がやむを得ず、手持ち資金を増やしているのは、災害倒産リスクのためであると言われてきた。
 しかし、資金調達の方法も、多様化されてきている。その間、中小企業金融をテーマに、演習で学生を指導してきたが、クラウド・ファンディグなど、銀行を通さず、直接融資相手をインターネットで公募するIT金融が流行ってきたことにも注目するようになった。
 日銀が超金融緩和政策を取っても、政策効果が発揮できないのは、日本の伝統的銀行システムが、資金供給の役目をはたさなくなりつつあるからだろう。銀行が過剰準備金を日銀に残さないように、マイナス金利の発行税を徴収しても、実物経済にはさっぱり効果がない。大企業が設備投資しなければ、中小企業はなおさらしないから、資金調達の必要がない。銀行が借り手を探してもいないのであるから、銀行の採算が悪化するばかりである。政府が、消費税対策と称して、キャッシュ・レスを推奨しているが、キャッシュ・レス時代がくれば、現金の象徴たる日本銀行券は現金決済に必要がない。人々が銀行に預金をしなくなれば、銀行業は廃業である。
 
今週(2023918日~922)のイベントと市場への影響度
 先週は、19日岸田首相が22日まで訪米しました。米連邦公開市場委員会が20日まで開かれました。政策金利は前回を維持しました。20日中国BYDが小型電気自動車を販売しました。21日日銀政策委員会が金融政策決定会合を22日まで開きました。金融緩和を維持、政策金利は、マイナス0.1%でした。
 今週は、25日アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会が26日までエジプトで開かれます。世界政治は月末まで、予定はありません。
 経済統計は、次の発表がありました。
                      予想値      実現値
19日 日2023年基準地価 住宅地                 0.7
            商業地                 1.5
20日 日8月通関ベース貿易統計輸出             79943億円
               輸入             89248億円
               収支   -6,425億円     -9305億円
   米FRB政策金利 上限          5.5%       5.5
 
          下限          5.25%      5.25
   米経常収支            -2,200億ドル    -2,121億ドル
   日全国コンビニエンストア売上高            10028億円
22日 日8月消費者物価指数         3.0%       3.2
   日銀政策金利                     -0.1
   日
8月全国スーパー売上高               11432億円
 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値 
25日 日8月全国百貨店売上高          
26日 日9月月例経済報告(内閣府)
28日 米46月期GDP確報値         2.0
29日 日8月有効求人倍率          1.29
    8月完全失業率            2.6
    8月鉱工業生産指数         5.1
    9月東京都区部CPI          2.6
    9月消費動向調査(内閣府)     
    米8月個人消費支出          0.4
       個人支出            0.3
       PCEデフレータ         3.9
30日 中9月景気指数(PMI)          50.1

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                           4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5        3.2
利子率          -0.1%          0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%        2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
    先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円 
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数             3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1%       0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6
    一致指数     115.1         114.5


4回目 2023102

要点 3.4 貨幣経済一般均衡論を適用した企業行動

3.4 貨幣経済一般均衡論を適用した企業行動

 2章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。貨幣経済一時的一般均衡論によって、企業も現物・先物市場均衡を求めることができる。先物契約市場において、先物価格が市場で決定され、それが市場均衡した予想価格になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、企業の投資決定も、先物価格が企業総価値を決定することになる。
 企業のフロー・ストック最適化の枠組みは、

貨幣がある現行生産活動の最適化と先物契約の市場締結
先物市場価格で評価した企業総価値を最大化した投資決定
短期現金残高最適化、
最適投資の資金調達、負債・資本の最適構成


となる。

3.5.2 中間財・労働の最適化理論
 まず、貨幣がある現行生産活動の最適化を示す。

生産者が投資しない場合
 生産者の生産の決定を2期間モデルで考える.生産者は,第1期首に貨幣m0で支払い準備をし,第2期に,貨幣m1を準備するが、現金残高を残さない.すなわち,m2=0.
 生産活動の投入物は、材料、燃料、労働、資本財で構成される。投資はしないから、資本財は固定される。各期間の1消費財があり,x1x2がその生産量,生産投入は,材料量,例えば,原油量をg1g2,労働量をl1l2,資本量をk1k2とする.
 投入物が、原油と労働があるのは、次節でのべる先物契約理論では、自己精算条件があるので、先物契約は2種類の財が必要である。生産者は投資しないから,k2 k1とする.期間1の消費財価格をp1,期間2の生産者の主観的予想価格をp2とする.期間1の原油価格pg1,期間2の予想原油価格をpg2期間1の労働賃金率をw1,期間2の生産者の予想賃金率をw2とする.資本財を保有する株主の配当率を株式1単位につき,ρ1,ρ2とする.
 各期間における,生産者の利潤π1p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1,π2p2 x2m1-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k1),2期間の効用関数をu =π1+δπ2とする.ここで,δ(0<δ<1)は割引要素である. 初期貨幣残高をm0,期間2の貨幣残高をm 1とする.貨幣残高m1は,次期の取引需要であり,収入-費用の一定割合βとする.m1=β(p2 x2pg1 g1w2 l2)1期の生産制約式は,コブ・ダグラス型生産関数 x1g1αl1βk11α-β 2期の生産制約式は,生産関数x2g2αl2βk11α-βである.2期間の利潤最大化問題は次のようになる.

問題3.4 期間1の消費財価格p1,材料価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,材料価格pg1,賃金率w2,配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-βx2g2αl2βk11α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の投入量g1g2l1l2および貨幣残高m1γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)を求めよ.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
 u =π1+δπ2 
  ={p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1}+δ{p2 x2m1-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k1
  p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-(1-δ) m1+δ{p2 x2-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k1
  p1 g1αl1βk11α-βm0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-(1-δ) m1+δ{p2 g2αl2βk11α-β-(pg2 g2w2 l2+ρ2k1}.
 Lu-λ{m1-γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)}を変数g1g2l1l2m1λについて偏微分して,0とおく.
 Lp1αg1α1l1βk11α-βpg10
 
g1               
 Lδ(p2αg2α1l2βk11α-βpg2)-λγ(p2αg2α1l2βk11α-βpg2)0
 g2
 Lp1βg1αl1β1k11α-βw10
 l1
 Lδ{p2βg2αl2β1k11α-βw2}-λγ(p2βg2αl2β1k11α-β w2 )
 l2                                  
 L=-(1-δ)-λ=0L=-{m1-γ(p2 x2pg2 g2w2 l2) }0.
 m1           λ
 g1={pg1p1αl1βk11α-β1/(1α)
 g2{pg 2p2αl2βk11α-β1/(1α)
 l1={w1p1βg1αk11α-β1/(1β)
 l2{w2p2βg2αk11α-β1/(1β)
これらは,所与の係数、変数で解くことができる.例えば,
 l1={w1αpg1α-1p1α1αβαk11α-β1/(βα)
生産量x1およびx2は各期の生産関数から決まる.
x1g1αl1βk11α-βx2g2αl2βk11α-β
m1=γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)=γ(p2g2αl2βk11α-βpg2 g2w2 l2)   

生産者が投資する場合
 1期の生産制約式は,生産関数 x1g1αl1βk11α-β2期の生産制約式は,生産関数x2g2αl2βk21α-βである.投資財価格は,puであるが,資金調達方法に係わらず,2期間の利潤から,返済されないとする.2期間の利潤最大化問題は次のようになる.

問題3.5 期間1の消費財価格p1,賃金率w1および配当率r1,期間2の主観的予想価格p2,賃金率w2,配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-βx2g2αl2βk21α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の投入量g1g2l1l2および資本量k2および貨幣残高m1γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)を求めよ.投資量IIk2k1と表す.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
u =π1+δπ2p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ{p2 x2m1-(pg2 g2w2 l2+ρ2 k2
 p1 g1αl1βk11α-βm0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-(1-δ) m1+δ{p2 g2αl2βk21α-β  -(pg2 g2w2 l2+ρ2k2}
Lu-λ{m1-γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)}とおき,変数g1g2l1l2k2m1について偏微分して,0とおく.
Lp1αg1α1l1βk11α-βpg10
g1               
Lδ(p2αg2α1l2βk21α-βpg2)-λγ(p2αg2α1l2βk21α-βpg2)0
g2
Lp1βg1αl1β1k11α-βw10
l1
Lδ{p2βg2αl2β1k21α-βw2}-λγ(p2βg2αl2β1k21α-β w2 )
l2                                  
L(δ-λβ){p2g2αl2β(1-α) k2α-β-ρ2}0
k2  
L(δ-1)-λ=0Lm1-β(p2 x2pg2 g2w2 l2) 0.
m1         λ
g1={pg1p1αl1βk11α-β1/(1α)
g2{pg 2p2αl2βk21α-β1/(1α),
l1={w1p1βg1αk11α-β1/(1β)
l2{w2p2βg2αk21α-β1/(1β)
k2{ρ2p2(1-α-β)g2αl2β} 1/(α+β)
m1β(p2 x2pg2 g2w2 l2)
x1l1αk11α x2l2αk21αm1β(p2 g2αl2βk21α-βpg2 g2w2 l2)
ゆえに,投資量Iは                        
Ik2k1{ρ2p2(1-α-β)g2αl2β} 1/(α+β)k1.              

3.5.2 中間財・労働先物の最適化理論
現物市場における生産者の最適化
 投入する中間財および労働に先物市場があるとする.生産者の最適化問題は,次のように設定される.価格ベクトルp1と賦存量(m0k1を所与として,生産関数fのもとで,期待効用関数vを最大にする行動(x1g1l1m1)および計画g2l2)を決定する.計画を効用関数u2に代入し,期待効用関数vを最大にする先物契約(cg2cl2)を求める.ここでは,中間財の先物契約と労働の先物契約を決定する.投資はしないものとする.
 1段階の問題において,生産者は,利潤流列π1p1 x1m0-(pg1 g1w1 l1+ρ1 k1)-m1,π2p2 x2m1{ pg2 (g2cx2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}2期間の効用関数をu =π1+δπ2とする.初期貨幣残高をm0とする.期間2の貨幣残高をm 1とする.第1期の生産制約式は,2期間同じコブ・ダグラス型で,生産関数 x1g1αl1βk11α-β2期の生産制約式は,生産関数x2g2αl2βk11α-βと表す.
 先物モデルでは,自己清算条件qc=0があり,先物市場では,少なくとも,2財が必要である.消費財と投入財の2財も可能だが,生産関数の制約条件が消費財と投入財の2財にあり,いずれか1財の先物市場において,契約が成立すると,生産関数によって,他の1財がその契約に依存するから,自己清算条件が満たされない.
 問題3. 6において,材料である原油と労働の先物契約を仮定している.期間1の現物取引と期間2の先物契約(cg2cl2)を仮定した場合の取引最適化をする.

問題3.6 期間1の消費財価格p1,原油価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,予想原油価格pg1,予想賃金率w2,予想配当率ρ2,期間1の貨幣残高m0,先物契約(cg2cl2)を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-β x2(g2cg2αl2cl2βk11α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の生産量x1x2,原油量g1g2,労働量l1l2および貨幣残高m1γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)を求めよ.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
u =π1+δπ2p1 x1m0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)-(1-δ) m1+δ[ p2 x2{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1} ]
 p1 g1αl1βk11α-βm0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)-(1-δ) m1
   +δ[p2(g2cg2αl2cl2βk11α-β{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}]
Lu-λ{m1-γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)}とおき,変数g1g2l1l2m1,λについて偏微分して,0とおく.
Lp1αg1α-1l2βk11αβpg10
g1
L=δ{p2α(g2cg2α-1l2cl2βk11α-βpg2}
g2               -λγ{ p2α(g2cg2α-1l2cl2βk11α-βpg2}0
Lp1βg1αl1β1k11α-βw10
l1 
Lδ{p2β (g2cg2αl2cl2β1k11α-β w2}
l2              -λγ{p2β(g2cg2αl2cl2β1k11α-βw2}0
L (δ-1)-λ=0Lm1-γ(p2 x2pg2 g2w2 l2) 0.
m1           λ 
λδ-1
g1={pg1p1αl1βk11αβ1/(1α)
g2={pg2p2αl2cl2βk11αβ1/(1α)cg2
l1={w1p1βg1αk11αβ1/(1β)
l2={w2p2β(g2cg2αk11αβ1/(1β)cl2
x1g1αl1βk11α-β
x2(g2cg2αl2cl2βk11α-β.
m1=γ(p2 x2pg2 g2w2 l2) γ[p2(g2cg2αl2cl2βk11α-β
       pg2{1(δ-1)γ}pg2p2αl2cl2βk11αβ1αcg2
       w2{1(δ-1)γ}w2p2β(g2cg2αk11αβ1βcl2 ].        

中間財・労働先物市場における生産者の最適化
投資がない場合
 先物市場では,自己清算取引戦略qg2q l2)・(cg2, cl20が予算制約式となる.これにより,自己清算取引戦略であれば,いかなる契約価格qqg2ql2)であっても,利潤π2p2x2m1{ pg2g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}はヘッジされる.
 期待効用関数vに,x2(p2 , cg2, cl2) l2(p2 , cg2, cl2)を代入し,v=π1 (x1g1l1) +δπ2( x2g2, l2) dψ(q)をえる.
π2(x2g2l2)p2x2m1{ pg2g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1}
                (g2cg2αl2cl2βk11α-βm1{ pg2g2cg2w2l2cl2)+ρ2 k1}

問題 3.7  q0のもとで
    max  π2(g2l2) d ψ(q)subject toqg2q l2)・(cg2, cl20.  
  { cg2cl2}     
 Lπ2*( g2l2) d ψ(q)-λqcとおく.
Lπ2*( g2l2) d ψ(q)-λqc
 [p2x2m1{ pg2g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k1} ]d ψ(q)-λqc
 =[(g2cg2αl2cl2βk11α-βm1{ pg2g2cg2w2l2cl2)+ρ2 k1}]d ψ(q)-λqc
π2d ψ(q)=λqg2, π2d ψ(q)=λql2qc=0.
cg2                  ∂cl2 
 
解をcg2cl2,λとおく.                              

 先物市場において,先物均衡価格を(qg2q l2)とする.これが,企業の客観的な予想価格となる.

投資をする場合
 企業が投資をする場合,投資財の購入と銀行からの借り入れが生じる.問題3. 3は,次のように,問題3. 5において,投資財量を決定する.

問題3.8 期間1の消費財価格p1,原油価格pg1,賃金率w1および配当率ρ1,期間2の主観的予想価格p2,原油価格pg2,賃金率w2,配当率ρ2,投資財価格pu, 期間1の貨幣残高m0,先物契約(cg2cl2)を所与とし,2期間の生産関数x1g1αl1βk11α-β x2(g2cg2αl2cl2βk21α-βのもとで,効用関数をu =π1+δπ2を最大にする各期間の生産量x1x2,原油量g1g2,労働量l1l2,投資財量Ik2k1および貨幣残高m1を求めよ.
解 異時間効用関数u =π1 +δπ2に生産関数を代入する.
u =π1+δπ2p1 x1m0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[ p2 x2m1
             { pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k2} ]
 p1 g1αl1βk11α-βm0-(pg1g1w1 l1+ρ1 k1)-m1+δ[p2(g2cg2αl2cl2βk21α-β
    +
m1{ pg2 (g2cg2)+w2l2cl2)+ρ2 k2}]
Lu-λ{m1-γ(p2 x2pg2 g2w2 l2)}とおき,変数g1g2l1l2m1,λについて偏微分して,0とおく.
Lp1αg1α-1l2βk11αβpg10
g1
L=δ[p2α(g2cg2α-1l2cl2βk21α-βpg2
g2               -λγ{ p2α(g2cg2α-1l2cl2β1k21α-βpg2} 0
Lp1βg1αl1β1k11α-βw10
l1 
Lδ[p2βl2cl2(g2cg2αl2cl2β1k21α-β
l2              -λγ{p2β(g2cg2αl2cl2β1k21α-βw2} 0
Lδ{p2(1-α-β)(g2cg2αl2cl2βk2α-β-ρ2 }0.
k2
L (δ-1)-λ=0Lm1-γ(p2 x2pg2 g2w2 l2) 0.
m1           λ
λδ-1
g1={pg1p1αl1βk11αβ1/(1α)
l1={w1p1βg1αk11αβ1/(1β)
g2={pg2p2αl2cl2βk21αβ1/(1α)cg2
l2={w2p2β(g2cg2αk21αβ1/(1β)cl2
k2{ ρ2p2(1-α-β)(g2cg2αl2cl2β}1/(α+β)
x1g1αl1βk11α-β
x2(g2cg2αl2cl2βk21α-β.
m1=γ(p2 x2pg2 g2w2 l2) γ[p2(g2cg2αl2cl2βk21α-β
      pg2pg2p2αl2cl2βk21αβ1αcg2
      w2w2p2β(g2cg2αk21αβ1βcl2 ].        

問題3.9  q0のもとで
    max  π2(g2l2) d ψ(q)subject to qc0.  
  { cg2cl2
   Lπ2*( g2l2k2) d ψ(q)-λqcとおく.
Lπ2*( g2l2k2) d ψ(q)-λqc
 [p2g2cx2)+m1{w2l2cl2)+ρ2 k2} ]d ψ(q)-λqc
 = d ψ(q)-λqc
π2d ψ(q)=λqg2, π2d ψ(q)=λql2qc0
cg2                         ∂cl2  
解をcg2cl2,λとおく.                              

今週(2023102日~106)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、25日アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次総会が26日までエジプトで開かれました。AIIBの加盟国は、109カ国になりました。アジアの定義から、アフリカ、東欧、南米、太平洋諸島に地域を拡大しています。
 今週のイベントは、101日から、インボイス制度開始です。2日日銀の短観が発表されます。3日から、6日までノーベル賞が、順次発表されます。
 経済統計は、次の発表がありました。
                                予想値    実現値
25日 日8月全国百貨店売上高(前年比)         3897億円(11.8)
26日 日9月月例経済報告(内閣府)現状          穏やかに回復している
                先行き         世界の引締め、物価上昇、金融市場変動に注意
28日 米46月期GDP確報値       2.0%     2.1
29日 日8月有効求人倍率         1.29倍    1.29
    8月完全失業率          2.6%     2.7
    8月鉱工業生産指数       4.5%    -3.8
    9月東京都区部CPI        2.6%     2.5
    9月消費動向調査(内閣府) 消費者態度指数    35.2
   米8月個人消費支出         0.4%     0.4
      個人支出           
0.3%     0.4
      PCEデフレータ        3.9%     3.9
30日 中9月景気指数(PMI)       50.1
 経済統計は、次の発表があります。
102日 日銀短観 大企業製造業業況    6
                先行    7
          大企業非製造業業況   25
                 先行   24
    米9ISM製造業景況感指数     47.4
4日  米9ISMサービス業景況感指数   53.6
5日  米8月貿易収支          -652億ドル
6日  日8月景気動向指数一致      113.9
             先行      108.1        
    日8月家計調査          -3.9
    米9月失業率            3.7

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5        3.2
利子率          -0.1%          0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1%       0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6
    一致指数     115.1         114.5

5回目 2023109
要点 4. 金融機関の行動
    4.1 わが国の金融機構と業務
     4.2  金融機関への諸規制
     コラム 日本金融史
   4.3 信用創造の理論
     4.4 銀行行動の理論

4. 金融機関の行動

4.1 わが国の金融機構と業務
 わが国の金融機構と業務について、一覧表にしている。これは、預金取扱機関、すなわち、銀行を中心として、分類し、主な資金調達業務、資金運用業務および資金仲介業務を番号順に、取り上げている。表にある金融機構の形態は、(『<新版>わが国の金融制度』日本銀行金融研究所、1986年)にしたがったものである。1986年以来、金融制度史は変遷をし、バブル、金融再編があったことは、末尾の「日本金融制度史」第7期に記録している。明治以来、日本の金融制度が大きく変動する契機は、戦争が多い。西南戦争、日清戦争、日露戦争、第1次世界大戦、第2次世界大戦である。1986年まで、戦後の預金取扱機関中心の金融機構は、大蔵省、日本銀行も通貨の供給、金融の調節が円滑に機能していたと評価されている。
 しかし、土地神話にもとづく、土地担保価値上昇率トレンドと都市土地価格の上昇率にかい離が生じ、バブルが発生、崩壊した。その結果、2003年まで、間接金融機構は、中小金融機関の統合が進み、大手都市銀行も3行に統合された。金融行政の流れでは、合併・吸収、資本金増強、大口規制など、これまでの日本金融史上激変期にとられた手法である。
 その間、1997年日本銀行法が改正された。1882年日本銀行条例、1942年日本銀行法公布、1949年日本銀行法一部改正(政策委員会設置)に次ぐ大改正であり、人生50年ではないが、金融行政においても、日本銀行という金融根幹制度も50年周期で、制度改正する必要があると、どこかに記述してあったと思う。金融制度は、与信期間が10年単位であり、制度の見直しは、10年周期で実情に合わせる必要がある。国の行政制度も同様の省庁再編50年、省庁管轄の諸制度は10年以上経過すると提供する行政サービスが実情に合わなくなって、予算不足、予算の余剰がはなはだしくなっているはずである。金融行政では、通貨の供給、金融の調整が制度由来の目詰まりになると、信用崩壊になるので、定期的に、見直ししている。
 従来、日本銀行役員会が、企業で言う取締役会に相当し、GHQにより設置された政策委員会は、金融政策を発案、実施できるのであるが、実質、大蔵省で金融政策を主導され、役員会で実行案になおし、実施されていて、政策委員会は、有名無実であったといわれている。政策委員会制度の取扱いは、小中学校のホームルームみたいなアメリカお仕着せ学級自治であったと、学生には、話していたが。日本銀行に議事録は存在するのか、さだかではない。1997年以前は、金融政策の実施について、立案の経過が公表されないので、外部の専門家は、事後的な推測しかできない。日本金融学会では、金融政策の決定過程が公表されないとこぼすコメントもあった。また、外部の専門家の指摘は、反映されることはない。たとえば、バブル前後の金融政策は、大蔵省、日本銀行に、バブルの認知が遅く、銀行の不動産担保貸し出しに異常事態が見られたはずだし、最悪な事態では、地上げ屋が、住民をド―ベルマンで、追い払うテレビレポートもあった。山口県に住んでいた私の父が珍しく、「地上げに、暴力団が活動している。」と私に注意した。私は、普段は、経済活動には、注意を払うのが仕事であるが、新婚で、住宅は購入する気がなかったので、関心が薄れていた。東京の地価は、土地ころがしで、2年間で2倍以上になった。
 大蔵省は地価税を課税し、日本銀行は、金融引き締めで、公定歩合の2倍以上引き上げした。これでは、すぐさま銀行の貸し出し余力は失われて、「夢の住宅街」「夢のリゾート」実家近くの「ゴルフ場建設計画」は中断される。
 現行の日本銀行法は、政策委員会が、政府から独立して金融政策を立案、実施し、国会、金融業界、国民に対して、金融政策の実施説明責任を果たしているし、議事録の公表もある。

4.2 金融機関への諸規制

 金融機関は、株式会社、信用金庫、相互会社、信用組合等の組織形態と目的、業務、監督官庁との係わりを個別に定めている。例えば、銀行は株式会社であるから、会社法にしたがうが、銀行法にしたがう。証券会社は株式会社であるが、金融商品取引法にしたがう。株式会社は、会社法により、その目的を定款で定められるが、株式会社である銀行は、銀行法によって目的が定められている。
 金融機関は、各業法によって、縦割りの組織が、監督機関である金融庁に、ぶら下がっている。ただし、日本銀行は、財務省に監督されている。
 
戦後、GHQは軍を廃止、財閥に戦争責任を取らせる形で、財閥解体をした。しかし、金融業界の財閥解体はしなかった。旧日本銀行法もナチスのライヒスバンクが法源なのだが、現代文調の政策委員会を追加するだけで、漢文調カタカナ混じりの法律だった。金融は米国でもユダヤ人が強いし、ライヒスバンクをまねていることは、米国の専門家は認識していただろう。GHQは、法文としては問題ないとしたのか、それが、1997年改正まで続いた。
 法規制では、金融業界は、縦割りであるが、金融業界も財閥系、新興企業系および銀行系に分かれ、金融業界は系列企業をしたがえていて、系列融資が行われていた。地方金融機関は、戦間期の銀行合同で、11行主義により、軍から強制合併させられた。県外に、支店はなかなか認可がおりないので、県内の企業は各府県の地方銀行1行と取引するしかない。
 バブル後の金融再編は、信用組合、信用金庫の破たんが始まり、1997年山一證券の自主廃業、1998年北海道拓殖銀行破たんに連鎖し、終わると、都市銀行は13行から、3行に、中小金融機関の456信用金庫、448信用組合が現在、それぞれ、257金庫、146組合に合併・吸収されている。
 3メガバンクに、今も系列融資は存在するのか、メインバンク制自体も風化しているので、系列企業は、間接金融より、直接金融、海外資金調達の選択肢中から、資本コストの低い方を選択していると思われる。
 保険会社および証券会社も財閥系を主要な取引相手とする場合がある。その商品開発も運用も、取引相手の企業を組み入れる場合がある。外国の証券会社は、そのような考慮はないから、たとえば、投資信託であれば、自由に選択しているので、運用成績がよい。
 金融行政は、大蔵省銀行局から金融庁になって、銀行の業務のユニバーサル化がみられ、金融持ち株会社も認められる。ユニバーサル銀行経営が、うまくいっているのか、疑問だが。ユニバーサル銀行は、多角化しても、それに伴う商品開発ができる人材はいないし、専業の保険会社および証券会社から、商品を仕入れて、小売りしているだけであろう。日本銀行の超金融緩和は、現在も続いているが、ゼロ金利政策のため、預金取扱金融機関は、貸し出しが減少し、地方金融機関から、じわじわと経営が圧迫されてきている。その分、信用収縮し、地方経済も収縮している。ゼロ金利政策を撤廃する時期が遅ければ、支店の廃止が進み、ネット・バンキングに、顧客は頼らざるを得なくなる。

コラム 日本金融史
 明治維新以前は、日本の金融機関は、関東と関西で金本位制と銀本位制を取っていたため、両地域で両替商が存在し、庶民金融の頼母子講(無尽)、町内のいわゆる10日で1割の高利貸しがあり、各藩内では藩札が流通していた。頼母子講は、中国・韓国でもある。横浜の南京街商店主間でもある。あの忠臣蔵で有名な浅野家の断絶では、藩の財務担当重役は、塩の専売を藩の財政にしていて、藩札・信用が藩外に流通していたため、藩の債権債務処理に、苦労したようだ。敵討ちも、大石ら藩士に清算した軍資金があればこそ、本懐を果たせたのである。塩製造販売事業で、もうけているのに、吉良に、その塩田技術を教えないから、いやがらせを受けたのである。浅野藩を意図的につぶされ、藩士を路頭に迷わされて、藩が攻撃されたと同じことだ。大石でなくとも、浅野藩の組織力では、完全に吉良はとれる相手だった。ここは、幕藩体制を揺るがす大問題にして、いつでもとれる爺さんを泳がしていたのである。浅野家取り潰しの裁断はゆるがず、吉良をとった。
 浅野家の経営していた塩田技法は、取り潰し以後、各藩で塩田適地では、広がった。浅野家の周辺各藩との取引は、塩と引き換えに、塩を煮詰める芝・松薪を帰り舟で運び、差額を貸し借りしていた。江戸時代に、藩間経済循環が形成されたことを金融史的に考察する論文はある。藩札は藩内で流通するが、赤穂藩は、当時の保存添加物である塩は、塩蔵食品、牛馬の飼料添加物であるから、比較的大量生産できた赤穂の塩は、各藩で需要が高かった。藩間の物々交換の例は少なく、米が決済商品であり、大阪の蔵屋敷に、余剰の米・藩特産品を送り、商人を仲介者として、海路・陸路で、交換品を持ち帰っていた。塩は砂糖と同様に、くさらず、長期保存ができる商品であり、価値が安定していた。
 赤穂の塩田は、瀬戸内海の花崗岩を産出する地域の砂は、石英質であり、温暖かつ日照時間がながいため、その技法は各藩に伝播した。私は、防府市の塩田が実際に稼働しているとき、塩田に入ったことがある。生産現場で働いている労働者を見るのが、好きになったのはそのせいかもしれない。
 大阪の北摂地域の明治以来の金融史を教えたことがある。最初は、神戸灘の銀行が、酒米である山田錦を買い付け代金と次年度の栽培貸付を農地担保でしたのがはじまりで、茨木市の安威郵便局が、唯一の庶民貯蓄銀行であった。1890年から、金融恐慌があり、銀行が破たんする。後は、欧米と同じように、大戦後、軍需が落ち、企業が倒産、貸付金が焦げ付けるで、銀行破たんが起きた。その屑債権を買って、その銀行の本店・支店を吸収するから、支店網は充実していった。政府は、太平洋戦争後に生じるであろう、反動恐慌を怖れたのか、戦間期に、銀行合同政策を取る。
 敗戦後、台湾銀行、朝鮮銀行、満州中央銀行の行員を、長期信用銀行に吸収し、中小企業対策の信用金庫、信用組合を設立させた。戦後の金融システムの系譜は、戦中間に基盤が形成され、支店銀行業(Branch Banking)であり、米国のように、1本店銀行業(Unit Bankinng)ではない。米国では、戦後の対外戦争が終結すると、銀行不況が発生、そのたびに、1本店銀行業の破たんが多かった。たとえば、第1次湾岸戦争後、イラク戦争後のリーマン・ショックがその例である。
 戦後、各業界で系統銀行が形成されたのも、特色の一つである。たとえば、農林水産業において、農林中央金庫を各協同組合の中央銀行として、系統内外の預金・融資、政府の補助金、政府の農産物の価格調整金等の取扱いをしていて、協同組合の本支所が内外業務を担当している。

4.3 信用創造の理論

 銀行業務は、銀行の独占的業務として、預金業務がある。手形担保に、満期期限までの利息を手数料としてとる短期貸し出しや設備投資・住宅ローンの長期貸し出し、資金の送金等の業務は、金融会社で業務ができることになっている。
 銀行は、資金調達業務である預金および銀行間市場からの資金を元手に、資金運用業務である短期・長期貸出、投資目的のための債券・株式保有をする。その他に、手形割引等の取引手数料がある。銀行経営で、資金運用先の破たん等で、資金が回収できなくなるリスクがあり、銀行は預金保険をかけ、貸出先に貸倒引当金をリスクランクに応じて、積立てる。中央銀行は、銀行が流動性不足に陥らないように、強制的に準備預金をさせる。銀行に預金引出が発生した場合、中央銀行は、緊急融資をして、銀行システムが不安定にならないようにする義務がある。
 銀行経営は、預金を資金需要者に、貸出利子率で貸し出し、預金者に支払う預金利子率との利ザヤが銀行の主要な収益である。一度、銀行システムから、貸し出しが実行されると、その資金は、現金として、費消される額はあるが、銀行システムに還流する。還流預金は、再び、その銀行の貸出先に貸出される。最初の預金を本源的預金とすれば、還流する預金は派生的預金という。
 問題は、本源的預金から、日本銀行に強制的に預金する法定準備金を差し引いて、銀行システム全体で、預金総額と貸出金総額がいくらになるかを計算する。本源的預金から、銀行システムを通じて、預金総額および貸出金総額が増加することを信用創造という。
 『金融論2022年』では、無限等比級数を用いた計算例を示している。

4.4 銀行行動の理論

 完全競争市場下における銀行行動は、4.5.1において、銀行の利潤最大化で求めている。銀行にとって、利潤は、収益マイナス費用である。フローである収益は、手形割引料、取引手数料および保有する債権からの収益からなる。費用は、経費、労務費および債務である預金利息からなる。
 バランス・シート制約式は、準備預金制度から強制される。貸付債権のリスク管理は、貸倒引当金であり、5段階に分類される。貸付債権は、正常、利息延滞、元金返済延滞、破産懸念、破産であり、3%、20%、50%、80%、100%を引き当てると仮定する。
 融資後の債務履行はコベナンツ条件といわれ、既存貸付債権の契約に適用され、銀行にはモニタリングコスト(監視費用)が掛かる。時間通じて、リスク管理により、5段階のランクが変わるので、引当金も変化する。
 銀行の投資は、新規貸付債権と新規国債購入である。前者は、審査により、リスク管理で評価される。貸付先の情報提供により、①期間返済可能、②貸付利子率と債券利回り(リスク・アプローチ)、③余力=預金+返済金+償還金(バランス・シート制約式)から、融資実行可能か判定する。
 銀行は、市場、自己制約条件を与件とし、収益の割引将来価値を最大化する投資を決定する。2期間モデルで、短期と長期を区別し、短期利子率と長期利子率を分ける停止化することができる。ここでは、1期間モデルである。
 
 以上を定式化すると、次のようになる。
 完全競争下の銀行間市場モデルを応用したモデルで、次の銀行の利潤最大化から、債券利子率(長期利子率)との関係が求められる。
銀行のバランス・シートの制約式
RLBD+εLE    債券投資:B還流率:ε、派生預金:εL 
法定準備預金の条件式
R=α(D+εL          法定準備率:α
貸付量Lの収益P (L)は手数料および利息収入である。債券投資B0B0=(1-α)D+(ε-αε-1)LE、債券利子率rbとする。投資Lの増大とともに貸倒引当金が増大するから、P (L)は、貸付量の増大に逓減する。
経常費用Cは預金利息と固定費用である。
CrdDεL)+C0 、      預金利子率:rd 、固定費用:C0
利潤は、収益から経常費用を差し引いたものである。
利潤関数 π P(L)rbB0C
       P(L)rb1-α)D+(ε-αε-1)LE{rdDεL)+C0 }
銀行の利潤最大化
 銀行の利潤最大化は、π=P(L) rbB0CLDで偏微分し、0とおく。
∂π =PLrb(ε-αε-1)- rd ε0
L
すなわち、 PL rb(αε-ε+1)+rd ε                           (1)
∂π =(1 α) rbrd0、すなわち、債券利子率と預金利子率の関係:(1 α) rbrd            (2)           
D
(2)式に(1)式に代入し
PL =rb(αε-ε+1)+ε(1 α) rbrb
限界収益=限界費用=債券利子率を得る。

今週(2023109日~1013)のイベントと市場への影響度
 
先週のイベントは、101日から、インボイス制度開始です。2日日銀の短観が発表されました。3日から、7日まで、ノーベル生理学・医学賞、物理学賞、化学賞、文学賞、平和賞が、順に発表されました。
 今週のイベントは、9日にIMF・世界銀行年次総会がモロッコで15日まで開かれます。11日、東証でカーボン・クレジット市場が開設されます。
 経済統計は、次の発表がありました。
                                                   予想値    実現値
102日 日銀短観 大企業製造業業況     6       9
                先行     7      10
          大企業非製造業業況   25      27
                先行    24      21
    米9ISM製造業景況感指数     47.4     49
4日   米9ISMサービス業景況感指数   53.6    53.6
5日  米8月貿易収支               652億ドル 583億ドル
6日  日8月景気動向指数一致      113.9    114.3
             先行      108.1    109.5   
    日8月家計調査          -3.9%   -2.5
    米9月失業率             3.7%   3.8
 経済統計は、次の発表があります。
                                                  予想値 
10日  日9月景気ウォッチャー調査       53.3
     8月国際収支経常収支         30000億円
           貿易収支         -700億円 
11日  日9月工作機械受注額(日本工作機械工業会)
12日  日8月機械受注統計(内閣府)       -6.7
    米9月消費者物価指数           3.6
13日  中9月貿易収支             
      9月消費者物価指数           0.2

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1 %      -0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


6回目 20231016
要点 債権・労働先物の最適化理論
4.5 市場のルールに基づく市場均衡
4.5.1 完全競争市場のルール
4.5.2 完全競争市場条件の変更
4.6  金融取引における情報
4.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動

4.5 市場のルールに基づく市場均衡
4.5.1 完全競争市場のルール
 完全競争市場下における銀行行動は、4.5.1において、銀行の利潤最大化で求めている。銀行にとって、利潤は、収益マイナス費用である。フローである収益は、手形割引料、取引手数料および保有する債権からの収益からなる。費用は、経費、労務費および債務である預金利息からなる。
 バランス・シート制約式は、準備預金制度から強制される。貸付債権のリスク管理は、貸倒引当金であり、5段階に分類される。貸付債権は、正常、利息延滞、元金返済延滞、破産懸念、破産であり、3%、20%、50%、80%、100%を引き当てると仮定する。
 融資後の債務履行はコベナンツ条件といわれ、既存貸付債権の契約に適用され、銀行にはモニタリングコスト(監視費用)が掛かる。時間通じて、リスク管理により、5段階のランクが変わるので、引当金も変化する。
 銀行の投資は、新規貸付債権と新規国債購入である。前者は、審査により、リスク管理で評価される。貸付先の情報提供により、①期間返済可能、②貸付利子率と債券利回り(リスク・アプローチ)、③余力=預金+返済金+償還金(バランス・シート制約式)から、融資実行可能か判定する。
 銀行は、市場、自己制約条件を与件とし、収益の割引将来価値を最大化する貸付・債券投資を決定する。

4.5.2 完全競争市場条件の変更
2) 独占的競争下における差別金利の決定 
 財の独占企業の理論を、完全競争下の銀行行動に適用する。独占競争下にある銀行は、大企業の優遇貸付利子率(プライム・レート)rBと中小企業の貸付利子率rM(サブ・プライム・レート)の差別利子率をつける。
 大企業の資金需要をDBで表し、中小企業の資金需要をDMで表す。簡単化のため、それぞれの需要曲線は直線で、raBDBbBraMDMbMとする。大企業の需要の利子率弾力性はεB、中小企業需要の利子率弾力性はεMとする。εBεMである。
 銀行の総費用Cは、
CrdDC0預金利子率:rd固定費用:C0と表す。
銀行の収益Rは、RrLBrLMF0、大企業向け貸出利子率:rB中小企業向け貸出利子率:rMで表す。
銀行の利潤はπ=RCrLBrLMF0Cである。限界費用は,両市場共通で一定であるとする。
 独占理論から、利潤関数を貸出量で偏微分すると、
πr1- 1 )MC0πr1- 1 )MC0
LB          εB               LM     εM
それぞれの限界収益が限界費用に等しい貸出量において、需要曲線上の プライム・レートrBrd1- 1/εB とサブ・プライム・レートrMrd1- 1/εM 2つの市場で決まる。εBεMと仮定しているから、rMrBである。

4.6  金融取引における情報

 日本の間接金融市場のように、借り手が弱く、貸し手の要求する情報提供をする貸付資金市場は、米国のそれではない。米国の中小企業の起業率は、日本より高く、逆に、倒産率も高い。米国銀行にとって、貸し倒れリスクが高い。その原因は、企業側の情報提供が銀行を説得するほどでもないためであろう。銀行の規模も小さく支店網はない。
 銀行行動の理論は、従来、ヨーロッパ留学だった流れが、戦勝国米国に変更された。金融論は、エール大学に留学した学生が、ト―ビンの理論を日本の現実に適用したのが、教科書で取り上げられていた。それが、都市銀行と地方銀行のコール市場で、それぞれの利潤最大となる最適貸出が決まるという理論で、本論に紹介している。日本では、金利水準は、大蔵省が決定しているのであって、日本銀行の政策委員会は決定を承認しているにすぎなかった。したがって、自由金利市場は、インターバンク市場しかなかった。
 現在では、企業が投資する場合、借入金は2期間以上で返済する。銀行は返済可能性を審査して、条件をみたせば、貸出すが、利息と元金は2期以上で回収される。企業の債権は、債券と性質がよく似ている。そうすると銀行は、過去の債権の元利金と1期間の割引料、手数料で通常の利益を上げていることになる。この債権を貸付資金市場において、標準化すると、2期間以上の貸付利子率が決まる。
 当然、2期以降の不確実性は、両者にあるので、不確実性下の期待利潤最大化になる。しかし、金融論の貸付資金市場は、資金需要者は、確実性下のもとで、現在、必要な財・サービスに支出をするために、資金を借りる。銀行側から見れば、資金需要曲線は、確実性下にあるとみる。合理的期待論のMuthも、企業の需要曲線は確実性下にある。財の供給は第2期の予想価格に依存するので、不確実性下である。不確実性下、米国発祥のミクロ市場理論は、この設定で、学会にコンセンサスあるようだ。
 資金供給者は、担保をとり、その企業の貸出極度額を決め、不確実性下の2期以降の借り手の返済能力を精査して、期待利潤を最大化する設定が多い。
 すなわち、資金需要者は、右下がりの直線を仮定するのは、独占競争理論も逆選択理論も同じである。テキスト図4.7のように,銀行の供給曲線が、高金利になると供給量が減少する、つの字型になる。つまり、高金利で借りる需要者の返済リスクに対する貸倒引当金が増加するので、銀行の貸出余力が減少する。また、高金利では、リスクの高いプロジェクトをもつ企業ばかりになるので、逆選択が発生する。
 情報の経済学で取り上げられる事象は、非常にリスクのある借り手を問題にしているので、日本の銀行優位の貸付市場では、相手にされないだろう。消費者金融市場や、スコアリングの統計手法を使った、顧客情報の評点化によって、貸出するネットローンでは、そのような顧客もいるであろう。実際、日本の消費者金融業者が、スコアリングの統計手法を実務で利用している事例はないだろう。
 本論で、金融理論における情報の取扱いをまとめた。ITを使った金融手法は、仮想空間で決済口座が当座預金口座にあたり、電子商取引が発生すると、その口座を通じて決済する。人的な記帳の流れが全くない。記帳は、個人のスマホ口座と銀行にある双方の口座になる。融資の審査も、IT化されると、銀行に店舗は必要なくなる。金融機関にとって、情報管理と情報加工技術が、営業になるような時代になりつつある。

4.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動

 2章に、貨幣経済一時的一般均衡論によって、3資産の現物・先物市場均衡問題を取り上げている。貨幣経済一時的一般均衡論によって、銀行行動を最適化し、現物・先物市場均衡を求めることができる。金融先物契約市場において、先物利子率が市場で決定され、それが市場均衡した予想利子率になる。先物市場理論は、不確実性下の経済を想定しているから、銀行の営業資金の金融投資決定も、先物利子率が企業総価値を決定することになる。
 銀行のフロー・ストック最適化の枠組みは、
  貨幣がある預託与信活動の最適化と先物契約の市場締結
  短期預託与信の最適化、金融投資の間接・直接証券の最適配分
  先物市場利子率で評価した総価値を最大化した金融投資決定
となる。
 銀行の経常業務と金融投資業務の決定を2期間モデルで考える。銀行は、預金D1を引き受け、中央銀行に準備率βをかけたβD1を無利息で準備預金R=βD1をする。銀行の期末バランス・シート制約式は、R1L1B1p1k1D1E1である。ここで、p1は実物資本k1の再調達価格である。E1は株式資本金である。
 短期与信で、持ち込まれた残存期間1ヵ月の企業手形btを割引率rcで割り引く。割引料はΣt112btr30/365とする。前期の貸付金L1から、元利合計(1+rl1L1、国債の利息rbB1を受け取る。前期預金D11に対して、預金利子率rd1で、利息を支払う。銀行員の労働量をl1、銀行の不動産・設備等の資本量をk1とする。以上を、年間の経常業務とする。
 今期の預金D1は、前期預金D11から今期の引出金w1を差し引き、新規の預金d1を合わせたものである。D1D11w1d1。準備預金Rを差し引いた預金の残り(1-β)D1と返済金L1を投資資金余力A=(1-β)D1 L1とする。余力の制約式L1+ΔB1Aのもとで、1年満期貸付金L1で生成し、余力の残りを、国債ΔB1を購入する。これを投資金融業務ということにする。
 銀行の利潤π1は、π1rl1L1rb1B1+Σt112btrc130/365-(w1 l1+ρ1 k1)-rd1D1と表す。
 期間1の効用関数をu =π1とする。第1期の生産制約式は、産出を企業流動債務b1=Σt112btrc30/365とおく。コブ・ダグラス型生産関数b1l1αk11αを仮定する。
 期間1のフロー利潤最大化問題は次のようになる。

問題4.1 期間1の割引率rc1、賃金率w1および配当率ρ1を所与とし、生産関数b1l1αk1 1αのもとで、効用関数をu =π1を最大にする割引量b1、労働量l1を求めよ。
解 異時間効用関数u =π1に生産関数を代入する。
u =π1rl1L1rb1B1rc1 b1-(w1 l1+ρ1 k1)-rd1D1
 rl1L1rb1B1rc1 l1αk1 1α-(w1 l1+ρ1 k1)-rd1D1
変数l1について偏微分して、0とおく。
uαrc1 l1α-1k1 1αw10
l1                   
l1={w1/αrc1 k1 1α1/(α-1)
b1l1αk1 1α                                 
 
 企業行動と同様に、銀行は、経常業務において、第2期企業短期先物債権・労働先物契約を最適化することができる。投資金融業務においは、第1期の貸付金を生成し、残りの余力を債券投資する。次期以降の純資産(Net Worth)を最大化する、先物貸付金・債券契約を求める。
 銀行の最適化問題は、次のように設定される。価格ベクトル(rlrb)と賦存量(k1D1を所与として、富の期待効用関数vNW1NW2を最大にする行動(L1B1)および計画L2B2)を決定する。銀行は、貸付金に対して、貸倒引当金をリスクランクに応じて、余力から差し引く。貸倒引当金関数AAA(L1)とおく。L1の増加関数である。

期間1の富NW1は、NW1 (1rl1L1A(L1)(1rb1B1p1k1(1rd1(1-β)D1(1+ρ1E1と表す。貸付余力の制約式L1B1(1-β)D1L1である。
期間2において、銀行の富NW2は、NW2 (1rl2L2A(L2)(1rb2B2(1rd2D2(1+ρ2E2と表す。貸付余力の制約式L2B2(1-β)D2L1である。
 
 期間1の効用関数をu 1NW1とする。期間1富最大化問題は次のようになる。

問題4.2 期間1の貸付利子率r l1、債券利回りrb1、預金利子率rd1および配当率ρ1を所与とし、期末余力制約式L1B1(1-β)D1L1のもとで、富の効用関数をu1 NW1を最大にする貸付金L1および債券量B1を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
L(1rl1L1A(L1)(1rb1B1p1k1(1rd1(1-β)D1(1+ρ1E1-λ{ L1B1(1-β)D1L1}とおく。変数L1B1D1について偏微分して、0とおく。
L0(1rl1)-A(L1)-λ=0
L1        L1
L0(1rb1)-λ=0
B1   
L0、-(1rd1(1-β) +λ(1-β) 0
D1   
L0L1B1(1-β)D1L10 
∂λ                                     
L1B1D1が求められる。                         

短期貸付先物債権・労働先物市場における銀行の最適化
 2期において、利潤の期待効用関数を最大にする先物契約(c2cl2)を求める。期間2の効用関数から第2期の最適消費量を決定し、それを第2期の効用関数に代入し、予想価格の分布で期待効用を取り、期待効用を最大にする先物契約量を求める

問題 43  期間2の割引率rc2、預金利子率rd2、賃金率w2および配当率ρ1を所与とし、生産関数b2l2αk11αのもとで、効用関数をu2 =π2を最大にする割引量b2、労働量l2を求めよ。
解 期間2利潤π2異時間効用関数u2 =π2に生産関数を代入する。
u2 =π2rl2L1rb2B1rc2 (b2c2)-{w2  (l2cl2)+ρ2 k1}-rd2D1
rl2L1rb2B1rc2 (l2cl2αk11α-{w2  (l2cl2)+ρ2 k1}-rd2D1
変数l2について偏微分して、0とおく。
uαrc2 (l2l2)α-1k11αw20
l2                   
l2={w2/αrc2 k11α1/(1α)l2
b2l1αk11αb2                                     

 期待効用関数vに、b2l2を代入し、vu1 +u2(b2l2) dψ(q)をえる。

問題 44  q0のもとで
    max  u2(b2l2) d ψ(q)subject to qc0 。 
  { cb2cl2}           
 Lu2*( b2l2) d ψ(q)-λqcとおく。
u2d ψ(q) =λqb2u2d ψ(q)=λql2qc0
cb2                    cl2         
u2凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解をc2cl2λとおく。 

中期貸付先物債権・労働先物市場における銀行の最適化
 富の期待効用関数を最大にする先物契約(cL2cB2)を求める。期間2の富効用関数から第2期の最適貸付量、最適債券量を決定し、それを第2期の富効用関数に代入し、予想価格の分布で期待効用を取り、期待効用を最大にする先物契約量を求める

問題4. 5 期間2の貸付利子率r l2、債券利回りrb21、預金利子率rd21および配当率ρ21を所与とし、期末余力制約式L2B2(1-β)D2L1のもとで、富の効用関数NW2を最大にする貸付金L2および債券量B2を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
L(1rl2L2A(L2)(1rb2B2p1k1(1rd2(1-β)D2(1+ρ1E2-λ{ L2B2(1-β)D2L1}とおく。変数L2B2D2について偏微分して、0とおく。
L0(1rl2)-A(L2)-λ=0
L2        L2
L0(1rb2)-λ=0
B2   
L0、-(1rd2(1-β) +λ(1-β) 0
D2   
L0L2B2(1-β)D2L10 
∂λ                                     
L2B2D2が求められる。                         

 期待効用関数vに、L2B2を代入し、vNW1 +u2(L2B2) dψ(q)をえる。

問題 46  q0のもとで
   max   u2(L2B2) d ψ(q)subject to qc0 。 
  { cL2cB2}           
 Lu2*( L2B2) d ψ(q)-λqcとおく。
u2d ψ(q) =λqb2u2d ψ(q)=λql2qc0
cL2                     cB2
u2凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解をcL2cB2λとおく。       

 銀行の間接・直接混合投資行動は、以上2つの期待効用最大化の方法で、計算する。

 
間接金融市場の短期貸付債権と銀行員の労働量を決める。間接金融市場では、割引率(短期利子率)が決まり、労働市場では、賃金率が決まる。期間2の割引債権市場および労働市場では、先物割引率および先物賃金率が決まる。資産市場において、貸付利子率および債券利回りが決まり、先物資産市場において、先物中期利子率、債券利回りが決まる。

今週(20231016日~1020)のイベントと市場への影響度

 
先週のイベントは、7日イスラエルに、ガザ自治区のハマスが、攻撃をし、人質を取って、自治区に引きあげ、イスラエル軍がガザ境界に集結したことが、中東情勢を不安定化しました。イスラエル軍は、ハマスの攻撃がテロの規模を超えているため、ハマスとの戦争と表現しています。ガザ地区から、ハマス勢力を一掃する計画で、ガザ住民も、「ハマスが中級上から消される」覚悟しているようです。その後は、西岸代表がガザ地区に国連とともに、入り、選挙を実施する。
 ハマスが統治するガザは、40㎞×10km=400㎢に、200万人で、人口密度200万人/400㎢=5000人/㎢で、人類生存許容空間を超越している。ハマスでは、維持できないのだろう。人口密度5000人/㎢の圧力に、イスラエルがハマス以前のように、壁を撤廃してくれなければ、ガザ住民の将来はない。最後の決戦で、住民との契約を果たせないハマスは自滅する。ハマスの援軍らしきイラン・ヒズボラ軍装備では、ロシアは、ウクライナ戦争中だから、米軍・イスラエル軍に、負ける。
 9日にIMF・世界銀行年次総会がモロッコで15日まで開かれました。10IMF世界経済見通しが発表されました。世界のインフレ率は、2023年は6.9%、20245.5%に減速すると予想しています。世界経済の成長率は、20233.0%に、20242.9%に鈍化する見込みです。日本の成長率は、20232.0%に、20241.0%、米国は20232.1%、20241.5%、中国は、20235.0%、20244.2%を予測しています。11日、東証でカーボン・クレジット市場が開設されました。
 今週のイベントは、イスラエル軍のガザ地区への侵攻開始をめぐって、主要なイスラエル・パレスチナ関係国および国際機関の外交攻勢が活発になります。15日、インド、ムンバイで、IOC総会が17日まで開かれます。17日、「一帯一路」首脳会議が北京で、18日まで開かれます。20日、臨時国会が召集されます。米・EU首脳会議がワシントンで開かれます。
 経済統計は、次の発表がありました。
                                                         予想値     実現値
10日  日9月景気ウォッチャー調査        53.3     49.9
      8月国際収支経常収支          30000億円  22792億円
           貿易収支          -700億円  -7495億円
11日  日9月工作機械受注額(日本工作機械工業会)        1339億円(11%減)
12日  日8月機械受注統計(内閣府)       -6.7%     -7.7
    米9月消費者物価指数           3.6%     3.7
13日  中9月貿易収支                     5587億元
      9月消費者物価指数           0.2%     0.0
 経済統計は、次の発表があります。
                        予想値    
17日 米9月小売売上高              0.3
      鉱工業生産指数           0.0
18日 中7~9GDP              4.5
   中9月小売売上高              4.8
   中9月鉱工業生産指数            4.3
19日 日9月通関ベース貿易収支       -3887億円
     9月全国コンビニエンスストア売上高 
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1 %      -0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3

日本             9月         10月         11
GDP(前期比)    
消費コンビニ売上高  
  スーパー売上高 
  百貨店売上高  
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出          
輸入          
 貿易収支       
物価指数           
利子率         -0.1
株価          32991.08(9/7
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)
原油価格          91.4(9/7)
ドバイ、現物1バレル、ドル
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 
完全失業率        
景気動向先行指数     
   一致指数     
 

7回目 20231023
要点 5章 日本銀行と金融政策
   5.1 日本銀行の組織
     5.2 日本銀行の機能
     5.3  金融政策の枠組み
     5.4 金融政策の運営
     5.5 日本銀行の行動モデル

5.1 日本銀行の組織

 日本銀行の目的(日本銀行法第章第条,第条)
 「日本銀行は、我が国の中央銀行として、銀行券を発行するとともに、通貨および金融の調節を行うこと」および「銀行その他の金融機関の間で行われる資金決済の円滑の確保を図り、もって信用秩序の維持に資することを目的とする。」
 日本銀行の理念(日本銀行法第章第条)日本銀行は、通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することを持って、その理念とする。」
 日本銀行の組織は、次のようになっている。政策委員会の権限は、日本銀行法第章第十五条に定められている。第十六条に政策委員会の組織が表5.1.1のように定められている。日本銀行法第章に、政策員会以外の通常業務等を行う本店各局、地方各支店、海外駐在所、金融研究所等に所属する、役員および職員の定めがある。
               
                  5. 1.1 日本銀行の組織図

                       政策委員会      
                     総裁1名 副総裁2名    政策委員会室
                監事    審議委員 6名    参与

                 海外駐在所  各支店  本店各局  金融研究所 

 旧法の組織は、表5.1.2である。

                  5. 1.2 旧法日本銀行の組織図

                     日銀総裁1名、副総裁1   
                       3名以上の理事    
                   2名以上の監事 参与        政策委員会   
  
                     執行役員会        日銀総裁1名 
                                      任命委員4(都銀、地銀、商工業、農業の有識者)
                 海外駐在所  各支店  本店各局   政府代表2名(大蔵省、経済企画庁)議決権なし 
          金融研究所 

 日本銀行は、明治15年(1882年)6月に、日本銀行条例の公布にしたがって、同10月設立された。太平洋戦争中、昭和17(1942)2月、日本銀行法が公布された。法律大改正は、経済社会の区切りが50年であるという説がある。日本銀行条例では、制度的に無理があったのだろう。戦争中に改正している。
 旧法の第1条は、「日本銀行ハ国家経済総力ノ適切ナル発揮ヲ図ル為国家ノ政策ニ即シ通貨ノ調節、金融ノ調整及信用制度ノ保持育成ニ任ズルヲ以テ目的トス」である。国家の付属機関として、国家政策に準じて、通貨供給を調節し、市中金融を調整、金融制度を保持育成することが目的である。
 
戦争終結後、占領軍の管理下、昭和24(1949)6月、政策委員会が追加された。GHQのねらいは、政策委員会を最高意思決定機関とし、国家の付属機関としての中央銀行から、金融政策の意思決定を独立させたい要望があった。次の戦争に、戦費調達する国家機関であっては、再戦争する懸念が払拭できないためである。
 しかし、表5.1.2にある組織図の意思決定の構造は、政策委員会があっても、政府が、主要な政策手段を審議委員会で決定し、日本銀行政策委員会がそれを追認するだけであり、実務は、日銀総裁・副総裁のもとで、役員会が責任を負っていた。
 日本銀行総裁の任命権は、内閣にあり、いわゆる「たすき掛け」任命で、5年ごとに、日銀出身者と大蔵省出身者が交代する人事が続いた。大蔵省は、通常、予算・税制・金融行政3権限あった。大蔵省出身者が日銀総裁になった場合、予算・税制・金融・日銀と4権限を担い、予算・税制を優先する金融緩和政策を採用する傾向がある。バブル期を招いた超緩和政策は、198912月退任した大蔵省出身澄田智日銀総裁であった。
 旧法のもとで、準備預金制度による準備率の設定・変更・廃止は、大蔵大臣の認可を要する。市中金利の最高限度の決定・変更・廃止について、大蔵大臣の発議にもとづき金利調整審議会に諮問後、審議会の決定を実施することになっていた。表5.2にあるように、残った通貨供給量と債券売買操作が、日本銀行の政策手段であった。前者は、役員会で、戦後、国債発行量は、高度成長が終わる1970年まで、少なく、債券市場は銀行間市場であったから、債券売買操作で、長期金利を調整する必要はなかった。
 したがって、旧法下では、政策委員会は、表5.2にある政策手段の発動の決定は、すべて、大蔵省で決められ、政策委員会で、審議の上、決定される。政策委員会は、大蔵省で決められた金融政策を名目的に追認する機関であった。したがって、議事録は公表されなかった。このように、金融政策の意思決定が、日銀以外の政治・政府機関によって実施されるような、権限構造では、日本銀行政策委員会が、独自に政策を実施することはできないのである。
 198912月新任の日銀出身者三重野康総裁は、バブルを高金利で抑え込もうとしたのは、金利調整審議会の審議を経たのか、分からない(調べればわかるが)。緊急時で、大蔵省は地価税で資産バブルを抑え込もうとし、超金融緩和を停止、金利を上昇させるという、三重野総裁の判断が通ったのかもしれない。バブルは、急速にしぼんだが、地方自治体の開発事業、民間の開発事業が中断され、一気に、景気が悪化した。大蔵省は、世間の非難を受けなかったが、日銀の高金利は、猛反発がおきた。自民党は、1993年宮澤内閣から、下野した。

 再び、「法律の有効期限は、経済社会の区切り50年におおむね従う。」という説がある。バブル後、不良債権の山は未処理であったが、1942年から50年、1997年日本銀行法は、改正され、1997年、現行日本銀行法が施行された。旧法の国家主義の文言はなくなり、新法は、国家の文言がない旧第1条の目的を遂行する中央銀行である。
 改正後、日銀総裁は、日銀出身から、速水、福井、白川と続き、大蔵省出身、黒田2期、植田学者出身と任命されている。「たすき掛け」人事は、黒田2期で終わった。
 日銀出身の3代では、政府と独立した、金融政策を実施し、市場、金融利害関係者に政策を丁寧に説明し、黒田氏に交代すると、新法の理念よりは、旧法下で大蔵省にいたせいか、安倍氏の国家主義政治観と一致した政府と協調した金融政策を実施したことは明らかである。間接金融市場および短期金融市場、債券市場を、問答無用で強圧的、管理する手法は、旧法の大蔵省手法である。10年在任中、物価上昇率2%以上は達成できなかったとしている。ウクライナ戦争で、物価上昇率は継続して、2%を越えたのであるが、10年間、実質賃金率がマイナスに沈んだためだそうだ。結局、超円安、物価上昇率1年以上2%達成したが、10年間、政策目標は未達だったと、任期を終えた。
 世界の中央銀行法と比較しても、そん色がない日銀法ではあるが、旧来の大蔵頑固頭では、法律にしたがって、運用して来なかった。それは、資源インフレに対して、一斉に、世界の中央銀行がゼロ金利政策を解除、金利を上げるのが、中央銀行として、常識的、政策転換である。それが、黒田前総裁は出来なかった。
 黒田前総裁の3権限と一体化した金融政策運営は、新日本銀行法の理念とは、適合していない。短期金融市場および長期金融市場を、日本銀行の独占権限、金利の変更、債券市場操作を駆使して、デフレション脱却、リフレーションを政策目標とした。大蔵省流の超金融緩和で、株価上昇、債券価格上昇(ゼロ金利)となったが、地価は上昇しなかった。農地改革後の分配された農地が、都市周辺で供給過剰になり、少子時代で買い手がいなく、企業は、海外流出するから、都市の地価は、さっぱりだった。実物経済への金融政策の無効性が意識されている。
 日本銀行は、10年間、株式、国債などの異次元緩和商品を買い上げてきたが、バランス・シートを正常化するプランもない。国家主義に毒された黒前総裁時代で、実質的に、戦時国債を全額引き受けた戦時中と同じ結果になっている。植田総裁が、金融市場、金融利害関係者と対話をていねいにし、政府・財務省・日銀の一体化した状況から、どのように、脱却して、政府・財務省から独立した中央銀行に回帰できるのか、長短金融市場の金利・利回り・株価機能回復、通貨の国際信認の回復とともに、仕事は、かなり、難解である。

5.2 日本銀行の機能

5.3  金融政策の枠組み

 金融政策の波及過程を図式化すると、次のようになる。
                
               52 金融政策の波及過程の図式

 政策手段     手段の数値       中間目標       最終目標(目標数値)
  貸出政策    ハイパワード・マネー  マネーサプライ    ①物価水準の安定(消費者物価指数)
             H         M2CD    
  公定歩合操作  公定歩合                   ②経済成長の持続GDP成長率)
  準備率操作   準備率                    ③雇用の維持(完全失業率)
  債券・手形   債券利回り               
  売買操作    債券売買量               
  為替市場    外為資金特別会計  純輸出 資金流出入    ④為替市場の安定(為替レート)
  介入操作
 
この表では、金融政策手段は、日本銀行の重視する政策手段の順に、最終目標は同様に、①から、④まで重視する目標の順に、掲げている。それぞれ数値で公表することができる。
 20231022日現在では、日本銀行は、最終目標を①物価水準の2%を目標にしている。これは、従来の物価水準の安定という目標ではない。物価水準の安定でいえば、安倍政権になってから、20154月消費税率3%の引き上げ、2019102%引き上げた。このとき、物価水準は、上昇した。それ以外は、2%を超えるときはなく、1%以下で納まっている。日本銀行が消費者物価指数を政策目標にしているのか、企業側の生産者物価指数、輸入物価指数を目標にしているのか、はっきりしない。2022年の4月から、消費者物価が明らかに2%を越える状態となり、目標に到達して、毎月、継続して、2%以上を記録している。半年たつが、依然、何もしない。苦し紛れに、賃金率の上昇が2%に達していないと言い出した。その間、世界の全ての中央銀行は、インフレ抑制に、金利を上げている。インフレになっているのに,その程度のインフレは,想定内であるらしい。しかし、10月の全国消費者物価指数は、3になるだろう。
 金融論テキストでは、消費者物価指数である。雇用状態、失業率ないし賃金率を金融の政策目標に考慮する国は、米国FRBだけである。雇用状態、失業率ないし賃金率、いわゆる、経済成長の好循環なる文言は、日本銀行法の目的の第1条および第2条に明記されていないのは言うまでもない。
 コロナ禍2020年では、基準改定が行われ、2020基準年平均0.0%、20215月-0.86月-0.57月-0.38月-0.4(前年同月比)(総務省統計局HP)であるから,デフレ傾向が続いている。米国のFRBは、政策目標はコア消費者物価指数であり、202153.864.574.385.3(前年同月比)で、夏から、ガソリン価格が上昇しているためである。日本より深刻なコロナ禍にある米国で、継続した物価上昇が続いているのは、継続した物価下落が続く日本と対照的である。
 日本の物価は、生産者側の寡占価格支配力が需要者側より強い傾向があり、中小零細業者の生産物・サービスは、競争的市場価格形成がある。総合スーパー・コンビニエンスストア、宅配HPストアに、コロナ禍で消費者が集まっていると、寡占価格が効き、企業者物価指数と輸入物価指数が、消費者物価指数を左右しやすくなる。日本経済では、生産者物価指数は、円高もあり、消費者物価指数とは逆に、低下傾向がある。日本は、北海道から鹿児島まで、1500km以上、高速道路が整備されているから、運輸コストは、米国ほど高くない。今年になって、デフレ傾向が続くのは、日本の経済構造からすれば、当然の結果である。
 このような日本経済構造で、一般物価水準が決定される。その下で、ゼロ金利政策と金融市場の独占的買い手となっても、2%を超えるインフレは不可能であることを示している。白川総裁の時代のデフレ脱却で、黒田総裁が0%目標より高い1%目標を取ったとすれば、確かに、8年間、1%水準をコントロールの目標としてその上下0.5%の幅では、完全に日銀コントロールに入っていて、成功したと評価されただろう。ちなみに、2015年基準で,20150.0、-0.10.41.31.820201.8である。
 従来のISLMADASモデルで、目標のGDPを計算するモデルにおいて、目標のα%の物価水準を決定する貨幣供給量と利子率を求めることは、教科書では示されていない。理論の想定外のことを、『異次元緩和』で日本銀行がやろうとしたが、2%目標は未達であった。しかし、コロナ期に入る前まで、デフレは脱却したといえる。
 物価水準は、日本経済構造のもとで、国内内外生産物・金融市場において決定されている。金融政策によって、貨幣供給量と利子率をコントロール変数として、物価水準を決定できるのだろうか。マンデル・フレミング・為替・線形モデルで、パラメターを推計し、金融政策で、制御可能なのか、研究する。

5.4 金融政策の運営

 日本銀行が政策目標をデフレ脱却として、期間連続して、2%の物価上昇率を目標とすれば、公定歩合を限りなく0%とし、銀行の日銀当座預金に、マイナス利子率をつけ、国債を市場から規則的に買い取り、ETF投資信託を毎年一定額購入してきた。公定歩合操作、貸出政策、債券・(ETF投資信託)売買操作を総動員して、最終目標を達成しようとしたが、不可能だった。このように、金融政策が有効でない経済状態もある。
 それでは、経済成長の持続に最終目標をとり、GDP成長率2%を数値目標にしたらどうだろうか。これは、官民挙げて、国家プロジェクトを立ち上げ、日本経済の世界先進性を促進するプロジェクトに政策融資、投資するようにしたら、GDP成長率2%は、持続的に可能であろう。アベノミクスはそれをめざしたのであるが、根本が戦前の国家社会主義を岸元総理から受け継いでおり、資本主義的成長より、資本主義経済の稼ぎを社会主義的政策である社会保障、育児・教育無償化、働き方改革等に回すから、成長するわけがない。米国流覇権資本主義、つまり、米国は過去がないから未来を実現することで軍事・経済をリードする成長を目指しているタイプと、中国、ロシアのような国家資本主義(主要な国有企業が支援するプロジェクトで、世界覇権をねらう)と比較すると、爺むさく、番茶でお茶を濁すようなものであり、成果はでてこない。結局、日本銀行が、銀行、企業を激励しても、爺むさいプロジェクトが莫大な利益を生むわけもないから、バブルらない。
 黒田総裁は、バブル時代の経験を持っているので、バブルんじゃないかと期待して、超緩和したのだろうが、現在の銀行システムは、2003年までドジな銀行がすべて淘汰され、競争相手が減少し、規模の収益で、そこそこ、生きられるのである。それが証拠に、リーマン・ショックが銀行システムに与えた効果はない。
 貸金業法で、所得制限が規定され、零細貸金業は淘汰された。消費者ローンで稼いでいた米系金融業(シティコープ等外銀、証券、保険)は、本国に帰還し、競争相手がいなくなった。米国もそうだが、韓国も、庶民では、小口借金漬けになっている。日本の大手貸金業者が韓国に進出して行った。日本では、名目所得が右肩上がりで、ベースアップが2%あった時代は、年収300万円の所得層は20年で、300万円×1.0220445.7万円となる。ゼロが20年続くと、年収300万円の所得階層は、そのままである。ここに、日本の労働者の生活困窮化の原因がある。階層シフトが生じず、300万円以下の低所得者は、所得制限で、出世借りができなくなった。日本から、消費者行動から、前食い需要が消滅する歴史的な転換が起きたのである。日本の消費需要は、所得の範囲内、堅実型消費になったのである。これでは、日本経済は成長するわけがない。
 300万階層は、製造業、第3次産業に多いが、製造業が中国・アセアンに流出した。現在、非製造業が主流の日本経済では、非製造業における生産効率性で評価されることはなく、人間関係・上下関係によって給料が出ているので、その関係間に、モノ、カネが介在しないから、インフレにならない。たとえば、美容院のカリスマ職人は、1顧客当り、1時間で、100万円稼ぐことはできない。銀座のクラブでは、トップクラスのホステスを指名すると、そのような事例はある。コロナ禍で、浮き草家業の著名人の講演会がなくなり、講演料は数百万円だった。また、稼ぎ頭の40台~50台が、金融再編で、貸しはがし、貸し渋りで、中小企業を淘汰され、製造業の中国流出に、転職を余儀なくされ、「高卒ですか、前社の経歴は0査定で、17万でお願いします。」と言われた人が多い。人間関係でフラット化しているから、給与は上がらず、みんな余力のカネはない。結局、モノのインフレは生じなかった。最悪なことに、サービスの時給が上がるわけがなく、サービス・インフレもなかった。2回の消費税値上げで、賃金が、10%上昇しなかった。消費税5%上げるなら、強制賃上げ5%させるよう、最低賃金を同時に上げるべきであった。企業は財サービスに転嫁はさけ、労働者の「安倍さん・山口さん、非製造業のサービス残業常態化を何とかしてくれ」との声は届かなかった。
 黒田総裁が想定する、1989年のバブルと違って、金融市場と不動産市場の2倍資産リバブルは、生じなかった。しかし、株価は、リーマン・ショック以前を回復した。ゼロ金利政策で、債券価格は、高騰(利回りのゼロ化)したが、日本銀行が国債の発行高の半分買い上げているから、玉がない。株式市場で、投機を仕掛けようにも、業務用の当座預金に、マイナス金利をつけるから、投機マネーの一時預かりができない。東京株式市場は、米国と違って、投機的な変動が少なかったのは、代替安全資産がなかったからである。
 不動産は、東京オリンピック会場のように、もとの競技場の地上げでしかない。東京都全域は、不動産の地上げは出来なくなっているほど、建て込めている。当然、土地売買の事例が少ないから、地価は2倍にはならない。
 結局、物価のインフレーションは、賃上げ不足、寡占支配価格の横行で、歯止めがかかり、資産のインフレーションも同じ状況であった。超緩和では、日本経済の構造に金融ショックを当てられないということである。
 202112月から、世界情勢が、ウクライナ戦争勃発に動き、2022224日までに、エネルギー価格が上昇した。戦争開始後、ロシア・ウクライナが小麦・食用油・カリウム肥料の輸出国だったため、食料品価格が世界的に上昇した。世界同時インフレーションの始まりである。日本も例外でなく、4月消費者物価指数は2%を越え、8月まで2%以上を持続的に、上昇している。世界の中央銀行は、中央銀行の目的である物価安定のため、景気回復より、インフレ抑制に最終目標を切り替え、金利を上げてきている。この目的に違反しているのが、日本銀行である。世界で、日本に協調して円安を是正する中央銀行は、皆無である。むしろ、貿易利益をあげるから、世界インフレ抑制のため、協調利上げをしたらどうかと言われるだろう。

55 貨幣経済一般均衡論における日本銀行行動モデル

 44.7 貨幣経済一般均衡論を適用した銀行行動に対応して、日本銀行の経常業務と金融投資業務の決定を2期間モデルで考える。日本銀行は、銀行および金融機関に対して、独占的に行動する。

経常業務
  発券業務により、その国の通貨を発行できる。
  通貨の供給量は、日本銀行が裁量で決める。
  銀行が持ち込む銀行手形を割引率rcで割引、日銀券を渡す。銀行に貸出す場合、貸出利子率である公定歩合をrl、市中預金利子率をrdとする。預  金利子率は、銀行間の競争があるが、rlrdである。日本銀行は、短期利子率の関係を決定している。
  日本銀行は、国から国庫の出納を委任されている。短期の納税金の収納、予算執行の小切手による支払は、日本銀行の当座預金で行われ、つなぎ  の政府短期証券および短期国債は、前者が割引債、後者が付利債の違いがあるが、市中消化し、売れ残りは日本銀行が引き受ける。

金融投資業務
 日本銀行は、長期債券市場において、投資目的で、中・長期国債、適格事業債等を売買できる。これを公開市場操作という。日本の債券市場は、高度経済成長が終了した1970年代、経済成長率の低下が生じた。その底打ちは、1980年代であった。その間、膨張した生産力に見合う総需要を建設国債で支えた。税収不足は、建設国債でまかなった。債券市場は、国債の日本銀行引き受けは禁じられているので、市中消化がすすんで、市場規模が増大した。銀行、証券会社、保険会社は、投資目的の債券保有が増大し、日本銀行の一時的、公開市場操作で、公定歩合を引き上げる金融引締め期は、債券市場で、債券の売り操作をし、通貨の流動性を引き締める。

日本銀行行動モデル
 4章で、独占的競争下における銀行行動を定式化したので、それを応用して、日本銀行行動モデルを定式化する。

経常業務
 まず、経常業務は次のようにモデル化される。
全銀行は、預金D1から、準備率βをかけたβD1を預金利子率で、日本銀行に準備預金R=βD1をする。
短期与信で、持ち込まれた残存期間1ヵ月の銀行手形btを割引率rcで割り引く。割引料はΣt112btr30/365とする。政府短期証券および短期国債合計bgtを引き受ける。前期の貸付金L1から、元利合計(1+rl1L1、長期国債の利息rbB1を受け取る。前期預金D1に対して、預金利子率rd1で、利息を支払う。日本銀行員の労働量をl1、銀行の不動産・設備等の資本量をk1とする。以上を、年間の経常業務とする。
 
 日本銀行は、国家公務員に準じて、年間予算で、労働費l1、経費、固定資本k1が決められる。これらは一定である。日本銀行の総費用C1は、C1=ΔMR1Dg1C0、銀行券発行枚数ΔM 、準備預金R1=βD1、政府預金Dg1、固定費C0w1 l1+ρ1 k1とする。全銀行システムの信用創造で貸出金b1は預金になる。すなわち、全銀行の預金はD1b1となる。
C1=ΔMrd1β(D1b1)+Dg1+(w1 l1+ρ1 k1)=ΔMrd1β(D1b1)+Dg1}+C0
 日本銀行の利潤π1は、π1rl1L1rb1B1+Σt112btrc130/365+Σt112bgtrg130/365C1と表す。期間1の効用関数をu =π1とする。銀行手形をb1=Σt112btrc30/365とおく。政府短期証券をbg1=Σt112bgtrg130/365とする。

 日本銀行は独占銀行行動をとる。期間1のフロー利潤最大化問題は次のようになる。

問題5.1 期間1の割引率rc1および預金利子率rd1は、日本銀行が独占的に決定できる。割引量b1は割引率rc1の関数である。政府短期利回りrg1、預金利子率rd1、賃金率w1および配当率ρ1を所与とし、効用関数をu =π1を最大にする割引量b1を求めよ。
解 u =π1rl1L1rb1B1rc1 b1rg1 bg1C1を変数b1について微分して、0とおく。
durc111/ε)rd1β=0
db1                                               

限界収入MRMRrc111/ε)であり、限界費用MCMCrd1βである。短期金融市場において、限界収益が限界費用に等しい割引量において、銀行需要曲線上の割引レートr c1が決まる、すなわち、
rc1*rd1β/(11/ε)。

金融投資業務
 日本銀行の期末バランス・シート制約式は、L1B1p1k1MR1D1Dg1E1である。ここで、M は、発券高である。p1は実物資本k1の再調達価格である。E1は株式資本金である。 
 今期の預金D1は、前期預金D11から今期の引出金w1を差し引き、新規の預金d1を合わせたものである。D1D11w1d1。準備預金Rを差し引いた預金の残り(1-β)D1と返済金L1を投資資金余力A=(1-β)D1 L1とする。今期の発券量をΔMとする。日本銀行の総余力の制約式L1+ΔB1=ΔMAのもとで、1年満期貸出金L1を生成し、余力の残りを、国債ΔB1を購入する。これを金融投資業務ということにする。金融投資業務においは、第1期の貸付金を生成し、残りの余力を債券投資する。
 日本銀行の最適化問題は、次のように設定される。価格ベクトル(rlrb)と賦存量(k1D1を所与として、富の期待効用関数NW1を最大にする行動(L1B1)を決定する。日本銀行は、貸出金に対して、貸倒引当金をリスクランクに応じて、余力から差し引く。貸倒引当金関数AlAlAl(L1)とおく。L1の増加関数である。
 期間1の富NW1は、NW1 (1rl1L1Al(L1)(1rb1B1p1k1(1rd1(1-β)D1(1+ρ1E1と表す。投資余力の制約式L1B1=ΔMAである。
 日本銀行は独占銀行行動をとる。期間1の効用関数をu 1NW1とする。期間1富最大化問題は次のようになる。

問題5.2 期間1の貸出利子率r l1、債券利回りrb1、預金利子率rd1および配当率ρ1を所与とし、期末余力制約式L1B1=ΔMAA=(1-β)D1 L1のもとで、富の効用関数をu1 NW1を最大にする貸出金L1および債券量B1を求めよ。
解 ラグランジュ式は、
L(1rl1L1Al(L1)(1rb1B1p1k1(1rd1(1-β)D1(1+ρ1E1-λ{ L1B1-ΔMA}とおく。変数L1B1について偏微分して、0とおく。
L0(1rl111/ε)Al(L1)-λ=0
L1               L1
L0(1rb1)-λ=0
B1   
L0L1B1=ΔMA
∂λ
λ=1rb1
rl1AlL11rb1 -1                          
    11/ε)                            

 貸出利子率rl1は、独占的に決定できるが、債券利回りは市場機構で決まる。

以上、日銀の金融政策手段は、独占行動の最適化で、パラメターとして、最適値に入っている。本文では、日本銀行勘定と全銀行勘定で、第一段階、各手段の波及効果を勘定の変化で見た。金融政策波及過程は、動学的な過程であるが、金融論のテキストの範囲内では、見かけない。

今週(20231023日~1027)のイベントと市場への影響度 
 先週のイベントは、イスラエル軍のガザ地区への侵攻開始をめぐって、主要なイスラエル・パレスチナ関係国および国際機関の外交攻勢が活発になりました。15日、インド、ムンバイで、IOC総会が17日まで開かれました。17日、北京で「一帯一路」首脳会議が、18日まで開かれ、10年間の「一帯一路」総括と「量から質へ」転換を促しました。20日、臨時国会が召集されました。米・EU首脳会議がワシントンで開かれ、民主主義の結束が確認されました。
 今週のイベントは、23日岸田首相の所信表明演説があります。26EU首脳会議が27日までブルュッセルで開かれます。28日大阪で、G7貿易相会合が29日まで開かれます。
 経済統計は、次の発表がありました。
                        予想値    実現値
17日 米9月小売売上高              0.3%    0.7
      鉱工業生産指数            0.0%    0.3
18日 中7~9GDP              4.5%    4.9
   中9月小売売上高              4.8%    5.5
   中9月鉱工業生産指数            4.3%    4.5
19日 日9月通関ベース貿易収支        -3887億円   624億円
     9月全国コンビニエンスストア売上高        972153百万円
20日 日9月全国消費者物価指数          3.0%    3.0

 経済統計は、次の発表があります。
                       予想値    
25日 日9月景気動向一致指数         114.3
          先行指数         109.5
26日 米79月期実質GDP            4.3
     9月個人消費支出(前年比)       3.8
27日 日10月東京区部のCPI          2.5
   米9月個人所得(前月比)                       0.4
      個人支出(前月比)          0.4
           PCEデフレータ(前年比)      3.7%      

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1 %      -0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月         10月         11
GDP(前期比)    
消費コンビニ売上高  
  スーパー売上高 
  百貨店売上高  
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出          
輸入          
 貿易収支       
物価指数           
利子率         -0.1
株価          32991.08(9/7
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)
原油価格          91.4(9/7)
ドバイ、現物1バレル、ドル 
(2金曜日の前営業日)       
個人所得(毎月勤労統計)  
完全失業率        
景気動向先行指数     
   一致指数     

8回目 20231030

要点 5章 日本銀行と金融政策
   5.6 金融政策の理論

5.6 金融政策の理論

 5.4金融政策の運営において、20221月から、世界資源・食糧輸入インフレ下、一斉に、世界中央銀行は、インフレ対策の政策手段、公定歩合の引き上げをとりました。日本銀行とFRBとの金利差が5.5(0.1)5.6%に開き、金利差で為替レートは変化するので、202310150/$に超円安となっています。その間、長短金利差を若干上げただけで、国内インフレおよび超円安に、不作為の態度を取っており、国益を著しく毀損しています。金融政策が硬直的である主な理由は、財政政策の赤字国債利払いを軽減するためです。現在、不作為の日本銀行で、18カ月の毎月生鮮食料品を含む2%持続的インフレーションで、(1.02)(128)1.486%となりました。自販機の110円コーヒーは、110×1.486163円です。財務省および日本銀行にも、職員食堂に自販機があり、170円になっているはずです。職員も人も子、「給与は上がらないが、インフレで、生活は苦しい。」と実感している。
 日本銀行の現在の金融政策目標は、物価上昇率2%、それに誘導できる政策手段を講じていないから、止まらない。世界各国は、昨年の高インフレーションから、物価上昇率半減したままであるが、45%はある。引き続き、金利は高止まりしている。
 金融政策の理論を述べる。大きく、2種類の両極端の認識がある。一つは、ケインジアンであり、もう一つは、マネタリストである。マクロ・モデルをもっているのは、前者であり、後者は、貨幣需要関数が中心であり、マクロ・モデルは提案されていない。マネタリストは、M.フリードマンが、ミクロ一般均衡理論を想定しているのかもしれないが、断定はできない。
 私の立場である新古典派理論では、経済主体が合理的な最適化をするという立場から、最適化の集計によって、各市場が形成され、均衡価格が決まり、最適成長も、均衡価格が変動していくことを想定している。したがって、新古典派には、ケインズがいうようなマクロ変数が存在し、それらの関係式が成立して、マクロ・モデルを形成するという考えはない。
 ケインジアン・マクロ・モデルで、労働市場は不完全雇用状態、財市場は、有効需要決定論で、マクロ諸変数の決定をする。
 閉鎖ケインジアン・マクロ・モデルで、教科書的に、ISLM分析と総需要=総供給で、マクロ諸変数を決定し、財政政策と金融政策の有効性を判定してきた。
 しかし、日本銀行は、米国の金融政策に従属的であり、株式市場も、米国経済に連動する市場連鎖過程がある。特に、変動為替相場制に、1972年以降して、為替レートの増価に悩まされてきた。開放ケインジアン・マクロ・モデルである、マンデル・フレミング・モデルが、日米の経済連動性を考慮して、金融政策を実施する場合、一つの典型的モデルになる。しかし、変動為替制下、為替市場を金利平価説でモデル化すると、日米の金利差は、日米の為替レートの決定に大きく左右する要因になる。本論は、日米の為替市場を導入し、マクロ変数を決定し、金融政策の有効性を判断している。さらに、ドーンブッシュモデルをマンデル・フレミング・モデルに取り込み、比較動学的に、長期的に、到達可能か、分析する。
 新古典派の経済主体が合理的な最適化をするという立場から、制度部門別最適化行動は、中央銀行の独占的行動としたモデルを示した。政府部門の最適予算・最適税制の民主的決定モデルを準備している。

中央銀行の金融政策決定と政府から独立まで
 日本の学界では、近代経済学とマルクス主義政治経済学が併存していたソ連崩壊まで、マルクス主義政治経済学の立場から、近代経済学批判を批判する立場で、大学で講義されていたはずである。要するに、世界恐慌や金融恐慌は資本主義経済の本質的な矛盾であり、それらが発生すると、大量の失業が発生し、疲弊する人民が革命を起こし、社会主義政府を樹立すると結論づける。したがって、自由資本主義政府が、資本主義経済体制を制御できることは、マルクス主義政治経済学が歴史的発展段階説を取っているため、歴史的必然である革命が発生しないことになり、発展段階に移行しないので困るわけである。
 近代経済学では、市場の失敗や政府の失敗が資本主義経済には発生し、独占企業が超過利潤を稼いでいくから、公共財の供給を代替し、民主主義で政権交代をさせ、独占禁止法で競争を促進する、混合経済を主張するようになってきた。
 高校の『政治経済』の国定教科書では、資本主義経済は混合経済を主張するケインズと、第1次世界大戦後、社会主義革命がロシアで発生し、敗戦国ドイツ、オーストリアは、オーストリア革命、ドイツ革命が起き、帝政が倒れ、社会民主党等が指導する共和国に移行している。『資本蓄積論』のユダヤ人ローザ・ルクセンブルクはドイツ革命当時、ドイツ共産党を創設し、1月蜂起後、逮捕虐殺されている。ドイツ社会民主党の理論指導者は、ウイーン大学医学部卒、『金融資本論』のユダヤ人ヒルファーディングであり、ナチスに追われ、やはり、フランスで拘束され死亡している。ともに、マルクス経済学者である。
 シュンペーターは、オーストリアが社会民主党政権になり、資本主義の本質の研究は、ヨーロッパでは不可能な時代になったし、1927年、ハーバード大学の客員教授で渡米し、1929年の米国発世界大恐慌を目のあたりにして、自説の研究のため、米国に残ったのかもしれない。2020年、私のリマインダーを書いて、ウイーン大学のカール・メンガーをハーバード大学に呼び寄せたのは、シュンペーターだろうと思う。
 シュンペーター『資本主義、民主主義、社会主義』では、民主主義がファッシズムで全体主義を強制されたことに、民主主義に力の弱さを見たか、資本主義は、独占資本に牛耳られ、利潤率、自然利子率がゼロになり、官僚制がはびこって、社会主義に移行するという結論に至っている。
 世界で、中央銀行の強制的なゼロ金利時代があり、政府は社会主義的政策をとってきた。一体どこの誰が、ゼロ金利をしたのかと言うと、欧州中央銀行総裁であったイタリア人のドラギ氏である。その間、ゼロ金利で、国家経済は成長せず、資本主義経済が劣化し、米国・EUでは、極右ポピュリズム政治家の台頭を招いた。日本では、右派安倍政権の台頭である。
 ウクライナ戦争で、化石燃料・食糧・肥料等で世界的な生活用品インフレーションが発生した。この際、資本主義経済では、政府が、化石燃料・食糧・肥料等の安定供給を確保し、その在庫が備蓄タンク・倉庫に半年以上あることを国民に見せれば、インフレーションの根本原因を政府が抑えたことになり、楽々、インフレーションを抑制することができる。しかし、各国政府は、緊急・一時的に、価格上昇補てんでインフレ対策をしている。これでは、インフレーションは収まらない。需要者は、インフレ価格で購入できるからである。
 金融政策で、ゼロ金利政策をとるのは、政府が、資本主義経済を否定し、社会主義経済にすることを強制しているのではないか。日本経済が成長しているときに、経済成長率以下の低金利政策2%をとったが、銀行システムを否定する愚の骨頂はしなかった。過去の経験から、ケインズの言うように、銀行システム維持のための『流動性のワナ』1%は、維持すべきだった。これがあると、ハイパー・インフレーションに対するバックアップ金利になるし、金融政策もインフレーションの頭を抑えやすい。特に、中小零細企業の生活必需品・生鮮食料品のハイパー・インフレーションは、上昇を緩和できる。
社会主義の台頭と修正資本主義
 2次大戦後、ヨーロッパ諸国において、社会主義政党が支持された。特に、社会民主党が躍進した。中国は1949年、社会主義国として、建国した。しかし、共産党の計画経済はうまくいかず、1978年、経済開放に踏み切った。中国は天安門事件後、1993年、社会主義市場経済へ移行、ソ連の崩壊で社会主義体制の記述は終わっている。日本経済は、大企業の不祥事で経済倫理が欠如する経営者が頭を下げている写真がのせてあり、公共財の供給を重視する公共経済の記述が多い。資本主義の特徴である市場経済の需要曲線と供給曲線が交差したところで均衡価格が決まることは、コラムで載せてあるだけだ。半官半民の日本銀行の機能と金融政策の実施については、金融論の教科書どおりである。高校教科書著者の認識では、日本銀行は政府の歳出と歳入、短期融資、国債発行の実務、外国為替の実務を担当しているから、準政府機関なのだろう。
 毎年、新入生に、経済学を教えるのに、高校政治経済の教科書を取り寄せ、以上の記述を、大学の経済学と連携するように、資料配布とパワーポイントで、1時間教えた。毎年、調べると、新入生が『政治経済』を履修したのは3分の1以下であった。実業界の取締役が「学生時代はマルクス経済学を勉強したが、就職後は自由資本主義経済だ。特に、労働組合はマルクス主義だ。」と話すのはよく聞いた。戦前の社会主義者の勉強会の話がある小説では、「マルクスの資本論は、理解しがたい。」とある。私は、『資本論』がユダヤ人特有の歴史叙述があるのと、ドイツ哲学を組み込んで、古典派経済学を批判しているので、よほどのヨーロッパの学問の素養がないと、戦前の労働者には、理解できないのは当然だ。しかも、19世紀以来、キリスト教批判が出て、無神論者、唯物論者が社会運動に加わってくるからややこしい。金融論で言えば、私の大学院時代に流行った、ユダヤ人DPatinkinの『貨幣・利子および価格』は、ミクロ理論が期待効用を使って独特であるのと貨幣の学史が独特であるが、ミクロ・マクロの整合性がついていないので、難しい。
 
 戦後世界の政治の世界では、労働者階級の立場から、資本家を擁護する自由主義政党を攻撃する社会主義政党が勢いを得た。追手門学院大学では、経済原論を担当するようになって、全く触れないわけではないが、ソ連崩壊後、1994年、日本社会党が自民党と連立すると、社会党の公務員政治勢力が、共産党対策の受け皿だったようで、日本共産党が政権を取る可能性はなくなったと考える国民が多くなったのか、1996年日本社会党は分解した。経済学会でも、1990年代は、社会主義的な資本主義経済批判の報告は少なくなっていった。私が1980年代、ヨーロッパの東西冷戦問題で特に、東側のバルト3国以外の各国を研究視察している間、ゴルバチョフ書記長時代によって、最後はブッシュ米大統領と核軍縮をし、冷戦は終結した。東欧革命はソ連の内部問題であり、米国は東欧革命には関与していない。ソ連と米国の核軍縮によって、ヨーロッパから、東西向けの核ミサイルが撤去され、ソ連の西側都市へのミサイル照準がはずされた。プーチン大統領は、ウクライナ問題のとき、また、照準を付けようかと言ったぐらいだから、現在も外されているのだろう。
 日本は、日米同盟により、米国の傘に入っているため、現在も、ロシア連邦の地下サイロには、日本向けの核ミサイルは存在する。ソ連解体よって、日本外交上のポジションは、影響なく、平和条約は締結されない。ロシア連邦になって、4島返還しないのは、中国が尖閣諸島をしつこくねらっているのと同じ理由で、ロシア海軍の艦船の出口を確保、米国艦船の侵入を阻止するためである。
 日本では、ソ連崩壊後、ケインズが生き残こり、大学では、ケインズマクロ経済学が主流となった。アメリカでは、ケインズの主張は、公共財の供給を景気対策に使い、失業を解消するととらえているが、できるだけ、公共財は最適供給にし、民営化を主張する市場主義者の主張が通る。新古典派経済学の流れも、ウイーン大学から、アメリカに亡命、あるいは移民した学者を中心に活躍したので、ケインズ経済学がアメリカ経済学の典型的な経済学ではなくなっている。イギリスは、サッチャー時代から、公共企業が非効率性で慢性赤字化するので、民活を主張するようになった。民間でできることは民営化することで、公共経済の肥大化を適正化する政策である。日本も国鉄民営化、電電公社民営化、郵政民営化、国立法人化で、準企業、教育・医療機関を国営から切り離してきているのが同様な流れである。
 したがって、政府は、市場が成立する条件を整理し、市場の失敗が生じないように、法規制、行政指導することが任務となっている。市場機能が発揮できる財・サービスは、民間に権限を委譲し、市場が競争機能を発揮できるように促すことである。
日本銀行法の1997年改正 政府から独立して金融政策を実施できる
 日本銀行は、1997年以前では、政策委員会に、金融政策を市場関係者、国会において、説明する義務はないから、政策の変更は、新聞に発表する程度でしかなかったろう。政策金利は、大蔵省の審議会で決定されるのであるから、日銀の役員会が、実務を粛々とつかさどっていたのであり、メディア、学会や業界で、米連邦準備制度理事会のような説明を期待しても、無理であった。したがって、大蔵省が3権限(予算、租税、金融・国際金融)を掌握して、公共経済を運営している間は、官界はケインズであったから、大蔵省は、ケインジアンだったのであろう。1997年日本銀行法改正以降、検査情報の漏えい等で、大蔵省は金融行政をはずされ、金融庁に移管され、省庁改革により、財務省と改称、権限として予算、租税(国際金融)が残された。ただし、日本銀行の監督権限は、財務省に残されている。
 私が、日本金融学会に入会したのは、阪神大震災以降、1995年頃だった。実は、1982年頃、上智大学で開催されたころ、見学に行ったのだが、歴史学派のセッションでは、特別な言い回しの報告があり、近代経済学とマルクス主義政治経済学が併存できた「いい時代」であった。その頃から1989年まで、社会主義諸国を回る研究旅行を、ソ連、東欧、ユーゴスラビアの各国のご好意で、ビザを出してもらい、全旅程の手配を希望通りしてもらい、航空券・列車乗車券・宿泊バウチャーで、不都合もなく、社会主義経済を研究視察することができた。その反面、西ヨーロッパも見聞することができた。また、中国、インド、東南アジア諸国も同様である。
 しかし、パキスタンは1985年、インドで敵対的な雰囲気を感じたし、イラクは第1次湾岸戦争後、アーメダバードから観測するだけで、行くどころではなく、イランは、1988年夏、バルト3国にインツーリストで旅程の手配を取ってり、トルコ・イスタンブールから、気になるイランを訪問しようと、テヘランに予約を取っていたが、当時、航空会社で断られた。イラン・イラク戦争が1988820日国連決議を受けて停戦したときだった。現在、イランに行くと、米国に入国できないそうで、退職前、ペルシャじゅうたんを研究室に敷こうと思い、ドバイ経由で旅行手配を頼み、行けるようにしたが、米国とイランが緊迫して、中断した。
 米国の入国制限は、中東でもあった。私が、イスラエルにビザなしで、1986年夏、西ドイツから行ったとき、イスラエルの入国スタンプがあると、アラブ諸国には入国できないと、旅行書にたったので、スタンプなしの申請をしたのと同じである。その足で、ジブラルタル海峡とカサブランカを視察しに、モロッコに行ったら、welcomeだった。
  イスラム乾燥ベルトは、砂漠と禿山しかないのに、自由に通行できないイスラム統治の伝統がある。これが、スペイン・ポルトガルが大航海時代を開いた原因でもある。日本の藩政時代、関所があり、一般人は通行不可能だったが、それに似たイスラム封建統治が今も各国政府に残っている。南北問題が、共産主義と自由民主主義の西洋発生統治理念対立という、フランス革命を発端とする、キリスト教圏で発生した暴力革命を内包する統治理念対立より、とてつもなく、解消が困難な歴史的な統治理念対立問題でもある。東西冷戦問題の解決は、私の予想通り、1982年夏、ソ連研究旅行を開始して、1989年秋、平和裏に、終結した。

 日本銀行の金融政策の基本は、バックが大蔵省の財政政策の立場がケインジアンであることを踏まえ、公共経済による景気対策が継続してあること、対米貿易黒字による為替レート増価対応、大蔵省の決めた金利のもとで、貸付、国債発行をすることになる。したがって、日本銀行は、行き過ぎた円高にならない日米の金利差を維持、景気対策のための低金利、大手銀行に対する貸付、国債発行利回りを低く設定により、大蔵省のケインジアン財政金融政策を中央銀行として実行していたのであろう。公共経済による景気対策が補正予算のように継続すると、いわゆる、インフラ投資であるから、それが税収増となって、国債を償還できるわけではない。国債発行残高1000兆円となっている。
 1997年改正法から、日本銀行は、政策委員会による金融政策決定会合の決定事項を、説明するようになった。現在、財務省の財政政策を考慮に入れつつ、2%のインフレ・ターゲットを最終目標にして、超金融緩和を継続している。『金融論2022年』では、テーラー・ルールを紹介しているが、すでに、実施している国々では、理論的なルールが公表されているわけではない。
日本銀行の金融政策とマクロ開放貨幣経済モデル
 従来のISLMADASモデルで、目標のGDPを計算するモデルにおいて、目標の100ε%の物価水準を決定する貨幣供給量と利子率を求めることは、教科書では示されていない。比較静学モデルであるから、中央銀行が金融政策で、貨幣供給量をΔM増加させ、1回で、目標物価水準ΔPP=εとなるΔMを求める。テキスト第10章から、為替市場の均衡を所与とする。

IS曲線は、財市場の均衡式から導く。
YC0c(YT0)I0i G0mwYwe Pw(mY) P                         10. 1
LM曲線は、貨幣市場の均衡式から導く。
MPkYi                                                                        10. 2
投資関数と流動性選好関数を線形化した10.1式と10. 2式から、iを消去すると、YPの関数が得られる
YC0c(YT0) I0MPkYG0mwYwe Pw(mY) P    (1)
これは,AD曲線である。
 不完全雇用の場合をCase Iとすると、労働市場の均衡式は、第9章の結果から、0PFNである。AS曲線は、線形化すると、P=αYとすることができる。新古典派の完全雇用の状態をCaseⅡとするとAS曲線は、PYAと表すことができる。したがって、CaseICaseⅡとを一致させると、不完全雇用が長期的に解消する物価水準と完全雇用国民所得が決まる。すなわち、Y=√A/α。
このマクロ貨幣経済モデルにおいて、中央銀行が金融政策で、貨幣供給量をΔM増加させ、目標物価水準ΔPPを仮定し、逆算できる。
 まず、現行均衡価格と均衡国民所得を求める。(1)式に、P=αYを代入し、整理する。
α(1ck) Y2-(αUe PwmYM0
これは、異なる正負2根をもつ。正根を均衡国民所得Yとする。均衡価格はP=αYである。目標物価水準ΔPPεであるから、ΔPPPεP。すなわち、P(1ε)Pとなればよい。AS曲線に代入すると、P=αYより、Y1(1ε)P/α。
 貨幣供給量をΔM増加させる。α(1ck) Y2-(αUe PwmY(MΔM)0を上と同様にして、解く。正根を均衡国民所得Y**とする。均衡価格はP**=αY**である。この均衡価格と目標物価水準P(1ε)Pと一致させるP**(1ε)Pから、ΔMを求める。為替市場は所与としているから、解はある。日銀の目標は、理論的には、比較静学ではなく、比較動学で、継続して、物価が上昇し、2%上昇になると想定している動学的目標になるである。
 物価水準は、日本経済構造のもとで、国内内外生産物・金融市場において決定されている。日本銀行は、為替市場は変動相場で決まるとし、為替介入は出来ない。マイナス金利-0.1%のもとで、貨幣供給量をコントロール変数として、継続して、物価が上昇し、2%上昇にすることは、202310月現在、日銀はできないでいる。
 日本政府および日銀は、計画主義ではないから、数値目標をたてても、それを政策手段を使って、年内に達成したことはほとんどない。財政政策では、補正予算が恒常化しているのはそのせいだ。現状の踏台を正確に、把握するこ意識にない。統計数値の発表、米国、中国と比べると、1ヵ月遅い。日本銀行が、2%を目標に、金利、貨幣供給量をコントロールして、いつ達成するのか、黒田前総裁が10年かけたが、「未達でした。」と、「退任後、どこかの大学で特任教授になることは考えていません。」京都大学で特任教授に就任しているという。役人は、数値目標は苦手なのである。国民も、政治家の評価に数値目標達成を期待していないのだろう。中国の政策で、達成度が政治局員の成績評価になっているというのと比較すると、日本の政治家・役人の評価は、政策達成度の項目がない。

今週(20231030日~113)の影響度
 先週のイベントは、23日岸田首相の所信表明演説がありました。
 生鮮食料を中心に、昨秋から3%以上のインフレーションが、持続して、さすがに、全国民生活にインフレ疲れが出てきているため、岸田首相は、その物価対策と称して、減税と給付をすると表明している。
 生鮮食料品のインフレは、間接税である消費税の増収となるが、日本の消費税は社会保障費の目的税であり、その増収分を国民に戻し給付できない。消費税を下げるしかない。自民党は下げるつもりはないから、繰り越して、来年度の社会保障の増加分に充てるのが正しい増収の使い方だろう。インフレで税収が増収になったとしたら、企業収益が増益になっている。個人所得は、今春の賃上げが、労使双方の賃上げ交渉にもかかわらず、3%以上のベースアップを達成していない。最低賃金は、すべての自治体で、1000円を超えていない。個人所得の増収はない。岸田政権は、直接税である個人所得税を、1年間限定で、低所得層に所得税減税するという。税制改正は、国会審議を要するから、この減税案が実施されるのは、来年の6月以降である。減税は、今冬のインフレ緩和即効性はならない。
 20年間、超デフレ期間があり、日本のべースアップは、物価上昇が自動的にスライドすることはなかった。高度成長時代は、3%以上の物価上昇はあったので、物価にスライドして、3%のベースアップがあり、これを、政府・日銀・経済団体の言う、「好循環」の経済成長という現象である。しかし、30年、日本経済は、長期デフレで、「好循環」経済成長を経験していないのである。
 将来的に経済成長につながる、地球温暖化対策のエネルギー源の転換、日本列島災害強靭化事業を計画できないことはない。しかし、地方自治体によっては、静岡県知事が、他都道府県に波及効果が甚大であり、国際的に輸出でき、地球温暖化対策に合致しているリニア新幹線事業を妨害している。静岡空港は、リニア完成後、品川から、羽田空港に接続し、必要のない空港になるが、航空機の排ガスが少なくなって、地球温暖化対策に合致している。
 リニア新幹線は、静岡県以外では、地域振興の目玉になり、総需要が増加し、観光業、地域過疎化が反転するとリニア開通波及効果があると各県では認識している。例えば、山梨県では、中央道でアクセスがあり、南アルプス、八が岳、諏訪湖、松本へ、長野県では、長野自動車道と接続、諏訪湖、松本につながる。岐阜県では、アクセスがこれからだろうが、下呂、高山、乗鞍、穂高へ観光が開けてくる。
 岸田首相は、国家プロジェクトは推進すると表明したので、国益を損ない、地域交通、国際交通を将来的に、排ガスを減らす事業であることを認識しない、公益の増進に任命されている川勝県知事の個人的妨害は取り除かれる。
 現在、日本列島のガス・超電導パイプラインの計画はない。DXGの政策目標のおかげで、光ケーブル網だけ、私が住んでいる田舎にも、2024年切り替え事業が進んできた。民主制日本政府が行う事業は、共産党支配中国政府も同じだが、情報網、交通網、エネルギー網、上下水道、産業用水道、河川護岸・ダム管理に、予算をつぎ込み、多様なガス輸送、電送、物流、空送、人的サービス、を円滑に、速度を上げて、顧客に伝達できるようにインフラを整備する政府投資事業を行う。
 しかし、2022年から、干天の慈雨のように、ウクライナ戦争で、日本経済の弱点である資源・食糧の世界インフレが1年以上つづき、原発停止のため、火力発電に依存し、電気代は上がり、ガソリンは、補助金がなければ、200/lを超えているが、170/lである。日本銀行・政府関係者・財界関係者は、かつての「忍び足インフレ3%時代」のような、昭和レトロ「好循環」をイメージしているようだが、現代日本のインフレは、資源・食糧の世界インフレの波が、日本に到達し、燃料は補助金で10%程度、食糧は補助金がないから、輸入物価で、1年前と比べると40%以上になった。円は、150円になった。日本銀行はすべての世界中央銀行の利上げに同調せず、超金融緩和は未だに継続しているから、世界金利差で、超円安になっている。円安は、日本経済界の喜ぶところであるが、輸入部品が円安で高く、サプライチェーンで日本の製造業が回っているので、日本製は輸出増にならない。ソフト・知的高度産業が、世界的に成長著しい高付加価値産業なのだが、中小企業並みで、国際競争力がなく、輸出の柱にならない。円安メリットはないのである。
 日本の労働も、IT化対応の人材は層が薄く、労働者の人的資本装着力が低い。ソフト・知的高度産業が、世界的に成長著しい高付加価値産業はなく、新入社員研修で、「誰でもできる、ぼくにもできる。」程度の研修では、労働生産性は沈んだままであり、賃金を上げる評価にはならない。日本の諸組織では、人事評価は「人間関係ですべて決まる。」原則がある。
 今春の賃上げは活発ではなく、実質賃金率はマイナスに沈んでいる。世界インフレ+超円安で、輸入物価インフレーションが続いているのである。
 しかも、202310月から、インボイス制度が始まり、消費税の益税効果は、中小企業にはなくなる。輸入物価インフレーションに加えて、非正規労働の市場賃金率は、上昇しているから、インボイス制度では、正直、消費税を計上した価格で販売する。消費税を計上すれば、事業者は、納税義務が生じる。中小企業の益税商品は減る。
 26EU首脳会議が27日までブルュッセルで開かれました。テロ・インフラ防護対策を強化することで合意しました。28日大阪で、G7貿易相会合が29日まで開かれました。
 今週のイベントは、30日に日銀政策委員会金融政策決定会合が31日まであります。米連邦公開市場委員会が111日まであります。
 経済統計は、次の発表がありました。
                       予想値    実現値  
25日 日9月景気動向一致指数         114.3    114.6
          先行指数         109.5    109.2
26日 米79月期実質GDP            4.3%     4.9
     9月個人消費支出(前年比)       4.0%    4.0
27日 日10月の東京区部のCPI          2.5          2.7
   米9月の個人所得(前月比)                      0.4          0.3
       個人支出(前月比)         0.4          0.7
             PCEデフレータ(前年比)     3.7%    3.7%  
 経済統計は、次の発表があります。
31日 日政策利子率              -0.1
    10月消費動向調査消費者態度指数     35.0
     9月有効求人倍率                        1.29
     9月完全失業率              2.6
     9月鉱工業生産指数           -2.7
   中10月製造業購買担当者景気指数(PMI)   50.2
11/2日 米政策金利上限             5.5
         下限             5.25
3日  米失業率                3.%

 
統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1 %      -0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月         10月         11
GDP(前期比)    
消費コンビニ売上高     9721億53百万円
  スーパー売上高  1兆708億円
  百貨店売上高    4151億円
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出          
輸入          
 貿易収支       
物価指数             3.0%
利子率         -0.1
株価          32991.08(9/7
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)
原油価格          91.4(9/7)
ドバイ、現物1バレル、ドル 
(2金曜日の前営業日)       
個人所得(毎月勤労統計)  
完全失業率        
景気動向先行指数     109.2
   一致指数      114.6


9回目 2023116

要点 6章 政府の活動と財政政策
 この章は、財政学のテキストに沿った構成になっている。すなわち、
 ・政府の活動は、日本国憲法にもとづいて行われる。政府の活動の3つの機能と予算過程・租税過程・決算の経過を説明する。
 ・マクロ経済3部門モデル財・サービス市場において、均衡国民所得を求める。
 ・政府は、財・サービス市場において、政府支出と租税を政策手段に用いて、最終目標を定め、財政政策を行うことができる。
6.1 政府の活動
6.2 3部門モデルでの国民所得の決定
6.3  政府の経済政策
6.4 貯蓄・投資の均等図による財政政策
6.5 貨幣経済一般均衡論における政府活動モデル

6.1 政府の活動

 貝塚啓明・館 龍一郎の『財政』岩波書店、1973年を読んで、流れを考えたが、日本政府の最終目標は経済成長であり、短期的には、マクロ経済3部門モデルで均衡所得を求める。長期的には、新古典派成長論が根底にあった。しかし、バブル以降、公共投資が削減され、全国的に、建設業の600万人産業は、半減して行き、小泉内閣から、地方への公共投資を中心としたいわゆる景気対策は減少し、都市開発に重点投資されるようになった。公共投資による景気対策を主張する政治家は力を失った。その結果、国債の発行残高が積み上がったまま、国債管理はどうするのかという議論は、貝塚啓明『財政学』第32003年ではない。
 この問題に答えるために、長期的モデルである新古典派成長論から発展させるにも、新古典派経済は実質変数で解を求めるから、ストックである国債資産残高は、導入できない。したがって、国債残高による財政圧迫と経済成長の目標を達成する財政政策は、日本経済の試算可能な長期モデルから公共サービスの供給量を決定することが望まれる。ここで、公共サービスの供給は、議会制度で選出された内閣が原則的に政府支出を算出、国会で審議され、修正された予算案が承認されれば、毎年、実施される。その際、日本国憲法において、財源は、租税法の改正案が国会で決議される。米国憲法では、予算も租税も法律であり、決議が必要である。
 新古典派では、基本は市場原則で、私的財の取引が決まる。以上の財政学では、政府がどのような政治過程から選ばれたかは、問題にされない。財政学は、選出された政府から議論が始まり、定められた租税法にしたがい強制的に徴税し、公共サービスの供給は、政府が独占的に決めるとしている。議会制度に基づいて、4年間という中期に国民が選出し、負託した政府が、国民の公共サービスの満足度を満たすように、公共サービスを供給するという最適政府理論はある。
J. Tinbergen et al “Optimal Social Welfare and Productivity,” 1972にある、自由・資本主義体制と共産主義政治経済体制を比較し、冷戦下、両体制の今後を論じたものである。
 
 東西冷戦が1989年終結し、ソ連・ユーゴスラビア連邦は、1993年、解体し、共産主義政治経済体制は終わった。EU、ロシア連邦、旧ソ連加盟国、旧ユーゴスラビア連邦加盟国では、それぞれの議会制民主主義制下で、共産党、社会主義政党は支持を残している。経済・社会活動の仕組みは、資本主義体制に移行し、冷戦体制時代よりは、相互間の民間取引は、はるかに、取引量は増加している。
 新古典派にある最適政府論は、最適租税論のもとに、国民の社会的厚生を最大にする最適公共サービス供給論にまとめられるかもしれない。社会的厚生関数の存在をうさん臭く思う経済学者は、多く存在する。1年間、経済・社会活動の成果は、階級に従って分配されると考える社会主義者は、公共サービス供給も、階級的分配になる。しかし、最適租税論では、公共サービスの財源は、最下層の階級は、サービスの恩恵は受けるが、課税さえることはない。また、最上層の階級は、サービスの提供をは受けないことで、満足している。公共サービスの財源負担は、所得を稼ぐか、働く労働者が累進的に負担し、公平に、公共サービスの提供を受けている。公共サービスを累進的負担金で、公平に享受する仕組みを運営する主体が、議会制民主主義で選出された政党・政府である。
 この理論を、東西冷戦終結後、書いたのだが、いまだに、日の目を見ることはない。現在、政府部門の経済・社会活動規模が、大きくなりすぎている。マクロ経済モデルの最適化理論を研究している中で、長期モデルでは、政府部門の経済・社会活動の最適決定過程を導入する必要がある。例えば、地球温暖化対策で、各国政府が実質ゼロを30年間で達成するという経済・社会活動は、機械的な計画では、達成できない。
 
 日本の人口構造の長寿化で、社会保障費の増大に、消費税を充てる議論が進み、10%になった。新古典派成長論は、人口構造を仮定し、長期的には、経済成長の内容に、新製品、新産業など需要の創造を伴う技術革新があれば、経済平衡点に、早く収束することを主張している。最適な、「小さな政府」で、社会保障サービスの需要者に最適な提供をし、市場経済に新製品、それらを供給する新産業など需要の創造を伴う技術革新を支援する制度、投融資をするのが、その理論に沿った財政になり、国債残高は減少する最適経路が存在するということを示すのが、『財政学』の役割である。

6.3  財政政策の有効性

 前回、日本銀行の金融政策は、改正法まで、役員会の金融政策の運営責任を自覚して、政策目標を決定し、政策手段を実施していたようには思えないとのべた。近年の日本銀行の失敗は、バブルを放置したことであるが、バブル後、学界では、マネタリストの発言が大きくなり、急激に利子率を上昇させ、銀行を貸付金の回収に追い込むべきではなく、ソフトランディングさせるべきだと、1929年以降の米連邦準備制度理事会の政策と重ね合わせた議論が多かった。これは、リーマン・ショックの際、米連邦準備制度理事会は、日本の経験を参考にしたようだ。世界の金融界は、米金融機関のサブ・プライム・ローンの証券化で大迷惑したわけだが、中国、ロシアも、新興国も景気後退に対して、財政政策がとれる国は、内需を支え、中国は南欧の国債暴落を買い支えた。日本は、財政政策で内需を支え、米国のサブ・プライム証券を買った銀行は少なく、金融システムにダメージがなかったことは幸いだった。米銀行、米証券、米保険は日本から撤退していった。
 今考えると、中国が南欧の国債暴落を買い支えたことは、当時、問題視されなかったが、ギリシャや南欧などを債務漬けにし、それを、てこに「一帯一路」の戦略構想を実現する布石だったようだ。その証拠に、ギリシャは、すでに、中国に港湾を与えている。ロシアにキプロスを与えてトルコに対抗しているギリシャは、すでに海運資本が資本逃避しているから、主要産業は観光と農林漁業で、公的企業と公務員が巾を利かす社会主義国家であり、中国には、ギリシャ政府の窓口で話しやすいのだろう。
 2010年以降、中国経済が膨張し、EUへの終点地港湾と契約し、「一帯」の拠点攻略に入っていたわけで、日米豪は対抗上、従来の軍事、経済関係を維持するように要請する展開になっている。そこに、トランプ大統領が登場し、中国経済が膨張に、米国が利用されることに反対し、米中貿易戦争の最中である。
 中国が債権国を盾に、使用権を確保し「一帯」の拠点攻略することは、中国の自己中的な戦略であり、従来の関係が築かれている国々から批判が高まっている。
 従来の関係が築かれているアジアとヨーロッパと間の自由経済回廊と、中国の主張する「一帯」は、中国の製造業の製品を輸出することが目的ではなかろうか。それらの国々に中国製品を供給していくのである。日本はそこまで厚かましく売り込んではいかないが。米国も悩むが、日本も、技術ただ取り、知的財産権を無視して、偽ブランドを新興国に売り込まれると困る。2019年は、以上で終わっている。
 2020年に入って、2月から、中国武漢発の新型コロナウイルスの流行が始まり、緊急事態宣言下、経済・社会活動は、部分的に停止し、財政の緊急支援が必要になった。日本銀行も、企業、個人業に資金繰りを支援することになった。緊急事態宣言が開城されると、その反動で、第2波が発生し、小康状態になると、冬季に入り、再び、流行都道府県で感染者の増加がみられた。その後、第4波と第5波が流行し、2021年、11月では、第5波は小康状態になった。以上のような、緊急事態に対する財政・金融政策が実施中であり、政府・日銀は、経済・社会活動が2019年の活動水準に復旧するまで、国民を支えるしかない。
  
 財政政策の有効性については、経済理論では、財政支出の経済的効果は、即時的効果があっても、経済全体に波及する効果は弱いという見解が多数です。特に、国際貿易に依存度が高い開放経済国では、財政政策は、経済成長や、雇用には、効果はありません。日本では、自公政府が、景気対策と称して、補正予算を組むということを毎年、実施していますが、日本経済を押し上げる効果はありません。かつて、全国土木事業がある時代のイメージを政治家がもっていて、補正の知恵を絞りだそうとするのですが、地方人口減少で、土木事業の対象がないのです。反対に、人口が集中する都市は、土地が密集建物で埋め尽くされ、やはり、公共用地がなくなり、無料の最深度地下30メートルを利用するか、サービス業しかありませんから、ここには、バラ撒けないのです。メインテナンスの時代になっているかもしれません。たとえば、決壊した千曲川の河川敷を利用したりんご畑を、掘りあげて、千曲川の流量を底上げする、ダムの蓄積した土を排出する、それは、建材に利用して、利益を上げる。かつて、京都左京区上高野にもどったとき、鴨川に三条まで中州ができて、見苦しかったが、国土交通省が、中州にダンプを入れて、撤去した。当時の民主党代議士への忖度かと思った。全国的に、河川敷利用を禁止するほうが、100年に一度の洪水災害に対する防災効果が上がる。首都圏で言えば、相模川、多摩川の河川敷利用は禁止するということである。地震、津波等の大規模災害には、その河川敷を利用するに決まっている。
 デジタル政府機構を、中央・地方政府をつないで、中期的に、構築するデジタル庁が開設された。公共サービスの提供と徴税システムが、中長期的に、稼働し、進捗状況も、リアルタイムで、政府中央コントロール室で「見える化」されるだろう。サービスの需給バランスは、リアルタイムで把握でき、弾力的に、供給できるようになる。コロナ禍で例を取れば、感染者の発生から2週間の観察期間中、サービスの供給は、命にかかわる問題であるから、最優先で、サービスが余剰な地域から、その感染者に、観察期間中に、症状の段階が上がれば、医療サービスを提供できる。

6.5 貨幣経済一般均衡論における政府活動モデル

 55.5 貨幣経済一般均衡論を適用した中央銀行行動に対応して、民主主義制下で、政府の活動を予算と徴税の決定を2期間モデルで考える。民主主義制は、直接民主制と間接民主制がある。
 直接民主制は、全国有権者が、政府の提出した、政府支出の予算案と税制改正案を、スイスのように、直接総会で、審議、修正した案を、全体で決議し、政府が決議案にしたがい、予算と徴税業務をルールに従って、遂行する。
 間接民主制は、選挙民が選んだ代議士を国会に送り、国会で、政府機関の代表を選出、政府代表は、次年度、政府が国民のために活動をする際、財政支出を予算案と、その財源の税制改正案を作成、両者を国会に提出、審議、修正、国会で決議し、政府が決議案にしたがい、予算と徴税業務をルールに従って、遂行する。
 6.1に、1年間、日本の間接民主制下の予算過程と租税過程が表されている。間接民主制は、国会議員が全国から選出され、政府代表を国会で選出、政府代表が政府機関で8月に次年度の予算案と税制改正案を作成、12月末、政府代表が閣議決定、1月下旬、最初、予算案を承認、4月から、税制改正案を国会に提出、審議、決議している。

                  予算過程
各省予算編成         予算の議決        予算執行      会計検査
         閣議決定  国会開催

8月      12月末   1月下旬           41日より    翌年4

                            予算に伴う税法改正
                    
                   6. 1 予算過程・租税過程の経過図

 このプロセスを理論化するのが、本節の目的である。直接民主制の方が、理論化しやすいし、最適予算および最適租税を一意的に求められる。短期的に、年間の予算案は、政府支出G=租税T+国債増発ΔBとなる。政府の最適理論は、この政府制約式下で、有権者の社会的厚生関数を個別の公共財制約式のもとで最大化する。
 公共財および公共サービスは、実際、国や地方自治体で提供される財・サービスである。私的サービスと公共サービスと比較すると、前者は、個人の専有サービスであるが、後者は、誰でも享受できるサービスである。

 新SNA1993では、機能的に、一般政府の総支出の分類は、
1.一般公共サービス
2.防衛サービス
3.公共秩序および安全サービス
4.教育サービス
5.保健サービス
8.リクリエーション、文化および宗教サービス
12.運輸および通信サービス
である。
これらのサービスは、義務を伴う人権と社会権の平等性および公平性の原則にもとづき、移転と便益を国民に配給するものである。

 日本政府の最終目標は経済成長であり、短期的には、マクロ経済3部門モデルで均衡所得を求め、長期的には、経済成長論のひとつである新古典派成長論がある。
  新古典派では、基本は市場原則で、私的財の取引が決まる。財政学では、政府がどのような政治過程から選ばれたかは、問題にされない。財政学は、選出された政府から議論が始まり、定められた租税法にしたがい強制的に徴税し、公共サービスの供給は、政府が独占的に決めるとしている。政治過程は、議会制度に基づいて、4年間という中期に国民が議員を選出し、付託した政府が、国民の公共サービスの社会的効用を最大にするように、公共サービスを供給するという最適政府理論はある。
  新古典派にある最適政府論は、最適租税論のもとに、国民の社会的厚生を最大にする最適公共サービス供給論にまとめられるかもしれない。社会的厚生関数の存在をうさん臭く思う経済学者は、多く存在する。1年間、経済・社会活動の成果は、階級に従って分配されると考える社会主義者は、公共サービス供給も、階級的分配になる。しかし、最適租税論では、公共サービスの財源は、最下層の階級は、サービスの恩恵は受けるが、課税さえることはない。また、最上層の階級は、サービスの提供をは受けないことで、満足している。公共サービスの財源負担は、所得を稼ぐか、働く労働者が累進的に負担し、公平に、公共サービスの提供を受けている。公共サービスを累進的負担金で、公平に享受する仕組みを運営する主体が、議会制民主主義で選出された政党・政府である。
 貨幣経済一般均衡論を適用した直接民主主義制下で、政府の活動を予算と徴税の決定を2期間モデルで考える。『金融論2023年』には、モデルを示す。経済成長するには、企業の成長と同じく、政府投資が必要である。一般政府の公共サービスの配給では、成長の牽引力にはなりえない。
                      
                      予算過程

8月              12月末   翌年1月下旬         41日より翌年4
                             予算に伴う税法改正
各省予算編成                直接総会開催
各省の標準公共サービス量を計算、有権者に公表       全有権者で公共サービス享受量合計
新規、改廃サービスを通知                 新規、改廃サービスで修正
                有権者          税収の不足を増税か、国債発行か決議
                    個別予算制約式のもと    
                    社会期待効用関数を最大化する
                    個人公共サービス享受量を求める  
               
               6. 2 直接民主制下、予算過程・租税過程の経過図

今週(2023116日~1110)の影響度
 先週のイベントは、30日に日銀政策委員会金融政策決定会合が31日までありました。「金融緩和は維持し、政策金利は-0.1%とする。長期金利は1%程度を誘導目標とする。」そうです。米連邦公開市場委員会が111日から2日まで開かれ、FRB金利は据え置かれました。
 今週のイベントは、7G7外相会合が、8日まで開かれます。
 経済統計は、次の発表がありました。
                       予想値     実現値
31日 日日銀政策利子率            -0.1%     -0.1
   10月消費動向調査消費者態度指数      35.0
   9月有効求人倍率                           1.29倍     1.29
   9月完全失業率               2.6%      2.6
   9月鉱工業生産指数            -2.7%     -4.6
   中10月製造業購買担当者景気指数(PMI)   50.2      49.5
11/2日 米政策金利上限             5.5%      5.5
         下限             5.25%     5.25
3日   米失業率                3.8%      3.9
 経済統計は、次の発表があります。
                        予想値 
7日 日9月家計調査              -2.7
    9月毎月勤労統計             0.9
   中10月貿易統計
   米10月貿易収支             -605億ドル 
8日 日9月景気動向調査一致          114.7
            先行          108.9
9日 日10月景気ウオチャー調査         50.0
    9月国際収支経常収支          30100億円
          貿易収支          2540億円
   中10月中国消費者物価指数

統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1 %      -0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月         10月         11
GDP(前期比)    
消費コンビニ売上高     9721億53百万円
  スーパー売上高  1兆708億円
  百貨店売上高    4151億円
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出          
輸入          
 貿易収支       
物価指数             3.0%
利子率         -0.1
株価          32991.08(9/7
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)
原油価格          91.4(9/7)
ドバイ、現物1バレル、ドル 
(2金曜日の前営業日)       
個人所得(毎月勤労統計)  
完全失業率        2.6%
景気動向先行指数     109.2
   一致指数      114.6



10回目 20231113
要点 
9章 マクロ貨幣経済モデルと経済政策
ポイント
・古典派マクロ経済モデルの均衡を理解する。
・金融政策の効果を調べる。貨幣数量説と貨幣の中立性が成立することを理解する。
・ケインズ・マクロ経済モデルの均衡を理解する。
・財政政策と金融政策の効果を調べる。
・物価水準の決定を示し、財政政策と金融政策の効果と合わせる。貨幣数量説と貨幣の中立性は成立しないことを理解する。
9.1 古典派マクロ経済モデルと金融政策
9.1.1 古典派マクロ経済モデルの市場均衡および金融政策
9.1.2 貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派モデル

9.1 古典派マクロ経済モデルと金融政策

古典派マクロ経済モデルの枠組み
 完全雇用モデルに対応して、『金融論2022年』pp. 150-151のように、例題1(完全雇用CASE )にしたがうことにする。
 政府部門がない場合、古典派マクロ経済モデルの各市場均衡式は次のように表せる。
古典派モデルの各市場均衡式
      財市場    Y = C(wP) + I(i)

フロー   労働市場    NS(wP) = ND(wP)

      債券市場  S(iY) = I(i)

ストック   貨幣市場  M =kPY

未知数:実質賃金率wP、実質利子率 i、物価水準 P
各関数の定義
      実質生産関数     Y  = F(K0N)
       実質消費関数   C  = C(wP)
      実質投資関数     I   I(i)
      実質貯蓄関数        S   = S(iY)
      実質労働供給関数   NS = NS(wP) 
              実質労働需要関数   ND = ND(wP)
      名目貨幣供給関数  MS = M
      名目貨幣需要関数  MD = kPY
 
 テキストでは、図をもちいて、古典派マクロ経済モデルの3つの変数wPi、物価水準Pがどのように決まるかを説明している。
 古典派では、家計の主体的均衡から、家計の消費需要関数、労働供給関数、貯蓄関数が導かれる。また、古典派政府部門は均衡財政を取る。すなわち、政府支出G0、租税T0 とすると、均衡財政はG0T0である。マクロ経済モデルではG0T0は与えられているものとして、省く。
 それぞれの需要関数、供給関数は、ミクロ的基礎がある。
『金融論
2022年』p.22 -23のように、2期間実質モデル問題2.1では、期間1の消費関数、貯蓄関数が求められている。消費関数C(wP)は、2期間の実質所得現在価値と初期資産の平均に依存する。貯蓄関数S(iY)は、初期資産+期間1の実質所得から、期間2の実質所得現在価値を引いて、平均を取る。

 企業の投資関数I(i)が、『金融論2022年』pp. 55-57のように、I=(αp1i1Y1K0で決まる。

 債券市場では、集計した貯蓄関数S(iY)と投資関数I(i)が等しいとき、市場均衡する利子率が決まる。

 古典派の財政政策は、均衡財政が原則であるから、政府支出の増加は、増税で賄う。増税の分だけ、民間の貯蓄は減るから、民間の投資は減り、利子率が上昇する効果が出る。
 古典派の金融政策は、貨幣市場の均衡式MkPYから、貨幣数量説「貨幣供給量Mを増加させれば、物価Pがその分上昇する」が成立するので、通貨の価値が下落する。貨幣の価格は、均衡式を変形し(1PMkYから、1Pで計る。Pが上昇するならば、逆数は下落する。貨幣の中立性は、「実質所得Y1が、実質賃金率wPで決まるので、貨幣の増加に影響されない。」ことをいう。

以上、古典派実質モデルでは、財政政策は、利子率を上昇させ、民間投資を減少させる。金融政策は、物価を上昇させる。実質所得は変化しない。労働市場は、常に、完全雇用である。

9.1.2 貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派モデル
『金融論2022年』では、各制度部門の主体的最適化を、貨幣経済一時的一般均衡論からの知見にもとづき、示している。前項の実質モデルに対して、名目モデルと呼んでいる。主体的最適化問題から、古典派モデルを以下のように、導き出す。T. J. SargentMacroeconomic Theory Second Edition 1987では、Chapter XVThe New Clasisical Macroeconomics「新しい古典派モデル」が展開されているが、本テキストと重なる定式化もあるが、同じではない。

財市場の均衡  Y = C(wP) + I(rl)
        消費需要関数      C(wP) (w/PN
        投資需要関数      I(rl)=αPYr -K0
労働市場の均衡 NS = ND
            労働供給関数     w/P(m/p)2IT/2N
        労働需要関数     w/P(1α)YN
債券市場の均衡 LsLo
            投資資金需要関数 LouI(1rl)
        貸付資金関数   LsD1(1rl)
貨幣市場の均衡 MsLd
           貨幣供給関数   MsM
        貨幣需要関数   Ld√2bT/rsm1
                  TkPY

本テキストの主体的最適化問題から、各需要、供給関数を導いた説明は、次回する。

今週(20231113日~1117)の影響度
 2021年の金融論ノートでは、
2021年「112日岸田首相が衆議院選挙後、記者会見をし、成長・分配のために、数十兆円を投入し、賃上げをする企業に給付金、非正規労働者等、低所得者に給付金、今冬のコロナ対策を表明しました。2日米連邦公開市場委員会が3日まで開かれました。FRBは、11月から量的緩和の縮小に踏み切りました。226月まで、月1200億ドルの債券購入を月150億ドルずつ8回減らしていく計画です。4日にOPECプラスの閣僚協議がありました。原油追加増産は見送りました。」
 2022年の金融論ノートでは、
 「岸田政権は、1年を経過しましたが、政府公約を成長・分配のため、所得補てんを数十兆円投入したはずですが、2022224日ウクライナ戦争下、インフレーションが倍増し、FRBの利上げは、会合ごとに、0.75%上げてきました。岸田首相の「新しい資本主義」は、政府の成長プランはなく、コロナ対策で、強制的に経済社会活動が制限されたため、企業に休業給付金、非正規労働者等、低所得者に所得補てんするという、社会主義政党的な政策をとっています。しかし、移動制限解除後も、給付金、分配に給付金という政策に変化はありません。
 海外資本は、資産市場から、引き揚げが目立つ1年でした。米国の機関投資家の岸田政権の「新しい資本主義」に対する評価は、企業の配当を減らし、従業員に分配を増やす、最低賃金を引き上げ、労働分配率を高めるというので、好配当は期待できないから、資産市場から撤退するということです。
 黒田日銀総裁が、4月からの消費者物価指数が、2%を越え、半年、継続して、2%を越えても、金融緩和を持続しています。岸田政権の賃金率の2%以上は達成していないことが理由で、金融緩和を続行しています。岸田と黒田は、財政政策と金融政策の持ちつもたれつをして、政府は国の借金、国債で労働者に所得を補てんしているだけで、コロナ禍の行動制限を解除は遅れ、海外訪問者の入国制限は、まだ、完全に解除ではなく、経済成長の2%以上実現はしません。政府がコロナで経済社会活動を制約している間、新しいパイは大きくならず、パイの分け方を、労働者に大きくしようというのは、資本主義の運動法則から言って、不可能であった。」

 202311月、黒田日銀総裁から植田日銀総裁にバトンタッチし、その間、前月比で2%以上、消費者物価指数は増加、春闘の大企業中心の賃上げは、平均3%に届かず、中小企業の賃上げに、影響のある最低賃金は全国平均で30円程度しか上がりません。このため、植田総裁は、CPI2%以上でも、金融緩和は続行、ただし、長短利回り差を1%以下にする操作をしています。短期貸付資金市場、長期債券市場は、利子率、利回りが、上昇しています。長短市場が市場機能が動きだした証拠です。企業にとっては、インフレになると、運転資金も増加しますから、金融緩和で、0金利に抑えられて、貸し付けてくれると、仕入れ資金、給与、経費の上昇に対して、販売価格を上げても、金利負担はありません。インフレが、続くわけです。短期金利が上がると、金利負担が2%あがれば、利益が金利に食われるので、借入を控えるので、引き締め効果が働き、一斉に、諸物価が上がることは押さえられるわけです。
 コロナ後と県単位の移動規制が解除され、国民の旅行が盛んになり、飲食店、芸能、音楽祭、スポーツ観戦も、通常営業になりました。ほぼ、4年間、芸能界で休業状態にあった娯楽産業では、新人が4年分、休業中の芸能人が、競争的に、顔出しリクルートをはじめ、とりあえず、露出するかという人も多い。経済・社会活動が活発になっていることは確かです。しかし、秋から、再び、値上げが生活消費財に多く見られ、需要増によるインフレがあるようです。
 岸田首相は、コロナ解除、海外観光客の入国を緩和しました。しかし、新内閣で、閣僚を交代させただけで、防衛費増加、少子化対策支出増加を増税で、賄うとみられ、経済政策は何もしていません。賃上げは、中小企業の賃上げがなかなか、浸透しないので、消費が、インフレで、節約買いをし、消費需要が抑えられています。何もしないので、人気はなく、来年の自民党総裁には選出は無理でしょう。
 黒田総裁がゼロ金利を解除すれば、円安が逆転するので、輸入インフレはようやく止まる可能性が高い。暖冬予想もあり、暖房需要は昨年並みかもしれません。政府の政策に期待は出来ず、市場の実勢で、金利も上がり、第3次産業の経済活動が活発になる、日本経済の自律的回復力しか、経済状況は好転しない。

 先週のイベントは、7G7外相会合が、東京で8日まで開かれました。ガザ地区戦闘の休止を支持しました。
 今週のイベントは、13日インド太平洋経済枠組み閣僚会議がサンフランシスコで14日まであります。15日米中首脳会談がカリフォルニア州であります。APEC首脳会議が17日までサンフランシスコであります。16日拡大ASEAN国防相会議がジャカルタで開かれます。
 
 経済統計は、次の発表がありました。
                   予想値    実現値
7日 日9月家計調査         -2.8%    -2.8
    9月毎月勤労統計        0.9%    1.2
   中10月貿易統計               4055億元
   米10月貿易収支        -605億ドル -615億ドル
8日 日9月景気動向調査一致     114.7     114.7
           先行     108.9     108.7
9日 日10月景気ウオチャー調査    50.0     49.5
    9月国際収支経常収支     30100億円  27236億円
          貿易収支     2540億円   3412億円
   中10月中国消費者物価指数   -0.1%    -0.2
 経済統計は、次の発表があります。
                   予想値
14日 米10CPI            3.3% 
15日 日79月期の国内総生産速報値  -0.1
          GDPデフレータ    4.9
   中10月小売売上高         6.9
      鉱工業生産指数       4.6
   日9月鉱工業生産指数        
   米10月小売売上高         -0.4
16日 日9月機械需給統計        -3.0
    9月通関ベース貿易収支     -7636億円
   米10月鉱工業生産指数       -0.3

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。
日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1 %      -0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月         10月         11
GDP(前期比)    
消費コンビニ売上高     9721億53百万円
  スーパー売上高  1兆708億円
  百貨店売上高    4151億円
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出          
輸入          
 貿易収支       
物価指数             3.0%
利子率         -0.1
株価          32991.08(9/7
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)
原油価格          91.4(9/7)
ドバイ、現物1バレル、ドル 
(2金曜日の前営業日)       
個人所得(毎月勤労統計)  
完全失業率        2.6%
景気動向先行指数     109.2
   一致指数      114.6


11回目 20231120

要点 
9.1.2 貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派マクロ・モデル
9. 2 ケインズ・マクロ・モデル市場均衡および金融政策

9.1.2 貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派マクロ・モデル
コブ・ダグラス生産関数YK0 αN 1-α
財市場の均衡式  Y = C(wP) + I
          消費需要関数      C(wP) (w/P(IpTN
          投資需要関数      I=αPY/ρ-K0
           ρ:配当率
労働市場の均衡式 (m1/P)2IpT/2N)=(1α)YN
              労働供給関数     w/P(m1/P)2IpT/2N
                Ip:労働者数、T:総労働時間、N:労働時間
          労働需要関数     w/P(1α)YN
フロー債券市場の均衡式  m1 Lo(1rl)
              貸付資金供給関数 Lsm1=Σi=1Ip m1 i
              投資資金需要関数 uILo(1rl)
               u:投資財価格、I:投資量、rl:利子率
               Lo:金融請求権(債券)=次期の元利合計uI(1rl)
ストック貨幣市場の均衡式 MkPY
              貨幣供給関数   MsM
          貨幣需要関数   LdkPY
               
未知数: 実質賃金率w/P、利子率rl、物価水準P

各関数の説明
 9.1.1の古典派マクロ実質モデルにおいて、3つの変数wPi、物価水準Pは、フロー市場の財・債券市場において,実質賃金率wPと実質利子率iが決定され、ストック市場である貨幣市場において、物価Pが決定される。フロー市場とストック市場は完全に分離された。そのため、「貨幣数量説」と「貨幣の中立性」が成立した。
 本項では、貨幣経済一般均衡論にしたがう古典派マクロ・モデルを説明する。
 経済主体の予想形成を入れるため、2期間貨幣モデルに変更する。古典派の消費者の価格予想が可能な、2期間貨幣モデルを、テキスト『金融論2022年』2章において、問題2.6で解いた。期間1の価格は、市場価格p1を所与としている。期間2の価格p2は、主観的予想価格である。期待形成は、①静態的予想、②適合的予想、③合理的予想、④期間1において決まる、先物市場価格を客観的予想として、もちいる場合を想定する。本項では、価格予想を①静態的予想とする。すなわち、2期間の全ての価格は、同じである。さらに、家計は、貨幣残高を持ち越し、資産運用は、分離して決定する。利子率ii0と仮定する。

家計部門: 消費需要関数、労働供給関数、企業向け貸付資金供給関数
 消費需要関数       C(wP) (w/P(IpTN
 労働供給関数    wPm4P (IpT2N)   ここで、mΣm0i NΣNiとおく。
 貸付資金供給関数   Lsm(1rl)
 貨幣需要関数     mΣm0i2

消費財と余暇時間の選好(家計の消費財需要関数および労働供給関数)
 古典派では、家計の主体的均衡から、家計の消費財需要関数および労働供給関数が導かれる。消費者は、消費財を束として、余暇時間との間の選好関係を考える。余暇時間は、労働者にとって、消費すれば、効用を増加させるが、労働時間は、企業に拘束されるので、不効用を増加させる。家計の効用関数は、消費量と余暇時間の関数である。
 家計は、労働することによって、所得を得るが、それを消費財の束cと次期の取引に貨幣を残す。消費財の束の価格は、p1とする。市場が開かれている短期において、総時間をTとし、家計が、労働に費やす時間はTl1、余暇時間l1とする。労働は、時間によって測られる。
 2期間モデルで、家計は、消費財の量(c1c2)と余暇時間(l1l2)に対して、序数的効用を持つとする。効用関数であらわせば、uu(c1l1c2l2) である。予算制約式は、p1c1m1w1Tl1)+m0p1c2w1Tl2)+m1、ただし、0 l1 Tである。2期間の全ての価格は、同じである。予算制約式の右辺のw1は。名目賃金率である。
以上の仮定のもとで、テキスト『金融論2022年』2章において、問題2. 6は次のようになる。

問題9.1 消費量(c1c2)、余暇時間(l1l2)、総時間T、時間給w1、初期貨幣保有高m0、労働量N1Tl1N2Tl2とする。
     
     max      u(c1l1c2l2 ) subject to p1c1m1w1Tl1)+m0
 { c1l1c2l2 }              p1c2w1Tl2)+m1

解 2期間の予算制約式は, p1c1p1c2={w1Tl1)+m0}+w1Tl2)である.ラグランジュの未定乗数法によって,最適解を求める.
Lc1 l1c2l2-λ[p1c1p2c2-{w1Tl1)+m0}-w1Tl2)]とおく.
L  l1λ1p10L  c1-λ1w10
c1                      l1      
L  l2λ2p10L  c2-λ2w10
c2                     l2        
L p1c1p1c2-{w1Tl1)+m0}-w1Tl20
∂λ
ゆえに, c1=λw1c2=λw1l1λp1l2λp1c1(w1p1) l1 c2(w1p1) l2
c2c1
l1=(p1w1c1
l2=(p1w1c1
p1c1p1c2-{w1Tl1)+m0}-w1Tl20
p1c1p1c1-{w1T-(p1w1c1)+m0}-w1T-(p1w1c10
p1p1p1p1c1w1Tm0)+w1T
4 p1c12 w1Tm0
c1(2w1Tm0)4p1
l1=(p1w1c1
最適貨幣保有高m1は,次のようになり,これが最適貯蓄である.
p1c1m1w1Tl1)+m0
m1w1Tl1)+m0p1c1w1T-(p1w1c1)+m0p1c1
   w1Tm02p1c1w1Tm02p12w1Tm0]/4p1
   m02
最適余暇時間l1から,労働供給量N1が決まる.
N1Tl1Tp1w1c1
   Tp1w1(2w1Tm0)4p1
   T2m04 w1.                           
消費需要量を労働供給量で表すと、
c1w1p1)(Tn1                                                                       

以上の結果から、古典派の消費関数c1は、実質賃金率w1p12期間平均実質所得(w1p1)T2、実質貨幣保有高m04p1に依存する。貨幣需要関数m1m02である。労働供給関数N1は、総時間の半分から、時給w1で計った貨幣残高を控除する。m04 w1の単位は、円4(円/時)(14)時である。
 
 テキスト『金融論2022年』9章において、例題1(完全雇用CASE)は、問題9.12期間の設定に変更すると、

例題9.2(完全雇用CASEⅡ) 最適消費量は、c(2w1Tm0)4p1lp1w1c1=(p1w1(2w1Tm0)4p1(2w1Tm0)4w1が最適余暇時間である。労働供給量はNTlT(2w1Tm0)4w1T2m04 w1である。           □

 NT2m04 w1から、実質賃金率で解くと、家計の労働供給関数w1p1m0 4p1 (T2N) が得られる。テキスト図9. 2および図9. 3は、問題9.12期間の設定によって、9. 2予算線のc切片が下がるが、家計の労働供給曲線は、右上がりである。

市場労働供給関数
 労働者数I人、第i労働者の貨幣保有量をm0iとする。労働市場全体で集計すると
ΣN iIT2-Σm0 i4 w1から、変形し、市場労働供給関数w1p1=(Σm0i)4p1 (IT2-ΣNi)をえる。

 HicksPatinkinGrandmont流の一時的一般均衡論新古典派において、家計は、予算制約式に、貨幣保有残高mを追加する。さらに、家計が、資産市場において、次期までの貨幣を運用できるならば、テキスト『金融論2022年』p30、問題26のように、2期間モデルに拡張して、最適貨幣残高が求められ、それは名目利子率に依存する。

企業部門: 労働需要関数、投資関数、投資資金需要関数、貨幣需要関数

 労働需要関数     w/P(1α)YN(1α) K0αNα

 投資需要関数      I(r)=αPYr -K0
 
 投資資金需要関数 uI Lo(1rl)
 
 貨幣需要関数   LfkPY    

労働需要関数     w/P(1α)YN(1α) K0αNα
 労働者が求職活動中である場合を摩擦的失業という。その国に発生した経済ショックで、構造的に失業が発生した場合、労働力人口を「働く意思のある労働者がすべて雇用される労働者人口」と定義すると、完全失業者は、構造的失業者をいう。協定賃金下、完全競争賃金を決定する労働市場均衡を図示できる(西村和志『金融論』晃洋書房、2005年、pp254-257)、ここでは、協定賃金下の労働市場を考える。
 賃金wで働く意思のある労働時間をNとする。企業の労働需要は、利潤最大化で決まる。労働需要関数は、利潤最大化の必要条件から、wPFNである。生産関数に、コブ・ダグラス生産関数YK0 αN 1-αを仮定し、FN(1-α) K0 αN -αを必要条件w PFNの右辺に代入し、
w PFNP (1-α) K0 αN -αP (1-α) K0 αN 1-αNP (1-α)YN
この結果は、『金融論2022年』pp53-54より、

例題33 コブ・ダグラス生産関数Y1K1αL11-αを仮定する.企業総価値を最大化するL1K1を求めよ.
 例題3. 1から,問題33の必要条件は
Y1 =  w1  より,L1(1-α)p1Y1
L1    p1                 w1
Y1 =  r1  より,K1αp1Y1 
K1    p1          r1
L1K1は,それぞれ, 労働需要関数,資本需要関数である.           □

投資財需要関数 I αpYrK0
 例題3. 3の結果から、投資財需要は、IK1K0より、I αp1Y1r1K0 。ここで、r1は配当率である。
投資資金需要関数 uILo(1rl)
 企業は、投資財Iを価格uで、購入する。貸付利子率rlで銀行から借り入れ、次期に、元利合計Lo uIrluIを返済する。借入金をuIとすると、
uILo(1rl)
貨幣需要関数  LfkPY

9. 2 ケインズ・マクロ経済モデル市場均衡および財政・金融政策

ポイント 線形化したモデルで、均衡を求める
・各関数の定義
・市場均衡式
・均衡解を求める
・財政・金融政策の比較静学効果を求める

 ケインズ・マクロ経済モデルは、財・サービス市場、労働市場の2つのフロー市場とストック市場である貨幣市場、合わせて3の市場で構成される。政府部門が明示的に導入される。輸出・輸入は省く。不完全雇用モデルに対応して、CASE にしたがう。

ケインズ・閉じたマクロ経済モデルの各市場均衡式
      財市場 Y C(YT0)I(i)G0         45度線による均衡図示) 91
フロー  または S(YT0)T0= I(i)G0           (貯蓄・投資の均等図示)  92
       92式の導き方
        貯蓄の定義SYT0CからYCST0を財市場の91式左辺に代入し,  
         CST0CIG0よりST0IG0
      労働市場 NS(0)ND(0P)
ストック 貨幣市場 MP kYL2 (i)
未知数YiP       政府支出Gおよび租税Tは外生変数である.

各関数の定義                    線形化の定義
 生産関数         Y  = K0αNⅠ-α
 消費関数        C   C(YT0)     CC0 c(YT0) 
 投資関数        I = I(i)               II0bi
 労働供給関数      NS = NS(w0)          NSw0
 労働需要関数      ND = ND(w0P)       NDP(1-α)YN
 実質貨幣供給関数    MS = MP
 実質投機的貨幣需要関数 L2  = L2 (i)       L2=-hi
 実質貨幣需要関数    LD  = kYL2 (i)      LDkYhi
ここで,w0は協定貨幣賃金率P物価水準である.

古典派とケインズモデルとの違いは、
・消費関数が、実質可処分所得に依存する。
・労働供給関数が、使用者側との協定賃金率w0に依存する。組合に所属しない労働者は、考慮されない。
・貨幣需要関数について、新古典派のマーシャルは、マーシャルkの分ほど、名目所得PYを、次期の取引のために保蔵するとして、貨幣市場均衡式をMk P Yとした。ケインズは、貨幣保有の動機として、取引動機、予想される支出、たとえば、冠婚葬祭、旅行、耐久消費財の購入などのための予備的動機および資産の一種としてゼロ収益率貨幣を投機的動機に挙げた。取引動機および予備的動機は、マーシャルの設定と同じ、実質需要kYで表され、実質投機的需要は、債券利回りiに依存し、L2 (i)であらわす。これらの貨幣需要を加えた貨幣の実質需要関数LD kYL2 (i)を流動性選好関数という。貯蓄Sのうち、取引需要および予備的需要は、kYで決まり、残りは、蓄積された貸借対照表勘定にある貨幣残高に追加され、他の資産と何らかの基準で資産選択される。ケインズの貨幣市場は、取引需要は利子率に反応しないが、投機的需要は利子率に反応するので、縦軸を利子率にとり、横軸を貨幣量にとる図で、貨幣市場の均衡が成立する。債券利回りiは、物価上昇率pの影響を除去した実質利子率riを表す。フィッシャーの関係式を用いると、実質利子率はri= ipである。

失業状態から完全雇用への移行過程
 テキストp.162図9.21において、失業状態から完全雇用への移行を、非正規労働者の雇用を含めていない過程を描いている。含める場合は、雇用量は、正規労働者と非正規労働者を加える。ともに労働時間で計る。企業の労働需要関数はそのままで、正規労働者N1および非正規労働者N1nは、前者は協定賃金w1、後者は実質賃金w1P1で雇用される。P1>1とすると、実質賃金は協定賃金より低い。経済政策か、自然ないし自律回復によって、物価水準がP1からP2 ( P1 P2 ) に上昇するならば,正規労働者と非正規労働者は増加し、非正規労働者の貨幣賃金は上昇し、協定賃金に近づく。
 テキストでは、9.3節において、図をもちいて、ケインズ・マクロ経済モデルの3つの変数YiPがどのように決まるかを説明している。IS曲線とLM曲線を導いて、実質所得と利子率を決定することを示す。AD曲線とAS曲線を導いて、物価水準を決定することを示す。
 線形モデルでない場合は、図で示すしか、方法はない。線形化した場合、以下のように、解が求められる。さらに、政策変更による効果も計算できる。
 IS曲線は、財市場の均衡式YC(YT0)I(i)G0に、線形化した関数を代入する。
YC0 c(YT0) I0biG0

bi=-(1cYC0I0G0cT0 は、IS曲線である。

LM曲線は、貨幣市場均衡式MP kYL2 (i)に、線形化した流動性選好関数を代入

MP kYhiは、

hi kY MP LM曲線である。

AD曲線は、IS曲線に、i (1h(kY MP)を代入する。

(bh(kY MP)=-(1cYC0I0G0cT0

(bh(k1c) Y(C0I0G0cT0)PMAD曲線である。

AS曲線は、労働市場均衡式w0P(1-α)YNから、NP(1-α)Yw0を生産関数に代入する。YK0α{N1α}K0α{ P(1-α)Yw0}Ⅰ-α

P{w0(1-α)} K0-α/(1-α) Yα/(1-α) AS曲線である。α=12のとき、

P2w0 K01Yとなる。簡単化のため、これをAS曲線とする。総需要=総供給で、

(bh(k1c) Y(C0I0G0cT0))2w0 K01Y M         (1)

(bh(k1c) 2w0 K01 Y2 (C0I0G0cT0)2w0 K01YM 0     (2)

これは、二次関数で、正負2正根がある。正根YAS関数に代入すると、均衡物価水準Pが求められ、LM関数に、これらを代入すると、均衡利子率iが得られる。

財政政策は、均衡式(2)において外生変数G0T0Mを内生変数とみて、全微分する。
(bh(k1c) 4w0 K01YdY(C0I0G0cT0)2w0 K01dY2w0 K01Yd G0c2w0 K01YdT0dM=0

dY   =             2w0 K01Y                       
dG0     (bh(k1c) 4w0 K01Y(C0I0G0cT0)2w0 K01

dY   =             -2 c w0 K01Y
dT0     (bh(k1c) 4w0 K01Y(C0I0G0cT0)2w0 K01

dY   =             1                
dM   (bh(k1c) 4w0 K01Y(C0I0G0cT0)2w0 K01

金融政策は、均衡式(2)AS曲線YP2w0 K01を代入、PMについて全微分する。

(bh(k1c)2P dPw0 K01 (C0I0G0cT0) dPdM 0 

dP =            w0 K01              
dM   (bh(k1c) 2P(C0I0G0cT0) w0 K01

これらの乗数は、GDP:Yと物価水準Pが入って、定数ではなく、変動乗数である。金融政策は、乗数の分子は定数なので、財政政策と違って、分母のGDP:Yと物価水準Pが増加すれば、乗数が減少する.

今週(20231120日~1124)の影響度
 先週のイベントは、13日インド太平洋経済枠組み閣僚会議がサンフランシスコで14日までありました。15日米中首脳会談がカリフォルニア州でありました。APEC首脳会議が17日までサンフランシスコでありました。16日拡大ASEAN国防相会議がジャカルタで開かれました。
 今週のイベントは、212023年度補正予算案の審議が始まります。24日米国の年末商戦が始まります。

  毎日、散歩がてら、買い物に出かけているが、各商品の価格をチェックしているが、10月に入って、確かに、生活用品の物価は、上がっている。24日には、消費者物価指数の発表があるが、9月3.0%より、3.4%に上昇している。年末にかけて、非正規労働者の時間給は上昇するだろうが、それも、年末商品に転嫁される。植田総裁は、物価上昇だけならば、年1回の賃上げ、最低賃金の変更で、行事化した全国的な一斉賃上げを期待して、2%以上の賃上げを機に、短期利子率の下限を引きあげる、公定歩合操作の変更を決断すると、市場関係者は見ている。為替市場では、その間、日米金利差は5%で開いたままだから、為替投機で確実に利益がでる。150円台は、3月末まで、底堅い相場になるとみている。
 しかし、2024年は、運輸業の労働時間規制で、労賃が上昇する見込みであり、国内規制値上げ効果で、インフレは続伸、物価3%プラス運輸コスト1%プラス賃上げ2%で、6%は上昇するだろう。これは、金利差の為替投機は、それまでに、解消しないと、生活実感がない岸田政権は持たない。植田総裁は、学者出身だから、黒田総裁の栄光の東大卒、大蔵省、ADB総裁、日銀総裁の出世街道の終点に到着したので、生活実感はなかっただろう。インフレションが4月までに、本格化する要因は毎月、順番に、効果を発揮するので、予防的に、主に効いている要因は、抑制していくことが、望ましい。すでに、生活防衛のために、無駄遣いはへらし、冷蔵庫の食品は、使い切り循環献立に切り替え、庫内の空き容量を増やすようにしている。岸田政権は、国民の生活不安が高まり、通常国会を乗り切れないだろう。
 円安で、ガソリン車が売れる様な環境でもなく、日本製家電が、世界でバカ売れすることは、恒久的にない。中国漢時代から、日本の水産物は中国輸出品だったが、政府の原発処理水で、中国輸出が消滅した。円安メリットはなく、日本経済の花形輸出品の凋落が、地球温暖化、2000年デジタル化で世界が大変動した中で、家電、スマホに始まり、太陽光発電、風力発電、地下熱発電は、海外に負け、EV車に米国が政策を変え、ガソリン車の凋落と、輸出製品が売れなくなっていることは、政府の環境、情報の世界レベルへの挑戦がないことが大きく影響している。先延ばし行政の岸田政権では、世界が変動している中で、産業界に将来電気・ガス・インフラ計画もないから、対応した設備投資、製品開発を促進させることはなく、世界第4位に、次に、インドに負け、転落するわけである。
 来年、自民党総裁選を待たずに、岸田政権は、来春、インフレ絶好調で、国民生活を困窮させ、国益を減少させた責任をとることになる。
 
 経済統計は、次の発表がありました。
                     予想値    実現値
14日 米10CPI              3.3%     3.2
15日 日79月期の国内総生産速報値    -0.4%    -2.1
          デフレータ       4.9%     5.1
   中10月小売売上高           6.9%     7.6
      鉱工業生産指数         4.6%     4.6
   日9月鉱工業生産指数        -4.6%      4.4
   米10月小売売上高          0.4%      0.1
16日 日9月機械需給統計          3.0%      2.2
    9月通関ベース貿易収支      -4370億円    6625億円
   米10月鉱工業生産指数         0.3%     0.6
 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値
20日 日10月全国コンビニエンストア売上高
22日 日10月全国スーパー売上高     
24日 日10月消費者物価指数         3.4
     10月全国百貨店売上高       

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。

日本        3                      4月        5
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高96711700万円(6.0)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高98940942万円(1.9)   1062億円3.4% 11185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         88243億円     82884億円   72926億円
輸入         95788億円     87208億円   86651億円
 貿易収支       -7545億円      4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8
GDP(前期比)    4.6(46)     
消費コンビニ売上高  962272百万円  144362百万円   10028億円
  スーパー売上高 99174122万円  11663億円      11432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          87438億円  87250億円     79943億円
輸入          87046億円  88037億円     89248億円
 貿易収支          392億円   787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2
利子率        0.1 %      -0.1%        -0.1 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月         10月         11
GDP(前期比)    
消費コンビニ売上高     9721億53百万円
  スーパー売上高  1兆708億円
  百貨店売上高    4151億円
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出          
輸入          
 貿易収支       
物価指数             3.0%
利子率         -0.1
株価          32991.08(9/7
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)
原油価格          91.4(9/7)
ドバイ、現物1バレル、ドル 
(2金曜日の前営業日)       
個人所得(毎月勤労統計)  
完全失業率        2.6%
景気動向先行指数     109.2
   一致指数      114.6


12回目 20231127

要点 10章 開放マクロ経済モデルと経済政策
101 開放マクロ経済モデルにおける労働市場と為替市場
   1 労働市場の均衡
   2 為替理論と為替市場

101 開放マクロ経済モデルにおける労働市場と為替市場

 従来のマンデル・フレミング・開放マクロ経済モデルでは、総供給線と総需要線で一般物価水準が決まることは、書かれていなかった。総供給線は労働市場の均衡式である。マンデル・フレミング・モデルの仮定では、資本の移動は自由であるが、労働移動の自由はない。労働市場は、国内市場で閉じている。もう一つ、為替市場で購買力平価説か金利平価説かは、書かれていなかった。テキスト『金融論2022年』では、労働市場と為替市場を陽表的に導入している。

10.1.1 労働市場の均衡
 労働市場の均衡から、総供給曲線を導く。労働市場は、ケインズの協定賃金の場合と新古典派の完全雇用の場合と2つある。前者をCASE I、後者をCASE とする。企業理論から導く、労働の需要関数はともに同じだが、労働供給関数の理論が異なる。

不完全雇用CASE I
ケインズの1930年代時代では、世界経済は、英米欧州の影響力を含む植民地ブロック化、英米欧の大企業の独占市場化が進み、中小企業が倒産、工場労働者が放り出され、その救済事業である公共投資をし、失業者を救済した。ケインズの労働市場が、市場メカニズムよりは、労使双方の協定賃金でとらえる現実があった。政府支出の増加は、失業者救済の社会政策と被っていたのである。労働関係の政党が、ソ連の完全雇用経済に、あこがれた時代は、このような世界経済の背景がある。

戦後経済に入り、新機軸による家電、車の消費需要が経済成長を支え、世界経済は西側のブロック化は終了し、独占企業には、独占禁止法の制定で、独占利益をむさぼることは出来なくなった。1930年から1945年の大不況と戦時経済期間、ケインズ理論は、説明力があったが、消費需要の内容が変化し、政府の軍事支出がなくなっても、西側経済は、国際貿易、国際金融が、金ドル体制で、国際制度保証され、世界的に経済成長が始まった。新機軸の企業が勃興、耐久消費財であるテレビ、冷蔵庫、洗濯機の家電、住宅、車と家計が保有する不動産、動産が、所得の伸びとともに、普及していった。不況の経済状態を記述するケインズ経済学は、米国では、当然ながら、新時代には当てはまらなった。特に、ケインズ型線形消費関数C=β+αYは、統計的判定で有意ではなかった。ケインズ型投資関数IvYKも同様だった。新機軸(技術革新)下の消費需要の構成内容、投資需要の大規模化で、線形関数では、有意ではないのは当然であった。

1950年代、朝鮮戦争後、東西冷戦が始まり、東西ブロック経済に入り、ヨーロッパでは、ソ連が東欧・中欧・ユーゴスラビア連邦と共産と統治を開始し、東アジアでは、中国、北朝鮮、ベトナム、ラオスが共産党統治に入った。新機軸(技術革新)下、石油化学工業の勃興による牽引効果で、世界経済成長論および自由競争市場経済下の新しい知見にもとづく経済学が主流になっていった。

日本の労働市場は、中卒、大卒の新卒が、全国一斉に採用され、定年で、労働市場から退職する、ところてん方式の労働供給であり、官民合わせて、完全雇用が原則であった。毎年の賃金決定は、新規労働流入期にあわせる日本の労使協議の慣行が形成され、年1回、春の労使協議で、新卒賃金、協定賃金のベースアップ率、(例えば、安倍・菅・岸田政権下では、ほとんど、全国0%)およびボーナスの月数(例えば、夏冬合わせて、全国平均最大4ヵ月)を決定してきた。非正規労働者は、最低賃金が政府・地方自治体審議会で決定され、各都道府県でその額の格差はある。雇用の流動性が高い非正規労働市場は、最低賃金をベースにして、労働需要の繁忙にしたがう完全競争市場メカニズムが働いている。
 
 ケインズの労働供給関数は、労働組合員だけの労働市場では、労使双方の協議によって、期間内の、基本給(協定賃金)と期間内の労働生産性増加に見合うボーナス(変動加算給)を決める。非組合員は、教科書的マクロ理論では、陽表的に、考慮されない。一定期間中、完全雇用量水準は、労働力人口、およびその法定労働時間によって決まっている。完全雇用労働者数と現行労働組合員との差があれば、その差は失業者になる。

 921において、ケインズ労働供給曲線は、協定賃金w1で契約期間中、固定される。労働供給関数は、ww1である。
企業の労働需要関数は、wPFN (PFN は労働の限界生産物価値,FNN0)である。コブ・ダグラス生産関数YK0αN1-αを仮定すると、
FN(1α)K0αN -αwPFNP(1α)K0αN -α
wN αP (1α)K0αであり、右辺は一定で、縦軸を賃金率w、横軸を雇用量Nに取ると、原点に凸である。物価水準Pが上昇すると、双曲線は右上に移動する。
 
 労働市場の均衡式は、w1PFN 
 
 物価水準がP1からP2 ( P1 P2 ) に上昇するならば、w1P1FNからw1P2FN右へ移動する。それゆえ、均衡雇用量はN1 N2に増加する。生産関数で生産量を読み取ると生産量もY1 Y2に増加する。
 
 協定賃金が契約期間に改定されなければ、 物価水準が上昇していくとき、やがて、完全雇用国民所得Yfに到達する。しかし,労働需要曲線が完全雇用量Nfに達すると、それ以降は、雇用量はケインズ・マクロ経済モデルでは、雇用量は労働者数で測られているから、労働者は残業をするので、賃金率が上昇する。9. 21では、完全雇用量Nfから、増加する領域では、ケインズ労働供給関数ww1は、古典派の労働供給関数と同様に右上がりする。
 
 生産関数に、コブ・ダグラス生産関数YK0 αN 1-αを仮定し、労働市場の均衡式から、一次関数の総供給線ASを求める。
FN(1-α) K0 αN -αを労働市場の均衡式w 1PFNの右辺に代入し、
w 1PFNP (1-α) K0 αN -αP (1-α) K0 αN 1-αNP (1-α)YN
NP (1-α)Yw 1を生産関数YK0 αN 1-αに代入し、総供給関数AS
P={w 1 (1-α)K0Yとなる。物価水準Pは、国民所得Yに正比例する。

完全雇用CASE
 新古典派の労働市場では、労働者は時間給で働く。働きたい労働者はすべて雇用される状態を完全雇用と定義する。ケインズの協定賃金と時間給の労働者の二分はない。労働の需要関数は、ケインズと同じである。
 
 11回のノートに、例題9.2(完全雇用CASE)から、CASE 労働供給関数NTlT2m04 w1を求めている。再掲すると

例題9.2(完全雇用CASEⅡ) 最適消費量は、c(2w1Tm0)4p1lp1w1c1=(p1w1(2w1Tm0)4p1(2w1Tm0)4w1が最適余暇時間である。労働供給量はNTlT(2w1Tm0)4w1T2m04 w1である。           □

企業の労働需要関数wP (1-α)YNから、NP (1-α)Ywである。新古典派労働市場の均衡は、T2m04 wP (1-α)Ywとなる。したがって、総供給関数ASは、P Y(T2m04 w)w(1-α)と表せ、双曲線である。

CASE IからCASE Ⅱへの長期均衡価格

CASE IおよびCASE Ⅱは、前者の総供給曲線は原点を通る直線であり、後者は原点に対して凸の直角双曲線であるから、交点が一意に決まる。すなわち、P={w (1-α)K0YPAYとおき、P Y (T2m04 w) w(1-α)P YBとおくと、P 2A B。ゆえに、不完全雇用経済状態から、経済政策の誘導があれば、完全雇用に到達し、長期均衡価格は、P =√A Bとなる。

10.1.2 為替レートの決定理論と為替市場
1) 購買力平価説
 国際取引される財で、物価指数を作ると日本の物価指数をP、世界の物価指数をPwとし、
名目為替レートをeとすれば、PePw 表せる。これを購買力平価という。購買力平価説は
長期的に成立するといわれる。PePw の両辺に対数をとると
log P = log e + log Pw
plog P pwlog Pw s = log eと表してppwsとも表される

2) 金利平価説
 円金利i、ドル金利iw、直物為替レート(/ドル)es、先物為替レート(/ドル)efとする。取引手数料はないものとする

現在の円             円資金市場        将来の円        

1円                  →    (1iJ)円 =(1iAef / es

 
                      (1iA/ esドルは、ef1iA/ es円に交換

直物為替市場es (/ドル) ↓           ↑ 先物為替市場ef (/ドル)

1円は1/ esドルに交換       →  1/ esドルをドル運用 (1iA/ esドル

1ドル                      (1iA)ドル

現在のドル            ドル資金市場       将来のドル

 現在の1円は、円市場で運用すると将来では(1iJ)円となる。取引コストがないとすれば、
現在の
1円でドルを直物為替市場で買うと、1/ esドルとなり、ドル資金市場で運用すれば、
将来では(
1iA/ es ドルとなる。先物市場でこのドルで円を買えば、将来では(1iAef / es円となる。
どちらの市場も、円価値は、同じ
であるから、裁定取引が働き、(1iJ)=1iAef / es 。したがって、
先物カバー付き金利裁定条件は、efes(1iJ)(1iA)である。両辺から1を引くと
 (efes)es =(iJ iA)(1iA)
近似的には、
 (efes)es  iJ iA 。
先物カバーがない場合は、(efes)es為替レートの変化率e^=(e′es)esに置き換える。
すなわち、e­
 iJ iA e′ は、何らかの予測値、たとえば、合理的期待仮説による予測値である。

3) 合理的期待仮説
 合理的期待仮説では、為替レートの変化率の主観的期待値Ee^]が、モデル内で決定
される為替レートの変化率の客観的期待値Es˙]に一致する。すなわち、
Ee^]=Es˙]。

4) 先物為替市場均衡値
 合理的期待仮説を先物為替市場に適用すると、市場参加者の主観的先物為替レートが、
市場で決定される為替レートに等しくなる。したがって、先物為替市場がある場合は、
先物為替レート
efを、金利平価説に代入すれば、直物為替レートが決まる。
 近似的には、金利平価説は(efes)es  iJ iAであるから、直物為替レートes

es =   ef     。

    1iJ iA

 先物為替市場の均衡理論があれば、先物為替レートefは、均衡先物為替レートになる。

変動相場制下の為替市場
 実質貿易収支NXNXExImmwYwe Pw(mY ) P資本収支CFCF=ΔBie ΔBwiwとおく。mmwは、限界輸入性向とし、国際収支BPBPNXCFPとする。世界通貨W 1単位当たりの円表示¥の為替レート(¥/W)を自国通貨建という。世界通貨がドルの場合、自国通貨建為替レートは円/ドルで計る。日本債券Bは円表示、世界債券Bwは世界通貨表示とする。期間内の債券量をΔB、ΔBwとする。それぞれの債券価格は、永久債価格の公式PB1iPBw1iwで表す。自国通貨建為替市場は、円需要をDで表し、円供給をSで表す。

円供給は、日本の貿易財を輸入する海外輸入業者がその輸入代金P (mwYw)を、ドルを売って円で支払う。国内証券会社が国内債の注文ΔBiを海外証券会社から受け、ドルを売って円で支払う。為替市場の円供給は、S¥ P(mwYw)+ΔBiである。

円需要は、海外の貿易財を輸入する国内輸入業者がその代金e Pw(mY )を、円でドルを買って支払う。テキスト『金融論2022年』10p170の表10.1に、個人輸入者Aさんが、日本の大阪銀行から、外国為替手形千ドルを為替レート100円/ドル、10万円で買い、米国の輸出業者にその外国為替手形を郵送する例を示している。

外国為替の貿易実務を紹介した手引書に、『外国為替読本第2版』東京銀行調査部編、東洋経済新報社、1985年がある。外国為替は、国際取り決めなので、出版が古くても、実際上問題は少ない。

外国為替市場は、貿易財の輸出入取引においては、表10.1の例のように、銀行が金融取引の仲介をしている。市場の主要なメンバーは、直物および先物で、銀行間(インターバンク)市場である。1995年以降インターネットが世界的に普及し、金融派生証券も発達した。 

日本の金融工学では、オプション理論の紹介が、非常に盛んになったが、日本の市場規模は欧米ほどもない。外国為替市場は、貿易財の輸送期間が船便の場合1カ月以上あるため、先物為替市場はあるが、通貨オプション、国際金利派生証券の市場利用は、日本の機関投資家、銀行には普及していない。
 
 国内証券会社が外債の注文e ΔBwiwを海外証券会社に発注し、円でドルを買って支払う。為替市場の円需要はD¥ e Pw(mY )e ΔBwiwである。したがって、自国通貨建為替市場の均衡は、SD、すなわち、
P(mwYw)+ΔBie Pw(mY ) P e ΔBwiw
によって、均衡為替レートが決まる。

 2020年の金融論ノートでは、テキスト2022年の101図と違って、教科書的部分市場均衡図のように、外国為替需要曲線は、右下がり、外国為替供給曲線は右上がりに描いていた。縦軸は為替レートであり、為替レートは、相対価格表示であるから、自国建て為替レートの場合、¥/$である。このレートが上昇すると、1ドル買いの円貨は増加する。横軸は、1ドルの外国為替を買うための円貨を表している。

為替レートの市場均衡図を表す際、縦軸の通貨相対交換比率と横軸の為替手形という証券を買う円貨を表していることに留意しなければならない。つまり、自国通貨建ての為替レートを縦軸に、為替手形の円貨高を横軸に取って、ドル為替需要を外国為替需要関数とし、円為替供給を外国為替供給関数とした。

自国通貨建為替市場の均衡は、

SD、すなわち、

P(mwYw)+ΔBie Pw(mY ) P e ΔBwiw

によって、均衡為替レートが決まる。この均衡式をそのまま図示すると、De {Pw(mY ) P +ΔBwiw}は、図101において、原点を通る直線になり、傾きのPw(mY ) P +ΔBwiwが、世界債券購入量ΔBwの増加で右に回転する。

外国為替供給関数は、SP(mwYw)+ΔBiであり、為替レートには反応しない。海外投資家が円債券ΔBを購入すれば、右へシフトする。
資本移動は、(1) i iwの場合、日本人が世界債券を購入するため、資本流出e ΔBwiwが生じる。資本流入ΔBi0である。(2) i iwの場合、資本流出は0であり、資本流入ΔBiが生じる。

(1) i iwの場合、D1D2、本文154ページ、図101、均衡点Aにおいて、世界利子率が国内利子率より高いとする。資本移動が自由であるから、資本流出e ΔBwiwが生じる。図101において、ドル買いの円需要はD2 e Pw(mY )e ΔBwiwで、右上に回転する。ドル売りの円供給はS1P(mwYw)である。国内利子率iが世界利子率iwに等しくなるまで、資本流出する。均衡はB点である。

(2) i iwの場合、S1S2、図1011、均衡点Bにおいて、世界利子率iwが国内利子率iより低いとする。資本移動が自由であるから、資本流入 ΔBiが生じる。図101において、ドル売りの円供給はS2 P(mwYw)+ΔBiで、右にシフトする。円供給はS1P(mwYw) +ΔBiである。国内利子率iが世界利子率iwに等しくなるまで、資本流入する。均衡はC点である。

直物・先物為替市場の理論 家計部門

国内資産保有者は、期首国内債券量B、期首外国債券量Bwをもつ。家計部門は、外国商品を輸入するだけだから、輸入代金は、支払のため外貨預金DWで保有する。世界資産保有者も同様に、BW、期首外国債券量BJをもつ。世界資産保有者の輸入代金は、外貨預金DJで保有する。期末に、資金余力ΔLeのもとで、資産の効用を最大化するように、国内資産所有者の期首資産と経済活動から得た資金余力を配分する。海外資産保有者も同様である。
 企業部門は、債券取引はない。輸出代金は円で受け取る。原材料の輸入は、家計と同じく、外貨預金で、支払準備をする。
 銀行は、毎日、顧客から、期間構造をもつ、円の受取りとドルの支払を、各期間で、為替リスクをヘジするため、平衡操作をする。
 
 今年度は、企業部門および銀行部門の最適化はしない。家計部門の直物為替と先物為替市場を介する資産の最適配分を決定する問題を解く。テキスト『金融論2022年』88. 5節、問題8. 1を適用して、2期間、家計は、円資産と外国資産に選好をもち、資産市場価格および期首資産に資金余力加えた資産価値額を所与に、資産の効用を最大にするように、資産配分を決定する。外貨預金の直物価格はe1pdw1e2pdw1であり、先物価格は、q dw2である。預金価格pdw1 pdw2は、中央銀行によって先決めである。したがって、e1pdw1e2pdw1は、外国預金金利で割り引いた為替レートを表す。

問題 101  pb1epbw1epdw1),(b0bw0dw0), e1を所与として,
     max    u1(b1bw1dw1)
b1bw1dw1                
subject to pb1b1e1 pbw1bw1e1pdw1 dw1pb1b0e1 pbw0bw0e1pdw1 dw0+Δle
  ラグンジュ関数Lは、次のように書かれる。
L u1(b1bw1dw1)-λ(pb1b1e1 pbw1bw1e1pdw1 dw1pb1b0e1pbw1bw0e1pdw1 dw0-Δle)
必要条件は、
u1 =λpb1、∂u1 =λe1 pbw1、∂u1 =λe1pdw1
 b1     ∂bw1       dw1 

pb1b1e1 pbw1bw1e1pdw1 dw1pb1b0e1pbw1bw0e1pdw1 dw0-Δle=0。

u1は、凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解の存在は明らかであるから、
解を
b1bw1dw1λとする。                                □

先物為替市場に対する予算制約式
 直物為替市場の最適化問題101から、最適債券量b1bw1最適預金量dw1が求められた。先物為替市場では、自己清算取引戦略qb2q bw2q dw2)・(cb2, cbw2cdw20が予算制約式となる。これにより、自己清算取引戦略であれば、いかなる契約価格qqb2q bw2q dw2)であっても、富W2pb2・(b1cb2e2pbw2・(bw1cbw2e2pdw2( dw1cdw2)はヘッジされる。

仮定 101  qb2q bw2q dw2)・(cb2, cbw2cdw20   

先物為替市場における家計の予算集合は、
β2cp2)={(b2d2A2 pb2b2e2 pbw2bw2e2pdw2 dw2pb2・(b1cb2e2pbw2・(bw1cbw2e2pdw2( dw1cdw2}と表す。

期間2の期首における支払い可能条件を次のように仮定する。

仮定 102  任意の pb2pb2e2pdw2suppψq)に対して,pb2・(b1cb2e2pbw2・(bw1cbw2e2pdw2( dw1cdw20

先物為替市場における家計の最適化
 期間2の効用関数から第2期の最適債券量b2bw2最適預金量dw2を決定し、それを第2期の効用関数に代入し、予想価格の分布で期待効用を取り、期待効用を最大にする先物契約量cを求める。

問題 102   p20b1bw1dw10を所与として
     max       u1(b2bw2dw2)
 
{b2, bw2, dw2}
subject to pb2b2e pbw2bw2epdw2 dw2pb2・(b1cb2e2pbw2・(bw1cbw2++e2pdw2( dw1cdw2

Lu2(b2bw2dw2) - λ{ pb2b2e2 pbw2bw2e2pdw2 dw2 pb2・(b1cb2
e2pbw2・(bw1cbw2e2pdw2( dw1cdw2 }とおく。

u2 =λpb2 u2 =λe2pbw2u2 =λe2pdw2
b2       ∂bw2      ∂dw2

pb2b2e pbw2bw2epdw2 dw2pb2・(b1cb2epbw2・(bw1cbw2epdw2( dw1cdw2)=0

u2凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。
解を
b2(p2, cb2 , cbw2, cdw2)bw2(p2 , cb2, cbw2, cdw2) dw2(p2 , cb2, cbw2, cdw2)λとする。                

82に,b2(p2 , cb2, cbw2, cdw2) bw2(p2 , cb2, cbw2, cdw2 ) dw2(p2 , cb2, cbw2, cdw2)を代入し、v(a1 , p1 )u1 (b1bw1dw1) +u2( b2, bw2dw2) dψ(q)をえる。

問題 103  q0のもとで

max    u2(b2bw2dw2) d ψ(q)subject to qc0.  

 { cb2, cbw2, cdw2}           
 Lu2*( b2bw2dw2) d ψ(q)-λqcとおく。

u2d ψ(q) =λqb2u2d ψ(q)=λqbw2u2d ψ(q)=λqdw2
cb2          ∂cbw2          ∂cdw2   
qc0

u2凹関数であるから、これらの条件は、解の必要十分条件となる。解をcb2cbw2cdw2λとおく。          

問題10. 1の結果から、国内資産保有者の期間内取引債券量ΔB、ΔBwは、国内利子率、世界利子率、為替レートの関数
Δ
B(eiiw)ΔBw (eiiw)である。同様に、海外資産保有者の期間内取引債券量ΔBa、ΔBawは、国内利子率、世界利子率、
為替レートの関数
ΔBa (eiiw)ΔBaw (eiiw)である。

今週(20231127日~122)の影響度
 先週のイベントは、212023年度補正予算案の審議が始まりました。24日米国の年末商戦が始まりました。
 今週のイベントは、30日第28回国連気候変動枠組み条約締結国会議が1212日まで行われます。OPECプララス閣僚協議が行われます。ハマスの人質とイスラエルの収容者の交換が24日から、4日間、ガザの戦闘は休戦です。南部に避難した避難民への支援物資も動き始めました。ガザの戦闘で、原油価格が上昇しましたが、休戦で、下落しています。今冬のエネルギー減産を維持するのか、決めることになります。
 
 経済統計は、次の発表がありました。
                      予想値    実現値
20日 日10月全国コンビニエンストア売上高       990115百万円
22日 日10月全国スーパー売上高            11390億円
24日 日10月消費者物価指数        3.4%    3.3
     10月全国百貨店売上高             4531億円
 経済統計は、次の発表があります。
                      予想値
29日 米実質GDP             4.9
     GDPデフレータ         3.5
    個人消費支出           4.0
30日 日11月消費者動向調査        35.6
     10月鉱工業生産指数        0.3
   中11月製造業景気指数PMI       49.6
   米10月個人消費支出          0.3
      個人所得             0.2
121日日10月有効求人倍率          1.29
   日10月完全失業率           2.6
   米11ISM製造業景況指数       47.6

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。

日本        3月                      4月        5月
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高9671億1700万円(6.0%)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高9894億0942万円(1.9%)   1兆1062億円3.4% 1兆1185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8%)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         8兆8243億円     8兆2884億円   7兆2926億円
輸入         9兆5788億円     8兆7208億円   8兆6651億円
 貿易収支       -7545億円      -4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2%
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1%
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(第2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998円
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6%
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8月
GDP(前期比)    4.6%(4~6月)     
消費コンビニ売上高  9622億72百万円  1兆443億62百万円   1兆0028億円
  スーパー売上高 9917億4122万円  1兆1663億円      1兆1432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          8兆7438億円  8兆7250億円     7兆9943億円
輸入          8兆7046億円  8兆8037億円     8兆9248億円
 貿易収支          392億円   -787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2%
利子率        -0.1 %      -0.1%        -0.1% 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(第2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(第2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7%
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月        10月         11
GDP(前期比)     2.1(7月~9)
消費コンビニ売上高    972153百万円  990115百万円
  スーパー売上高 1708億円    11390億円
  百貨店売上高    4151億円      4531億円 
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出         91981億円  
輸入         91357億円  
 貿易収支         624億円  
物価指数            3.0%       3.3
利子率         -0.1%      -0.1
株価          32991.08(9/7    32494.66(10/12)  32646.46(11/9) 
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)       149.14(10/12)    150.96(11/9
原油価格          91.4(9/7)        88(10/12         82.9(11/9
ドバイ、現物1バレル、ドル
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 279304
完全失業率        2.6
景気動向先行指数     109.2
    一致指数     114.6 


13回目 2023124

要点 
102 マンデル・フレミング開放マクロ経済モデルの枠組み(線形モデル)
       現行均衡点から長期均衡点への移行
10.2.1 マンデル・フレミング・モデルCASE I
10.2.2 固定為替相場制下、財政政策の有効性・金融政策の無効性
10.2.3 変動為替相場制下、財政政策の無効性・金融政策の有効性

102 マンデル・フレミング開放マクロ経済モデルの枠組み(線形モデル)
       現行均衡点から長期均衡点への移行
 
 9章における不完全雇用モデルに対応して、マンデル・フレミング・モデルの不完全雇用CASE Iにしたがうことにする。ドーンブッシュ・フィッシャー『マクロ経済学上・下改訂第4版日本版』1989にしたがった線形化をしている。投資関数、流動性選好関数は、債券価格表示の方法もあるが、一次関数で線形化している。

10.2.1 マンデル・フレミング・モデルCASE I
      不完全雇用モデルに対応して、CASEにしたがう。
各関数の定義       線形化の定義
 生産関数         Y K0αNⅠ-α
 消費関数        C C0 c(YT0)
 投資関数        I I0bi
 労働供給関数       NS w0 (CASE Iケインズの場合)
 労働需要関数      ND P (1-α)YN
 実質貨幣供給関数    MS  MP
 実質投機的貨幣需要関数 L2  hi
 実質貨幣需要関数    LD  kYhi
 貿易・サービス収支関数  NX mwYwe Pw(mY ) P
 自国通貨建為替供給関数 S¥ P(mwYw)+ΔBi
 自国通貨建為替需要関数 D¥ e Pw(mY )e ΔBwiw

w0:協定貨幣賃金率 P:物価水準、i:国内利子率、iw:世界利子率、e:為替レート、
Y:国民所得、Yw:世界国民所得

マンデル・フレミング・モデルCASE Iの各市場均衡式
財市場       YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwePw(mY ) P
労働市場      w0P (1-α)YN
貨幣市場      MPkYhi
自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔBiePw(mY ) eΔBwiw

(1)i iwの場合,資本流入ΔBi0(2) i iwの場合,資本流出eΔBwiw0とする.
未知数YiPe      政府支出G0および租税T0は外生変数である.
貿易収支NXNX ExImmwYwePw(mY ) P資本収支CFCF =ΔBieΔBwiwとおく.国際収支BPBPNXCFPとする.

 (1)i iwの場合、資本流入ΔBi0(2) i iwの場合、資本流出eΔBwiw0とする。

均衡の決定
 財市場均衡式はYC0 c(YT0) I0bi G0mwYwe Pw(mY ) Pであり、IS曲線という。
 貨幣市場均衡式はMPkYhi であり、LM曲線という
 IS曲線に、LM曲線の利子率i(1/h)(MPkY )を代入すると、次の総需要曲線ADが求められる。
 (1ce PwmP)Y C0 cT0I0G0mwYw(b/h)(MPkY )
 労働市場均衡式からP={w 0 (1-α)K0Yとなる。これを総供給曲線ASという。
 ASから、Y A P A(1-α)K0w 0 ADに代入すると3市場が均衡する価格と為替レートの組み合わせであるQQが導かれる。
 (1ce PwmP) A P C0 cT0I0G0mwYw(b/h) (MPk A P )
 (1c) A Pe PwmAU(b/h) (MPk A P )、ここで、UC0 cT0I0G0mwYwとする。
 e PwmAU (1ckb/h) A P(b/h)MP。これをQQという。         (1)
 最後に、為替市場からi iwの場合、P(mwYw)ePw(mY )eΔBwiw
 Y A Pを代入すると、P(mwYw)ePw(m A P)eΔBwiw
 eP(mwYw){ Pwm A P+ΔBwiw }これをEEという。           (2)

現在均衡点の求め方
 方程式は次の4本で、未知数は、YPieであるから、この線形モデルでは、P2次方程式となり、正負の実根がある。i iwの場合、
 e PwmAU (1ckb/h) A P(b/h)MP  (1)
 MPkYhi
 Y A P
 P(mwYw)ePwm A P eΔBwiw       (2)
ここでは、(1)(2)の式から、解(P1 *e1 *)がえられ、図10.1に図示する。QQ線とEE1線との交点は、図10. 1において、P2負根と1正根で、3交点がある。QQ線とEE1線との交点Aが均衡点P1 *e1 *である。

長期均衡点への移行
 10. 1において、資本流出eΔBwiw0が生じ、資本移動の完全性によって、i iwとなるまで続く。ΔBwiw0になり、利子率の長期均衡はi iwである。EE1線の縦軸は、e軸方向に移動し、EE2線になる。
 資本流出が止ったときの均衡為替レートは、ΔBwiw 0となり、eP **  (mwYw)Pw(m A P** ) mwYwPwm A である。これは、購買力平価説の表現になる。
 資本流出が止ったとき, CASE Iでは、不完全雇用を仮定しているから、労働市場では、不完全雇用の状態にあるかもしれない。Y **A P **である。
 労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P f が長期均衡値である。P={w 0 (1-α)K0YPAYとおき、P Y(1/2)( Tm/w0) w0(1-α)P YBとおくと、P 2A B
 P f =√{w 0 (1-α)K0(1/2)( Tm/w0) w0(1-α)
 Y f =√(1/2)( Tm/w0) w0(1-α)/{w 0 (1-α)K0}。
 完全雇用均衡為替レートは、資本流出が止っているから、ΔBwiw 0となり、eP f (mwYw)Pw(m A P f ) P f (mwYw)Pw(m Y f )である。これは、購買力平価説の表現になる。
 貿易収支はNXmwYwe Pw(mY ) PmwYw-{P f (mwYw)Pw(mY f )Pw(mY )P f mwYwmwYw0であるから、このとき、NX0となり、資本収支CFP0であるから、国際収支は0となり国際均衡する。
 EE線は、EE1からEE2に移行する。現在均衡点Aは均衡点Bに移行する。資本流出で、完全雇用均衡点Cに移行することはできない。

その結果、1)国民所得は減少する。
     2)利子率は世界利子率になる。
     3)物価は下落する。
     4)為替レートは減価する。ただし、この線形モデルでは、オーバーシュートは比較静学なので発生しない。

10.2.3 変動為替相場制下、財政政策の無効性・金融政策の有効性
2)金融政策は有効である
 図10.14現在均衡点Aにおいて、世界利子率iwと国内利子率iは一致しているとする。金融当局は、金融政策によって、ΔM増加させる。QQ線は、QQ1からQQ2に移行する。EE1線は、当局の為替介入政策がないから、そのままである。国内利子率iは、金融緩和によって、低下するから、iiwとなる。資本流出が始まるから、EE線は、EE1から点線EE2に移行し、均衡点は、QQ2線との交点Bとなる。iiwとなれば、資本流出が止まり、水平線EE3線とQQ2線との交点Cとなる。点Cは、完全雇用水準とは限らない。金融政策の最終目標が、完全雇用であれば、当局は、政策手段を取って、完全雇用均衡価格水準P fになるまで、さらに、貨幣供給量を増加させる。QQ線が、EE3線と完全雇用均衡価格水準P fで交わる交点Dまで、貨幣供給量を増加させる。QQ線が、右へシフトし、国内利子率は、再び、世界利子率より下がり、為替レートは増価する。資本流出が始まり、為替レートはオーバーシュートして、e3にもどる。

その結果、1)国民所得は増加する。
     2)利子率は世界利子率になる。
     3)物価は上昇する。
     4)為替レートは現在均衡点Aから点Bに移り、均衡点Cに移行するとき、減価する。均衡点Cから完全雇用均衡点Dに移行するとき、
      為替レートは
オーバーシュートして、もどる。

今週(2023124日~128)の影響度
 先週のイベントは、30日第28回国連気候変動枠組み条約締結国会議が1212日まで行われています。OPECプララス閣僚協議が行われ、今冬のエネルギー減産を維持しました。20243月まで追加減産する国に、サウジアラビア、イラク、ロシアがありました。
 今週のイベントは、国際賢人会議が長崎市で、9日まであります。
 経済統計は、次の発表がありました。
                             予想値      実現値
29日 米実質GDP             4.9%      5.2
    GDPデフレータ           3.5%       3.6
    個人消費支出           4.0%       3.6
30日 日11月消費者動向調査        35.6       36.1
     10月鉱工業生産指数       0.3%       0.9
   中11月製造業景気指数PMI       49.6       49.4
   米10月個人消費支出         0.3%      0.2
      個人所得            0.2%      0.2
121日日10月有効求人倍率         1.29倍     1.30
   日10月完全失業率          2.6%      2.5
   中11月財新製造業PMI       49.2       50.7
   米11ISM製造業景況指数     47.6       46.7

経済統計は、次の発表があります。
                     予想値     
5日 日11月東京都区部CPI         2.4
6日 米11ISMサービス業景況感指数   52.4
    10月貿易収支          -632億ドル
7日 日10月景気動向指数一致      114.9
            先行       108.2  
   中11月貿易収支                    
8日 日10月国際収支経常収支      16400億円
              貿易収支     -3700億円
    実質GDP            -2.1
    GDPデフレータ          5.1
    10月毎月勤労統計         0.2
    10月家計調査                         2.9
    11月景気ウォッチャー調査現状   49.2
   米11月失業率            3.9
9日 中11月消費者物価指数       -0.2

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。

日本        3月                      4月        5月
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高9671億1700万円(6.0%)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高9894億0942万円(1.9%)   1兆1062億円3.4% 1兆1185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8%)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         8兆8243億円     8兆2884億円   7兆2926億円
輸入         9兆5788億円     8兆7208億円   8兆6651億円
 貿易収支       -7545億円      -4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2%
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1%
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(第2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998円
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6%
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8月
GDP(前期比)    4.6%(4~6月)     
消費コンビニ売上高  9622億72百万円  1兆443億62百万円   1兆0028億円
  スーパー売上高 9917億4122万円  1兆1663億円      1兆1432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          8兆7438億円  8兆7250億円     7兆9943億円
輸入          8兆7046億円  8兆8037億円     8兆9248億円
 貿易収支          392億円   -787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2%
利子率        -0.1 %      -0.1%        -0.1% 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(第2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(第2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7%
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月        10月         11
GDP(前期比)     2.1(7月~9)
消費コンビニ売上高    972153百万円  990115百万円
  スーパー売上高 1708億円    11390億円
  百貨店売上高    4151億円      4531億円 
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出         91981億円  
輸入         91357億円  
 貿易収支         624億円  
物価指数            3.0%       3.3
利子率         -0.1%      -0.1
株価          32991.08(9/7    32494.66(10/12)    32646.46(11/9) 
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)       149.14(10/12)      150.96(11/9
原油価格          91.4(9/7)        88(10/12            82.9(11/9
ドバイ、現物1バレル、ドル
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 279304
完全失業率        2.6
景気動向先行指数     109.2
    一致指数     114.6 


14回目 20231211

要点
10.3 マンデル・フレミング・モデルCASE
10.3.1 CASE Ⅱ現行均衡点から長期均衡点への移行
10.3.2  CASE Ⅱ・金融政策の有効性
10.4 貨幣経済一般均衡論にしたがうMFEX・モデル

103 マンデル・フレミング・モデルCASE

10.3.1 CASE Ⅱ現行均衡点から長期均衡点への移行
 マンデル・フレミング・為替モデル(MFEXモデル)は、ケインジアンの不完全雇用状態CASE I10. 2節で、分析した。本節は、ケインジアンの完全雇用状態CASE Ⅱを分析する。変更点は、労働市場が完全雇用で定義される。労働者の予算制約式に貨幣残高が入る貨幣モデルになっている。テキストでは、p. 169問題Ⅱおよび例題において、1期間モデルで、最適労働供給量(1/2)(Tmw)を求めている。ここでは、2期間モデルで、価格予想は静態的予想、すなわち、2期間変化しないと仮定し、最適労働供給量をT2m04 wとする。

CASE Ⅱの各市場均衡式

財市場       YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwePw(mY ) P

労働市場      T2m04 wP (1-α)Yw

貨幣市場      MPkYhi

自国通貨建為替市場 P (mwYw)+ΔBiePw(mY ) eΔBwiw

未知数YiPe      政府支出G0および租税T0は外生変数である。

(1)i iwの場合、資本流入ΔBi0(2) i iwの場合、資本流出ΔBwiw0とする。

 総需要曲線ADは、

(1ce PwmP)Y C0 cT0I0G0mwYw(b/h)(MPkY )

 総供給曲線ASは、労働市場均衡式からT2m04 wP (1-α)Ywとなる。

ASから、Y BP B(T w2m04) (1-α)を、ADに代入すると3市場が均衡する価格と為替レートの組み合わせであるQQが導かれる。

e{ U P(b/h)(MkB)(1c) B }Pwm P =UPwm+{(b/h)M-〔(b/h)k1cB }/Pwm P (5)

EEは、為替市場からi iwの場合、P(mwYw)ePw(mY )eΔBwiw

Y BPを代入すると、P(mwYw)ePw(m BP)eΔBwiw

eP(mwYw){ Pw(m BP )+ΔBwiw }P 2 (mwYw){Pwm B(ΔBwiw) P }。           (6)

現行均衡点の求め方
 方程式は、次の4本で、未知数は、YPieである。
YC0 c(YT0) I0bi G0mwYwePw(mY ) P
T2m04 wP (1-α)Yw
MPkYhi
P (mwYw)ePw(mY ) eΔBwiw

(5)式と(6)式から、eを消去すると、P3次方程式になる。

P 3 (mwYw) Pwm(ΔBwiw) U P 2[Pwm B U(ΔBwiw) {(b/h)(MkB)(1c) B }]PPwm B {(b/h)(MkB)(1c) B }0

この方程式には、1正根と2負根がある、この1正根をP *とする。現行均衡点は、

Y
*BP *i*(kY *MP *)he*= P * (mwYw){ Pw(m BP *)+ΔBwiw }

長期均衡への調整方法
 国内利子率が、世界利子率と乖離していると、資本移動の完全性によって、資本移動が生じ、国内利子率が、世界利子率に近づく。図10.13において、軸P=-(Pwm B)(ΔBwiw)が、資本流出ΔBwiwが止まるまで、右に移動する。極限では,縦P0になり、(6)式はeP 2 (mwYw)Pwm Bとなり、原点を通る2次曲線になる、これをE3E3とする。長期的には、交点B(P **mwYwPwmA)に収束する。

P **は、3次方程式P 3 (mwYw) PwmPwm B UPPwm B {(b/h)(MkB)(1c) B }0の正根である。

長期均衡点
 利子率の長期均衡はi iwである。資本流出が始まると、縦軸の境界線が右に移動し、P0なる。均衡点は、点Aより、為替レートは減価し、価格は下落する。最終的に、EE線は、E1E1から原点を通る二次曲線E3E3に移行する。現在均衡点Aは長期均衡点Bに移行する。
 労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P **が長期均衡値である。
P ** Y(T w02m04)(1-α)から、Y f (T w02m04)(1-α) P **
長期均衡為替レートe**は、資本流出が止まるとき、ΔBwiw 0となり、
e
P ** 2 (mwYw)Pwm Bである。

図解  10. 2節のQQ線およびEE線は、変更された。解の存在と金融政策の効果は、変更はないが、直感的な判断では、CASE Iよりは、物価、為替レートに対する金融政策の効果は小さく見える。総供給曲線ASは、P Y(T w02m04)(1-α)と表せ、双曲線であるから、物価と国民総生産はトレード・オフの関係がある。QQ線は、

eUPwm+{(b/h)M-〔(b/h)k1cB }/Pwm P。            (5)

10. 15に示すように、縦軸がP0、横軸がeUPwm双曲線である。

EEは、

eP 2 (mwYw){Pwm B(ΔBwiw) P }。                   (6)

10. 15において、縦軸P=-(Pwm B)(ΔBwiw)および横軸e0双曲線と直線e=(mwYw iwΔBw ) PPwm BmwYwiwΔBw ) 2を合成した曲線になる。
10. 15において、QQ線とE1E1線が、3つの交点で交わっている。第1象限の交点が現行解である。資本流出が0に向かうにつれて、縦軸P=-(Pwm B)(ΔBwiw)は右へ平行移動する。直線は傾きが大きくなる。
10. 16において、資本流出が終わるとき、原点を通る2次曲線E2E2線とQQ線の交点Bで均衡し、点Aより、物価が下落、為替レートが減価する。

その結果、1)国民所得は減少する。

     2)利子率は世界利子率になる。

     3)物価は下落する。

     4)為替レートは減価する。

CASE Iと違って、労働市場は、完全雇用が維持される。経済は、資本移動により、縮小した。

CASEの金融政策
 金融当局が金融政策を実施すると、貨幣供給がΔM増加する。(5)式は、

eUPwm+{(b/h)M+ΔM-〔(b/h)k1cB }/Pwm P              (5)

となる。i iwの場合、次の為替市場均衡式は変化しない。

eP(mwYw){ Pw(m BP )+ΔBwiw }                    (6)

(5)′および(6)から、eを消去すると次の3次方程式になる。

P 3 (mwYw) Pwm(ΔBwiw) U P 2[Pwm B U(ΔBwiw) {(b/h)(M+ΔMkB)(1c) B }]PPwm B {(b/h)(M+ΔMkB)(1c) B }0

この方程式は、1正根と2負根がある。

現行均衡点
 正根をP *とする。他の現行均衡点は、Y *BP *i*(kY *(M+ΔM)P *)he*= P * (mwYw){ Pw(m BP *)+ΔBwiw }となる。

長期均衡点
 利子率の長期均衡はi iwである。金融政策を実施したので、資本流出が始まると、縦軸の境界線が右に移動し、二次曲線E3E3線となる。図10.16において、QQ線は、Q1Q1からQ2Q2にシフトする。現在均衡点Aは長期均衡点Bに移行する。
 労働市場の長期均衡は、完全雇用国民所得Y f、完全雇用価格P **が長期均衡値である。 P ** Y(T w02m04)(1-α)から、
Y f (T w02m04)(1-α) P **
長期均衡為替レートe **は、資本流出が止まるとき、ΔBwiw 0となり、
e
**P ** 2 (mwYw)Pwm Bである。

図解 EEQQ線によって均衡点(pe)を示す図10. 17において、金融政策により、ΔM増加させるとする。QQ線は、Q1Q1からQ2Q2に移行する。現行均衡点Aは均衡点Cに移行、二次曲線との交点、長期均衡点Dに移行する。

その結果、1)国民所得は増加する。

     2)利子率は世界利子率になる。

     3)物価は上昇する。

     4)為替レートは現在均衡点Aから均衡点Cに移行するとき、減価する。さらに、均衡点Cから長期均衡点Dに移行するとき、
      為替レートは減価する。

 CASE Iと違って、労働市場は、完全雇用が維持される。経済は、金融政策により、物価のオーバーシュートを生じ、物価が現行点Aと比較すると期均衡点Dでは、物価が上昇し、国民所得は拡張する。

10.4 貨幣経済一般均衡論にしたがうMFEX・モデル

 テキスト第9章において、次の古典派モデルを図解した。
      財市場    Y = C(wP) + I(i)

フロー   労働市場    NS(wP) = ND(wP)

      債券市場  S(iY) = I(i)

ストック   貨幣市場  M =kPY 

未知数:実質賃金率wP,実質利子率 i,物価水準 P

 9回において、2期間モデルで、家計部門における、消費、労働、貨幣の最適化を求めている。貨幣は利子率iで運用される。第10回は、貨幣は持ち越されない、老人世帯の最適化をしている。
 2期間モデルが新古典派の場合になる。財市場の国民総生産Yは、生産関数に労働需要量を代入すると決まる。消費支出Cは、実質賃金率wP、貯蓄残高、利子率、租税の関数になる。投資関数は新古典派に変える。政府支出は、外生変数である。輸出・輸入は、ケインズをそのまま使う。労働市場において、企業の労働需要はケインズと同じく、新古典派の利潤最大化で求められる。新古典派の労働供給は、2期間モデルから求められる。価格予想は、静態予想を仮定する。

完全雇用CASE
 新古典派の労働市場では、労働者は時間給で働く。働きたい労働者はすべて雇用される状態を完全雇用と定義する。ケインズの協定賃金と時間給の労働者の二分はない。労働の需要関数は、ケインズは利潤最大化原則を採用しているから、新古典派と変わらない。
 CASEの場合、労働市場は、完全雇用となる。企業の労働需要関数wP (1-α)YNから、NP (1-α)Ywである。新古典派労働市場の均衡は、T2m4 wP (1-α)Ywとなる。したがって、総供給関数ASは、P Y{ T2m4 w }w(1-α)と表せ、双曲線である。

CASE IからCASE Ⅱへの長期均衡価格
 CASE IおよびCASE Ⅱは、前者の総供給曲線は原点を通る直線であり、後者は原点に対して凸の直角双曲線であるから、交点が一意に決まる。すなわち、P={w (1-α)K0YPAYとおき、P Y (T2m04 w) w(1-α)P YBとおくと、P 2A B。ゆえに、不完全雇用経済状態から、経済政策の誘導があれば、完全雇用に到達し、長期均衡価格は、P =√A Bとなる。
 債券市場は、家計は、国内債券と外国債券を需要する。家計は、Tobinが示したように、国内債券と外国債券に、収益率0の貨幣を加えた資産選好をする。流動選好関数は、一部は貨幣で保有され、家計の取引需要および予備的需要に、資産としての貨幣需要を加えたkPYPhiになる。
 貨幣経済一般均衡論にしたがうMFEX線形モデルに、変更すると、これまでの最適化モデルから、以下の体系に、変更される。
 新古典派MFEX線形モデルは、ミクロ最適化の基礎から、集計できる。ケインズ体系のように、集計不完全なマクロ変数はない。経済取引は、個別の取引の売買・契約で構成されるから、一般均衡理論のように、需要関数、供給関数が、価格と利子率の関数となる。
 すでに、労働市場は、完全雇用CASE Iによって、貨幣経済に対応している。財市場の消費需要関数および投資関数が、家計の最適化、企業の総価値の最適化で計算される。それぞれ、2期間モデルで、計算されるが、価格予想は、完全予見である。

新古典派MFEX線形モデル体系

財市場         YC(wP)ImwYwePw(mY ) P

労働市場        T2m4 wP (1-α)Yw

貨幣市場        MPkYhi

自国通貨建為替市場   P (mwYw)+ΔBiePw(mY ) eΔBwiw

コブ・ダグラス生産関数 YK0 αN 1-α

財市場の均衡式     Y = C(wP) + I
  消費需要関数      C(wP) (w/P(IpTN
  投資需要関数      I=αPY/ρ-K0
          ρ:配当率
労働市場の均衡式 (m1/P)2IpT/2N)=(1α)YN
  労働供給関数     w/P(m1/P)2IpT/2N
               Ip:労働者数、T:総労働時間、N:労働時間
  労働需要関数     w/P(1α)YN
フロー債券市場の均衡式  m1 Lo(1rl)
  貸付資金供給関数 Lsm1=Σi=1Ip m1 i
  投資資金需要関数 uILo(1rl)
              u:投資財価格、I:投資量、rl:利子率 Lo:金融請求権(債券)=次期の元利合計uI(1rl)
ストック貨幣市場の均衡式 MkPYm1
  貨幣供給関数   MsM
  貨幣需要関数   LdkPYm1

未知数: 実質賃金率w/P、利子率rl、物価水準P

以上の新古典派MFEX線形モデルを、テキストのMFEX線形モデルCASE Ⅱのように、現行解、長期解、図解、金融政策の各解を求める。

今週(20231211日~1215)の影響度
 先週のイベントは、国際賢人会議が長崎市で、9日までありました。
 今週のイベントは、12日米連邦公開市場委員会が13日まで開かれます。13日臨時国会が会期末となります。12月の日銀短観が発表されます。14EU首脳会議が15日まで開かれます。16日日本とASEANの特別首脳会議が18日まで、東京で開かれます。

 経済統計は、次の発表がありました。
                            予想値     実現値
5日 日11月東京都区部CPI        2.4%     2.3
6日 米11ISMサービス業景況感指数   52.4      52.7
    10月貿易収支         -632億ドル -643億ドル
7日 日10月景気動向指数一致      114.9      115.9
            先行      108.2      108.7
   中11月貿易収支                                4908億元
8日 日10月国際収支経常収支      16400億円   25828億円
              貿易収支      -3700億円  -4728億円
    実質GDP            -2.1%     -0.7
    GDPデフレータ          5.1%      5.3
    10月毎月勤労統計         0.2%      1.5
    10月家計調査                         2.9%     -2.5
    11月景気ウォッチャー調査現状   49.2      49.5
   米11月失業率            3.9%      3.7
9日 中11月消費者物価指数       -0.2%     -0.5

 経済統計は、次の発表があります。
                         予想値     
11日 日1012月期法人企業景気予測調査   
13日 日12月全国企業短期経済観測調査大製造業先行  9
                      業況  10
                   大非製造業先行24
                       業況 27
14日 米連邦公開市場委員会政策金利上限       5.5% 
                 下限       5.25
   日10月機械受注統計              5.7
   欧州中央銀行理事会政策金利           4.5
   米11月小売売上高                 0.0
15日 中11月小売売上高                  12.3
      鉱工業生産指数                 5.8
   米11月鉱工業生産指数                   0.2
経済統計は、次の発表があります。
                     予想値     
5日 日11月東京都区部CPI         2.4
6日 米11ISMサービス業景況感指数   52.4
    10月貿易収支          -632億ドル
7日 日10月景気動向指数一致      114.9
            先行       108.2  
   中11月貿易収支                    
8日 日10月国際収支経常収支      16400億円
              貿易収支     -3700億円
    実質GDP            -2.1
    
GDPデフレータ          5.1
    10月毎月勤労統計         0.2
    10月家計調査                         2.9
    11月景気ウォッチャー調査現状   49.2
   米11月失業率            3.9
9日 中11月消費者物価指数       -0.2

 統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。

日本        3月                      4月        5月
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高9671億1700万円(6.0%)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高9894億0942万円(1.9%)   1兆1062億円3.4% 1兆1185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8%)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         8兆8243億円     8兆2884億円   7兆2926億円
輸入         9兆5788億円     8兆7208億円   8兆6651億円
 貿易収支       -7545億円      -4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2%
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1%
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(第2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998円
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6%
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8月
GDP(前期比)    4.6%(4~6月)     
消費コンビニ売上高  9622億72百万円  1兆443億62百万円   1兆0028億円
  スーパー売上高 9917億4122万円  1兆1663億円      1兆1432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          8兆7438億円  8兆7250億円     7兆9943億円
輸入          8兆7046億円  8兆8037億円     8兆9248億円
 貿易収支          392億円   -787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2%
利子率        -0.1 %      -0.1%        -0.1% 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(第2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(第2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7%
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月        10月         11
GDP(前期比)     2.1(7月~9)
消費コンビニ売上高    972153百万円  990115百万円
  スーパー売上高 1708億円    11390億円
  百貨店売上高    4151億円      4531億円 
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出         91981億円  
輸入         91357億円  
 貿易収支         624億円  
物価指数            3.0%       3.3
利子率         -0.1%      -0.1
株価          32991.08(9/7    32494.66(10/12)    32646.46(11/9) 
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)       149.14(10/12)      150.96(11/9
原油価格          91.4(9/7)        88(10/12            82.9(11/9
ドバイ、現物1バレル、ドル
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 279304
完全失業率        2.6
景気動向先行指数     109.2
    一致指数     114.6 


15回目 20221218

要点 11. 動学理論
     11.1 ケインジアン・モデルの短期変動
       動学化、乗数理論と投資の加速度原理

11. 動学理論

 M=FEX・連続モデルは、調整型の比較動学モデルである。CASEⅠ不完全雇用およびCASEⅡは、ともに、ケインジアン・モデルが基本になっている。テキスト『金融論2022年』では、制度部門別マクロ・モデルを各部門の最適計算をし、主体最適化を各市場で集計、一般均衡論的均衡解を求める方向で、ケインジアン・モデルを置き換えて来た。

 モデル内から生じる内生的成長要因、投資、資本蓄積、資産形成、技術進歩などが、動学化され、モデル与件の外生的成長要因、人口、資源制約、環境制約が、外的な動学化を受ける。それらを合わせて、経済変動が生じる。

 ケインズ以来、マクロ経済学が形成され、その動学が短期変動をモデル内から、生じさせた、乗数と加速度原理の関係から、数理モデルを構成し、乗数の範囲により、成長、循環運動を発生させた。それが、ハロッド・ドーマー経済成長論となった。新古典派は、移行均衡はなく、完全均衡の長期変動を調べ、貯蓄=投資が消滅する長期均衡を動学モデルで表す。

 M=FEX モデルは、基本的にケインジアン・モデルであるために、動学化して、CASEⅠ不完全雇用状態が、CASEⅡ完全雇用に到達する経路を示せても、新古典派の動学モデルではないから、移行均衡と長期均衡は同じではない。前者は、モデルの不安定が残ったままであり、後者は、均斉的で、安定的である。

 11. 1節において、M=FEX ケインジアン・モデルを、動学化して、CASEⅠ不完全雇用状態が、CASEⅡ完全雇用に到達する移行均衡を示し、安定性を調べる。112節において、新古典派実質モデルを動学化して、長期均衡を調べる。113節において、貨幣経済、制度部門別マクロ・モデルを各部門の最適計算をし、主体最適化を各市場で集計、一般均衡論的均衡解を求めきた。新古典派貨幣経済変動を最適成長論の観点から、研究する。『金融論2023年』のテキストでは、11.1および11.2まで、結果をまとめる。

11.1.1 ケインジアン・モデルの短期変動
 テキスト9.2において、線形モデルは、財・サービス市場、労働市場と貨幣市場の3つの市場で構成された。政府部門は、省く。労働市場には、失業が存在でき、他の2市場は、市場均衡する。

ケインズ・閉じたマクロ経済モデルの各市場均衡式
      財市場 Y C(Y)I(i)
フロー  または S(Y)= I(i)
      労働市場 NS(0)ND(0P)
ストック 貨幣市場 MP kYL2 (i)

未知数YiP       

各関数の定義                 線形化の定義
 生産関数         Y  = K0αNⅠ-α
 消費関数        C   C(Y)       CcY 
 投資関数        I = I(i)               II0
 労働供給関数      NS = NS(w0)         NSw0
 労働需要関数      ND = ND(w0P)      NDP(1-α)YN
 実質貨幣供給関数    MS = MP
 実質投機的貨幣需要関数 L2  = L2 (i)       L2=-hi
 実質貨幣需要関数    LD  = kYL2 (i)     LDkYhi
ここで,w0は協定貨幣賃金率P物価水準である.

 線形ケインズ体系を動学化するために、財市場均衡式に、時間tを各変数に入れる。労働市場は、失業があり、不均衡市場である。貨幣市場は、3市場の総需要=総供給となるWalras法則で、自動的に均衡する。

財市場 Y(t)C(t)I(t)                (1)

労働市場 NS(0)ND(0P(t))

貨幣市場 M(t)P(t) kY(t)L2 (i(t))

Walras法則:各市場の超過供給総計は、恒等式的に0である。

Y(t)C(t)I(t)}+{NS(0)ND(0P(t))}+{M(t)P(t) kY(t)L2 (i(t))}≡0

線形ケインズ体系で、まず、財市場が動学できる。投資関数I(t)は、期間tにおいて、計画されているから、I0で、定数であり、独立投資とも呼ばれる。内容は、設備更新の置換投資である。

11.1.2 乗数理論と投資の加速度原理
 英国の経済学者の動学モデルは、ニュートン力学のとらえ方に従っている。国民所得の時間的推移を経済量が運動する軌跡ととらえ、国民所得Yが、期間tにおいて、実現すれば、その量をY(t)と表す。
 2期間の差ΔY(t1)Y(t)Y(t1)は、国民所得の1期間あたりの速度である。速度の差ΔY(t1)ΔY(t2)は、国民所得の1期間あたりの加速度である。

加速度原理:機械設備は、技術進歩がなく、旧来の技術をもちいた設備が、財の消費需要の増加分ΔC(t1)により、増加させられる。

ΔC(t1)C(t)C(t1)cY(t)cY(t1)cY(t)Y(t1)}=cΔY(t1)
となるから、加速度原理にしたがった誘発投資I(t)は、国民所得の増分ΔY(t1)に一定の比例定数v(一定の加速度)で比例する。vΔY(t1)ΔY(t2)ゆえに、誘発投資I(t)

I(t)vΔY(t1)                  (2)

となる。(1)(2)から、独立投資が0の場合

Y(t)C(t)I(t)cY(t)vΔY(t1) cY(t)v{Y(t)Y(t1)}

Y(t)について解くと、

Y(t){v(v(1c))} Y(t1)

差分方程式になる。g{v(v(1c))}1とおけば、v(1c)ならば、g>0で、国民所得は成長率gで、幾何的成長をする。v(1c)ならば、g<0で、時間で、振動する。振動する場合は、景気循環論につながる。

 ケインズモデルは、乗数cと加速度定数vで、国民所得の時間経路、軌跡を表すことができる動学モデルになった。

11.1.3 ハロッド・ドーマーモデル

11.2 新古典派実質成長モデル

古典派マクロ経済モデルの枠組み

 完全雇用モデルに対応して、『金融論2022年』pp. 150-151のように、例題1(完全雇用CASE )にしたがうことにする。
政府部門がない場合、古典派マクロ経済モデルの各市場均衡式は次のように表せる。

古典派モデルの各市場均衡式

      財市場    Y = C(wP) + I(i)

フロー   労働市場    NS(wP) = ND(wP)

      債券市場  S(iY) = I(i)

ストック   貨幣市場  M =kPY

未知数:実質賃金率wP、実質利子率 i、物価水準 P

各関数の定義

      実質生産関数     Y  = F(K0N)

       実質消費関数    C  = C(wP)

      実質投資関数     I   I(i)

       実質貯蓄関数       S   = S(iY)

       実質労働供給関数   NS = NS(wP) 

              実質労働需要関数   ND = ND(wP)

      名目貨幣供給関数  MS  = M

      名目貨幣需要関数  MD  = kPY

未知数wPi、物価水準P

教室の最後に
 線形モデルは、短期分析、連続モデルは中・長期モデルの実証分析に応用できる。M=FEX・連続モデルは、開放モデルの中長期の推計にもちいれば、予測精度があがるだろう。連続モデルの実証は、統計学的にむつかしいが、短期モデルと合わせて、経験を積み重ねていきたい。モデルでは、貨幣市場だけが、資産市場になっているが、貸付資金、債券、株式、外債のストック資産市場の均衡を定式化する研究をしている。2023年度は、市場調整型動学ではなく、制度部門別最適化モデルで、最適成長型動学に拡張する準備をしている。

以上の研究成果を反映した『金融論2022年』のテキストは、改訂が多いので、20239月開講まで、準備した

 ドーンブッシュの時代と現在では、マクロ・モデルは、労働市場、為替市場を市場化する設定になっている。貨幣市場は、フロー市場の取引需要でとらえ、資産運用分すなわち流動性選好分は、3資産市場のストック資産市場での余力分とする。余力分をストック資産市場に流入させる方法はSNAベースモデルと矛盾しない。また、実証できる設定も、実践面で求められている。MFEX線形モデルに、3資産市場を明示化する。

 MFEX線形モデルおよびMFEX連続モデルでは、ともに、物価と為替レートの2変数に帰着するモデルであるから、物価変動と為替変動を同時にとらえている。日銀の主張では、賃金上昇率が固定され、労働市場に制度的・寡占的力が強すぎて、不均衡がある日本経済と言うことである。したがって、MFEX線形モデルおよびMFEX連続モデルでは、CASE Iの不完全雇用モデルに相当する。長期デフレーション状態から、完全雇用に軌道を向かわせるには、財政・金融政策だけでなく、公正取引委員会および労働政策が必要なのである。

 日本経済のバブル崩壊で、伝統的な間接金融システムが主流だったが、それも、1997年から崩壊し、再構築(Restructuring)に、2003年までかかった。その結果、非金融部門も、再構築し、経済が構造的に長期停滞に陥った。しかも、戦後、進めて来た日本国土の主要な交通網の総合計画もほぼ完成し、公共投資を要する事業が全国的に縮小する時期と重なってしまった。2000年から、全国建設業界に従事する労働者が減少に転じた。新卒の採用が半減し、新卒の「氷河期」となった。そして、リーマン・ショックが2008年夏、世界経済を収縮させた。日本の製造業の中国工場移転が本格化し、製造業の空洞化が促進された。米国も、リーマン・ショック後、製造業が中国に移転し、米中の貿易赤字が解消できないので、トランプ大統領の関税戦争と安全保障関連産業の囲い込みが始まった。

 このように、不動産バブル、不良債権処理をした金融システム再構築、リーマン・ショック、米中貿易戦争・関税強化によって、国内要因および国際要因で、10年ごとに、日本経済に負荷がかかりすぎる世界経済になっている。その間、構造的失業が長期間持続すると、MFEX モデルCASE Iの場合になるが、財政政策と金融政策を同時に使わなければ、国内の構造的失業は、解消しないことを示している。本テキストの理論的研究から、開放経済では、完全雇用のMFEX モデルCASE Ⅱより、経済政策の最終目標である完全雇用にするには、時間がかかる。

 アジア市場も、中国の台頭、ASEAN経済共同体が対米シフトで、中国の米国輸出代替生産が期待されている。そのため、直接投資と資産投資がアジアで変化し、アジアの経済構造が変革期を迎えている。当研究所の課題として、ASEAN経済共同体を中核に、世界生産中国2位、日本3位、韓国、台湾、南アジアを組み込んだ、「東アジア経済共同体」を将来の東アジア共同体目標として、実現可能にすることを提案した。これは、経済で言う多国間経済の相互依存関係が中国経済規模の拡大とともに、著しく増大したことによる。 

 2021年バイデン政権が誕生し、トランプ氏と同様に、米中の相互依存関係の歯止めを望んでいるため、「東アジア経済共同体」内での、生産シフトが生じている。「東アジア経済共同体」外との関係で生産シフトが起きているのであり、依然、多国間経済の相互依存関係は、増大している。そのため、当研究所では、理論的に、MFEXモデルを実証可能な多国間市場一般均衡モデルに拡張したい。

今週(20231218日~1222)のイベントと市場への影響度
 先週のイベントは、12日米連邦公開市場委員会が13日まで開かれました。米連邦公開市場委員会の金利据え置きと、20243回の利下げ予定が発表されました。13日臨時国会が会期末となりました。12月の日銀短観が発表されました。14EU首脳会議が15日まで開かれました。16日日本とASEANの特別首脳会議が18日まで、東京で開かれます。
 今週のイベントは、18日に、日銀政策委員会・金融政策決定会合が19日まで開かれます。

 為替市場は、少なくとも、ゼロ金利政策のマイナス金利を解除する見込んで、
140円台の円高で推移してきました。政府の財政ファイナンスと連動して、10年間、国債利回り変動を巾1%以内に、買い支える一方、マイナス金利で、市中の短期資金需要に潤沢に応じるように、銀行の過剰流動性を日銀預金からsweep outして来ました。前回の日銀会合で、国債利回り、変動上限1%以上を許容しました。
  日銀が、日日の短資に、利子をつけると判断すれば、マイナス金利は解除されたことになり、企業の仕入れ・経費の借り入れに、金利負担が増します。それにより、インフレ先高を意識した投機的仕入れはなくなり、売れる商品に合わせて、仕入れするようになる、インフレ抑制効果がでてきます。
 これまで、日本経済は、黒田前総裁のもと、毎月、3%のインフレが続いていましたが、最近の世界エネルギー安、日本企業の海外収益の円安換金、円安輸出の増大で、円安下でも、国際収支が改善しています。大西選手の契約金が10年、7億ドルで、150円で評価すると、1050億円でした。米国の賃金も、日本の賃金と比較すると1.5倍以上の開きがあります。

 岸田政権は、労働政策が不毛で、10年間、1%以上インフレ下でも、ベースアップはなく、消費税を上げ、社会保障負担を上げ、ダブル社会保障負担5%増で、賃上げ5%は、企業に迫ることはしませんでした。一般物価と賃金率の上昇という「好循環」は発生しませんでした。実質賃金はマイナスでしたから、さすがに、国民は、2年間、インフレ耐乏生活におちいり、早く、退陣してくれという、内閣の人気は、支持率になっています。その間、安倍氏は、警備陣の安倍支持派を警備にしたせいで、無警戒の中、暗殺され、岸田首相も、模倣犯に暗殺されそうになりました。普通、要人警護は、政権に反対な意見を持つ警備陣にあたらせるというのが、より安全だと言われています。

 国民に、岸田政権批判が強くなる一方、安倍時代に干された検察勢力が、政治資金のキックバック捜査に入り、自民党の構造的危機に陥っています。国民の空腹から自民支持の凋落、政治の力が弱体化、財務省主導の予算・税制の失敗、春季の賃上げは、避けられません。通常国会で岸田政権がもたず、政府・財務省の圧力は、次の政権で、ガラガラポンになる可能性もあります。政府・財務省がこけたら、日銀もこけるわけにもいかず、植田日銀総裁は、3月までの会合で、金利政策手段の凍結から、解除へ、インフレ抑制の政策手段を回復させることは、無理なく実現できると市場関係者も見ています。

 経済統計は、次の発表がありました。
                            予想値   実現値
11日 日1012月期法人企業景気予測調査現状判断大企業        7.4ポイント
13日 日12月全国企業短期経済観測調査大製造業先行    9     8
                      業況     10     12
                  大非製造業先行   24     24
                       業況   27     30
14日 米連邦公開市場委員会政策金利上限         5.5%    5.5
                 下限         5.25%   5.25
    日10月機械受注統計                5.7%  -2.2
   欧州中央銀行理事会政策金利               4.5%   4.5
   米11月小売売上高                    0.0%   0.3
15日 中11月小売売上高                    12.3%   10.1
      鉱工業生産指数                      5.8%   6.6
   米11月鉱工業生産指数                       0.2%   0.2

 経済統計は、次の発表があります。
18日 日日銀政策金利                 -0.1
19日 日12月の月例経済報告
20日 日11月貿易統計              -9630億円
   米11月経常収支              -1960億ドル
21日 米実質GDP                   5.2
    個人消費                   3.6
22日 日11月全国消費者物価指数            2.8
    11月全国スーパー売上高
   米11月個人所得                 0.4
        個人消費支出               0.2
      PCEデフレータ              2.8

統計は、国民総支出GDE構成要素、物価、利子率について、日本の発表結果を一覧で以下に表します。

日本        3月                      4月        5月
GDP(前期比) 
消費コンビニ売上高9671億1700万円(6.0%)       9156億円4.9%  9359億円
  スーパー売上高9894億0942万円(1.9%)   1兆1062億円3.4% 1兆1185億円 
  百貨店売上高 4658億円(9.8%)               4088億円8.6%  4111億円 
投資(工作機械受注統計)1410.16億円      1326.88億円    1195.23億円
輸出         8兆8243億円     8兆2884億円   7兆2926億円
輸入         9兆5788億円     8兆7208億円   8兆6651億円
 貿易収支       -7545億円      -4544億円    -13725億円
物価指数          3.2%         3.5 %       3.2%
利子率          -0.1%          -0.1%      -0.1%
株価         28143.97(3/9)     28156.97 (4/13)    29126.72(5/11)  
(第2金曜日の前営業日)
原油価格         80.1(3/9)          86.8 (4/13)     70.82(5/11)
ドバイ、現物1バレル、ドル、5月渡し、(第2金曜日の前営業日)
個人所得(毎月勤労統計) 291,081円      284,595円      284,998円
完全失業率         2.8%         2.6%        2.6%
景気動向一致指数     98.7   (速報)改訂(99.4)97.3       114.3
      先行指数      97.5   (速報)改訂(97.6)96.8       109.1

日本        6月           7月         8月
GDP(前期比)    4.6%(4~6月)     
消費コンビニ売上高  9622億72百万円  1兆443億62百万円   1兆0028億円
  スーパー売上高 9917億4122万円  1兆1663億円      1兆1432億円
  百貨店売上高  4412億円      4758億円        3897億円
投資(工作機械受注統計)  1220.25億円  1143.40億円     1147.46億円(速報)
輸出          8兆7438億円  8兆7250億円     7兆9943億円
輸入          8兆7046億円  8兆8037億円     8兆9248億円
 貿易収支          392億円   -787億円      -9305億円
物価指数           3.3%       3.1%         3.2%
利子率        -0.1 %      -0.1%        -0.1% 
株価         31641.27(6/8)          32419.33(7/13)        32473.65(8/10)
(第2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     139.87 (6/8)          138.55(7/13)           143.83 (8/10)
原油価格            76(6/8)            80.3(7/13)             88.3(8/10)
ドバイ、現物1バレル、ドル、
(第2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 461,811円      380,656円       
完全失業率         2.6%         2.5%        2.7%
景気動向先行指数     108.9         107.6         109.5 
    一致指数     115.1         114.5          114.3


日本             9月        10月         11
GDP(前期比)     2.1(7月~9)
消費コンビニ売上高    972153百万円  990115百万円
  スーパー売上高 1708億円    11390億円
  百貨店売上高    4151億円      4531億円 
投資(工作機械受注統計)  1339億円 
輸出         91981億円  
輸入         91357億円  
 貿易収支         624億円  
物価指数            3.0%       3.3
利子率         -0.1%      -0.1
株価          32991.08(9/7    32494.66(10/12)    32646.46(11/9) 
(2金曜日の前営業日)      
為替レート(中心)     147.84(9/7)       149.14(10/12)      150.96(11/9
原油価格          91.4(9/7)        88(10/12            82.9(11/9
ドバイ、現物1バレル、ドル
(2金曜日の前営業日)      
個人所得(毎月勤労統計) 279304
完全失業率        2.6
景気動向先行指数     109.2
    一致指数     114.6 



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